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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第三十九話 魔物の生態

 その後も一時間ぐらい採取に徹した。本当はもう少しやっていたかったけど、あんまり摂り過ぎるのも良くないし、そもそも今日の目的はレベル上げだ。

 遊んでいた夕花里さんとリリルを呼んで街道から少し外れた場所まで移動した。街道には絶対魔物が現れないって本に書いてあった。理由は特に明記されてなかったからわからないけど。

 辺りを見渡すと、さっきまでいた森が前に見えるし、後ろは少し遠目にだけど王宮が見える。大体街と森の中間あたりいるのかな。

 前に訓練した場所は、実はあまり魔物が現れる場所ではない、はずだった。この情報は町の人から聞いていたから確かだと思ったのに……なんであのとき、桜さんの近くに十匹もウサリンが現れたんだろ……。それに、周りで仲間が殺されているというのに。

 大侵攻の前触れ? …………いや、気にしてもしょうがない、か。それに、確か大侵攻は一年後のはず。

「文君? 大丈夫?」

「……ああ、うん。ごめん、少し考え事してた」

 苦笑してそう答えて、ふぅー、と息を吐き出す。とりあえず今は目の前のことに集中しないとね。

「とりあえず、リリルにはこれを進呈するよ」

 そういってポケットに予め忍ばせておいたムチを渡した。

「これは……ムチ、ですか?」

「まあ、そうだね。でも、他のムチと違うんだよ。手のところにあるスイッチを押してみて」

 興味深そうにムチを眺めていたリリルは、恐る恐る手元にあるスイッチを押した。

 すると、ムチから物凄い放電して、うっすらとだけど地面を焼いた。リリルは驚いてその手を離すと、涙目になって僕の裾を引っ張ってくる。

「び、びっくりしました!!」

「ふぁ、ふぁー……私もだよ……!」

「…………こ、こんなもんだよ」

「声が上擦ってます(るよ)!?」

 し、しまった。確かに改造したのも渡したのも僕だけど、まさかあんな威力がでるとは思わなかったんだよ……。

「ま、まあとにかく、別にそれを使わないように僕と夕花里さん……主に夕花里さんが守ってくれるから大丈夫だよ」

「ふぁー……文君は守らないの?」

「きこりに誰かを守る能力なんてないさ」

「……職に捕らわれなくても、文君は人助けは出来るよ」

「…………」

 思わず黙ってしまう。夕花里さんがいうことは、確かにそうだ。でも……

「……僕は、弱いから」

 自分に染み付けるかのようにそう呟くと、その場から少し離れる。するとウサリンが三匹、僕に突進してきた。

「【クリエイト】」

 ウサリンの突進ルートに壁を作って刺さってもらう。すると、ものの見事に三匹とも引っこ抜くことが出来なくなった。その場でモゴモゴと動くけど、顔が埋まっているし、身体も浮いているから足が空を蹴るだけだ。

 それらをヒノキの棒で殺していくと、今度はブーフォーが僕の横を紙一重で横切る。そして、親の仇を見つけたかのような目で見られ、ウサリンとは比べ物にならない速度で走ってきた。

「クリ……――」

「せぇい!」

 ブシュッとブーフォーに銀のナイフが刺さった。一瞬の硬直後に、そのままコテリと倒れこんだ。

「……夕花里さん。一応お礼は言っておくよ。でも、今のナイフのコースって下手したら僕が死んでたよね?」

「は、はひ……!」

「ナイフは投げるなとは言わない。でもさ……」

 ゆっくりと振り返りながら夕花里さんを睨む。

「首をかすめるような、そんなギリギリな軌道はもう投げないでね?」

「は、はいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 悲鳴のような返事をしたかと思うと、リリルを引き連れて遠くに行ってしまった。

「はぁ……」

 ため息を吐く。怒ってはない。少し命の危機でびっくりしたからその反動だ。

「夕花里さんも、リリルも、近くにいないと面倒事に巻き込まれるんだからさ」

 クリエイトでヒノキの棒をバッドの形状にすると、少し急ぎ足で二人を追いかける。

 さすがに結構離されている。スピード特化型ってこんなに速く走れるのか……。全然追いつかないし。

 これでもレベルは僕の方が上だというのに、これだと勇者だけだけじゃなくて他の巻き込まれ人も僕よりステータスが上なのかも。

 そう考えると、絶対王様だけじゃなくて、ウィズにも冷遇されているんじゃないのかな。そう考えるとウィズがあの時言えないって言ってた理由もわかる気がする。

 ……でも、王のことを話した時にみせたウィズの表情は、そうじゃないかもしれないって思うのも事実。それに、この国《カスティリア王国》とウィズ。どっちを信用するかと言われれば、ウィズって即答するレベルだ。

