第五十話 到着
一章のおさらい:文くんがお城中の人を出し抜いて自由を手に入れました。
ユナイダート王国。
カスティリア王国から西にある森を抜けた先にあり、国土が西側の海のほとんどを接するかのように縦へ伸びている国である。
北は温暖な気候ながら、下へ、内陸へと進むごとに気温が徐々に上昇していき、定住するには厳しい環境下に置かれる。気温上昇における主な理由としてあげられるのは、渇いた土地が広がっているというのもあるし、巨大な活火山がちょうど国の真ん中にあるからとも言える。
そのため、国民のほとんどが真ん中から北の方へと集中しており、南は国民の三割から四割ほどしか住んでいない。それでも、旅人はたくさん訪れるが。
なぜ旅人が南へと行く理由ができるのか。その理由としてあげられるのはダンジョンの存在だろうが、その他に温泉という存在がある。噴出されるお湯はひとつの娯楽施設となっており、冒険者はもちろんのこと、王族や公爵・伯爵など貴族が訪れるときもある。ただ、王族が行く場所に関しては、身分が身分だけに秘匿とされているため、一部の関係者以外知るものはいない。
このような観光地としてこれ以上のない土地を領地として治めているユナイダート王国だが、もう一つ、違った特色を持っている。
それは――――獣人大陸への渡航。
この国は人族が住むこの大陸《バステオン大陸》で唯一、獣人族の大陸へ行ける港が一つだけあるのが特色なのだ。
《バステオン大陸》にある国は計五つ。その内の三つの国が《亜人排他主義》という人族以外の民族を厳しく取り締まる、もしくは奴隷の身分へと陥れる政策を取っている。
その中にカスティリア王国は含まれており、ユナイダート王国は含まれていない。
この《亜人排他主義》が五カ国首脳会談で議題に出された時、ユナイダート王国が一番強く反対したのだ。戦争も辞さない。その意志はこの国の歴史を遡れば確固たるものだと証明することができる。
もともと獣人族と交流を持ったのはユナイダート王国なのだ。彼らと対話をするうちに、最初は軽蔑していた王族も、『人族と何が違うのだ?』と考えを改めざるを得ず、対等な立場として交易を始めたのが人族と獣人族の交流のきっかけだ。
それ以降、彼らとはとても良い友好関係を築き上げていたというのに、『亜人排他主義』が他所から提案されたのだ。当時の王は激怒するのも仕方がない。
それに亜人の『亜』とは二番目という意味。それは対等な立場を築き上げていたユナイダート王国側から見れば、人族こそが一番だという考え方にも取れる。いや、他の国々もそういう意味で提案してきたのだろう。
結果、ユナイダート王国は自らの国は取らないと激怒して国に帰還。他国がどうしたのかはのちにその場に残っていた側近が王に報告したという。
ただ、いくらユナイダート王国が《亜人排他主義》を取っていないからといっても、獣人族との交流は年を追うごとに自然と減少していった。やはり、他国で『亜人排他主義』が取られたのは相当厳しい状況を生み出したのだろう。
それでも獣人族の大陸へ行くことは可能なため、たびたび向こうの国へ渡る人族が国外からこの国へ訪れる。というより、そちらは昔よりもより活発化したともいえよう。
その中の一人に、やはり獣人族の大陸へ渡るために、そして亡命目的で訪れた一人の黒髪の少年がいた。
彼はカスティリア王国を抜けてからユナイダート王国に着いた後、一番近い街へ流れ着いており、これから目的を胸に秘め、とある場所を目指していた。
彼の目的はもちろん獣人族の大陸へ渡ること。しかしその前にやることがあった。《冒険者ギルド》に入り、生計をたてられるほどのお金を稼がなくてはいけなかったのだ。
彼が持っていた路銀はまだ懐が温かいが、それもいつ切れるか分からない。それに、彼はとある事情で暫く窮屈な思いをしていた。なら、憧れていたものになって生計を立てたほうがおもしろいじゃん、という自身の理論に基づいて行動していた。
それに、と彼は考える。
宿費、食費、生活必需品。最低でもこれだけのことでお金は必要だし、かなりお金が持っていかれること予想している。
一度、彼は行商も考えたのだが、お金が安定するまでは控えたほうが良いと合理的な判断を下してその考えを封じ込めた。
「――――ま。フミ様?」
少しボォっとしていた彼はとある声によって現実に引き戻される。
「フミ様、登録が完了しました。ギルドカードをどうぞ」
