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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
38/105

第三十七話 三日以内に

「以上が昨夜に王と騎士団長と兵士長の密談の内容です」

「そう……」

 昨日夜遅くまで盛り上がった結果、皆で雑魚(ざこ)()をしたのが約二時間前。空が白くなってきた頃ぐらいに意識を失った気がする。

 そしていまは七時。いつもの起床時間に珍しくメイド長さんが来たと思ったら、王が動いた、というわけか。

 目を(つむ)って深く溜息をする。

 僕を殺す、か。

「……一つ聞いてもいいですか?」

「いいよ」

「なぜ、フミ様を殺す、といったことになったのでしょう? フミ様は至って、いえ、一緒に召喚された方よりも弱いです。それに、ヒノキの棒を使っているからといって殺される理由にはなりません」

「グサグサくるね……。メイド長さん、ちょっと移動しようか」

 いくら小声で、それに夜更かししていたからといって、僕のことをここで語るのは得策じゃない。だから空いている部屋に移動すると、念入りに扉をしめて、鍵も閉めた。

 フゥっと息を吐き出してメイド長さんをみる。

「じゃあ話すけどさ。その代わり、知ったからには僕らは一蓮托生だ」

「……わかりました」

 メイド長さんが了承したのをきいて、口を開く。

「……僕は、勇者だ」

「……はっ?」

 ステータスを可視化させて、メイド長さんに見せると、みるからに身体を硬直させた。まあ、そうだろうね。勇者はあの四人以外に示していないんだから。

「そこに書いてあるとおり、僕はヒノキの棒の勇者だ。そして、固有武器でヒノキしか使えない」

「で、ですが……王は勇者は四人だけど…………まさか、これが殺される理由というものですか?」

「理解が早くて助かるよ。そうだよ。だからといって、僕もなんでこれが災厄やら混沌やらを運ぶことになるのかは、見当もつかないけどね」

 肩を(すく)めてため息を吐く。別に僕に被害がなければいいんだけど、まさか実力行使にかかってくるとは思わなかった。

「これでも図書館に篭ってたのはヒノキの棒の勇者について記述がないか調べていたんだ。でも、一冊もなかった」

「…………それも、この国の王の差し金、といったところでしょうか」

「そうだね。だからこの称号について調べるためにさ、前にも言ったと思うけど、僕はこの国を出て行く。……暗殺から逃れるために、っていう理由も増えちゃったけどね」

 確か三日以内なんだっけ。メイド長さんから聞いた様子だと、きっと今日嬉々として殺しに来る、ということはないはず。あとは日中もないかな。とりあえず速いところ準備しないと行けないけど……はぁ。

 ため息をつくと、メイド長さんがふむ、と考えるをやめて口を開いた。

「つまり、フミ様がヒノキの棒の勇者で、何かしらの理由でヒノキの棒の勇者は存在してはいけない、ということですか」

「だいたいそんな感じかな」

 そういえばウィズは、僕は善悪の選択に迫られるって言ってたね。つまり、災厄やら混沌やらになる可能性も無いとは言い切れない、と。

「……ですが私も、そのような話を聞いたことがありません。ヒノキの棒の勇者という存在も、今日初めて聞いたほどですから」

「ただのメイド長さんには、ないかもしれないね」

「…………」

「ああ、いや。メイド長さんでも知らないことはあるんだな、って思ってさ」

「……はぁ」

 少し不機嫌? なんとなく空気が変わった。相変わらず無表情だからわかりにくいけどさ。

 ……なにか言ってくるわけでもないから、とりあえずそのことはおいておこう。今は、これからのことを考えないと。

「僕は今日から三日以内に兵士長か騎士団長に殺される。それで合ってるんだよね?」

「はい」

 これは辛いね。どっちも僕にはつま先ほどの実力もない。もし上手く逃げ出せたとしても、確実に追いかけて殺しに来るはず。

 城内では絶対殺さないはず。もし城内で殺人が行われたら、クラスメイトが皆この国を疑うはずだ。それに、僕がいきなり殺されたと合ったら、それこそ……。

「……メイド長さん。多分、今日か明日、もう一回兵士長達が集まると思うんだ」

「……その根拠は?」

「僕を殺す大義名分」

「どういうことでしょう? フミ様を殺す大義名分は、大災厄という言葉で片付けられると思うのですが」

「それだけじゃ足りないんだ。……結構ありがちだけど、この国の威信に関わる問題だからね。一応僕も異世界人だ。だから、ただ大災厄が訪れるから殺す、というのは他の異世界人が黙っていないと思う」