 この国は、色々な策謀が混在しすぎている。――王しかり、給仕しかり、国民しかり。――――そして、僕も。

 こんな僕を含めた策謀王国よりかは、まだ良くわからないウィズの方が信用できるし、したほうが良い。

 ……やっと追いつけてきた。けど、

「まったくできたテンプレだね。……今回僕はフラグ立てとかしてないんだけどなぁ」

 僕の視線の先。そこで夕花里さんの後ろに隠れている。そして二人を囲むようにいかにもブサイクな男たちが十人ぐらいで囲んで下卑た笑みをニタニタと浮かべていた。

「…………そういえば、、この世界にステータスが覗ける眼鏡とか無いんだっけ。作れたら面白そう」

 きっと夕花里さんはレベルが低いから十人相手にするのは難しいと考えている。それに、リリルもいるからって。

 いや、そう偽っているだけだ。

 だって、夕花里さんは――――いや、やめておこう。何事も自分と対比して考えるの、結構自重していたと思ったのになぁ。

 頭をガシガシと掻いて自嘲する。それより、ちょうどいい。まだ全員に気づかれていない。

「クリエイト研究所イン平原、といったところだね」

 ニヤリと笑うと、さっき走る前にしまったヒノキの棒を再び取り出して、地面に突き刺す。

「さあ、実験を始めよう」

 失敗は許されない実験。成功率を上げるためにまずは靴で大雑把に盗賊と夕花里さんたちの居場所を描く。見事なドーナツ型だ。

 すこし苦笑した後に、今度は夕花里さんたちのところと照らしあわせて、盗賊たちのところが陥没するように想像する。

「クリ……――――いや」

 まだだ。もう一つだけ。底で、必ず殺せるように(・・・・・・・・)、想像してからおもむろに口を開いた。

「【クリエイト】!」

 ドォンッ! と地面が鳴り響く。強い揺れと同時に僕は倒れこんだ。

 顔だけを向けると、綺麗に夕花里さんとリリルはドーナツ型に残された形で立っているし、さっきまでいた盗賊も全員消えていた。

 それだけを確認すると、手を前に出してMP回復ポーションを取り出す。

「キュキュッ!」

 ……あー、と。

 ゆっくりと顔を左に向けると、そこには小さいスラゴンが立っていた。

「うわー……」

 少し棒読みになったけど、これでも結構やばい状況。急いでMPポーションを飲もうと――

「キュッ!」

「がッ!」

 お腹にスラゴンが体当りしてきた。

 衝撃こそそれほどでもないんだけど、それでも結構強くて、肺にあった息がむりやり排出されて一瞬息が止まる。さらにと手に持っていたポーションも地面に落ちて、僕の手の届かない場所まで転がっていった。

「ちょっと、まずいかな……」

 すぐにアイテムボックスからポーションを出せば良いんだけど、お腹に走る痛みがそれを邪魔してくる。

「キュ~~~~!!」

 僕を倒せれると思ったのか、勝利の雄叫びのようなものをあげている。

「ははっ、弱い者いじめをして楽しいんだ?」

 痛みに慣れてきたからゆっくりと立ち上がる。そのときスラゴンがビクリと震えた。

 きっと、武者震いなんだよね? じゃないと、

「僕が弱いものいじめになっちゃうじゃないか。あーあ、僕別に弱い者いじめすきじゃないんだけどなぁ」

 別に、MPポーションがなくても、MPは残ってる。倒れたのは僕自身が起こした地震と一気にMPが失われた脱力感のせい。それに、MPポーションを飲もうとしたのはウィズが前してくれたみたいに、変なところで気絶したくないから飲もうと思っただけで、飲まなくても小さなクリエイトならまだかなり出来る。

「さあ――」

「キュキュッ!?」

 殺られるって本能で理解したのか、絶望を顔に浮かばせてから一目散に逃走し始めた。

 ……別に、殺すつもりはないよ。

 ただ――代償としてとことん怖い目にはあってもらうけど。

「【クリエイト】」

 とりあえずまずは道を塞ぐよね。

 スラゴンの目の前に壁を出現させると、そのまま壁に体当りして悶絶する。でも、魔物だから耐久値は高いはず。すぐに四方を囲むと、スラゴンを押し上げるようにいっきに高く持ち上げる。

「キュキュキュ~~~~!?」

 大体二十メートルぐらいかな。そこから――もう一度クリエイトを使ってスラゴンが立っている部分を傾かせた。

「……弱い者いじめは、好きじゃないんだ。やる方も、やられる方も」

 少し頭が冷えてきたから、MPポーションを飲む。MPが回復したのを確認すると、クリエイトでスラゴンの落下点にふんわりクッション型の落とし穴を仕掛ける。

「キュキュキュウウゥゥゥゥゥゥゥキュフッ!!」

 見事に転げ落ちて、ハマった。

 そこまで近づいて覗きこむと、涙目でプルプルと震えているスラゴンが一匹。必死に逃げようとしているけど、落とし穴というぐらいだ。結構深いし、そもそもスラゴンには飛ぶための羽はない。一応、羽はあるんだけど、小さすぎてお飾り程度だ。

