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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
23/105

第二十二話 夕暮れ時の出会い

 かなり困った状況になった。

 思わず額に手を当ててしまうほど。

「はぁ……」

 それを目にしたら、思わず目を離せなくなる。というより、僕ほど境遇が分かる人は、きっと知り合いにはいない。皆無縁だと思うね。

 僕はいつも付き合ってることで、それは自分からなっていること。最近は邪魔されたりしてなかなかそういうのはないけど。でも、僕の視線の先にいる子はきっと違う。なりたいからそうしているわけじゃない。きっと、自然にそうなってしまったんだ。

 じゃなかったら、あんな寂しそうな表情はできない。僕はあんな表情をする子を、何人も見てきた。だから、分かる。



 ――あの女の子は、ボッチだ。



 ◆



 桜さんがお茶の淹れ方がわからないと、僕をお茶の席へ誘った次の日だった。図書館で本を読んだ後、スキルの考察も軽くして部屋に戻ろうとしたときはもう夕方だった。なんとなく中庭を通ろうとしたときに、その女の子が目に飛び込んできたんだ。

 寂しそうな表情を浮かべ、ポツーンとベンチに座っている、子供が。

 多分年は十歳ぐらい。リリルと同じプラチナブロンドを、腰まではないにしても結構長く伸ばされている。大きなリボンとうさぎの髪留めが特徴的だ。

 まあ、容姿についてはいい。問題はこの子ボッチでいることだ。

 この王宮内でも小さい子は時々見かける。多分どこかで小さい子を預かるところがあるんだと思う。でも、そういう子供達は大抵だれか他のこと遊んでいる。けど、だ。

 この子は何故か一人、しかもこんな夕暮れの時間に一人でいる。

 なんとなくほっとけなくて声をかけようかと悩む。本当だったらかけたいんだけど、彼女の服装をみると、足が止まってしまう。

 豪華なドレス。

 これだけで高貴な身分だとわかる。ほら、それこそリリルみたいな巫女みたいな感じ。リリルの場合は、向こうから友達になってくれといったし、出会い方が特殊だったから敬語使う必要もなかったけど、この子はどうなんだろうか。

 僕としてはあまり目立ちたくないから話しかけずにこの場から立ち去るべきだろう。だけど……あの子の目は、本気で寂しそうだ。

 だったら、声を掛けるべき? 本当に?

 平穏な毎日を送りたい僕が、この城でやれることやったら抜け出す僕が、やること?

 ……それこそ、いまさらか。

 桜さんにリリル、夕花里さん。翔達に、メイド長さん。

 彼らのお陰といったらおかしいかもしれないけど、今この異世界で楽しく過ごすことができている。

 だったら、この女の子も、僕の中でなにかを担ってくれるのかも。それこそ素晴らしい出会いになったりするのかもしれない。

 …………なんてね。

 そんな大仰な事考え無くてもいいや。ただ、少しだけ、桜さんに影響されているかもしれないけど。あの、誰にでも声をかけて仲良くなろうとする、客観的にみたら面白い性格に。

