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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第四十二話 想定内

「嘘乙」

「そうおっしゃると思いました」

 朝、ぐっすり眠っているところをメイド長さんに起こされて、最初にと切りだされた密談の内容をバッサリと切り捨てると、無表情でそう言われた。

 ジトリとメイド長さんをみると、どことなく微笑んでいる。……まあ、いいけど。どこからその知識を仕入れたとか、深く詮索すると面倒だし。

「それにしても、あの王は本当に腹黒だね。でも、策が曖昧だ」

「と、いいますと?」

 メイド長さんが片眉を上げた。気づいていない、わけがないはずなのに。

「僕を殺すという名目だったら、僕を悪に仕立て上げれば、すぐに殺せる。なのに、わざわざ実在するかもわからないフェンガーという名前を出してくるというところが、まずおかしい」

「ですが、そこになにか意図があるのでは?」

 なにか意図がある、か。その線は、あるといえばある。

 綺麗に考えるんだったら、勇者たちは強いから警邏でも覚えたらどうだ、という王のそれはもう優しい考えかもしれない。でも、それだったら騎士団長がつきっきりで教える方が知識として吸収もしやすいはず。

 でも、腹黒王のことだから、そんなことは万が一にもありえない。

「……考えるとしたら、僕が逃げ出す事前提? まさか……でも、なぁ」

 でも、もしそうだとしたら、全て辻褄があう、気がする。

「メイド長さん、地図持ってる?」

「ここに」

 スッとスカートの中から取り出した。……どうなってるのさ、そのスカートの中は。

「気になられるなら、入ってみますか?」

 ピラリとスカートを少しめくりながら、無表情でメイド長さんが言ってきた。

「……考えを読まないでくれない?」

「男性はスカートに対し物凄い執着心を持つと、聞いたことがございましたので。申し訳ございません。フミ様は例外でしたね。男性の、例外でした」

「その言い方はやめてくれないかなぁ!」

 僕が男じゃないような言い方じゃん。なんでわざわざそんな言い方したのか小一時間ほど問い詰めたい。

 と、とにかく地図を机に広げて騎士団長、兵士長、そして翔達の配置をメイド長さんから聞いたとおりに確認していく。

「やっぱり。この布陣は僕が逃げ出すこと前提、なのかな」

「……どういうことでしょう?」

「ほら、騎士団長がお城周辺で、兵士長さんが噴水の周り」

 城からスゥッと一筋の線を引くように噴水まで指を運ぶ。するとすぐにメイド長さんは気付いたみたいだ。

「お城から中央までは、脇道それること無く、この大通りしかありませんね」

「そう。脇道や裏通りもほとんど見受けられないのがこの大通り」

 この造りは、日本のお城と似てるね。もし攻められても、ここの橋の部分で時間稼ぎつつ遠くから敵を減らす戦法に切り替えられる。

「だから、騎士団長が僕を取り逃がしても兵士長さんが待ち構えている二段構え、ということだね……」

 これは、騎士団長が考えたことじゃなくて、王が考えたんだろうなぁ。まあ、誰が考えたかは今更どうでもいいけど。

「――フミ様は、勇者達についてどう思われているのですか?」

「……どうって?」

「もし、フミ様が無事脱出なさったら、無事で済む、ということはないはずです。なにか罰が与えられる可能性が高いかと思うのですが」

「それは…………僕に関係あるのかな?」

「……同郷のよしみというものでは?」

「そっか。それで、メイド長さんはどうすると良いと思う?」

「私としては、フミ様には遺恨が残らないようこの城から抜けだしてほしいと思っておりますが」

「遺恨が残るか残らないかは、流れ次第だけど、できるだけやってみるつもりではいる」

 僕はきれいさっぱりこのお城、国から退散するつもりでいるから。ああでも、時間が経てば戻ってくることもあるかも。……そういう思考は全部うまく脱出できたらにしておこう。

「そもそも、今回のことは想定の範囲内だったよ。王が勇者を使ってくることは」

「そうだったのですか?」

 メイド長さんが少し目を見開いて訊いてきたから、軽く頷いて言葉を続ける。

「ほら、メイド長さん。さっき勇者を道具として使えるかの実験も兼ねているって言ってたでしょ? 僕の考えは少し違う。もう早速道具として使い始めているんだよ」

「こんな短期間で、ですか?」

「そう。今回僕を暗殺するという名目があったから時期が早まったんだろうけどね」

 でも、王が本当に思っていることは僕にもわからない。だから、僕はその考えを全部知れるわけじゃないし、この城には策略がありすぎる。

「メイド長さん、下見はおわったんだよね?」

「はい。隠し階段を使い、夜になると止まる噴水にでます」

「噴水って、兵士長さんがいるよね?」

「フミ様なら大丈夫です」

 よどみなく、なんの根拠もないのにあっさりと言い切られた。

「では続けますね。フミ様にはそこから西門に向かっていただき、近くにある丘陵の一番高いところで待っていて頂ければ、私が“足”を連れて行きますので、そのままフミ様が行かれたい場所へ、という手はずとなっております」

 どうでしょうか、と視線を送ってきたから、軽く頷く。一番無難で、これ以上にない案だった。けど、やっぱり一番難しいところは、少数精鋭な彼らか……。

 一応案はある。けど、それを使うにはもう一度だけ城下町に行かないと。

 そう思って外をみると、かなり強い雨が降っていた。この雨の中、外へ行くのは疲れるし、面倒。明日の朝行けば大丈夫かな。

「ありがとう、メイド長さん。とりあえず、頑張ってはみるよ」

「はい。――――ですから」

「……なにか言った?」

「いえ? 何も言っておりませんが」

 嘘だ。口が動いていたのに。

 ちらりとメイド長さんをみると、相変わらずの無表情だ。

「キルちゃん」

「っ!?」

 ぼそりと呟くと、一気にその無表情は崩れて顔を赤くする。

「それで、なんて言ったの?」

「い、いえ。ですから私は――」

「メイド長さんの趣味って確か他のメイドさんにはしられていないんだよね」

「っっっ!」

「それで、なんて言ったのかな?」

「で、ですから…………!」









 それから。

 この押し問答はなぜかやってきたリリルが来るまでずっと続けられて。

 当然のように桜さんがやってきて、いつものようにわいわいとした雰囲気がおやつの時間まで続けられた。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:ミニスタシアの弱点はキルちゃん。

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