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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第四十三話 デート日和1

 人が行き交う往来。いろんな声が混ざり合う街中。

 きっと上から見たら人がゴミのようだといいたくなる中、その中を元気に走りまわる女の子が一人。

 少し前を駆けていくと、振り返って顔一面に咲く笑顔で、僕に向かって元気に手を振ってきた。

「文くん文くん! はやくはやくぅ!」

「待ってよ桜さん……なんでそんなに元気なのさ……」

「桜さんだからですよぃ!」

「……はぁ」

 ため息を吐きながら人をかき分けて近づくと、桜さんが肩に手を置いてきてぴょんぴょん飛び始めた。

「なんで今ため息ついたのっ!?」

「…………桜さんって……本当に珍生物だな、って」

「えええええ!?」

 桜さんの叫び声があたり響き渡る、のを無視して空を見上げる。もう昼を回って小腹が減る時間帯。いつもならすかないけど、桜さんと一緒にいると本当にエネルギーを使う。

 もう一度ため息を吐くと、桜さんに手を握られた。

「は、離れないように、ね!」

 先に離れていったのは桜さんじゃん。

 そう思っていると、むーっと頬を膨らませた。

 ……とりあえず頬を押して中の空気を吐き出させた。

「うううぅぅぅ……」

 涙目で睨んでくるのを無視して、前を歩く。それに黙って着いて――来るわけがなかった。

「あ、文くん! あそこに美味しそうなパン屋さんがあるよ!」

 一気に形勢逆転とばかりに人を蹴散らした。

 もう一回ため息を吐く。なんでこうなったんだっけ……。

 桜さんに引きづられるようについていきながら、現実逃避気味に朝のことを思い出していた。







「グッドイブニーーーーング文ぐふぇ!!」

 ドンッ! と何かがぶつかる衝撃音で、目が覚めた。

「なに……?」

 身体を起こしながら音がした方に顔を向ける。「うぅ……」という呻き声が聞こえてくる。

「…………」

 のそのそと扉に近づいて、最近つけはじめたチェーンの鍵を外す。その時にも何回も叩かれる扉。眠い上に揺らされて、かなり開けづらい。

 ガシャガシャと音をたてながら外し終えると、勢い良く扉が開いた。

「文くん、なんで鍵を閉めてたの!?」

「…………あー、うん」

 桜さんっぽい声が聞こえたけど、なんて言ったのか、頭に入ってこない。

 鼻をおさえて涙目になっている桜さんはいるのはわかる。でも、なんでいるのかはわからないし、寝起きだし……。

 大きく欠伸をして、扉をカチャリと閉める。鍵は、面倒……。

 そして二度寝しようと引き寄せられるようにベッドに――――

「ふみくぅぅぅぅぅぅん!!」

 ドォォォンッ!! と扉からでてはいけない音をだしながら桜さんが入ってきた。

 それをみて、布団を被る。温かい。

「……おやすみ」

「おやすみじゃないよ! 痛かったんだよ!? ってそれどころじゃなかったよ!」

「僕もそれどころじゃないんだ。おやすみ」

「寝ないでよぉ~……文くぅん……」

 ゆっさゆっさと揺らされる。

 ため息を吐いてから仕方なく起きて、桜さんの顔に手を伸ばして、伸ばす。

「うぃ~……いたいー……」

 訴えかけてくるように何回も腕を叩いてくる。しょうがないから、頬を軽くぱちんと叩いた。

「それで、何の用? こんな朝早くから」

 時計をみるとまだ長針は八を指している。予定ではもう少し眠れたはずだったのに。

 少し桜さんを睨むと、あたふたしながら口を開いた。

「きょ、今日! 文くんとヘッドショットしようと思って……!」

「…………僕はそんな趣味持ってないから」