「ねえ、君一人?」

「ひゃぅ!」

 後ろからこっそり近づいて声をかけたら、文字通り跳ねあがった。

「そ、そんな驚かなくても」

「び、びっくりしました! ファミナ、びっくりです!」

「ファミナちゃん、っていうんだ?」

「なんと! ファミナの名前がバレてるです!」

「自分で言ってるからね?」

「ひゃー! ファミナ、自分でばらしていました! びっくりです! お兄さんはなんていうんですか!」

「僕? 僕は文だよ。こんにちは、ファミナちゃん」

「こんにちは、です。フミおにいちゃん!」

 立ち上がってドレスの端を持つと、優雅お辞儀をした。これは確実に、貴族かそれ以上の子だ。

「おにいちゃんは、ひとりなのです、か?」

「それを言うならこっちの台詞だよ。ファミナちゃんこそ一人なの?」

 僕がそう問いかけると、少し顔を俯かせて頬を膨らせた。

「ファミナね、おともだちいないの……。ファミナ、おうじょさまだからって、みんなちかづいてくれないの……」

 …………重い。かなり、重い。いや、それよりこの子、王女様だったのか。

 急に敬語は無くなったけど、まあいいや。この子もすぐに警戒心をなくしてくれたのか、それとも痛いところ突かれたからか。まあどっちでも良いけど。

「だからね、ファミナね、いつもひとりぼっち……」

 こんな時期、僕にもあったなぁ。少しベクトルが違うけど、こうして暗く(うつ)々とした生活を過ごしていた時期があった。

「だからね、ファミナ……おねえちゃん待ってるの!」

「……おねえちゃん?」

「うん! おねえちゃん、ファミナといつも遊んでくれるの!」

 そっか。この子にはちゃんと待ってる人がいるんだね。それは良かった。

「そのおねえちゃんはいつ来るの?」

「……わかんない!」

 破顔させてファミナちゃんはそう言った。いや、笑顔で言うことじゃないでしょ?

「はぁ……じゃあ、僕がそのおねえちゃんが来るまで遊んであげ――」

「えっと、文君?」

「ん?」

 戸惑いの声が聞こえたから、ファミナちゃんから視線を外して声が聞こえた方向に目を向けると、そこには困惑顔を浮かべた夕花里さんが立っていた。なんで、困惑顔を?

「あの、さ……」

「だ、大丈夫! 大丈夫だよ、うん! 私、何も誤解していないから!」

「ごめん、その言葉に全く信憑性が感じられない!」

 誤解ってなんだ? 今の僕になにか誤解される要因は――――

「おにいちゃん、このひと、だれ?」

 小首を傾げて訊いてくるファミナちゃん。

 あった。こんな身近に誤解される要素があった……!

