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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
32/105

第三十一話 お昼時の桜と梓

 文がファミナと夕花里さんと昼食を摂っている同時刻の同じ食堂。

 久々に文レーダーが発揮しなかった――いや、レーダーに反応しなかった桜は、親友である梓と一緒に昼食を取っていた。毛がにゅっと天に向って伸びて、ちょうど文が現れてた方向に、あたかも指を指すかのようにチョンチョンと動いたのだが、それでもレーダーに反応しなかった。

 そしてそのまま梓と会話を続けるのだが、その髪の毛を(じか)に見ていた彼女は冷や汗を掻くしかなった。

 そんな梓に気づくこと無く、桜は口を開く。

「それでね! 朝起きたら文くん、もういなかったんだよ! 酷いと思わない!?」

「あーそうね……。まったくひどいと思わないわね」

「えぇ!?」

「そもそもあんた、文君は看病はいらないって言ったんでしょ? だったらおとなしく部屋に戻るのが一番だったはずよ」

「それは……身体が、勝手に……」

「どこのアニメキャラの真似してんのよ」

 冷静に突っ込んでチョップを頭に決める。別に桜としては本気で答えてるつもりなのだが、なにぶん桜は梓の目からみてもアホの子だと思われている。そして、桜も聞き覚えのある台詞を言い回しただけ。結局ネタかよ。

「んー……あんた、さ。文君の事どう思ってるわけ?」

「どうって……かっこいいよ。冷静に判断できるところとか、時々微笑んでいる姿がレアで、思わず顔が熱くなるの。それでねそれでね、たまに頭をポンッと置かれた時なんか、辛いものを一気に食べた時みたいに体中が真っ赤になるの! 不思議だよね~。……あ、そうそう。さっきも言ったかもだけど、昨日文君が私のために頑張ってくれたって兵士長さんが言ってくれた時、不思議とね、ここがトクン、って跳ねたの……」

 最初は嬉々として、最後は不思議そうにそう言うと、胸を抑える。そしてゆっくりと目を瞑って文のことを考えると、また不思議と心臓が早鐘を打ち始めた。

 そんな桜に、呆れを含んだ視線を向けながら、呆れたと言わんばかりのため息を吐く。呆れ百パーセントである。

「あんた……それだけ思ってて、無自覚なの…………?」

「むじ、かく……?」

 不思議そうに首を傾げる。梓はガクリと首を落とした。

 一旦深呼吸して気を取り直そうと、梓はソーセージを上品に切り分けて口に入れる。

 その間、桜も同じように上品に切り分けようとして、失敗し、「うぅ……」となぜか梓を上目遣いで睨む。

 はぁ、と溜息を吐くと、口に含んだものを嚥下(えんげ)して、ジッと桜を見ながら口を開く。

「あんたさ、なんでそこまで文君のところに行きたくなるかわかってる?」

 そう質問すると、うーんと考え始めた。

「……なんでなんだろ……? いつも視界に入れておきたいというのもあるんだけど……。それに、もっと文君とお(はなし)して文君のことを知りたいって……」

 しどろもどろになりながらも、あと……、と更に言葉を続けようとして、そこで口を閉じる。半ば確信していることを、更に自分に深く関わり合いのあることを質問するということは、桜にとってかなり恥ずかしいことのようだ。

 もう何度目かわからないため息を吐くと、梓はアイテムボックスから一冊の本を取り出して桜に手渡した。

「これは最近(ちまた)で有名な『私の行方』っていう純情恋愛小説よ。この本を読んでおきなさい」

「うぅ……わたしかちゅじにがて……」

「しらんがな」

 涙目で抗議するが、梓はまったく聞き入れようとしなかった。渋々アイテムボックスにしまいこもうとすると、「あんたは忘れっぽいんだから」と言って、ポケットにしまわされる。文庫本サイズだったため、ぎりぎりポケットに入ったが、早く読まないとだんだんと邪魔になってくるだろう。

 うぅ……と、桜は涙目のまま紅茶を優雅に飲むふりをする。しかし、若干抜けてる子は一味違う。梓はとても優雅に飲めるのに対し、桜はそれを真似しているというのにどこか優雅じゃない。だが、それでも満足そうな顔をして梓に新しい話題を振った。

