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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第四十四話 デート日和2

 今回は桜に視点変更です。

 ふんふんふーん♪

 文くんが少し後ろにいるのをチラチラ確認しながらも、ニヤけている口を必至に手で押して引き締める。けど、やっぱり無理!

 文くんとお出かけだもん。頬がゆーるゆるだよ!

 やっぱり皆のお誘いを断って正解だったよ! 梓ちゃんとミニスタシアさんのお言葉がなかったら、今頃皆で行ってたけどね。

「……ふふっ♪」

 誘った時にちょっと面倒くさそうな顔をしたけど、文くんはやっぱり優しい。

 文くんは優しいから、だから一緒に行ってくれるって信じて疑わなかった。信じることに関しては名探偵も度肝を抜くって梓ちゃんに言われたことあるし!

 なんだっけ?犯人がやってもいないえんざい? を認めてしまうほどに犯人だと決めつけるほど、だったかな? よくわからないけど、認めたら犯人だよね? 梓ちゃんも不思議なことを言うなぁ。

 一度振り返ると、文くんに大きく手を振る。

「文くーん!」

 ぶんぶんと振ってすぐに前を見る。

 文くんと一緒にいると、心がぽかぽかする。その理由はなんだろう。…………ううん、もう答えは出てる。最近もらった手首にある『桜のペンダント』を左手でそっと包み込む。このペンダントをもらった日に、気づいた。今までモヤモヤした気持ちが、曇空だった空にお日様が差しこむように。


 ――私は、文くんが好き。


「好き……すき…………うぅぅぅぅ!」

 声に出してみると、恥ずかしさがかぁっとこみ上げてきて、身体が一気に熱くなる。

 恋は燃え上がる火のようだ、って言っている人の気持ちが今なら理解できるよ……。好きな人のことを思うと、身体が焼かれているようにまっかっかに暑くなることを言っていたんだね。

 そういえば、梓ちゃんの貸してくれた本の中に、片思いについて書かれてあったような。

 よいしょとまだ借りていた本をポーチから取り出すと、本を開く。おめあてのページは栞に挟んであるから……あった!

 『片思いはね、一番自由で、一番辛いものなのよ。恋をしたらそれで終わりじゃないわ。好きになった人に好きな人はいないか、どうやったら自分を見てもらえるかなんて、色々考えてしまうの。いい? そういうときはギクシャクした態度はダメよ。いつもどおり、それでいて少し味を加えなさい。料理本のレシピ通りじゃなくて、そこに一つアレンジを咥えるだけで良いの』

 うん、頑張るよ。この本の主人公のモブ、浦賀(うらが)美桜(みおう)二十六歳独身さん! ピチピチ十七歳な私が! 貴女の仇を取るよ!

 私ってあんまり料理わからないけど、少し頑張れば良いんだね!

「ふぅ」

 一度大きく吐き出して、吸う。

「さ、いこっか」

「うにゃあ!!」

 いつの間にか文くんが隣にいる!?

「テレポート!?」

「テレポートって……いくら僕でもそんなことできないよ。それより、ちょっと人が混んできたから、ちょっとお手を拝借、ってね」

 苦笑いをしながら文くんが、わ、私の手を繋いできた!!

「ふぇ、あ……!」

 嬉しすぎて声が出てこない。頭の中が真っ白になりかけるのを一生懸命自分の足を蹴って意識を保つ。痛い……すねに当たったよぉ……!!

「あぅ……」

「桜さん、大丈夫?」

「う、うん」

 変な子って思われたかな? 急に足を蹴りだしたから。で、でもちょっとぐらい大丈夫だよね! いつもはまともだし。

 すぐに痛みは収まったから一緒に肩を並べて歩き始める。そのときになるべく自然体に会話をした。

 好きな人と一緒にいるだけで心が弾んで、楽しいね。……でも、少し苦しいかな。

『片思いは自由で、一番辛い』

 文くんには、好きな人はいるのかな? やっぱり、最近一緒にいる夕花里ちゃん? それとも、リリルちゃん? も、もしかして梓ちゃんとか!?