「べ、別に文君がよ、幼女が好きでも私は変わらないからね!」

「違うからね! 別に僕は幼女が好きなわけじゃないから!」

「じゃじゃじゃ、じゃあその子は…………?」

 ふるふる震える手で夕花里さんが指を指した先には、まだ小首をかしげたままのファミナちゃんが。えっと、これはどう誤解を解けばいいか……。

「僕はその、幼女が好きなんじゃなくて、……そう、子供の面倒をみるのがすきなんだ」

「子供の、めんどう? それって前に言ってた……」

「そう、それ。この子はファミナちゃんって言って、ちょっと寂しそうに座ってたから声をかけたんだ。あ、そうだ。夕花里さん今暇でしょ? 暇だよね?」

「え? ええ? えええっと、うん! 暇だけど」

 早口でまくし立てると、一応頷いてはくれた。よし。

「じゃあ、一緒に遊ぼうか」

「ふぁ?」



 ◆ ◆



「えっと、ファミナちゃん。このおねえさんは夕花里って言って、とっても優しいおねえさんだよ」

「やさしいおねえさん! ユカリおねえさん!」

「う、うん……ふぁ!? 今、文君に呼び捨てされた! 呼び捨てされちゃった!」

 ……なんだか、その言い方だとかなり嫌がられているけど、実際表情みると百八十度違う反応しているから、どう触れていいのか僕にはわからない。

「じゃあ、自己紹介が終わったところで、なにして遊ぼうか?」

「お人形さんごっこ!」

 元気に手を挙げてそう提案したのはファミナちゃんだった。

「お人形さんごっこかぁー。懐かしいな~」

 夕暮れ時なのにぽわぽわとした空気を出す夕花里さん。でもちょっと待って。

「夕花里さん。多分夕花里さんが小さいころ遊んだのっておままごとじゃない、かな。その人形を使って遊ぶものって」

「そうだよ~…………ん?」

 夕花里さんの表情が凍りつく。僕と同じ思考に至ったみたいだ。僕と夕花里さんが冷や汗をダラダラと流しながら顔を見合わせた後、シンクロした動きでファミナちゃんをみた。

「ね、ねえファミナちゃん。お人形さんごっこって、どういう遊びなのかお姉さんに教えてほしいなぁ、なんて」

 夕花里さんが恐る恐る訊くと、ファミナちゃんはニパーっと笑顔で答えてくれた。

「お人形さんごっこはね、お人形さんみたいにずっと動かないでいることだよ!」

 ……うわぁ。これが小さな子が考える一人遊びなんだ……。なにその遊び。怖いしつまらない……。

 夕花里さんもそう思ったのか、慌てて口を開いた。

「ね、ねえファミナちゃん。私、この夕花里おねえさんがもっと面白い遊び知ってるんだけど、それをやらない?」

「そ、そうなのおねえさん!? ファミナに教えて!!」

 目をキラキラとさせながら夕花里さんを覗きこむ。うわ、夕花里さん眩しそうにしてる。

 ここは助け舟を出すべきかな? ……でも、夕花里さんの困ってる姿をみるのもなかなか楽しいし、良いか。

 助け舟なしで。目でSOSサインを出していたから同じように目でそう教えると、「ふぁー……」と小さく呻いた。

「ファミナ、楽しみ!」

 うわ、物凄い期待感。この子、この重圧を素で放ってるのかな? 放ってるんだろうなぁ。無邪気なのって怖い。

「えと……えええっと………………!」

 あわ、あわわと今にも言い出しそうなほど手とか表情とかが動きまくってる。すると、あ、と声をだすと同時に顔を輝かせた。

「あるよ、面白い遊び!」

 そう言って僕とファミナちゃんの手を取る。そして、綺麗に笑って言った。

「だるまさんがころんだ、やろ!」

「だるまさんがころんだ?」

 小首を傾げてオウム返しをしたファミナちゃんに、夕花里さんは、子供の世話が好きと前言っていたのもあったし、手慣れた様子でわかりやすく説明をし始めた。

 だるまさんがころんだ。日本では結構メジャーな遊び。

 一人、だるまの役割を持った人が皆に背を向ける。他の人はその人からだいたい二十メートルぐらい離れたスタートラインに着く。だるまが「だるまさんがころんだ」の、最後の「だ」というタイミングで後ろを振り返るのだ。この「だるまさんがころんだ」は早く言ってもいいし、遅く言ってもいい。とにかく「だ」のタイミングで後ろを振り返る。

 そのだるまが言っている間にだるまじゃない人たちはそれぞれの速度でだるまに近づいていく。このとき、だるまが言い切ってだるまが後ろを振り向いている時に動いていたらダメ。もし動いた場合、その人はアウト。だるまの方に移動して手を繋ぐ。

 もし、だるまに近づく人がだるまに近づいたらどうするか。それはだるまの背中にタッチするのだ。もし捕まっている人がいたら繋がっている手を叩く。そしたら、捕まっている人も逃げ出すことができる。

 だるまはすぐにまた「だるまさんがころんだ」と数えた後、後ろを向いて「おわり!」と言う。ここは「ストップ」というものがファミナちゃんにはわからなかったから臨機応変に変更した。

 それからファミナちゃんは大股で十五歩。僕たちは小股で十歩という特別ルールを作って移動する。もし誰かにタッチできれば、今度はタッチされた子がだるま、というルールだ。

