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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第五話 テンプレ

「おおっ! 成功だ!」

 その声で僕は意識を取り戻した。

 ……瞬間的に意識を失っていたみたいだ。

 すぐにざっと近くに素早く視線を走らせると、二十人ぐらいかな、クラスメイトがそれぞれ呆然とした面持ちで立ち尽くしていたりペタンとへたり込んでいた。

 なんともまあ、どこかで読んだことのある反応だね。

 今度は状況を把握しようと思って遠くへと目を向けてみる。

 中世ヨーロッパの黒い服を少しカスタムしたような男の神官が十人ぐらい歓喜している姿がまず目に入る。そして次に目に入ったのは汗をダラダラと掻いてぐったりと床に倒れ伏せていた女の子だ。

 メイド服を着ている女性に声をかけられているから大丈夫そう。あ、目があった。

 なんとなくすぐに目を逸らして上に向けると、豪華な服に身を包んだ変なおっさんが椅子にふんぞり返っていた。

 どう見ても好きになれそうにないあの小太りした図体(ずうたい)。側近とぼそぼそと話している内容も、絶対良い内容じゃなさそうだ。

「おい! ここはどこなんだ!!」

 怒鳴り声が聞こえたからそちらに目を向けると、翔が怒りを(たぎ)らせた瞳で神官を睨みつけていた。。

「誰か言えよ! ここはどこなんだ! お前らは! 学校は!?」

 鬼の形相とでも言ったらいいのかな。とにかく、翔が纏っている鬼気迫る雰囲気は周りの空気を一変させて静まり返らせるのに充分だった。

 誰も、何も言わない。

 そのことに翔がまた詰問しようと口を開いたとき、神官が全員跪(ひざまず)いたかと思うと、カツン、という甲高い足音が一つ耳に入った。


(わし)が、答えよう」


 ――――っ! この声は!!

 硬直した身体をぎこちなく動かして声の主を探すと、すぐに見つかった。

 さっきまで上の階層にいたおっさんだ。

 どうやってあんなすぐに、と思ったけど、それも一瞬。おっさんが口を開いたから耳を傾ける。

「儂は、グレン=ヘデンシカ=ド=カスティリア。この国、カスティリア王国の王である」

 堂々とした態度でそう言い切り、

「このたびは我が召喚に答えていただき真に感謝する」

 なんともお世辞っぽいお礼の言葉を述べた。

 …………この言い方。雰囲気。それに、態度。

 この人は……。

「まずは、場所を移動しよう」


 ――――こいつ(・・・)は、信用できない。



 ◆



 移動した先は会議室みたいな場所だった。長机が一つと、そこに並べられるだけ椅子を並べられていた。その一つ一つの高そうな調度品にこの城がどれだけお金を持っているか見て取れる。

 僕は目立たないように王から一番離れた椅子に浅く腰掛けた。この王は信用出来ない。だから、熱心に聞く役は他の人がやれば良い。

 それに、召喚される前に聞こえた声。あの声がまるっきり王様と同じだった。その理由は、わからない。

「それで、説明してくれるんですよね?」

 未だに憤っている翔は王様に一番近いところを陣とっている。そこに銀河と梓さん、桜さんも一緒だ。

「そうだぜ王様。一体どうなってやがるんですか?」

 銀河が変な敬語を使って詰問する。

 梓さんは桜さんを慰めていた。桜さんは梓さんがいないとすぐに泣き出してしまいそうな精神状態っぽい。他にも同じような精神状態の人は少なくない。でも親しい仲といえる間柄でそうなっているのは桜さんだけみたい。桜さんには後で何か一つ、慰めの言葉でもかけておけばきっと復活するよね。

 突然異世界に放り出されて僕みたいに平然としていられる方が異常なのかも。…………僕はその中でも特にイレギュラーに入るのかな? 梓さんも結構平然としているけど、それよりも異常なのかも。

 王がコホンと一度咳払いすると、全員の視線が王に集まった。

「まずは、謝罪しよう。我々の都合であなた方を召喚してしまったことを」

 そう言って頭を下げた。クラスに動揺が走る。仮にも王様が頭を下げたのだ。そりゃびっくりする。

「お、王様。わかりました、わかりましたから頭を上げてください」

 翔も毒気が抜けていつも通りになっていた。……王は狙ってやったのかな? だとしたらよけい嫌いなタイプだ。腹黒、なのかな。

 王が頭を上げると、いっそう顔を引き締めて(おごそ)かに口を開いた。

「ではまず、私たちの国の現状からお話しするので聞いていただきたい」

 そこからこの王様が統治する国の話が始まった。

 無駄な部分を省いて王様の話をまとめると、こうなる。

 この国、カスティリア王国は、最近魔族の侵略が立て続けに起こっているらしい。魔族の大陸に一番近い場所にあるというのが理由だ。

 そこで、苦渋の判断の結果、異世界人の力を借りることを決めたとのこと。

 人間――ヒューマは今まで何度も窮地に追いやられたことがあるが、その度に勇者を呼び、ヒューマを救ってきたそうだ。その今回の役回りが、僕たちらしい。

 今は魔族の進行は止まっており、その間に勇者である僕たちには強くなってもらいたいと。

「魔王を倒せばきっとこの国は――世界は救われる。だから、是非、我々に力を貸してくれ!!」

 そう締め括ってさっきよりより深く頭を下げた。

「……わかった」

「翔!?」

 銀河がものすごく驚いた顔をして翔を見た。僕も驚いた。なんでクラスの総意をそんなあっさり決めちゃうのさ。

「だってここで拒否してもすぐに元の場所に帰れない。そうですね、王様?」

「う、うむ……」

 やばいな、テンプレか。

「じゃが魔王がその送還の儀を所持しているという情報はあるのだ」

 ――嘘だ。

 直感でわかった。 なんでこの国が召喚の儀を、魔王が送還の儀をそれぞれ片方だけを知っているのさ? そんな馬鹿げた話があるわけない。

 ふと、最近マイブームのファンタジー小説の一つにこんな話があったのを思いだした。

 召喚されるまではいいが、送還の儀を知らない。魔王が知っている。だから魔王を殺せ。

 無茶苦茶なことを言っているが、勇者はこの国が困っているということで二つ返事で了承した。

 そして魔王に止めを刺す前に送還の儀について聞いたら知らないと言われた。頭の中を覗いても本当に魔王は知らなかった。

 そこで魔王を殺してから凱旋(がいせん)した後に王に突き詰めると、その王に殺されてしまうという。

 もう一度王様を見る。まだ頭を下げているが……うっすらと、笑っているのが見えた。……黒い、邪悪な笑みだった。

 僕は背中に冷や汗をかき、この王様を危険視するとともに一つの決断をした。





 ――――――――この国を、出よう。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:文は召喚されて早々に城から出ようと決意しました。



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