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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第四十六話 きつね 1

 あれからまだ見てまわりたいと駄々をこねた桜さんをなんとか説得してお城に連れて帰ると、メイド長さんにリリルたちへ買ったものと桜さんを渡してベッドに入り込んだ。

 こんなに疲れる予定じゃなかったのになぁ……。

 少し愚痴りながら目を閉じると、瞬く間に意識が遠いところへと持っていかれた。





 次に目を覚ました時、なぜかメイド長さんが僕を覗きこんでいた。

「うわっ! びっくりした……」

「それは申し訳ございません」

 恭しく頭を下げているけど、絶対わざとだよね、今の。

 いや、まあいいけどさ。

 それより。

「もう時間、っていうことかな?」

「はい。勇者方三人もすでにお城を出て配置につくばかりです。そして、そろそろ騎士団長イェントールがこちらにいらっしゃるようです」

「僕の首をチョキンって斬るためにね」

「いえ、プチュンでしょう」

「……どっちでもいいけど、とにかく僕を殺しに来るってわけだよね?」

「はい、プチュンしにこられますね」

 メイド長さんはそんなにプチュンするのが好きなのかな?

 そんなことを考えていると、外から変な音が聞こえてきた。鎧をすりあわせているような、それでいて重いものを着たまま歩くような重苦しい音が……

「いよいよプチュンですね」

「その前に逃げよう? そのために準備してきたんだよね、メイド長さん?」

「そういえば、そうでした」

 そう言ってなぜか天井をガコンッ! と開け放つ。一旦メイド長さんが登ると、はしごを落としてくれた。

「こちらからどうぞ。勿論、耐久性は抜群でありませんので、あしからず」

「あしからずって……悪い感じしかしない……」

 ここにきてメイド長さんは一体どうしたのだろうか。あ、でも普通に登れた。メイド長さんなりのジョークだったのかな?

「って、そういえば天井裏に来たのは初めてだけど、大丈夫なの? 速く着ける?」

「そうですね……」

 メイド長さんが少し考える素振りを見せたかと思うと、突然足元にあった板を外した。そこをのぞき込むと、ちょうど階段付近。つまり、こっから一階まで降りるのは階段を使って……――

「ここから更にもう一段降りられます」

 今度は地面のタイルをベリッて剥がしたよ、このメイド長さん。

「この王宮って、こんなにメイド長さんに改造されてたの?」

「そうですね。と言いましても改造したのはフミ様の計画に乗ってからですが」

 ああ、なんだ。僕のせいなんだ。

 ……いや、いやいやいや。あっさり僕に責任転嫁してきたけどさ、そこまでやれって言った覚えはないんだけど?

 さあ早くと言わんばかりに僕を無表情で覗きこんでくる。確かにここから一階の天井裏に入れるけどさ……。

「絶対階段降りたほうが早い気がするんだけど……」

「それもそうですね」

 あっさりと認めると、パンッと軽い音をたてながらその板を床にはめ込んだ。

「さあ行きましょう」

 何事もなかったかのように階段に向かうメイド長さんに、はぁっとため息を吐くと、その背中を早足で追った。

 早くしないと、そろそろ騎士団長さんが来るかもしれないからね。



 ◆



 カツン、カツン。

 夜の風に打たれながら抜け道用の階段を降りていく。光もぼんやりとしているし、下から聞こえてくる風の通気音がゴウゴウと音を立てていて、まるでこれからでっかい怪物の口の中にわざわざ入っていくみたいだ。