「わかったかな、ファミナちゃん」

「うん! ファミナ、わかったよ!」

 無邪気な笑顔を浮かべて返事をしたファミナちゃん。本当にわかったかな、という思考は無粋だよね。

「じゃあ、やろっか」

「うん!」

「最初は私からだるまさんやるね」

 率先して夕花里さんがだるまを受けてくれた。近場にあった木に近づくと、僕らもそこから大体二十メートルぐらい離れたところで横並びになった。

「じゃあ、やるよー!」

 夕花里さんが声を張り上げると、後ろを向く。僕らも、息を呑んだ。

「だーるまさんがー……」

 まずは普通のリズム。僕とファミナちゃんは早足で近づく。まずは小手調べという感じ。

「こー……ろんだ!」

「「っ!」」

 いきなりその変調!? これは、夕花里さんはもしかして本気で()りに……じゃない、やりにきてる……。

 頬につぅ、と汗が一筋流れた。

 ファミナちゃんはどうだろう? 僕は目だけで横にいるはずのファミナちゃんを確認する。

「……えっ? えっと、ファミナ、ちゃん?」

「…………」

 喋らない。

「ファミナちゃん?」

「…………」

 ……………………もしかして。

「ファミナちゃん、口は動かしてもいいんだよ?」

「え? ファミナしゃべってもいいの?」

 やっぱり。

「別に喋ることはいいんだよ? じゃなくて、あのさ、ファミナちゃん」

「はい!」

 元気に返事をする。元気は良いことだけど、ね。

「その格好、結構厳しくない? というか、よくそんな格好ができたね……」

 ファミナちゃんの格好。それは、地面に手をついて、片手は空に突き上げたまま静止してる。まるで一人だけ急にツイスターゲームをやり始めたみたいだ。

「ファミナ、慣れてます!」

「どういうこと!?」

「あ、文君動いた」

「あ……」

 しまった……。ファミナちゃんに全力で突っ込んで動いてしまった…………。

 はぁ、と溜息を着きながら夕花里さんの隣までいって、夕花里さんの手をとった。

「ふぁあ!? な、ななななんで……!?」

「なんでって……ルールだからだよ」

「るーる……ルール! そっか! ルールだから! うん! ならしょうがないよね! うん!」

「嫌なら木に手をつくけど?」

「い、嫌じゃないです!」

 僕の手をぎゅっと握りしめる。そんなぎゅっと握りしめられると、痛いんだけど。

「ルール……ふぁー、それでも文君の手をつなげて嬉しいなぁ……うん。文君の手、温かいなぁ」

「なにか言った?」

「う、ううん! 何も言ってないよ!」

「そう。じゃあ、早く続きやってあげて。ファミナちゃんがプルプルしはじめた」

「ふぁあああ!? ご、ごめんねファミナちゃん!」

「だ、大丈夫! ファミナ、お母さんがいつも『ファミナは偉いねぇ、我慢ができてえらいねぇ……』って言ってくれるもん」

「「本当にごめんね!」」

 この子、物凄い我慢強いけど、ものすごく可哀想に見えてきた! いつも一人でいること、お母さん知ってるんだ。

「じゃ、じゃあやるね。だるまさんがー……」

 ファミナちゃん、立っていいんだよ? その、某井戸から出てくる人みたく、地面をしゃかしゃかと歩かなくていいからね?

「こーろんだ!」

 ピタリ。かなり綺麗に止まった。けど……

「ふぁあ! ファミナちゃん、なんでそんな人を襲おうとしている格好をしているの!?」

「ふぇ? ファミナ、なにかおかしいのかな?」

 ファミナちゃんって、なんだろ、きっと少し頭のネジが緩んでるのかな? それとも小さい子特有の何か? とにかく、その、なんで急に立ち上がって荒ぶる鷹のポーズを取ったのか、お兄ちゃんはとっても知りたい。

 でも、不思議そうに小首を傾げているファミナちゃんからみるに、ファミナちゃん自身もよくわかってなさそうだ。残念。

「あ、ファミナちゃん、首が動いちゃってる」

「ふぇっ!? やっちゃったよぉ……」

 地面に手をつけるファミナちゃん。下が芝生でよかった。じゃなかったらドレスが土だらけで洗うのが大変だし。

 夕花里さんは苦笑いして僕をみる。

「そっか、交代だから手を離さないとね」

「えっ……あ……」

 なんで寂しそうな声を出したかは置いておこう。

「あ、そうだファミナちゃん。次はファミナちゃんがだるまさんやってみる?」

「うん! ファミナ、やりたい!」

 一瞬で明るくなった。トトトっ、と僕らの方に走り寄って来て、ニパーッと笑った。

「お兄ちゃん、おねえさん、ファミナ、だるまさんやる!」

「うん、じゃあ任せたよ。夕花里さん、スタート地点に行くよ」

「うん!」

 夕花里さんと一緒にスタート地点に移動してる時、夕花里さんがそっと僕に耳打ちをしてきた。

「文君、きちんと手加減してあげてね?」

「もちろん」

 僕らが本気出したら大人気ないからね。この世界の小さい子は、ちゃんと子どもとして扱われている。だったら、僕らも同じように扱わないと。地球の昔の中世ヨーロッパは、小さな子は「小さな大人」として扱ってたみたいだけど。

