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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第四十一話 密談の裏

 文達がお城へ戻り、夕食を早々に泥のように眠り込んだ夜。

 昨日密会を行った人物とプラスするように勇者たちが――桜がいないが――お互いに顔を突き合わせていた。

 彼らがいる部屋は少し広めで、小会議室のような場所に小さな丸机が一つある。その机を丸く囲むようにして向かい合っているのだが、勇者たち一行はどうすればよいかわからず、ひたすらこの重苦しい空気に耐え続け、やがて自然と王に視線を向ける。

 傍で控えていたイェントールとフックもお互い顔を見合わせて頷き合うと、同じように王へ視線を向ける。

 五人にして十の目が王に向けられると、ゆっくりと、重いといわんばかりに口を開き、重低音の声を震わせた。

「勇者たちよ……まずは今日、この場に召喚されたこと、ひどく感謝する」

 まずはと、最低限のお礼の言葉を口にする。それを勇者達が無言で受け止める。

 その言葉を訊きたいわけではない。

 訊きたいことは提携文句ではない。

 そう伝えるように王を見つめ続けると、大きく頷いた。

「では、早速本題に入らせてもらおう」

 グレンがスゥッと目を細めると、翔達はこの部屋が数段温度が冷えた感覚を覚えて、思わず身を震わせる。だが、誰一人として王から視線をはずさない。まるで、グレンの放つ一字一句を見逃さないと言わん限りだ。

「――今回、お主らの力を見込んで頼みたいことがある」

「……頼みたいこと、ですか?」

「そうじゃ」

 困惑気味に翔がオウム返しすると、グレンがしっかりと頷く。

「お主らの成長ぶりは騎士団長と兵士長からよく聞かされておる。勿論、アズサ殿は魔法師団長から、しっかりと報告を得ている」

 彼らの成長ぶりははっきり言って異常だ。人族から見れば、だが。あとは(なま)の戦闘経験を重ねていくことで立派な勇者(どうぐ)として完成されるだろうとグレンは踏んでおり、思わず口端を釣り上げる。それを純粋な勇者たちは、褒められていると勘違いして多少程度はあれどはにかんだ。

「――儂の下へとある文が送られてきた」

 ゆっくりと、言葉を選びながら言葉を紡ぐと、懐からその文らしき紙を取り出した。

「これがその文じゃ。ここにはこう書かれてある。“我、盗賊フェンガーと申す。先日、ある村にて我らの同胞がお主の兵によって殺された。よって満月の晩、王都に住まう住人を殺し、我が同胞の贈り物とせん。”……これを意味することが、判るじゃろう?」

「……無差別殺人っていこうとですか!?」

 翔の驚いた声にゆっくりと頷くグレン。その表情はどこか苦々しく、――しかし底が見えない井戸を覗きこんでいるような感覚が梓を襲い、内心傾げる。だが、すぐに王の声が耳に入りこんでそちらに意識を戻す。

「この文は儂の書斎にあった。つまり、誰かのいたずらかも知れぬし、本物かも知れぬ。……儂はまだいたずらで終わって欲しいのじゃが、実際フェンガ―という盗賊王は存在し、またこのカスティリア王国内で活動を続けるこの国の悩み種となっておる程のもの。けっして看過できるほどではないのじゃ」

「つまり……俺達で警護をしてくれということ、ですね。その文が正しい正しくないにかかわらず」

「うむ。強制に、とは言わぬ。ただ、お主らを選んだ理由を今一度思い出して欲しい」

 お主らの力を見込んで直々に王が頼み事をしてきた。その言葉を頭のなかで反芻させると、勇者たちはお互い顔を見合わせてお互いの意志が一致していることを確認しあう。

「――この国に良き待遇でお招き頂いたこと、俺達一同深く感謝しております。俺達がその代表として、この機会に恩をお返しできるのでしたら謹んでその警備を受けさせていただきたいです」