 特に、翔や銀河あたりがね。主人公気質だけど、義理は厚い。王は偉いけど、謀反(むほん)でも起こされたらいくら騎士団長も苦戦するはずだし、他のクラスメイトも便乗して王の首を取りに行くかもしれない。

 あの王はこういうのを危惧するはずだから。

 だから、何かしらの方法でそれを回避する作戦を立てるはず。

「メイド長さん、お願いしてもいい?」

「ええ。だって私とフミ様は一連託生なのでしょう?」

「ありがとう」

 からかい口調だったのは無視して御礼の言葉を言うと、頭のなかでやらなくてはいけないことをまとめる。

 まずは脱出経路。いつも外へ出ている方法で行くのもありだけど、今回はそれは出来ない。外へ出るときは毎回地下道で街の西門近くまで行くけど、それこそ逃げ出したら一生追いかけられそうだ。

 だから、兵士長と騎士団長は倒さないとダメ。一回でも勝てば、追ってはこないはず。でも正攻法じゃ勝てないから、その方法を考えないと。それに、どこで倒すかにもよるし……そこは王の策略による。

 あと問題は二つ。次の国の行き先と、その足だね。

 ユナイダート王国か、ガズバハト騎士帝国。……まあどっちに行くかは決まってるから、あとはそのための足。

 メイド長さんをみると、黒い瞳で僕を見つめていた。

「……メイド長さん、あと二つ頼んでも良い?」

「メイドですので、なんなりと」

「じゃあ頼むよ。一つ目はこの城の地下通路で真ん中に出る出口を見つけて欲しいのと、もう二つ目はこの国を出た時に必要な馬が欲しい」

「一つ目は承りましたが、二つ目の馬は、馬じゃなければならないでしょうか?」

「うーん……別に馬じゃなくて騎竜とかでも、とにかく安全で馬車を引ける動物が欲しい」

「承りました。では、さっそく準備に取り掛からせていただきます」

「うん、頼んだよ」

 そう言うと、なぜか天井裏に戻っていった。……なんで?

 …………気にしても、しょうがないよね。

 とりあえず、メイド長さんに頼むことは終わった。あと僕が今日やることは、クリエイトの確認か。あとは、できたらレベリングついでに素材集めでもしておこう。

「さて、と」

 まずはご飯でも食べようかな。



 ◆



 朝食を食べた後に厨房ですりこぎとすり鉢をもらえないか交渉したら、あっさりと譲り受けることが出来た。だからついでにと中庭でひなたぼっこしてると、目を覚ましたのか、遠くから夕花里さんがやってきた。

 あ、違う。訓練だ。夕花里さんが武器を装備すると、構える。多分、仮想の敵を脳内で作り上げているのかな。剣を振ったり、バク転して回避行動をとったりする。

 三十分程、夕花里さんは汗を飛び散らせながら剣を振るい続けて、動きが止まったかと思うとそのまま倒れこんだ。大丈夫かな?