 スタート地点に着くと、ファミナちゃんが手を振ってきた。だから、僕も手を振りかえす。それが合図だったのか、くるりと反転した。

「だーるまさんがー……」

 僕と夕花里さんは大股で歩く。少しでもゲームを長くしようという手法だ。そうしたほうがファミナちゃんも楽しめるだろうし。

「こーろー……」

 リズムを知らないファミナちゃんは自分で独特のリズムを作ってる。まあ、リズムを教えたわけじゃないし、適当なリズムで――

「ばーせた!」

「「ただの告げ口!?」」

 僕らは揃って声を上げた。

「ふぇ? ファミナ、なにかまちがってた?」

 困惑顔でそう尋ねてきたので、夕花里さんが優しく諭す。

「ファミナちゃん、よーく思い出してみて。おねえさんがなんて言ってた?」

「……あ! おもいだしたよ! おねえさんありがとう!」

 ペコリと頭を下げてそのままくるりと回転し、頭を木にぶつけた。……痛そう。

「大丈夫? ファミナちゃん」

「だ、だいじょうぶだよ、おにいちゃん。ファミナ、強い子だもん!」

 僕の方をみてキラキラさせた目をする。思い込みの力って、凄い。全然痛がってないや。

「じゃあ、やるよ!」

「うん」

 ファミナちゃんが木に腕を当てると同時に僕らも移動の準備をする。

「だーるまさんがー……」

 さっきと同じペース。夕花里さんも隣にいる。同じ速度に合わせているのは、ファミナちゃんが見やすいようにするためか、はたまた別の理由があるのかな。

「こーろー……」

 あと十メートルという地点まで到着っと。あと二回分でたどりつけ――

「した!」

「「犯人だ!?」」

 揃って声を上げた。

「ふぇ? ファミナ、なにかまちがってた?」

 困惑顔で訪ねてきたので、少し戸惑いながらも夕花里さんが優しく諭す。

「ファミナちゃん、惜しかったよ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ違うの。ころした、じゃなくてね、ころんだ、なの。だるまさんはだれも殺してないよ?」

「そうなんだ! ありがとう、ユカリおねえさん!」

 そう言って頭を下げる。……今度はちゃんと頭を上げてから木に向かい直った。

「じゃあ、続けるね! だるまさんもー……」

 違う。『も』じゃない。『が』だよ。でも、今はもう突っ込まない。

「こーろんだ!」

 よく言えました。

「ユカリおねえさん、動いたー!」

「あっ……そんなぁ」

 多分、また突っ込むところがあるんじゃないかって身構えてたんだね。トボトボとファミナちゃんのところに歩み寄って、そっと手を握る。

「ユカリおねえさん、あったかいです」

「ありがとう、ファミナちゃん」

 二人でほんわかした空気を作り出す。にこにことしていて仲が良いのはわかったから、続きやろ? 僕はファミナちゃんみたいにそこまで静止するのは得意じゃないんだけど。

「じゃあ、やるね!」

 よかった。やっと動ける。

「だーるまさんがーこーろんだ!」



 ◆ ◆ ◆



 それから僕たちは陽が暮れるまでだるまさんがころんだで遊んだ。

 何が合図で終わったか。それは、陽が沈んだからじゃない。陽が沈んでも中庭には魔道具(アーティファクト)というもので明るく照らされているから、遊ぼうと思えば遊べる。

 僕たちが遊びを終了したのは、声だった。

「ファミナー、どこにいますかー?」

 どこかで聞いたことある声がファミナちゃんを呼んだ。

「おねえちゃん! ここだよー!」

 結構遊んで疲れているはずなのに、ファミナちゃんは笑顔で手を振った。それに気付いた声の主は小走りで近寄ってくる。それにつられてファミナもトトト、と少し歩いてそのお姉ちゃんと呼んだ人に近寄った。

「あ、いました。ファミナ、遅くなってごめんなさいです」

「ううん! おにいちゃんとおねえさんと遊んでたから大丈夫だよ!」

「そうなんですか。えっとその方は……」

「あっちにいるよ!」

 ファミナちゃんが手を引っ張ってこっちに連れてきた。

「えっと、妹がお世話に……えっ!? フミ、様?」

「お姉ちゃんって、リリルの事だったんだ」

 なるほど。それで同じ髪色だったんだ。

 …………………………うん? ちょっとまってよ。

 確かファミナちゃんって王女って自分で言ったよね? それで、お姉ちゃんがリリル。髪色的に血は繋がってるとみて間違いない。それで、王女の姉は王女だとするなら……。

 もしかして、リリルって王女?

