表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
31/105

第三十話 クリエイトの復習と考察

 チュンチュンと(さえず)る小鳥の声でゆっくりと目が覚めた。

 なんか、神様あたりにイラッてきたのはなんなんだろ? 夢の内容も覚えてないから、心にある妙な塊が気になってしょうがない。

 でも、気にしても思い出せないからいいや。

 とりあえず疲れもある程度取れたし、起き上がろうとした時、体中に違和感を感じた。いや、違う。お腹と足の部分に、が正しい。

 ゆっくりと顔を起こして右足を見ると、なぜか桜さんがいた。いや、なんで? じゃ、じゃあ左足は、と思ってみると案の定リリルだった。

 おかしい。昨日あの後、ちゃんとおやすみと言って部屋から出て行ったのに、いつの間に部屋に入ったんだ? ……もう、次からは鍵かけよう。

 二人とも僕の足を器用に枕にしてすやすやと眠ってる。……いや、桜さんはスヤスヤズピーと寝息を立ててる。眠っている時ですらネタに走るその根性は尊敬に値するね。

 はぁ、と溜息を吐いて、今度は布団をペラリとめくると、リリルを小さくしたような女の子、ファミナちゃんがコアラみたいに僕に抱きついて眠っていた。

 本当にコアラみたいに抱きつかれて、どうやって抜けだそう。

 まあ、僕は起きたいし。ファミナちゃんを抱きかかえて身体だけ起き上がらせると、ゆっくりとふたりの頭を柔らかいベッドに置く。ポフッと音を建てただけで、二人共目がさめることはなかった。

 ファミナちゃんは起こそうか悩んだけど、まあ寝てる人を起こすのはあんまりしたくないし。だからゆっくりと腕を外してお姫様抱っこをすると、「えへへ……」と寝ているはずなのに幸せそうな顔をした。まったく。

「メイド長さん」

「なんでしょう」

「うわっ!」

 天井裏をパコッと開けてメイド長さんが現れた。内心冷静を保ってるけど、心臓バックバクだよ!

「な、なんでそんなところから現れるのさ……」

「以前、サクラ様に言われたのです。メイドと忍者は似たものだと」

「いや……どこが?」

「サクラ様に言われました。神出鬼没なところがらしいです」

「……はぁ」

 それ以上言葉を続けるのは、やめた。ついでにだいぶ桜さんに毒されているな、と冷や汗を流さずにはいられなかったけど。

 とりあえずファミナちゃんはメイドさんことミニスタシアさんに任せて、身支度をし、朝食を摂りに大広間に降りた。

 まだ朝7時ということで、人はまばらだった。というか、食べる、ということのためにいるのは僕ぐらいだね。他の人は全員給仕の人だし。

 適当に小皿にサラダとパンを取り、カップにティーポッドから熱々の紅茶を注ぐ。僕は紅茶よりコーヒーの方が好きだけど、この国にはないんだよねぇ。獣人(ディヴィム)がいる大陸にはあるらしいから、いつかは行きたい。……王様を出し抜いて。

 近場の適当な席に座って、いただきますと唱和してから食べ始める。

 しばらくすると少しずつ人が入ってきてガヤガヤと喧騒に包まれた。そのほとんどが見覚えのあるクラスメイト。学校がある日と同じように規則正しい日々を過ごしているんだね。ご愁傷様といえば良いのだろうか。

 今日はどうするんだろうね。また昨日の実戦を兼ねた特訓でもやりにいくのかな?

 ……まあ、面倒だから僕には関係ないか。

 あんまり関わりたくもないし、さっさと食べ終えて食器類を返すと、今日やることをまとめながら図書館に向かった。



 ◆



 もうすっかり顔なじみになった司書さんに軽く頭を下げて中に入ると、本を数冊抜き取ってクリエイト研究所に入った。……クリエイト研究所というのはちょっと調子乗ったかも。

 コホンと咳払いして本を広げる。そして、最近【クリエイト】で作りだした深緑のメガネをかけると、物凄い勢いでほんのページを捲る。【速読】のスキルを発動させたからだ。

 それから三〇分。それだけの時間で残り一冊になった。

「……『いろいろな物 ~小物から一軒家まで~』。よくこんなマイナーな本があるもんだ」

 本当にマニアックすぎる本だ。こんなマニアックな本を読む人なんてきっと僕が初めてなんだろうね。証拠として本に折り目とか全くない。というより、本が固いままだ。

 でも、こういうマニアックな本は、時と内容によって物凄い知識の濁流となる。マニアックということは、その分知りたい知識が濃縮しているということだからね。他にも、雑種で読む人はこういう本を『面白い』、という感覚じゃなくて『楽しい』という感覚で読む人が多い。僕も、こういうのは『楽しい』という感覚で読む派だし。