 そっと近づいてみると、汗がダラダラと流れている。当然か、あんなに集中していたんだから。

「夕花里さん」

「ふぁー……?」

 空をみあげていた顔を気怠(けだる)そうにこっちに向けて、飛び上がった。

「ふぁあああああ!? ふ、文君! いつからそこにいたの?」

「ここにいたのは今さっきだけど、訓練自体はずっとみてたよ」

「………………ふぁっ」

 一気に顔を赤くしたかと思うとまた後ろに倒れこんだ。

「疲れてるんだよね?」

「う、ううん……体力はあるから」

 そう言って微笑んで立ち上がった。

 ……そうだ。

「夕花里さんって魔物と戦いたい?」

「え? ええっと……うん。少しレベルを上げたいとは思ってるから……」

「じゃあ、汗流したら僕のところきて。そしたら外に連れて行ってあげるよ」

「……ふぁー? どうやっていくの?」

「それは、来てからのお楽しみだよ」

 口端を上げて笑うと、「ふぁあ!?」って鳴いた。

「じゃあ、あとで」

 返事は返ってこなかったけど、来てくれる、はず。そう信じて部屋に戻ろうとする途中で、兵士長さんにあった。いや、待ち構えていた、が正しいかな。

 メイド長さんから聞いたこともあって思わず身構えてしまう。……落ち着け。別に兵士長さんは剣を持ってないし、抜刀する構えもみせてない。

 少し警戒レベルを下げて様子を窺う。(しばら)く言葉が見つからないようにあーやらうーやらと唸っていたけど、最後には頭をガシガシと掻いて口を開いた。

「ボウズ」

「……なんでしょうか?」

 じっと相手の出方を窺う。一挙一動までみてないと、いつ攻撃されるかわからない。

「あー、その、なんだ。あれから元気でやってるか?」

「まあ、おかげさまでこうして生きていますよ」

「そ、そうか……」

 それっきり黙ってしまう。

「用がないなら……」

「二日後!」

 去ろうとした時、急に兵士長さんが声をはりあげた。色々葛藤がある、そんな表情をしている。

「二日後、月が綺麗に見えるんだ!」

「……それが、どうしたのですか?」

 そう問いかけると、声をつまらせていた。そして何度か口をパクパクと動かすと、もう一度頭を掻いてどこかに行ってしまった。

 空を見上げると、うっすらと、でも確かにもうすぐ満ちようとしている月があった。

 ……頭の片隅には置いておこう。

 そのまま部屋に戻ると、桜さんは寝ていたけど、リリルは規則正しい生活をしているからか、目を覚ましていた。

「おはよう、リリル」

「おはようございます、フミ様。ふぁぁ……」

「眠いなら部屋に戻って寝たら?」

「い、いえ。せっかくフミ様と二人きりでお話もできますから」

「そう? でも僕今から作業するから、それをしながらでもいいならお話はするけど」

「はい! おねがいします!!」

 お話をする前に頼まれることって、なかなかない。僕の態度が原因かな?

 そう思いながらもてきぱきと準備をしていく。すりこぎ棒とすり鉢を取り出すと、クリエイトをクスリのステータスを出して昨日の説明文を出す。

 そこには[準備完了]の文字が浮かび上がっていた。本当に条件付きなんだね。

「……それで、今日の一つ目の話題は?」

 準備がひと通り終わったからリリルをみると、ぱぁっと笑みを浮かべて早速と言わんばかりに口を開いた。

「はい。実は私、魔物をみたことがないんです」

「…………えっと、作れる薬はなにがあるかな……」

「私、魔物をみたことがないんです」

 二回も言ってきた。

「リリルって外に出たことないの?」

「お恥ずかしながら……」

「大侵攻があった日は?」

「……フミ様、よくその言葉を知っておられましたね」

「……たまたまだよ」

 リリルは関心したけど、僕もあまり知らないからね……。

「それで、そのときはどうしてたの?」

「王都一歩手前で食い止めたらしいです。そのときは私が九歳だったというものありましたし、魔物という存在はあまり気にならなかったのです」

「なるほどねぇ……。まあ、結果的にリリルは箱入り娘だったのか……。いや、巫女だからそれも仕方ないのかな」

 お姫様であり巫女であるリリルは、もしかしたら街にも出たことがないのかも。この王城内で全て終わってしまう。そんなつまらない人生って、全くもって価値がない。

「騎士団長さんに頼んでみたら? 僕が連れて行ってあげたい気持ちはあるけど、弱いから危険に(さら)すだけだしね」

「それも考えて実行したことがあるのですが……」

 首を横に振った。ダメだったということか。

「それに、外へ連れて行ってもらうのでしたら、フミ様が一番適任でもあるんです。フミ様はこの城からの抜け道を知っておいでですから」

「……僕が抜け道を知っているなんていう情報、誰にも言っていないんだけど……誰がそんなこと言ってたの?」

「ミニスタシアさんです。先ほどお聞きいたしました」

「……そう」

 さすがメイド長さん。僕の知らないところでも働くね。

「わかった。でも午後からね。今から少しやることがあるから」

「はい!」

 その元気な返事に思わず頬をほころばせると、手元に視線を戻した。さて、早速取り掛かろう。かわいそうなリリルのためにも、ね。

 ステータスにあるクリエイトの準備完了と書かれた字がさっきからピカッと光っている。

「これを押せばいいのかな?」

 ゆっくりと指を運んでそれを押すと、目の前にウィンドウが現れた。一瞬ビクッっとなる。……リリルからは見えてないから、きょとんとして首を傾げている。多分、外から見たら今のって怪しい人……いや、次で挽回すればいいから。うん、とりあえず今はでてきたウィンドウを見よう。