 ……うぅ。気になるぅ~! そ、そういえば日本には後輩もいるんだよね。文くんをお兄ちゃんって慕うあの女の子、よく教室に来てたもんね。もしかして恋人だった、のかなぁ?

 実兄弟ってたしか結婚できたっけ? あれ? どうだったかな……

 あう。

 で、でももし文くんに好きな人がいないとして。

 もしそうなら、そうならまだ私にもチャンスがある、んだよね。

 なら。片思いじゃなくて、両思いになりたいな。

 ……文くんと恋人、になりたいなぁ。

 頬がじんわりと火照るのがわかる。ちらりと文君を見る。文君って少し身長が高くて、視線が斜め上にいく。それに、手から感じる少し硬い感触が、男の子だなぁって思ったりしちゃったり……。

 男の子と女の子が両思いになることでなっちゃうのが恋人。

 やっぱり恋人ってあれだよね。一緒に服屋さんいって、食事して……あれ? 別にこれって今やっちゃってる……? やっちゃってますよね?

 べ、別にこれなら恋人同士じゃなくても……。

 あ、で、でも、でもでも、文くんと、き、ききききききキス! これは恋人同士じゃないとできないよ!

 まわりからもそう見えてるのかな? 恋人だー、って。

 彼氏……文くんが、彼氏……えへへ……。

「桜さん…なんか物凄く残念な顔してるよ……」

 顔を上げると目の前に文くんの顔があった。隣にいたのに!

「びっくりした!!」

「僕は桜さんの驚きの表現方法にびっくりしたけどね」

 え? いつもみたいに五メートル威嚇する鷹のポーズ取っただけだけど。

 すぐにそのポーズをやめると、じっと私をみつめてくる。は、恥ずかしい……!

「ふ、ふみくん……?」

「桜さんってさ」

「は、はい!」

「僕のこと、どう思ってるのさ?」

 どう思ってるって? え、っと。んーっと……

「彼氏?」

 ……。

 ………………。

 ………………………………。

 うわあああああああああああああああああ!?

「今の、今のは違うからね文くん! ちょっと言葉を間違えたというかね、あそこにいる人がいかにも恋人にみえたから少し言葉にでちゃっただけで、質問の答えじゃないから! 文くん、 しんじて、ね? ね!?」

「う、うん……わかったよ……」

 よ、よかったぁ~! まだ、付き合ってないのに彼氏とか言ってたらドン引きされるし、それになんだか告白しているみたいで……は、はずかしいよぉぉぉぉ…………!!

「あううぅぅぅぅ!」

 その場で頭を抱えて座り込みたくなったけど、なんとか頭を抱えるだけにしておいた。それでも、顔はもう熱くなりすぎて、気温は春ぐらいなのに、私の周りだけ夏みたい暑いよぉ……。

「桜さん、置いてくよ?」

 そんなノータイムで置いていこうとするなんて……あ、本当においてかれちゃった!

「うにくんまってー!」

 噛んだ。けど、気にしない!

 小走りで走ると、文くんは待っていてくれていた。

 やっぱり、文くんは優しいな。



 ◇



 服屋さんに入ると、「いらっしゃいませー」というお店屋さんでの決まり文句が聞こえてこなかった。そのかわりに、一人の綺麗なおねえさんがちらりとこっちを見ると、すぐに興味をなくしたようで自分の仕事に戻る。

 いらっしゃいませって、どこの世界でも共通じゃないんだなぁ。世界を跨ぐと文化とかもまるっきりかわっちゃうんだね……。

 ま、まあいいよ。服はあるんだからそれをみていこっと。

 人が少ないけど、色々目移りしちゃうほど服がいっぱいある! ああ、もっとお金があれば帰るのになー。財布を覗くともう買えても一着か二着ぐらい? うぅー……もう少しお金を残しておけばよかった……。

 ふと、なにか視線を感じたから戦闘待機する感じで視線がする方に戦闘の構えを取ってみた。

 ……あれ? あのおねえさん、またこっちみてる?

 少しの間、ジッと、ジィィィィッと見つめ合うと、おねえさんがちょっと口元をほころばせた。

「あら、フミくんじゃないの。また来てくれたのね!」

 えっ!?

