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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第四話 突然の事態、嬉しい事態

 それから(しばら)くの間黙々と勉強をやり続けた。まあ、すでに充分理解していた範囲だったから教えるのが主だったけど。

 教えるのも疲れる。グッと伸びをして身体を()らすと、天井付近で静かに飛んでる虫が目に入った。いや、違う……?

 目をギュッと閉じて見ても、頭を軽く振っても、その飛んでいる姿は以上だった。

 確かにこの虫はトンボみたいだ。

 ――でも、全く羽を羽ばたかせていない。

 これは明らかにおかしい。どこぞの魔法学校のスポーツでも羽を羽ばたかせてたのに。

 ちらりとクラスの中を見遣ったけど、誰も気にした様子がない。

 おかしいな。こんな目立つやつに気づかないなんて。……いや、確かにテストが近いから無意味に天井を見ようなんていう人はいない――

『――こやつらでよかろう』

 …………え?

「今、だれが……?」

「ん? 文くんどうかしたの?」

「いや……――」

 ほとんどかすれ声だった僕の声をどうしてか拾った桜さんになんでもないよと返そうとしたとき――――いきなり床が輝き始めた。

「な、なんだこれ!?」

 イケメン君である翔が真っ先に気づく。それに続いてすぐに他の人たちも気づき始めた。

「は、早く出口にっ!」

「に、逃げないと!!」

「どいてっ! 私が先よ!!」

 キャーキャーワーワーと叫びながら、外へと何人かが飛び出していく。

 だけどさ、全員が同じような行動を取ったらどうなるか。そんなの簡単。すぐに詰まる。要領良く物事はやらないとね。じゃないとやれるものもやれなくなるというのに。

 他人(ひと)(ごと)のようにそう考えている間にも、光はさらに強まっていく。

 もうみんな混乱状態だ。いや、阿鼻叫喚が正しいかな?

 翔がなんとか皆を諌めて効率よく外に出そうとするも、そんな指示が耳に入るわけもなく、ただただ状況が悪くなっていくばかり。

 窓際あたりで料理好きの子がワタワタとしているのが微笑ましい。

 視線を一通り一周させた後、フッと息を吐く。

 僕はこの阿鼻叫喚の渦の中……笑っていた。いつの間にか笑っていた。それに、久々に心が踊っている。なんとも形容しがたい感情に心が支配されている。

 教室が青白く輝く現象。床に浮かぶ幾何学(きかがく)的文様。これらの状況をくっつければほら、答えは簡単。

 ――召喚。

 どこかの世界、異世界からの召喚だね。しかも、召喚があるということは魔法がある。もしかしたら剣もありそうだから、剣と魔法かな。

「ははっ。異世界に憧れているとは言ったけど、そう思った日に、本当に起こるとはね」

 みんなが逃げようとする中、僕は自分の荷物を掴んで人が少ない方向へ進む。机に荷物を置いて中身を確認する。

「えっと、実用的な本に、ノート類、スマホはポケット。太陽光系とねじ巻き式のスマホ充電器。あとはー……このナイフもどき。こんなものかな。あ、この包丁は持っていかないとね」

 いつ見ても僕のカバンの中って異常だな。これぐらいないと安心できないからしょうがないけどさ。

 準備完了、と。

 鞄を持ってサークルの中心部に移動する。

「さて、どうなるやら」

 その呟きに答えるかのように召喚陣はさらに輝く。教室内にはまだ半数以上が残っていた。いや、出れなくなっている? まあ、僕には関係ないけどね。

 そう思った時ふと、一緒に過ごしてきた二人の顔が脳裏をよぎった。

「……ごめん」

 僕がそう呟くと同時に、教室にいたメンバーは一斉に消失した。



 ◇



 廊下に逃れることが出来た十人ほどの生徒は、全員呆然と教室を眺めていた。

 先ほどまで思い思いに過ごしていたクラスメイトが、突如現れた光とともに消えてしまったのだ。まるで、最初から居らず、幻覚だったのだと思ってしまうほどに。

 誰もが夢だと思った。そうだと思いたかった。

 もしかしたら逃げなかった彼らのドッキリで、どこかに隠れているのかもしれない。

 ――だが、ふらふらと教室に入って中を見渡しても誰もいない。

 いない。いないのだ。

「そんな、馬鹿な……」

 誰かの呟きは、彼らの思いを代弁していた。

 認める、認めないじゃない。実際に起きている。なのに、非現実的な状況を受け止められる脳はキャパオーバーだ。

 一人の女生徒が頬を抓る。ただ痛いだけで、なにも変わらない。目の前に、友人が戻ってくることはない。

 地震後のプレートのように、大きく平時からズレてしまっていた…………――――――――。




 数時間後、学校側と警察が協力して残った生徒たちの事情聴取や現場への立ち入り調査を行ったが、何の手がかりも無く――そもそも手がかり事転移してしまったのだが――学校側も警察も首を捻るばかりだった。

 生徒たちはカウンセラーを受け、ある程度精神は落ち着かせることは出来たが、それはただのケアが出来ただけで、言い分が変わるわけでない。

 『突然光に包まれて、皆消えてしまったんだ!』

 この言葉がどこまで信用できるわからず、また己のものさしで測っていたため嘘だと思い込み、結局解決に至らずに警察は手を引いた。

 ……ただ。

 不思議なことに政府はこの事件を規制して外部に情報が漏れることがないように厳命させた。




 よってこの事件を知るものは学校関係者のみとなり、消えてしまったクラスメイトを慕っていたものは涙を禁じ得なかった――――――。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:文の鞄の中が異常だと確認終了後に召喚。

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