 ― ― ― ―



 ――――現在作成可能な薬です――――


 ・鼻炎薬▽

 ・咳止め▽

 ・軟膏▽


 注意:すりこぎとすり鉢と、それぞれ素材が必要



 ― ― ― ―



 まずは鼻炎薬から作ってみようかな。逆三角形担っているところを押すと、そこから素材が表示された。



 ― ― ― ―



 鼻炎薬 必要素材


 ムズムズ草        0/2

 コンコン草        0/2


 ――作成するためにはすり鉢に素材を入れてください。



 ― ― ― ―



 確かこれぐらいの素材だったらあったはず。

 アイテムボックスを開いて欲しいものを思い浮かべると、すぐに手の中に現れたからそれを取り出すと、中に突っ込む。




 ――作成しますか?    Y/N




 え? どうやって? すり鉢にいれればいいのかな……?

 とりあえず入れて、Yっと。




 ――混ぜてください




 ……はい。結構労働系だね、このクリエイトって。普通に薬屋で働いているみたいだ。

 ゴリゴリとこすりあわせていく。と、三周ほど回したら淡く発光したかと思ったらすぐに収束した。それと同時に目の前に広がっているウィンドウの表示も変わっていることに気づく。




 ――鼻炎薬ができました




 できたのか。

 すり鉢を覗き込むと、確かにそこには粉があった。



 あれだけしか回していないのに薬ができるなんて、異世界のスキルは凄いな。いったいどんな原理なんだろう? そこはクリエイト関係? 一回薬屋さんがあったら覗いてみたい。本当に三周だけ回したらできるのかな。

 とりあえず粉を紙に移して包み込みさっきから遠くでこちらを覗いているリリルに渡してあげた。

「これはなんなのでしょうか?」

「鼻炎薬だって」

「鼻炎薬、ですか。えっと、ありがとうございます」

「お礼言われるほどのことでもないから」

 クリエイトの確認だからね。それの副産物だと思えば。

 僕のやってることに興味がでてきたのか、さっきまでベッドにいたのに今は僕の隣まで移動してきている。まあ、邪魔をしてこなければいいんだけど。

 次は咳止めか……



 ― ― ― ―


 咳止め


 コンコン草        0/6

 ヒュヒュ草        0/1



 ― ― ― ―



 これもアイテムボックスにあったから取り出してすり鉢に突っ込むと、Yを押してグリグリと回すと、さっきと同じように発光した。中をのぞき込むと、同じ粉薬。同じように紙に包み込むと、『咳止め』っと書いてリリルに渡す。

 最後は軟膏か。薬は次で最後にしておこう。



 ― ― ― ―


 軟膏


 レモン汁        0/適量

 発光草         0/2

 スラゴンのよだれ    0/適量



 ― ― ― ―


「いや、いやいやいやいや」

 スラゴンのよだれって。なんでよだれ? そんなの持ってるわけないじゃん……!

「どうしましたか」

「いや、ちょっとね……」

 とりあえず後で取りに行こう。スラゴンってここらへんの平原には結構いるから結構楽に手に入るし……。

 あ、思い出した。

「そういえばアイテムボックスに……」

 アイテムボックスに手を突っ込む。必要な物を全部思い浮かべると、ずっしりとした重みが手にかかった。そのまま手を引き抜く。その手に目を向けると、薄茶色をした魔物が手にあった。肌触りがフワフワしてて、愛くるしいけど、きちんと人を襲ってくるし、結構年がいくと馬みたいな体躯になる。これが、スラゴンの特徴だったはず。この子は多分まだ大人になったばっかぐらいかな。