 まあ、みたいなだけで、実際王宮から抜けるだけだけどさ。少し風が強くなっているだけだろうけど、僕の計画に支障が出るわけでもないし。

 ああ、そうだ。黒い服に着替えないとね。夜闇に紛れるには同じ色。アイテムボックスから予め用意しておいた黒っぽいマントを羽織る。これだけで準備完了。

「――フミ様は」

「うん?」

「フミ様は、この王宮に戻ってくることはありますでしょうか?」

 ここに戻ってくる、か。そういえばアクセサリー店にいたロリコンことアーチバルにも聞かれたなぁ。

「ほとぼりが冷めた頃にね」

「……メイドの直感ですが、それは嘘ですね」

 思わず言葉に詰まる。

 メイド長さんが立ち止まると、ゆっくりと振り返ってじっと僕の目を覗きこんできた。

「フミ様のことです。きっといろんな街や国、大陸を見て回り、本を読み、美味しいものを求めていくはずです」

「うぐ……。まったくもってそのとおりだよ……」

 まさかそこまで見通されていたとはね。でも、肝心なところはバレていないみたいだ。

 本当の目的、ヒノキの棒の勇者について調べることに関しては、バレるわけにはいかないからね。

 わざとらしく首を振ると、ハァッと溜息を吐いて頭を掻く。

「確かに、僕はいろんな場所を回るつもりだよ。せっかくの異世界、まあこの世界の人から見れば自身の世界だろうけど、僕にとって未知がそこらへんに転がっているんだからね」

「未知、ですか。それは既知に変えて行くというものは、とても楽しいですからね」

 微かに笑みを浮かべたかと思うと、スッと前へと向きなおって再び歩き始めた。

 未知を既知へと変える、か。メイド長さんのその言い方、なんか含みがあってやだなぁ。

 頭をガシガシと掻いて、またメイド長さんの後ろにひっつく形で歩いていると、再びメイド長さんが立ち止まった。

 どうしたのか、と聞くまでもない。ここがきっと地下の終着点だね。周りをみると、いろんな方向に曲がりくねった道が伸びている。……考えなしに進んだら絶対迷うね、ここ。それが桜さんだったら五分後には泣きながらうろちょろするハメになるのが目に浮かぶよ。

 少しの間メイド長さんが壁をぺたぺたと触っていると、一つのひっかかりを見つけた。それをグッと押し込むと同時に、上からガシャガシャッと音をたてながら木で作られた梯子が現れた。みるからに木が腐っていて、至る所に致命的な亀裂が走ってる。絶対何十年も使われてないね。

「メイドさん、これって使えるの?」

「ええ。……多分使えます」

「そこは肯定して欲しかったかな!」

 はぁ、息をついて梯子に近づき、ヒノキの棒で梯子をトンッと置く。

 グチャリと嫌な音を立てて、触れた部分が地面に落ちた。……うわぁ。

「……あんまりMPは使いたくないんだけどね。【クリエイト】」

 イメージは簡単。新品で丈夫な梯子。これはもうきっちりイメージ出来たからMP消費も少なかった。よし、これならまだ全然余力がある。

「じゃあ先どうぞ、メイドさん」

「……なんか実験体みたいで嫌ですね」

「メイド長さんなら壊れても大丈夫でしょ?」

「それもそうですが」

 あっさりと肯定したよ、このメイド長さん。その自信は一体どこから出てくるのかな……。

 わざとらしく肩を落とすと、出口があるはずの上を見る。

「それに、僕はまだちょっと準備があるから」

 少しおどけてみせると、察したのか了承してくれた。

「では、また後でお会いしましょう、フミ様」

 恭しくお礼を言うと、しっかりと梯子の部分に足をかけて、大丈夫か確認した後、上へと上がっていった。

「……さて、と」

 スカートを覗かないようにあさっての方向を向きながら、アイテムボックスからきつねのお面を取り出した。可愛らしくデフォルメされた、何の変哲もない、お面。

「さっき桜さんがくれたんだっけ。……僕がこれからやろうとすることを見ぬいたのかな」

 いや、それはないか。でも、桜さんのことだ。無意識下でなにかには気付いているのかも。

 そっと頭にきつねのお面を装着すると、フードを深く被る。

「さあ、行こうか」

 誰に言うのではない呟き。

 カツンカツンと少し甲高い音を響かせながらゆっくりと上がっていくと、やがて人一人が通れるぐらいのポッカリと空いた穴がみえてきた。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:きつねのお面


 次話:明日   11月9日 7時

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