「ねえ、梓ちゃん。梓ちゃんって今魔法はどれぐらい使えるの?」

「ええっと……見てもらった方が早いわね」

 そう言って梓はステータスを出すと、可視化をかけて桜に見えるようにした。



 ― ― ― ―



 モチヅキ アズサ

 LV.8 職業:学生・魔杖の勇者

 HP:780/780

 MP:1200/1200

 力:45

 守:99

 速:81

 魔力:247

 固有武器:魔杖

 魔法:ファイア、ファイアークス・アイズン・フェザブロー・ヘイトン・ファスト

 スキル:武器召喚/収納・ボックス・言語マスター・詠唱破棄・MP回復増加(中)・自然回復量増加(中)

 称号:勇者・魔杖の操者・小悪魔・女神に認められし者



 ― ― ― ―



「こんな感じかしらね」

「ほへぇ。あんまり増えてないんだねぇ」

「まだまだこれからよ。今日はこのあと、宮廷魔法使いの長に魔法の道具を貰いに行くの」

「魔法の道具?」

「正しくいうと“魔法暗記盤”ね。確か、その魔法暗記盤の中に数字の羅列みたいのが暗記されていて、その数字が私の中に引っ張り込まれて脳に刻み込まれるように暗記される、という感じだったはずよ」

「……ウン、ワカッタヨアズサチャン」

「……簡単に言っちゃうと、魔法が簡単に習得できるってことよ」

「なるほどぉ!」

 そこでようやく理解できたと手をパチンと合わせる。だが、桜が理解したのはただ簡単に魔法が覚えられるといったところだけ。つまり全く理解できていない。

「その代わり自身の力で手に入れた時よりは少しランクは下がるし、あまり生産が上手くいかないから希少で、結構高価みたいらしいから、今回は特別らしいわ」

 あえて桜のそういうところには突っ込まずに、デメリットを最後に付け加えて上品に紅茶を啜ると、一つ一つの魔法を説明し始める。

「ファイア、ファイアークスは簡単に言うと初級と中級ね。アイズンは氷系統、フェザクローは風系統で相手を切り裂く魔法。ここまでが、今私が今覚えている攻撃魔法ね」

「梓ちゃんは火と氷と風魔法が基本の魔法なの?」

 桜が疑問をぶつけると、困ったような笑みを浮かべて「わからないわ」と答えた。

「というのもね、まだレベルが上がれば覚えるかもしれないのよ。まあ、私はこの三つの系統が一番しっくりくるし、問題はないわ」

「そうなんだ。あと、攻撃魔法の幅はこれだけなの?」

「違うらしいわよ。火系統なら、炎がハリケーンのように吹き上げて相手を焼き裂くものもあれば、アイズンは一面を凍りつかせる魔法もあるらしいし」

「へぇ! じゃあ梓ちゃんも将来は魔王なんだ!」

「そうね。魔王になるのもやぶさかではないわ」

 ざわ……ざわ……

 周りが梓の発言で若干賑やかになった。

「私は昼の魔王やるから、暗城文君には夜の魔王になってもらおうかしら」

 ざわ…………ざわ…………

 さっきまで桜と梓の周りだけだった騒がしかった周りが、その範囲を拡大してどんどん噂が広がっていった。

「アンジョウ……フミ……?」「おまえ執事なのに知らないのか?」「聖女様がいつもくっついているやつだよ」「しかも何人も女を侍らせやがって……」「ブラッドフェスティバル……改二……」「轟沈だな……」「あいつの息子を轟沈させる……」「主砲……爆破……」『それだな!』