 馬みたいな大きさになるのは、本当に高齢で、死の間際に膨張する、とか本に書いてあった気がする。魔物辞典、あれも盗もうかな……。

「それ……魔物ですか!?」

 リリルがそう叫んだから片耳を抑えながら軽く頷く。

「うん。ちょっとよだれを取るために出したんだよ」

 と言っても直接は触りたくないから適当に小瓶を取り出す。片手でスラゴンの口を開けると、よだれをすくい取った。アイテムボックスの中はいつも新鮮を保つみたいだ。

 これら全部を中に突っ込むと、表示させっぱなしのウィンドウが変化した。



 ― ― ― ―


 軟膏


 レモン汁        適量/適量

 発光草         2/2

 スラゴンのよだれ    適量/適量



 ――作成しますか?    Y/N


 ― ― ― ―



 Yを押し、同じようにぐりぐりすると、あっという間に出来上がった。……この光、だんだんやってると飽きてくるとか、思ったらダメなんだよね、きっと。

 軟膏をさっきの小瓶に移してスラゴンをツンツンして遊んでいるリリルに渡す。

「とりあえず、これでひと通り薬は終わりっと」

「そうなんですか? では、もう一つお話があるのですけれど」

 リリルは少しそわそわと足を何度かすり合わせると、立ち上がって顔を真赤にさせる。それでもごもごと口を動かした。

「えっと……その、私の服ってどう思います?」

「どうって……」

 別に普通の高そうなドレスだけど。これ、僕が誤って少しでも破いたら何十万エルドと請求が来そうだなぁ。外に行くということは、結局戦闘になる可能性もあるし。いや、レベリングがしたいからするし。

「着替えようか」

「えええぇぇぇぇぇぇ!? そこまで酷いですか!?」

 それは、もう。確かに淡い瑠璃色の、露出少なめなそのドレスは一般的には可愛いんだろうけどさ、走ったり武器を振ったりするのは大変だし、そもそもそんな格好でノコノコと外に出て行ったら、確実に門番に掴まる。リリルはまだいいとしても、僕は確実に死刑、よくても一生牢屋だ。

 クリエイトを下にスクロールすると、もう一つのスキル、『衣服』を選択する。

「今からリリルにもっとふさわしい服を作ってあげるよ」

「え……あ、はい……」

 口は嬉しそうなのに、空気がかなり重い……。

 もしかして、さ。今のその格好を褒めて欲しかった、とか?

 …………はぁ。

「リリル」

「はい……?」

 スラゴンに触れる。

「【クリエイト】」

 そう唱えるとスラゴンが小さくなって、ぬいぐるみになった。うん、触り心地もフワフワして気持ち良い。

「はい、リリルにプレゼント。桜さんには秘密だよ?」

「あ、ありがとうございます!! 一生大切にします!」

 一生って……重いな。なんか前にファミナちゃんにも言われた気がするんだけど……この姉妹、二人揃って重い女という称号でも付いているんじゃないのか?

「まあ、そのドレスも似合ってるから、さ。また今度見せてよ」

「っ! はい! 今度はもっとたくさん着飾った姿をおみせします!」

 しっぽがあったらブンブン振っているんじゃないかって思えるほど嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 とりあえず、リリルに見合う服でも作ろう。



 ― ― ― ―


 ――現在作成可能な服です――


 ・なめした皮▽

 ・革袋▽

 ・毛皮の帽子▽

 ・クロースアーマー

 ・レザーコート▽


 [注意:なめされた皮が必要です。レシピは習得・開発・思いつき次第で増えていきます]



 まずは皮をなめさないと始まらないね、これ。一応ウサリンの皮はとっておいてよかったよ。

 アイテムボックスからウサリンの皮を取り出す。アイテムボックスに入れておくと、入れた時と同じ鮮度を保ってくれる。なんとも便利なアイテムだね。




 ――ウサリンの皮をなめしますか?    Y/N




 Yを押すと、さっきの薬と同じように一瞬光って、皮がなめされた。クリエイトって、便利だなぁ。

「おっとと……」

 軽いめまいがして床につくと、息を整える。

 そういえばクリエイトにMPを使うんだった……完全に忘れてた。

 ボックスからポーションを一本取り出して一気に飲み干す。それだけで倦怠感(けんたいかん)がすぐに消えた。

 よし。全部やっちゃうか。

 ウサリンの皮を全部取り出す。総勢61枚。端数切り捨てで60枚にしておこう。

 これまとめてできないかな?