 僕は他にも十冊ぐらい本を取り出し、机に持っていく。

 僕はこのスキルのおかげでもうほぼすべての興味がある本は読み終わった。

 残っているのは『この世界に神はいるか?』っていう論題系統と、荒唐無稽な世界滅亡論とかかな。そこは人によりけりだけど、この世界に神はいるだろうし、世界滅亡論はきっと地球にあるノストラダムスの大予言とかと同じ(たぐい)だと思うし。

 通うのも今日で最後で良いかもしれない。結局読みたい本、ヒノキの棒の勇者についての物語はなかった。やはり別の国、または別の大陸に行かないとなぁ。





「ふぅ……」

 二時間後。全部読み終わった。

 速読の速さは数段階に分けられてて、一応調整はできるんだけど、やっぱり内容だけ頭に入ってきても、本を読むという感覚が無いのが好きじゃないなぁ。

 活字をゆっくりと味わいながら読む。小説ならなおさら。僕がよく読むのは小説関連が多かったのもあって、今まで速読の技術を取らなかったというのもあるんだけど、スキルであっさり手に入るのもどうかと思っちゃうよね。

 ふぅ、と『いろいろな物 ~小物から一軒家まで~』以外の本を本棚に全部戻すと、クリエイト研究所に戻る。最初に、スキル【クリエイト】の能力を整理していこう。

 まず、僕が今できることは頭の中でイメージしたものを、何か物を媒体にして使って具現化する、というもの。たとえば木を使ってスプーンを作ったりとか。それがクリエイト。想像することが好きな僕にはうってつけの能力だ。

 だけど、それにはある程度制限がある。

 一つは、MPと大きさの比例。大きい物をつくりあげようとすると、その分時間が食う。しかも、その時間もMPを吸われ続けるから、あんまり無理に大きい物を作ろうとすると、その一回で全てが食われつくされてしまう。だから、細かな物を作り上げていかなくてはいけない。

 そこで二つ目。繊細なものとMP消費の比例。例えば、スプーンを作るだけならそれは一瞬で、MP消費も10ですむかもしれない。でも、そう例えば柄の部分にメイドさんが持ってるキルちゃんを模した顔もつけようと想像して作ろうとすると、その分MP消費も大きくなる。はっきりイメージできればいいんだけど、少しぼんやりとしていると、その分記憶するところに働きかけたり、別のものを作り出す。

 三つ目は二つ目と少し関係があることで、殺すときに使う空間を使った武器。これは、少しつらい部分がある。精神的にじゃない、精密さが。

 昨日ウサリンにやったのは、ほとんど動けないところをただ想像通りにやっただけで、これは本当に卑怯なやり方だ。実際、もっと大きな魔物が現れたとしたら、同じ方法は効かない。動きが必ず封じることができるなんて、どこにも保障がないからね。

 だから、一瞬で想像できることが一つと、精密に魔物を貫くこと。

 この二つがこれから必要になってくるし、課題にしないとね。

 罠にも使えるけど、それを使う隙がなかった時に困るから、やっぱ実戦で使えるようにしておかないとね。

 そこで思考を切り替えて視線を目の前にある本に戻す。

 ここからが本番だ。というより、なんで整理し始めたかっていうと、この『いろいろな物 ~小物から一軒家まで~』ていう本。ひとつひとつのいろいろなものが詳しく書かれていた。

 例えばなんでもない包丁。柄はモットー製の7cmで刃渡り12cm。刃の素材は鉄鉱石と安物。硬さはかぼちゃを切る時に苦労する。

 こんな感じで滔々(とうとう)と書かれているのだ。本が硬いから誰にも一度も読まれていないのだろうね。でも、僕は重宝する。だって、【クリエイト】の本質は、作り出したいものを文字通り詳しく知っていないとダメだと思っているから。

 一番良い例が拳銃。ただフィルムだけを想像して創り出しても、中がスカスカの、ただのモデルガンになる。でも、きちんと中身の構造も知っていれば、それは異世界で無双すらできる拳銃の出来上がりってわけ。

 まあ大砲なんかは作りやすいかもね。構造は単純だし。

 火薬でドーン! だし。

 もう一度本に目を通し始める。使えるものはきちんと覚えておかないと。地球からノートとペンはあるからそれに移していく。

 家の構造とか、投石機とか、他にも動く人形とかもある。一般的なのか、動く人形は魔力さえあれば自分で動かしたり止めたりできるみたい。今度作ろうかな。

 それから30分。決めた。この本はくすねる。

 ジャイアニズムじゃないけど、この本はもらったところで誰も困らないだろうからね。

 本音は書き写すのが辛い。

「ふぅ……」

 次は新しいクリエイトの確認でもしようかな。

 確か薬と衣服だっけ?

 んーっと。とりあえず、近くにあった布を取って、

「【クリエイト】」

 唱える。

 …………なにも起きない。

「おかしいなぁ……」

 もう一回唱えても、何も起きない。なにかおかしいのかな?