 文くんの……知り合い!?

 どういうこと! 文くんに振り返ると、しまったと呟いて頭を掻いていた。

「あー……そういえばここって、メティさんの店だったね」

 そう言って大きくため息を吐いた。

 え、ええ?

 なんでそんな見知った仲に!?

 私の混乱はよそに、二人の会話は続いていくのが耳に入ってくる。

「その口ぶりだともう来ないつもりだったのね」

「そりゃ、来る必要がないのに行かないよ。そもそも、最初にトラウマになりそうなことをやってきたメティさんのせいもあるよ、ここに来たくない理由は」

「たしかにそうね。でも、ふふふふふ……フミくんってば、あの時の恥ずかしそうな顔がどれだけ唆るものがあるか……。着せ替えにゲフンゲフンこんな面白い人はなかなかいないわね」

「今、なんて言いかけ……いや、わかるから言わないで」

「そう? あれはもう涎が出るほどかわいいフミくんが悪いのよ? ああ、ねえフミくん。ちょびっとだけ、端っこだけでいいからまた女装を……――」

「えいっ」

「ふぇば……!」

「そろそろ本題にというか、本来の目的を果たさせてよ」

「はい! 質問があります!!」

 二人の会話に区切りがついたところを鋭く割って入った。二人のちょうど真ん中。だから両方から視線が集まったけど、気にせずに二人を交互に見ながら口を開いた。

「まずは文くん! 短刀直刀に聞きます!」

「単刀直入だよ」

「ちょ、直入に聞きます!」

 照れ隠しで声大きくしてないからね!

「文くんは王都に来るのは初めてじゃないんですか!?」

「うん。……あぁ、そっか。しまったなぁ……」

 罰が悪そうにガシガシと頭を掻く文くん。

 って……初めてじゃないの!? 今日が初めて王都見学だって。確かにそのはずだよ。だって、皆王都に行けた日は今日が初めて。だから自然的に文くんも今日が初めてのはずなのに……。

「一体、文くんは何回ぐらい王都に来てたの……?」

「あー……えっと、何回だろ? 四回ぐらいかな。読書を早く切り上げて王都に降りたから。どうやって来たかは、悪いけど教えられない。極秘だからね」

 そ、そっか……。私には言えないんだ……あぅ。

「ちなみに、最初は私の個人的に持っている倉庫から出てきたのよ」

 メティさん、って呼ばれた人が胸を張って教えてくれた。……倉庫から?

「メティさん。それ以上はメイド長さんの物理的記憶消去法の実験体になってもらうよ」

「「こわっ!?」」

 あ、メティさんとハモった。

 でも、ミニスタシアさんがそんな記憶消去の仕方するのかな? その一部分だけ消すんだよね? 消しすぎたりとかは……


『こう、ですか? おや、ちょっと消しすぎましたね』


 ………やっちゃいそう。

「は、話さなくていいですからね、メティさん」

「え、ええ……」

 とりあえず、と文くんが間を取り持つ。

「僕は何回も来たことがある。そのときに知り合ったのがこの人。名前は変態」

「違うわよ!! 私はもう知っていると思うけど、メティよ」

 そう言って私に微笑んだ。綺麗な笑顔だなぁ……。

「ちなみにもうわかっていると思うけど、私はこの店を……営んでいないわね」

「営んでいないんですか!?」

「ええ。私店長じゃないし。店長は私の母。今は安静にしているの……」

「安静って……。もしかして病気、ですか?」

 少し張り詰めた空気になる。メティさんが辛そうな顔をしているのが痛々しいよ。

 少しの間、そんな空気が流れて。そっとメティさんの口が開いた。

「そうね……もう、治らないと思わないわ」

「治るんじゃないですか!?」

「だって風邪よ? 治らないわけがないじゃない」

「そうですけど!」

「だいたいもう治ってるし」

「すでに完治してる!?」

「今は昼寝よ」

「寝てただけだった!! ってあれ? 最初の肯定の言葉は?」

「そうね、って言っただけよ」

「騙されてた!? え? ええ! えええええ!?」

「はいはいストップ。桜さんどうどう」

「私は牛じゃないよ文くん!」

「そうだねー、かなりカワイイオンナノコダネー」

「え、そう? 照れるなぁ」

「完全に棒読みじゃない……」

 照れててメティさんがなんて言ったか聞きそこねちゃった。

 それにしても、可愛い女の子……えへ、えへへ……嬉しいな!