 ――ウサリンの皮60枚をなめしますか?     Y/N




 よし、できるならまとめてやっちゃおう。

 Yを押すと、今までどおり、そしてさっきと同じようになめされた皮が作られた。

 これ生産系のスキルだと言われても信じちゃうね。いや、生産が本職で戦闘がサブなのかも。それか、支援。まあどれにしても、全部少しずつでも使えた方が便利だし、いっか。それよりも……。

「何を作ろうかなぁ……」

 基本はリリルが動きやすい服装。それでいて丈夫な服だとなお良い。

 注意書きには、思いつきでも開発されるってあるしなぁ。



 ― ― ― ―



 ――新しいレシピが開発されました


 獣耳つきフード


 必要素材

 なめした皮        4/4



 ――作成しますか?    Y/N


 ― ― ― ―


 ……Nで。

 確かにそのリリルを見てみたい気もするけど、僕らは戦闘しにいくわけで、遊びに行くわけじゃない。だからわざわざふざけた格好をする必要はない。

 ……でも。



 ― ― ― ―



 ――新しいレシピが開発されました。



 猫の手


 必要素材

 なめした皮        4/4



 猫の足型ブーツ


 必要素材

 なめした皮        5/5



 もふもふした服(尻尾付き)


 必要素材

 なめした皮        10/10



 ――作成しますか?    Y/N



 ― ― ― ―



 N、だけど一覧表には載せておいた。いずれ必要になる時もあるだろうし。多分、もう少し強くなってから、かな。……いや、だれか心強い仲間でもできて僕に遊ぶ余裕があるときにでも、ってことで。

 とりあえず今作れる、毛皮の帽子、クロースアーマー、レザーコートを作成、っと。

 あとは何が必要かな……。下はレギンス? は、いいのか。クロースアーマーは上下一式になってるし。そういえば色はあんまり意識してなかったけど、クロースアーマーが基本的な茶色で、レザーコートがリリルが来ている瑠璃色を更に薄めたような色になっている。

 まあ、装備だから何もいわないけど、色の組み合わせとしてはどうなんだろ? あんまり色の組み合わせには興味をもったことがないからわかんないや。

「はいリリル。これ着て?」

「はい」

 装備品を全部渡しても、リリルは一向に着替えようとしない。

「あの……その…………」

 顔を仄かに朱に染めると、僕をチラチラと見てくる。なんだ? 僕何かしたか?

 リリルと装備品を交互に見渡していると、ガチャリと控えめに扉が開いた。

「文君、来たよー……ってあれ? えっと、どうしたの、かな?」

 なんとも言えない微妙な空気とひたすらスヤスヤと眠っている桜さん。こんな空気の中夕花里さんが扉を開けたのだから、困惑するのは仕方ない。渦中にいる僕ですら今困っているんだから。

「えと、えええっと、文君、簡単にお願いしまふ! ……します」

 最後の最後で噛んだ。

「んと、リリルに着替えてって言っただけだよ?」

 ありのままのことを伝えると、「あ、なるほど!」とまだ噛んだことが恥ずかしいのか、顔を少し赤らめたまま僕の手を取って、一緒に外に出た。

「文君、リリルちゃんも女の子なんだよ。男の子がいるところできがえれないんだよ」

 少しおねえさん口調になってる。でも、

「……そっか」

 忘れてた。女の子って着替えの時に男性がいると気になるんだっけ?