 勝手に有りもしない事実が広がった挙句、文の貞操が危ない。そして、本人もここで食べている事実がここに突き刺さる。

 だが、その話を聞いていた彼らが文を発見した時、ファミナと夕花里さんがいたため難を逃れた。ただし、ロリコンという噂がその場で駆け巡る羽目になったが。

 そんな彼らを置いて、桜と梓の会話は続く。

「このヘイトンは?」

「ヘイトンは、単に敵の気を引く魔法よ。この魔法は設置魔法という高度な技術と一緒に使えるのよ。私はまだ設置魔法は使えないけど」

「大丈夫だよ梓ちゃん! だって次期魔王だもん!」

「そうね。それでファストは対象の素早さを一時的に上げる魔法よ。これは全体的に言えることなのだけれど、維持できる時間は魔術師の技量に依存だわ」

 私はまだまだだわ。苦笑いしながらそう付け加える。それでも、ある程度使いこなすことは近いうちに来るだろうと確信しているため、焦りの色はない。

「本当は回復系統の魔法も覚えておきたいところだったのだけれど、回復役は目の前にいるから、こればっかりはしょうがないわね」

「うん。もし梓ちゃんが怪我したら、ちゃんとヒールをかけるからね!」

 ふんす、と気合を入れる。その姿をみてフッと微笑むと、紅茶を啜る。

「桜は地球でもこの世界でも、まったく変わらないわね」

「えっ? そうかな? 梓ちゃんのほうが変わらない気がするけど」

「私ってこれでも結構浮かれているのよ? 異世界に召喚されたら勇者って、なかなか稀有(けう)な体験だと思わない? 地球と比べたらこっちの生活のほうが楽しいに決まってるわ」

「あ……そういえば梓ちゃんってお金持ちのごれーじょーだったんだっけ……」

「ご令嬢ね。そうよ」

 フフッ、乾いた声を漏らす。

「あんな家庭だからこそ、今の環境が嬉しいのよ。召喚された時も、皆が呆然とする中、私は心のなかで嬉しいと思ってたわ」

「梓ちゃん……」

 呼びかけるも、梓に掛ける言葉が見つからず、口をモゴモゴとさせる。梓は桜をみて、苦笑しながら首を振る。

「これは愚痴とか家の嘲笑(ちょうしょう)とかじゃないわ。ただ淡々と語ってるだけよ。結構きつい(しつけ)とかお稽古(けいこ)とかさせられたけど、結局あの家の跡継ぎは私じゃなくて弟。私はどうせ大学でも卒業したら道具として結婚していたわ。だったらそんなことになるより、ここ〈ラズワディリア〉にいたほうが何倍も幸せよ」

 そう言い切って再び紅茶を――嫌っている家で身につけた作法で――啜る。その家で学んだことはすでに梓の一部となっている。今更崩せと言われても無理なことだ。だから梓は、そのことはすでに割り切っていた。

 もし帰る方法が見つかっても、クラスの全員が地球に帰ると選択しても、梓は一人この世界に残るだろう。桜が懇願したとしても、必ず。

 そんな考えを巡らせていると、ふと桜が目に入る。口が少し半開きになっており、「ほへー……」と声を漏らしている。

「あんた今、『お金持ちにもいろいろあるんだなぁ』とか、思っていたんでしょ……」

「にゃぜばれた!?」

「あんたのことだもん。何年幼馴染やってきたと思ってるの?」

「……13年。3歳の保育園の頃から私たちは一緒なんだよね」

 梓にとって僥倖(ぎょうこう)だったのは、桜というかけがえのない親友を見つけることが出来たことであろう。

「……普通の保育園、普通の学校に行かせてもらえたことだけは、親に感謝しているわ」

「異世界転移にあう学校はちょっと普通じゃないけどね」

 少し目があって同時に吹き出した。

 そしてそのまま笑い続けた。



 ◆



 (しばら)く二人が笑い続けたあと、紅茶をお代わりしてまた紅茶を啜る。そのタイミングで桜が一つ、頭の中でモヤモヤとさせていた疑問を梓にぶつけた。

「そういえば、私たちの称号に【女神に認められし者】があると勇者なんだよね?」

「そうね」

「でも私たち、女神様に会ったのかなぁ?」

「……会ってないわよ。桜にしては鋭いところを突くわね」

「失礼な! 激おこプンプンギャラクシードカーンだよ!」

「ごめん、意味わからないわ」

「私もわからないよ?」

「だったら自重しなさい!」

 パァン、梓が頭をはたくと綺麗な音が鳴った。「うぅ……梓ちゃん、そうじゃないよぉ……」と抗議の声をあげるが、梓は聞き入れようとせず、続きをと黙って促す。

「……女神様は、どうやって私達を認めたんだろう、って」

「…………」

 確かに、と少し考えこむ。

 梓は今まで、それこそ浮かれていてそこまで考えこむほどではなかった。なぜ勇者が私なのか、と考えるわけではなく、私が勇者なんだ、と口元がニヤける。そこで考えを止めたのだ。