 翔のその言葉は。

 見事といえるほど考えがずれていた。

 本当ならば、翔たちは拉致されたのだからこの待遇は当然であって、恩を感じる必要はない。

 以上に、『恩』といったからにはこれからも王の手駒として扱われる可能性が大きくなる。

 深くお辞儀をした翔達にはそこまで考えておらず。

 深くお辞儀をしたせいで、王が黒い笑みを浮かべていたことにも、気付かなかった。

「そこまで、かしこまらなくてもよい。……それで、引き受けてくれるのじゃな」

 もう一度意思確認。グレンが一人ずつ焦点を当てて反応をみていく。

 翔は正義感を燃やして大きく頷き。

 銀河はその身に凝縮された闘志を纏わせ。

 梓は無表情ながらもパチパチと魔力を鳴らす。

 だれも、手紙の内容を疑うものはいなかった――――わけではない。

 梓だけが、ほんの少しの違和感を感じていた。ほんの少し、直感にも満たない、なにか。

 どうしても知りたいが、知れない。だから、頭の片隅においておき、満月の夜に全てが明かされることを期待する。

「……満月の、夜はいつなのですか?」

「明後日じゃ」

「なぜ、そのフィンガーという盗賊はそんな明るい日を選んで来るのでしょう?」

 梓が続けざまに質問をする。が、二つ目の質問を投げかけた時、梓は一人、王の表情に苛立ちが――本当に微かだが――浮かんだことに気付く。「……それが盗賊フィンガーの余興というものなんじゃろう」

 すぐに無表情によって打ち消されるとそう答えた。

 すぐに梓は横の二人へ視線を走らせる。しかし、

(…………無表情?)

 その面持ちはまるで蝋人形のように塗り固められており、辛うじて胸の起伏で生きていると分かる程度。

 まるで、自分の思いや意志は殺しているかのように――――

(――ように、じゃないわ。きっとそうね。でも、なんで……? 王の命、そして国民を守るのが騎士団と兵士の本望のはず。なのに……)

 それ以上に思考を回そうとするが、またしても、今度は銀河によって遮られた。

「それで、協力ってぇのはなにやればいいんですかね?」

 銀河がそう問いかけると、軽く顎をひく。と、同時に騎士団長が地図を机に広げた。

「まず、主に動くのは騎士団長と兵士団だ。まず騎士団長には城下町からここ、王都へ伸びる一本道を基本に警邏(けいら)してもらう」

 中央にある噴水から、北へスッと、道を(つた)う。

「そして、お主らにはそれぞれの門を警備していただきたい」

「一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「カケル殿、どうしたのじゃ」

「兵士団、騎士団は使われないのでしょうか?」

「……うむ。なるべく今回のことは、極秘扱いにしておきたいというのがある」

「その心は?」

「……王宮の書斎にあったことを考えればわかるじゃろう」

 書斎は王宮の一番奥。その途中には騎士団やメイド、執事などが忙しく行き来している。そんな中を、しかも昼にかいくぐって文を置いていける人物は、恐怖しか感じない。

 一体どれほどの実力を持っているのだろうかと想像すると、翔達の肌をぞわりと粟立たせる、と同時に翔と銀河は身を震わせる。

「へっ、翔。おめぇ身体が震えちまってるじゃねえか」

「武者震いさ。お前は?」

「俺もだぜ」

 クックックと声を押し殺して笑う二人。力を頼られたなりに戦ってみたいというのがあるのだろう。

「それで、私達はどこを担当すればよいのでしょうか?」

「それは、東、西、南の三つをそれぞれ別れて担当してもらいたい」

「……危険ではないですか? 相当な実力者ですよね?」

「そのことに対しても対策はある。不審な者を見つけ次第、すぐさまこの魔石を打ち上げてもらいたいのだ」

 グレンがイェンフックに目配せをすると、彼が五つの同じ朱色をした魔石を机の上に置いた。

「これは……魔力を注ぐと上に飛んで爆破するタイプですか」

 一瞬でその魔石の特性を見抜いた翔の呟きを聞いた銀河が思わず『花火かよ!?』っと叫びそうになったが、なんとか堪えた。その時変に止めたせいでお腹が痛くなっている。

 やはり異世界と、魔石の特性に感心した梓が一つ魔石をとってまじまじと眺めていたが、そっと(ふところ)に忍ばせるとグレンへと視線を戻した。

「最後の質問なのですが、夜といいましても街には人が溢れております。その中から不審者をみつけるのは至難の技かと」

「既に(はい)禁令(きんれい)というものを出しておる。『満月の晩、深夜に出歩いたものは拘留す』とな」

 そこには後々のことまで考えていないことが丸わかりだったのだが、如何(いかん)せん、ここには王以外には日本から来た勇者が三人、王にあまり強く言えない騎士団長と兵士長二人しかいない。また翔達は日本の常識で推し量っているので良い策だとでも思ったのだろう。

 夜は酒を飲み、宴を広げ。夜に魔物を狩り、また夜に帰ってくるものがいる。

 通常ならば酒場で夜がピークだと店員は張り切る時間帯になっている。

 しかし、その這禁令を出すことによってその日の売り上げを殆ど無しと言っていいほどの損害を出す。

 このことにグレンという一人の愚王は気づいていなかった。また、翔たちも。

 さて、と翔が銀河と梓に切り出す。

「門は三つだ。誰がどこの門に行くか、決めておこう」

「俺は南だな」

「私は西ね」

「じゃあ俺は東に行く」

 翔に続き梓、銀河があっさり決めた。そこでいざこざがおこらないのはやはり異世界についてあまり知らないというのもあるだろう。だが、それ以前に幼馴染であることが大きい。