「ふぁー……文君って、女の子の身体に興味はないの、かな?」

「別に、そういうことじゃなくて……小動物っぽいからつい」

 最初女の子じゃなくてうさぎに分類されてたぐらいだし。

「まあ、夕花里さんだったらあんな空気にならずにさっさと出たと思うけどね。ほら、夕花里さんはもう普通の女の子って感じだから」

「ふぁ、ふぁ~……。文君って、女の子扱い、慣れてる、ね?」

「そうかなぁ……」

 もし慣れてたら、リリルのこともきちんと女の子扱いしていると思うけど。

 うさぎ扱いしてたからリリルは抜き、ってことなのかな? でもそんなこと言ったら桜さんは珍獣扱いになるんだけど……。

「もし女の子の扱いが慣れてるって言ったら、きっと夕花里さんだけだね」

「ふぁああああああああ!?」

「ほら、僕の周りには普通の女の子は夕花里さんしかいないからさ。桜さんも梓さんも、僕の中では異常な女の子だし」

「ふぁぁぁ……。う、うん、そうだよね……。そういうことだよね……わかってたけど……ふぁー……」

 夕花里さんがふにゃふにゃと不思議な踊りをし始めたところで扉がガチャリと開いて、中からリリルが顔を出した。

「あの、ユカリ様の声が部屋まで届いたのですが……」

「ああ、別に気にしないで。それより服はちょうどよかった?」

「あ、はい。背が伸びることも考えていただいたようで、ありがとうございます」

 その場で一周回ると、ふわりとローブがゆれる。色合いは多分大丈夫だろうけど、装備としてはまだ未熟っぽい。

 ……念の為に、外でたら土で兜でも作ろう。できるだけ軽いのがいいかな。

「え、っと。文君、リリルちゃんが防具つけているのって……」

「あぁ、ちょっと外にいこうと思ってね」

「ふぁー、でも外行くときは兵士長とか、だれか護衛がいないと、魔物を狩りに行けないんじゃないの?」

「そこは……あ、なんだったら夕花里さんもくる?」

「え? えええっと……」

「もともと誘うつもりで呼んだんだけどね。あ、ちなみにリリルの姿と僕らがこれから行く場所を聞いた時点でもう共犯だからね?」

「ふぁ、ふぁ~……」

 力なく呻いた。夕花里さんはそのまま部屋に入って扉を閉めたと思ったら、一分後に戻ってきた。

 夕花里さんの格好は、なんというか、その……

「そういうの、好きなの?」

「ふぁ、ふぁぁ……ち、違うの! その、ね! あああああの、これ好きなの! あ、ち、ちがうの! 好きだけど、その、動きやすいから!」

 羞恥心で顔を赤く染め上げながら裾をギュッと握る。

 夕花里さんの格好――動き特化のメイド服は、まあなんというか、

「似合ってる。似合ってるんだけど……もっと他にもあったよね?」

「うぅぅ~~~~!」

 もう真赤だね。でも、前にやった訓練の時は別にそんな格好じゃなかった気がするんだけど。

「あの、ね。私、いつもはもっと普通の格好なん、だよ? でも、ね。今部屋に入ったら、その、ミニスタシアさんが無言でこれを、ね。つきだしてきて……」

 ああ、なるほどね。

「つまり、メイド長さんに戦闘服用のメイド服を渡されたってことか……」

 まあ、メイド長さんの諜報力は放置しておくとしても、なんでメイド服を渡されてそのまま着たのかな。

「それって、防刃とか防魔はついてる?」

「え? うん。それなら大丈夫だけど……」

「じゃあ、その状態でお昼ごはんも食べに行っても大丈夫?」

 そう伝えると、ピシッと固まった。やっぱり考えてなかったんだね。

「さて、リリルちょっと早いお昼ごはん、食べに行こっか」

「えと、は、はい……」

「ふぁー!? ふ、文君!?」

 悲鳴にも近い叫び声が廊下に木霊する。そのあと足音が二つきこえるから、着替えずについてきているみたいだ。まあ、一回着替えてもう一回着替え直すのは、結構面倒だからさ。

 それにしても女の子ってあれだね、着るものが違うだけで雰囲気が変わるから不思議だ。

 澪もそういえばよくいろんなタイプの服を着て、いろんな雰囲気の澪をみせてくれたよなぁ。

 今元気かな……僕にずっとひっついてたから、僕がいなくなってから元気が無くなってないかかなり心配だ。……いや、これこそ偽善心か。澪には親はいるけど、ずっと心の拠り所にしてきた僕がいなくなって、ある意味では独りになっている、のかもしれないんだから。

 少し気分が沈み込んでいると、いつの間にかリリルが隣を歩いていた。不思議そうに僕の顔を覗き込んできてようやく気づいた。

 なんでもないよ、と微笑んでごまかしにかかる。

 今はもう戻れないんだ。澪のことを考えても何もできないし、切なくなるだけだ。

 頭をブンブンと振って気分を変える。

「そういえば、リリルは武器を持ってないから、それも考えないとね」

 そう呟くと、リリルの頭を撫でる。少し目を細めて僕に少し近寄ってきた。

 すると恥ずかしそうに、それでいて羨ましそうに夕花里さんも近寄ってきたから、同じように頭を撫でる。同級生の頭を撫でるって、かなり恥ずかしいんだけど……まあ、いっか。

 二人とも嬉しそうに目を細めてるから、なんとなくペットを飼っている気分になってきたことについては二人に秘密にしておこう。


 お読みいただきありがとうございます。

 おさらい:時間の有効活用を文が開始。夕花里さんは若干露出があるメイド服を着た。


 IF? ではもふもふシリーズをリリルに着させて、さらに文も暴走してます。

 ですが、ボツにしました。文君のキャラがブレブレどころか別人でしたし。

 (書き溜めの時点での、ボツ)

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