 クリエイトの説明文にもう一度目を通すと、下の方に注意書きがあった。


[注意:薬をクリエイトする場合は、すりこぎとすり鉢、素材が必要です]


 そういうことか……。

 今この場にすり鉢もすりこぎももってないしなぁ。それにしても、初めてここまでの条件が出てきた気がする。条件がでる条件があるのかな……。

「……やめとこ。こんなこと考えても、今は無駄にしかならない」

 頭を振ってさらに下を読むと、きちんと衣服のときの注意書きもあった。


[注意:なめされた皮が必要です。レシピは習得・開発・思いつき次第で増えていきます]


 なめされた皮、か。ワニ皮とかああいったコーティングしてある皮のことかな?

 なめされた皮の作り方は……動物の皮が必要なんだ。

 どっちにしても今は持ってないからなぁ。動物の皮は加工すれば良いんだけど、少しお腹が減った。

 時計を見るとすでに12時を回ってる。この時間はちょっと混みそうだけど、お腹は減ったから食堂行こっと。

 本を布に包んで窓から投げる。こうすると本が持ち出せるから。セキュリティというものがないから異世界は最高だね。

 それから何くわぬ顔で外にでて本を回収して食堂に向かうと、ファミナちゃんがトテテと走り寄ってきた。

「おにいちゃん!」

「ファミぐふっ!」

 そのまま胃がある位置に頭突きを食らった! また溝尾だ……!

 だけどそんなことを気にもせずに、少し怒ったような様子で僕に疑問をぶつけてきた。僕が少し怒りたいぐらい。

「おにいちゃん、なんでファミナをファミナのベッドまでもってたの?」

 運んだのはメイド長さんなんだけど。

「その前になんでファミナちゃんは僕のベッドにいたのさ?」

「それはおにいちゃんのおよめさんだからだよ!」

 フフン、と胸を張る。でもね……

「ファミナちゃんには僕より素敵な男の子が現れるからね」

 優しく諭すと上目遣いで睨んできた。だけどまだ未熟な女の子。可愛らしい仕草の一部。クラスメイトの男子に見てたらきっと「萌えー!」とか言うに違いない。

 変な思考に走ったことを悟られないように優しくファミナちゃんの頭を撫でると、ムーっと頬をふくらませた。

「おにいちゃんは、こんなかわいくてあいらしいだんじょんにさくいちりんの花のファミナをおよめさんに欲しいとは思わないの?」

 絶対意味を理解していないんじゃないかと思うほど言葉が(つたな)かった。

「僕はまったくもって」

「まったくもって?」

「欲しいとは思わないかな」

「そ、そんにゃあ……」

 へなへな~っと廊下にもかかわらずへたりこんでしまった。そんなファミナちゃんをお姫様抱っこをしてあげる。

「はいはい。女の子がこんなところでへたりつかない」

「うぅ……」

 じわぁっと涙が目に溜まり始めてる。罪悪感が半端ない。でも、10歳ぐらいの女の子を嫁にするって、どこの光源氏?

「お兄ちゃんて……女性に興味がないほもさんだったの…………?」

「女性に興味がないのは正しいけどホモではないからね!!」

 どっから仕入れてくるんだ! この世界にもそう言った用語はあるけども! こんな純粋そうな子がなんでそんなことを!?

「誰がそんなことを教えてくれたの? 意味は知らないよね?」

「あ、あう……昨日ね、リリルおねえちゃんのところにあそびにいったらね、サクラおねえちゃんっていうひとがね、教えてくれたの……」

 あの人が元凶か……あの人が…………。

「よし、お兄ちゃんちょっと桜さんに用事ができたから、ちょっと降りてもらっていい? なあに、少しばかり戦争しに行くだけさ」

「おにいちゃん!?」

 ……桜さんはちょっと懲らしめないとね……何が必要かな……――

「おにいちゃんやめて!? ファミナの大好きなおにいちゃんでいて!」

 そう言って抱きついてきた。……よかったね、桜さん。ファミナちゃんに免じてオシオキは免除してあげるよ。

「わかったよ。でもね、絶対桜さんからは変なことを教えてもらわないようにね?」

「うんっ!」

 素直なことはいいことだね。僕の小さな頃は……それ以前の問題だったなぁ……。

「おにいちゃん?」

「なんでもないよ。ほら、行こうか」

 ファミナちゃんをお姫様抱っこしながら食堂に向かった。

 ちょうど夕花里さんもいたし、3人で食べてるとファミナちゃんが、

「ユカリおねえさんとフミおにいちゃん、ふうふみたい!」

 爆弾を投下してきた。

 だから、僕はなにも聞かなかったふりをするしかなかった。

 ……だから、夕花里さんが顔を赤らめてチラチラとこっちをみてくるのは、気のせいなんだよね。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:文、本を盗む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