フミと呼ばれた少年。本当名は、暗城文。
文は軽く頭を下げながら渡された物をじっくりと見る。彼に渡されたものはなんてことのない、持ちやすく、画用紙ほどの厚みしか無い灰色をベースにした髪だ。燃えず、濡れず、丈夫なカードだという。
どうしてこのような紙が必要なのか。こういうのよりミサンガのほうが絶対なくさないじゃないかと、そう思わずにはいられなかった。が、そこはさすが文。渋い顔をちらりとも見せずに無表情を貫いた。
「えっと、ギルドの、ギルドのランク説明を――――」
「いえ、大丈夫です。GからSまでランクがあって、一つのランクを上げるのに、ある程度の実績を残せば良いのですよね?」
「は、はい。そうです。……で、ではギルドの方針をごせつめ――――」
「基本自由で、世界中どこに行っても構わない。けど、その際に起きた事故にギルドは全く責任を負わない。また、身分証として扱う場合、登録した国に属することになる。また、冒険者は登録国による優遇もランクによってばらつきがある」
「は、ははははい! そ、そそ、そうです!!」
文のあまりにも完璧な暗唱に、手元にあったカンペを気付かれないようにそっと隠した。まだそこまで年端のいかない彼女は、まだギルド嬢になってから日が浅い。まだ仕事を全部覚えきれておらず、カンペをみてのお仕事だったというのに、この暗唱ぶり。涙目にもなるわけだ。
文はこれが当然だと思っている節があるため苦笑いを浮かべると、少女はそれが『まだ暗記できていないの? うわー、よくギルド嬢できるね!』と、ネガティブに受け止めてしまう。
早く送り出そう。この少女は涙を手で軽く拭い、頑張ってニコリと微笑んだ。
「で、ではきをちゅけ……!」
「……………………………………うん」
「……………………エレちゃぁああああああん!!」
ついに泣きだして文はビクッと身体を震わせた。
少女はそのまま後ろにいた女性に抱きつくと、「うぅぅ……」と実った二つの果実の間に頭を埋めた。
そんな少女の頭を撫でながら優しく宥める。
「こらこらピミュ、この変な人がキョトンとしちゃってるじゃない」
「でも、でもぉ……エレちゃん、グス……」
「はいはい。こういう人もいるから」
変な人がいっぱいいるのかよ。
しかし妙に納得もできたため、文はなにも言わずに、なんとも言えない視線を女性に向けると、ピミュと呼ばれた少女を抱えながら頭を下げた。
「失礼しました、フミ様。代わりに私が最後の説明をさせていただきますね」
「あ、はい」
言外に、知ってても先回りするなと威圧を掛けているフシがあったため、久々に冷や汗が背中を流れる。
文の肯定を聞くと、文に近づいて説明をするために口を開いた。そのとき、ピミュは女性の後ろからちょこっと顔をのぞかせた状態である。小さな子供か。小さな子供じゃなかったら、大きな子供である。どっちでもよかった。
「ギルドではまず最初に与えられるランクはGです。これは世界共通となっております。そしてこれもですが、ギルドでは街やギルドから《依頼》というものが出されております。《クエスト》、《任務》などと言った呼び方をされている方もいますので、これはどう呼ばれても構いません」
「それは、知りませんでした」
「それはよかったです。……だったら、ピミュに任せるべきだったかしら……」
「いえ、引き続きお願いします」
「……わかりました。冒険者が取れる《依頼》は自身のランクとプラス一のランクのものなっております。また、ランクにある《依頼》レベルは、国や地方によって変わってきますので、ご自身のレベルに見合ったものをお選びいただくことをギルドでは推奨いたしております」
ご説明は以上です、と最後に締めくくると、軽く微笑んだ。
「なにか質問はありますか?」
「……そうですね。ギルドでおすすめされる宿泊施設はありますか? 今日この《レーリスの街》に着いたばかりですので、まだ探していないんですよ」
そう問いかけると、彼女らはキョトンとした表情をして顔を見合わせた後、同時に文の方を向かって声を上げた。
「「鳥の止まり木!!」」
「……はい?」
カスティリア王国を出て一ヶ月。
久々に文はポカンとした表情をした。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:亜人排他主義とは? ――亜人を陥れようとする作戦。ただし、上の人(貴族)が勝手にやってるため、庶民には浸透しておりません。