「えっ? ……あ! ち、違うの! ヘッドショットは言葉の綾で、本当はヘッドショッピングだよ!!」

「グロいっ!?」

「あああああああ! ち、ちがうから!」

 かなり慌てて言葉を絞り出そうとしている。……ヘッドショッピングかぁ。

 ……だめだ、変な想像しかできない。

 とりあえず、桜さんの頭を軽く小突く。

「落ち着いて。深呼吸、深呼吸」

「う、うん。スー、スー……スー…………」

 物凄い吸ってばっかな深呼吸だ。でも、それで落ち着いたってどや顔で言える桜さんもすごい。

 一回頭の中を覗いてみたいよ。

「それで、なに?」

「う、うん。あの、きょ、今日……」

 モジモジと下向きながら上目遣いで僕を見る。その視線が頭にいっていないことに少し安堵していると、そっとその口が開いた。

「今日、王都に一緒に行かない?」

「一人で行くから寝るよ」

 桜さんに即答して毛布を頭まで被った。

 数秒後に勢い良く取っ払われたけど。

「行こーよ! 昨日と違ってぽかぽかお天気さんだよ、ほら!」

 カーテンも勢い良く取っ払われて、目に光が射す。

「うっ……灰になる……」

「文くんは吸血鬼だった!?」

 ショックだという声が耳に入る。ゆっくり光に目を慣らしながら開くと、ベッドに座った。

 桜さんも何故か隣に座る。……近いし。

「ここの気温は基本的に涼しいけどさ。そんなにくっつかれると逆に熱いんだけど」

「ふぁにゃあ! いつの間に文くんがそこに!?」

 それは新手のボケ? 桜さんからよってきたのに。

 このままだと話が進まない。寝るか話を進めるか。…………目もかなり冴えてきたし。

「とりあえず、なんでそんなこと言い始めたか言ってみてよ」

「う、うん。さっき、ミニスタシアさんが私のところに来てね――」

「ああ、もうわかった」

「おっ。私と文くんは以心伝心だね!」

「……きっとそれだったら、桜さんじゃなくてメイド長さんと僕が以心伝心なんだと思うよ」

 メイド長さんのことだ。絶対面白半分に僕が今日王都に行くことを話したんだ。……別にいいけど、あんまりかき回さないで欲しい。

 それがいくら良心からだとしても。

 おおかた、桜さんのために、とか考えたんだろうね。僕にとっては……迷惑? いや、物理的にも精神的にも疲労が増えるだけ。

 一回だけ桜さんと日本にいるときに出かけた時があったけど……あの時は本当にあれだったからなぁ。

「――それとね」

 僕の発言に桜さんがムンクの叫びのモノマネをしていたけど、それをやめて小首を傾げながら口を開いた。

「なんだかよくわからないけど、さっきクラスの皆が集められて王様に『王都に、王都に行くのじゃ―!』的なことを言われたの」

「脚色し過ぎじゃない?」

「あ、バレた?」

 えへへ、と小さく笑うと、人差し指を口に当てる。

「えっとね、『毎日訓練ばっかりでは息が詰まるじゃろう。たまには王都に行って羽を伸ばしてくると良かろうて』って言ってたの。文くんだけ来なかったのが少し心配だったんだけど、二度寝してたんだね! この二度寝野郎♪」

「あー、うん」

 なんで最後に罵倒されたのかよくわからないけど、もう一回頬を、今度はむにゅりとつぶす。

 それにしても、僕はそんなのに呼ばれてない。王の態度も結構露骨になってきたね。まあいいけどさ。

「ふぃんふぁふぁふぉうふぃっふぁふぉ?」

「ごめん、なんて言ってるか全然わかんない」

「ふゅふぃふゅんがうぉふぁふぇていふゅからぁ!」

 ……ああ。

「文くんが抑えているから、って言ったんだね」

 だからって離すつもりはないけど。罵倒されたし。

「うー……!」

 涙目で僕を睨んでくる。いや、睨んでるのかよくわからない視線を僕に浴びせてくる。なんていうの、なにか葛藤と戦っているような感じ?