 そうやって考えを巡らせようとすると、桜が再び口を開く。

「たしか、この世界は女神様が創りたもうたのだ~、っていうのがこの国の宗教になっているんだよね?」

「そうね」

 知らないけど、と涼しい顔をしながら梓は心のなかで付け加える。

「この世界で女神様の形をしているものって、全部私達人間が想像をふくらませて作り上げた、いわゆる偶像崇拝的なものらしいの。だから、この世界には女神様を形作ったものは一つもない」

「でも、女神はいる」

「そうなの。女神様は私達の称号が存在を証明してるの。なのに一つも本物の女神様の絵はない。昔にも【女神に認められし者】という称号を持った称号を持った勇者はいたはずなのに、だよ」

「……つまり?」

「つまりね、この称号って、実はランダム、もしくは誰かが、例えば翔くんが私達を指名したのかも、っていうこと」

「……全部文君の入れ知恵ね」

 紅茶を飲んで一息ついた桜に、間髪入れずに梓が突っ込みをいれて桜は目を見開いた。

「にゃぜばれた!?」

「あんたがそんなに賢いわけがないじゃないのよ」

「なんですとぅ!? ……事実ですが」

 認めるのか。

 しょうがないよね、と納得して紅茶を啜る桜に、うわぁと梓は額に少し汗を滲ませた。

「……まあでも、『文君』の意見はつまり……私達の勇者という称号はランダム、もしくは翔一人だけが会って、なにかしら交渉をした、ということなのかしら?」

「あからさまに強調しなくても……。っていたいいたいっ。言う、言うよ! コホンッ。私の意見はね、翔くんがなにか交渉したんじゃないかな、って言う方なんだよね。というのも、文君が『翔達はほら、主人公気質でしょ? だったら女神と会っているんじゃないかな』って」

「どうでもいいけど、あんた全然暗城君の声マネ下手ね」

「ええ!?」

 どれだけ下手かというと、猫がワンと鳴こうとする感じである。

「それって少し前のことでしょ? 翔には聞いてみたの?」

「ううん、聞いてないよ?」

「…………」

「うわ、梓ちゃんイタイイタイっ! そんな無言で頭をグリグリしないでぇー!」

「少しは反省なさい!」

 それから数十秒で解放はされたが、桜は暫くの間頭を抑えながら涙目になっていた。

「あうぅ……」

「とりあえずよ。このことは私達と、文君だけにトドメておくこと。いいわね?」

「えっ? なんで?」

 キョトンとした顔をして問いかける。

 その時の梓の目は、厳しく桜に突き刺さった。

「こういう宗教の関係の人は、かなり女神様を盲信しているわ。つまり、女神様の存在も肯定している。そんな人の耳に入ると……私達、最悪殺されるわよ?」

「……新興宗教みたいな?」

「……この国でその言葉は当てはまらないわ。まぁでも、人数が多い分、それよりたちが悪いかもしれないわね」

「んっ。わかったよ、梓ちゃん。文君にも言っておくね」

「きっと文君は気付いているはずよ。だって……ううん、なんでもないわ」

 文君って結構敏感だから、という言葉を飲み込んで、紅茶を飲み干すと、スッと立ち上がった。

「じゃあ私、もういくわね」

「あ、うん。じゃあ頑張ってね」

「あんたも、さっき貸した本、読み終えておきなさいよ?」

「……ア、ウン。ヨンデオクネ」

「……もちろん、今日中によ」

「…………モチロンダヨ!」

 これはだめだ。

 そんな思いに駆られたが、まあ読んでなかったら読んでなかったでその分桜を(いじ)れるからいいか、と無理やり割りきって、その場を後にした。

 ポツンと残された桜は、何をしようかと考えて、なんとなく文のところにいこうかな、と思ったが、瞬間的に顔が赤くなってしまい、今行ったらどうなるかわからなくなってしまうとその考えを捨てる。そして、結局どうしようと考えていると、ポンと手が固いものに触れた。

 なんだろうと思って下を見ると、先ほど貸してもらった「私の行方」という本が目に入る。

「……おとなしく、頑張って読書しよっと」

 誰かに言うまでもなく呟くと、先ほどからずっとビンビンにたっている文レーダーの方向に意図的に視線を送らずに、食堂からそそくさと出て行った。


お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:文くんに対し三回目のブラッドフェスティバル開催。そして、夜の魔王という称号も。


 次話:閑話。あの人は、今! 的な感じで、二人の主人公気質を2話構成です。

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