 とりあえず深呼吸。

 スー、スー……スゥゥゥゥゥ……。

「おちつきました!」

「……そう。じゃあ自己紹介して」

「はい! サクラ・シノノメです」

「サクラ、ね。愛称はちょろい、かしら?」

「なんでですか!? たまに言われますけど」

「桜さん、言われたことがあるんだね」

「なにがちょろいのか、全然わからないんだけどね!」

「…………」

「なんでそこで黙っちゃうの?」

「いや……桜さん主人公タイプだなぁって」

「そ、そうかな?」

「うん。僕はせいぜいお姫様に仕える振り回される騎士、ってところかな」

 お、お姫様! あの、お城の最上階で眠ってて、騎士様のお目覚めのキスによって目が覚めるとかの、お姫様?

 それなら。もしそうなったら。文くんがキスで――――

「ふぁふ……」

「……大丈夫、桜さん?」

「ふぁ、ふぁい……」

 う、うん。一回落ち着こう。スー、スー……。

「ちょろい、早く服を買いなさい」

「そのあだ名は定着ですか!?」

 メティさんの言葉によって落ち着けなかった。



 ◇ ◇



「お買い上げありがとうございましたー! ……これで私のお小遣いが増える」

「ゲス顔ですね!!」

 どこまでも癖の強い人だった……。少なくとも、私が今まであった中で一番だよ。

 そんな感想を文君伝えると、『桜さんも同じぐらいだけどね』と返された。

 むむむ……? どういうことなのかな……?

「あぁでも」

 私が頭を悩ませていると、文くんが口を開く。

「桜さんにあれだけ突っ込ませたり困らせたりしたメティさんだから、桜さんよりかは濃いかもね」

「そ、そうだね……」

 私には荷が重いよぅ。

 でも、と今着ている服を摘んで見る。

 可愛いフリルがついた白を基調にするワンピース。『あなたの艶やかな黒と合うから』って、(なか)ば強引に買わされたんだけど、あの人もきちんと仕事はできるんだね。

 文くんに、か、か、か、可愛い! 可愛いって言われちゃったし!!

 言われちゃったもん!!

「ふふふふふふふ……」

 なに怖い笑みを浮かべてるのさ……」

 店を出てしばらく歩いたところで、引き気味にそう言われた。

「ご、ごめんね文くん。……ふふっ♪」

「……はぁ」

 文くんがこまった笑みを浮かべながら右手でガシガシと頭を掻く。

「ほら、クレープ食べよっか。あと数時間で戻るんでしょ?」

「うん。なんで夜まで残ったらダメなんだろうね? なんだっけ、ハイキング令だっけ?」

「それを言うなら《這禁令》だよ。……なにかあるんだよ。きっと」

 今、少し言い淀んだ? 顔を前で固定してたから表情はみえなかったけど。文君の方を見ると、いつもと同じ表情をした文くんだった。

 左手で頭を掻きながら。

 むー。何か隠してる?

 ……気のせいだよね。

「よぅし。気のせい気のせい」

「ん? 何か言った?」

「ちょっと気合を入れました」

 ふんすっ! と小さく握りこぶしを作ってみせると、ちらりと文くんが前をみる。

「……太るからかな」

「違うよぅ! 違わないけど!」

 確かに目の前にクレープ屋さんがあるし、今そこに向ってるけど!

 私が体重気にしていることを知ってるのかな? ……えっ? もしかして本当に!?

「文くんの変態っ!!」

「ええっ!? なんで急にディスられたの!?」

「ほらっ! お詫びとしてクレープを奢って!」

「はぁ……よくわからないけど、それぐらいなら……」

 文くんのおごりでクレープゲットしました。やった!


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:物理的記憶消去法の怖さ。

      桜さんが普通の恋する乙女。

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