 抑えてて欲しいのか欲しくないのかわからない。まあ、どっちでもいいけど。

 というか、これだと話が進まないや。

 桜さんの頬から手を離すと、少し残念そうな表情をした気がしたけど、それより話の続き。目で続きを促すとはわっと声を上げた。

「えっとね。皆はもう殆ど準備して行っちゃったよ?」

「桜さんも梓さんと一緒に行けばよかったのに」

「も、もう。だから、私は文くんと一緒に行きたいの!」

 激おこだよ! とプンプン怒る桜さん。そういえば、最初にそう言ってたね。

 ここでごねても仕方ないし、断る理由もない。

「わかった」

「ありがとう文くん!!」

 嬉しそうにぴょんぴょん跳びまわる。それをあくびしながら眺めた。

「じゃあ、着替えるから待ってて」

「は、はい!」

 ピシッとその場で敬礼するのを横目で捉えながら服をアイテムボックスから取り出してベッドに置く。

 それから寝間着を脱ごうと手にかけて、ピタリと止める。

「……桜さん」

「は、はい!」

 目だけを動かして桜さんを見る。

 うん、手で目を覆い隠しているけど、ばっちり指の隙間から僕を見てるね。

「ちょっと、外に出てて貰えるかな?」

 にっこりと笑いかけると、もう一度大きく返事をして、物凄い勢いで部屋から出て行った。速さのステータスがバグっているのかと思うほどに。

「ふぅ……」

 今度こそ寝間着を脱ぐと、消えそうもない生々しい傷跡がいくつもみて取れた。小さくても、あんまり見てて気分がいいものじゃない。

 その傷を覆い隠すようにアイテムボックスからこの国の平民着るような服を取り出して着る。黄緑と赤を基本の色調としたものだ。

 準備万端。そう思って桜さんを中に入れようとした時、ようやく目が覚めたノナがベッドから這い出てきて眠そうな顔で僕を見上げる。

 そういえば、ノナはどうしよう。

 今日僕は出て行く予定だ。だから、この子をどうにかしておかない解けない。

 僕に付いてくるのも良し。

 この王城に残るのも良し。

 僕はどっちでもいい。ここならメイド長さんが守ってくれるだろうし、付いてくるならその分強くなってもらわないといけない。

「まあ、あとで考えよう」

 一旦保留にしておこう。僕的には、というのもあるけど、最終決定は出る前だ。

 ノナの頭を軽く撫で付ける。気持ちのよい、フワフワとした感触だ。

「ノナはお留守番になっちゃうけど、いいかな?」

「キュキュッ」

「ありがとう。リリルと遊んでてね。あ、おめかししてあげるよ」

「キュッ!」

 アイテムボックスから取り出した黄色のリボンを、耳っぽいところに結んであげる。

「キュキュ~♪」

 ノナがが嬉しそうに何回か部屋の中を回ったあと、部屋から飛び出そうとして、扉に思いっきりぶつかった。

「なにやってるのさ……」

 ノナを拾い上げて、扉を開けると、桜さんがすぐ目の前に立っていた。

「中からものすごい音が聞こえたんだけど……」

「ちょっとノナがぶつかっただけだよ」

「私と一緒だね!  治してあげるよ」

 桜さんがノナの頭を軽く撫でると、優しい声音で囁いた。

「【ヒール】」

 清らかな光がノナを包む。みるみるとノナが元気になっていく。

「キュッ!」

「どういたしまして~」

 そう言ってほんわかと微笑んだ。

「じゃあ行ってらっしゃいノナ」

「キュイッ」

 僕の腕から飛んで走り去っていった。

 それをにこにこして桜さんが笑う。

「それで、ノナちゃん、だっけ? あの子どっかでみたことがあるんだけど」

「まあ、元魔物だし」

「……え!?」

「今は僕のペット」

「…………ええっ!?」

 面白いほど反応してくれる桜さんは、やっぱり面白い。

 でも、

「ペットかぁ。なら、大丈夫だね。可愛いし!」

 桜さんがあまりにも寛大すぎてすぐにオッケーサインを出してしまうのもどうかと思う。

 そのうち変な男に騙されるんじゃないかな。その前に銀河がゲットするかなにかすれば……無理か。銀河はその前に第四王女と結婚しそう。

「準備もできたし、いこっか」

「そうだねっ。私、この世界の街をじっくり見る初めてだから、楽しみ~!」

 本当に楽しみだとはしゃぐ桜さん。

 その頭のなかはきっと異世界の料理や服、アクセサリーのことでいっぱいなんだろうね。

 ………………何回も行っている僕としてはどうも肩身が狭いというもんだけど。

 ふと、左手が温かい事に気づいて手を見ると、桜さんの右手が包まれていた。

「異世界は待っててくれないよ!」

 興奮気味に小走りになって走りだす桜さんに、手を握られている僕も着いて行くしかない。

 そのまま僕らは王都に繰り出した。

 ……朝食、食べてないなぁ…………。



 ◆



「文くーん!」

 元気に手を振って僕を呼ぶ桜さんは、あれからずっと動きっぱなしだったというのに、全然元気だ。

 僕もまあ、最近体力が増えてきているからまだぜんぜん大丈夫だけど……もう少しペースを落として欲しい。これ、夜寝ちゃってサクッと殺されちゃうパターン?

 …………それだけは、やだな。

 がっしりと掴まれている僕の手はいつの間にか離れている。まあ、桜さんもすぐ目の前にいるし。

 桜さんを見ると、本当に楽しいと言わんばかりに笑顔を浮かべている。口元も緩みきっているし。……桜さんにも会えなくなるし、少しぐらいサービスしようかな。

 ふぅぅ、と大きく息を吐いてゆっくりと、大きく息を吸い込む。

 まだ、日が沈むまで数時間ある。

「それまでは、せいぜいやんちゃなお姫様をエスコートする騎士、にでもなろうかな」

 全くらしくないことを呟いて。

 桜さんの元に少し早足で近づいた。


お読みいただきありがとうございます。



おさらい:桜さんとデートというより親と子供?

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