 うわ……。そう考える始めるとますます正しい気がしてきた。でも、召喚のときもいたってことは巫女ということも嘘じゃないんだろうし。

 …………まあ、いいや。王女って隠した理由、もしかしなくてもファミナちゃんと同じ理由だろうから。そのまま知らないフリを通すのも、簡単だ。

 あ、そうだ。リリルは友達が欲しがってたんだっけ?

「リリル」

「はい? なんでしょう?」

 リリルはファミナちゃんを軽くハグした状態で僕らを見てきた。

 僕は夕花里さんの手を引っ張る。

「この人は夕花里さん。リリルの良い友だちになってくれると思うよ。もちろん、ファミナちゃんとも」

 きちんとファミナちゃんも付け加える。

 紹介された当の本人は混乱して「ふぁー……?」と声を出していた。リリルはというと、うん、なんか獲物を見つけた獣のように目を(らん)々と輝かせて夕花里さんをみてる。

「私、リリルと言います! ぜひ友達になってください!」

「う、うん。よろしくねリリルさん」

 そう自己紹介を終えると、すぐに打ち解け合ったようで、会話に花を咲かせ始めた。

 いや、それはいいんだけど、さ。


 ぐぅ。


 ファミナちゃんのお腹が鳴った。うん、そうだよね。

「おなかへったよぉ」

「うん、僕も同じだよ、ファミナちゃん」

「一緒だね!」

 ニパーと笑うファミナちゃん。僕もつられて笑顔になる。

 癒やし要素って大事だね。

「そうだ。せっかくだし僕が料理作ってあげるよ」

「お兄ちゃん、料理できるの?」

「うん、できるよ。それに、夕花里さんもね」

「ユカリおねえさんもすごーい!」

「ふぁー……でも私、文君より料理上手じゃないよ?」

「そんな謙遜しなくても」

 夕花里さんの料理、まだそうめんしか食べてないけど、結構派生することができるみたいだし、凄いと思うけどなぁ。

「じゃあ夕花里さんも手伝ってね?」

「え? ええ? ええええ? えっと、だからね、文君より美味しい料理は作れないよ?」

「でも、この二人に料理を振る舞おうという意気込みぐらいあっても良いとは思うけどね」

「う……それは、うん」

「じゃあ、行こっか。……どうせ、メイド長さんが材料を持ってきてくれるから」

「……あの人、本当に不思議だよね」

 揃って遠い目をする。あの人、どこで聞いて、どうやって食材を調達しているのか、本当に謎だ。

 ふと視線を戻すと、今度は二人揃って小首を傾げて僕らを見ていた。こうみると、本当に似てる。

「……今度こそ、いこっか」

 僕がそう言うと、みんな思い思いに返事をした。

 僕は中に入る前に一度だけ空を見上げる。空には綺麗な月が浮かんでいた。

 ……ファミナちゃんの笑顔が太陽だとすると、あの月は僕かな、とか変なことを思ってしまう。

 だって、ファミナちゃんの笑顔は太陽のようで、僕はそれにあてられて自然と笑顔になってしまうんだから。

「おにいちゃーん、はやくはやくー!」

 すでに結構先を行っていたファミナちゃんが手をブンブンと振っている。本当に疲れを知らない子だ。

「今いくよ」

 今も僕は自然と笑顔になっている。さすがファミナちゃんだ。

 僕は三人の後ろを追いかけるように、少し早足になりながら後を追った。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:ファミナちゃんは強い子。




 ファミナちゃんとの出会い。おなじ一人ぼっちでも、きっとたくましさといえばリリルよりファミナでしょう。 

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