「それで良いか?」

 グレンの問いに三人が力強く頷いた。

「では、頼むぞ勇者方。それで、そちらはどうじゃ?」

 騎士団長と兵士長に目を向けると、あらかじめ決めていたのか騎士団長が答える。

「私は機動力がありますので、王宮付近を中心に北に伸びる道を。そして、兵士長であるフックは王都中心にあるここ、噴水広場を主軸に警備に当たるという守備となっております。城内部では危機察知能力が高いメイド長がいますので、安全性は高いかと」

「そうじゃな。ではそのように」

「御意」

 今のやりとりに、翔たちは揃って首を傾げる。

 メイド長といえば、やはり一番に浮かび上がる人物は一人しかいない。ミニスタシア=ミレンドリィ、その人だ。確かに彼女はかなりハイスペックだが。なら、と。

 殺人予告の文をおいていったとき、なぜ働かなかったのか。

 そう思い王に訊こうとするも、思い直す。もしかしたら気づかなかっただけかもしれない、と。

 翔と梓が同じ思考に至ると、なぜかミニスタシアが妙に可愛く見えてくる不思議な感覚に陥っており、次に王から声がかかるまで軽くトリップしていた。

「――では」

 今回の密談を終わらせるために、最後に言葉を紡ぐ。

「今日は解散とする。次は――明後日の満月の夜に」

『はい!』

 そう返事をする三人の表情は、とても充実感に溢れた表情をしていた。

















「やはり、こうなってしまいましたか」

 ため息を()きながら天井裏に開けた穴から目を離す。

 例の如く、ミニスタシアである。軽く身体を伸ばすと、自分の庭だと言わんばかりに少しばかり移動する。

 ミニスタシアが歩くたびに、天井裏には絶対見られないはずの調度品が来ては去っていく。そして、お目当てのソファをみつけると、そこに深く腰掛けた。ふんわりと身体が沈み込みそうになる感覚は、ミニスタシアの凝り固まった筋肉をほぐしていくようだった。

 さらに、さきほどから確かにミニスタシアは天井裏を歩いてはいるが、その材質は大理石や木材ではない。人工芝である。そして、ところどころで淡く発光している物は加工された魔法石だ。

 もはや、自分部屋といわんばかりの調度品。一体どこから仕入れたのか、彼女自身にしかわからない。

「しかし、まさか勇者に頼むとは思いませんでしたね」

 今回、文のためにせっせと動き回っていたミニスタシアだが、先ほどの会談はやはり彼女であっても予想外の出来事であった。

「異世界の住人である彼らである勇者達は、強い。これは、今までの歴史が記す事実です。つまり……今のままではフミ様が情に厚い勇者方に捕まり、その後ひっそりと騎士団長の手によって殺されることは確実」

 私が上手く手伝えれば、と彼女は思ったが、顔を見られたら王宮にいられなくなってしまう可能性が高く、その危険は犯せない。

 とりあえずこのことは明日の朝に話すことにしようと決めて、思考を切り替える。

「しかし、王もお考えになられますね。“大義名分”と“勇者の実験”の両方を兼ねたものをやらせるとは」

 思わず笑みを浮かべる。王とは気があいたくないが、そういった幾重にも考えを働かせる部分に対し、ミニスタシアはほんのすこしだけ評価している。



 ――勇者は道具として使えるのか。



 やはりこの部分が一番大きいのだろう。まず、今回の依頼を受けた時点でまずはそこをくぐり抜けた。

 だが、この先上手くいけるか、と聞かれればミニスタシアも首をかしげるだろう。

 今回はどちらも命の危機に晒されている。


 文を建てると、勇者達が。

 勇者達を建てると、文が。


(このことも、伝えなくてはいけませんね。……フミ様のことですから、きっと勇者も切り捨てるかもしれませんが)

 最近は情を持ち始めたことにも彼女は気付いて入るが、まだ切り捨てることは簡単にできてしまうだろう。そう考えるも、やはり『しかし』だ。

「勇者達にも生きてもらわなくては……いけませんから……」

 苦々しく呟くと、ソファに沈み込む。

 目を閉じてそれ以上の思考を放棄する。

 ミニスタシアは、いったい何を考えているのか、彼女しか知らない。

 ただ、一言。王についてだけ。

「フミ様が王の虚言を聞いたなら、きっと『嘘乙』とおっしゃるかも知れませんね……」

 そこまで言うと、そのまま深い眠りについた。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:嘘乙

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