「ねえ君さ」

「キュッ!?」

「……言葉はわかるみたいだね。これは新発見だ」

 今まで他の魔物には言葉が通じなかったけど、スラゴン、もしくはこの子だけが特別なのかな。

「君には黙秘権という権利がある……じゃない」

 これは某先進国で起きた事件のあれだ。これじゃなくて、

「ねえ、君は生きたい? それとも死にたい?」

「――キュゥ?」

 とても不思議そうに僕をみてくる。まあ、当然か。普通の人族(ヒューマ)は問答無用で魔物を殺す。いつもの僕なら、ここまでうまい具合に追い詰められたんだから、最後に刺し殺すだけ。でも、今このスラゴンには興味がわいた。だから、

「僕は君が僕に危害を――例えばお腹に突進を食らわせたりしなければ。それで僕に好意、は無理だと思うから周りに被害を与えなければ……そうだね、ご飯を――」

「キュイキュイっ♪」

 物凄い勢いで首を縦に振り始めた。さすが魔物。こんな状況でも食い意地は張るもんなんだ。この食い意地をはることもだし、魔物に言葉が通じることも本には書いていない、新しい発見を見つけることができた。

「じゃあ、出してあげるよ」

 もし攻撃してきたり逃げたりしたら殺せばいいし。そこに慈悲はないし、愛着もわかない。人間じゃなくて人族(ヒューマ)と同じように、経験値上げに使われるだけ。

「……はやく、人族(ヒューマ)に染まらないとね」

 クリエイトでスラゴンを上に押し上げながら思考する。

 僕ら人間とこの世界の人族(ヒューマ)では、はっきりした違いがある。本質的な、違いが。

 それはもしかしたら、日本人と欧米人の違いかもしれない。

 兵士長は初めて戦闘した人は顔が優れなくなるって言っていた。でも、それは大なり小なり、という違いじゃない。『小』しかないはず。だって、日常的に人族(ヒューマ)は剣やら魔法やらをみているんだから。

 だから、自分で生物の命を絶つという行為に一回目は拒むけど、というはなしであって、二回目はそれほどでもない。『最初のペンギン』とまるまる一緒のことだ。

 異世界人は、別にそうならなくてもいい。嫌いなら嫌いでいい。王宮に守られるんだから。

 でも僕は、人族(ヒューマ)に紛れ、溶けこまないといけない。ということは、必然的に人族になりきらないと。じゃないと、それこそ紅一点で目立ってしまう。

「キュイ?」

「………………人族(ヒューマ)は、分からない」

 ボソリと呟く。

 僕は今、果たして人間なのか、人族(ヒューマ)なのか。

 異世界人はきっと大なり小なりの嫌悪感はあるだろう。日本人として平和ボケした感覚がこの世界で働いている。

 なら、僕は? 僕はその中には含まれていない。それに、実際に生物を殺したのはつい最近のあの日だ。だというのに、嫌悪感はなかった。

「……きっと、どちらでもない」

 それが、正解。

 ふと、あの日のことがフラッシュバックする。僕の両親が、死んだ日のことを。

 あの日からきっと、僕はどこか壊れている。

 人として壊れているのかもしれないし、ただ心が欠けているだけかもしれない。

 一つだけ言えるのは、僕はこの世界で、人間でも人族(ヒューマ)でもないこと。

「旅は道連れ世は情け。といっても、君はわからないだろうね。まあ、とにかく」

 スラゴンをみる。この子と僕は似ていない。同じ位でもない。この子はこの子で、僕は僕自身じゃない。この子のほうが、この世界の住人だ。

 人間でも人族(ヒューマ)でもない僕ができること。それは――いや、どうでもいいか。

 頭を振って思考を切ると、しゃがんで手を差し伸べる。

「さ、僕をけっして裏切らないという決断ができるなら、頭を手にくっつけて」

「キュッ」

 優しく僕の手に頭をくっつける。何度も何度も、マーキングをするように。

 本能、ではないはず。言葉が、通じるのだから。

 ……それにしても、さっきあんなに脅したのに、ご飯を上げるって言った瞬間手のひら返したかのように擦り寄ってくるって……この子、言葉わかるのに、三歩歩いたら僕が何したか忘れちゃうような子なのかな……?

 まあ、使える使えないの実利じゃない。仲間か仲間じゃないかだから。

「じゃあ、ついて――」

 ついてきて。そう言おうとしたけど、目の前に急にウィンドウが現われて思わず口を閉ざしてしまった。

 急にウィンドウが現われたのは、まだいい。でも、そこに書かれてある文章に目を見開いて何回も読み返して、思わず苦笑を(こぼ)す。

「まあ、異世界だからね……」

 頭を掻くと、スラゴンに微笑んだ。

 この子は、本当にこの世界の色々なことを教えてくれるね。










 ――――称号『テイマー』を獲得しました。


 ――――スキル『テイム』を獲得しました。


 ――――現在スラゴンのテイムが可能です。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:文君、クリエイト考察しようとしたらスラゴンに襲われてまだできていない。そして、文君無双へ(棒読み


 今回は文君がいかにも強そうだという印象を受けますでしょうが、違います。ええ、文君は『小さい』スラゴンを『逃げていった』のにもかかわらず『精神的』に追い込んだのであって、けっして無双ではありません。あしからず。文君は弱いです。

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