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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第二十一話 暗城文のスキル考察

 召喚されてから二週間が経った。

 最初は戸惑いや混乱をしていた人もいたようだけど、そういった人たちも皆この世界に順応したようだ。というのも、僕がみるかぎり、この世界の人と壁をつくらずに談笑したり、この世界の料理に舌鼓をうったり、メイドに襲いかかって返り討ちに遭い牢屋に入れられたり……。

 最後の(バカ)以外は、訓練以外にも心休まる時間を見つけているようだったから。

 僕はその光景を図書館の最上階の窓から眺めていた。

 外の雑音があまり中へ入ってこないこの場所の一角。司書さんにも気付かれないように僕専用の場所を勝手に作らせてもらった。といってもそう大仰としたものでじゃない。

 ただ、僕のスキル【クリエイト】の練習場を作っただけ。部屋でやりたかったのもやまやまなんだけど、あそこは何かと邪魔が入って落ち着ける時間があまりない。桜さんやリリルとかね。

 夕花里さんは、二人に比べればあんまり来る頻度が少ない。というより、部屋ではなく、こうして図書館にいるときに、わざわざここまで来ることのほうが多い。

 【クリエイト】の練習は一応誰にも見せないようにしている。だから当然夕花里さんがきたら中断し、本を読む。すると、夕花里さんは何も言わずに近くで同じように本を読み始める。そうしている時間はとても穏やかで、僕にとって好きな時間でもある。

 誰かに読書をしているのを邪魔されるとか、一番嫌いなことだ。一回そのことで桜さんに真剣に怒ったら、それっきり図書館に来ることはなくなった。

 ……まあ、あれほどプルプルと震えて、涙をポロポロと流していたから、よっぽど反省したんだろうけど。

「っと、つい物思いにふけっちゃった。そろそろやろうかな」

 適当に木の端材を机の上にバラバラと出す。このクリエイト、最近の訓練でだいぶ楽に作れるようにはなったけど、まだ自由自在に物を変形させることは出来ない。少し前に夕花里さんと料理した時はシンプルな形だったし簡単にできたんだけど、これがもう少し複雑なものになるともっと難しくなる。

 そう、例えば家。単純に見えて複雑な家。設計図をみて、それを頭の中で組み立て、完成図を思う浮かべる。それから【クリエイト】と唱えれば良いんだけど、そう簡単には行かない。

 この【クリエイト】にはマジックポイント、つまりMPがいる。つまり、変形させたい物が大きければその分、魔力の消費も半端無く多くなる。

 今までで確か気絶せずに作れた大きなものって、確か扉だったかな。特別な装飾品がなく、日本の家にあるようなかなり一般的な扉が限界だった気がする。それでもMPのメーターはほぼなくなっていてめちゃくちゃ気怠かったけど。

 あれから時間も経ち、MPもかなり増えたと思う。それは繰り返し同じものを作り続けたときに、だんだん気怠さが抜けてきたところからも窺える。おそらく、限界ぎりぎりまでMPを削ってクリエイトを発動させていたから幅が伸びた、というのが僕の見解。おそらくあってる。じゃなかったら他に説明がつかない。

「とりあえず、今日は細かい調整が出来るように頑張ろうかな」

 シンプルな造りのものは大方作れるようになった。だったら今度は小さくて細かいものを作ろう。

 少し考えながら適当に読んでいった本の中身を思い出していく。

 とはいっても、パッとでてこない。

「とりあえず、まずはスプーンでも作ろうかな」

 目を閉じる。

 イメージは少し凝ったもの。だから持つところはなめらかなカーブ。その後ろの部分はイルカを模したもの。

「よし」

 イメージは整った。

 木の端材に手を当てる。

「【クリエイト】」

 唱えてからすぐに違和感。魔力が過分に取られていく。

「くっ……!」

 一回唱えたものは取り消せない。おそらく僕がまだ扱いに慣れていないから。だから、魔力が吸い取られていくのを抑えることはできない。

 きっかり十秒。ようやくMPを吸い取られる感覚が無くなった。

「……ふぅ」

 少し気怠い。でも、成功だ。。

 手に収まってるスプーンをみる。

「………………ああ、失敗か」

 イルカのつもりが、うねうねとした何かになっていた。正直、よくわからない。

 失敗の原因はおそらく、イルカをうまくイメージできていなかった、からかな。かなり正確にイメージしたつもりだったけど、やっぱり少しあいまいになると能力が無理やり補正しようとして無駄にMPをもっていってしまう。

 この程度の失敗はいくらでもしている。むしろそれ以外は完全にスプーンになっているから及第点をつけても良いかも。

「よし、今度はフォークを作ろう」

 フォークは難しい。先端を尖らせないとダメだから。しかも四本だっけ? そこに等間隔で間を開けなきゃいけないし。

 うーん……。

「さっきと同じようにゼロから想像するのはすぐにはできないし、フォークとなるとより難しい。練習となればそれでよいかもしれないけど、実践向きじゃない。となると、やっぱり記憶から引っ張りだして形にするのが一番」

 口に出して、考えこむ。

 でもそう考えると派生が限られてくるし、そもそもとっさの対応に間に合わないかも。

 やっぱり、ゼロからクリエイトするのも練習しておかないと。

 これは練習だ。思考の試行錯誤をする場なんだから。……あ、そうか。最悪派生したものを覚えておけばぱっと出すこともできるのか。

 とりあえず、まずはフォークを作り。ほかにも使えそうなものとかは派生させていって覚えていこう。 記憶から引っ張り出してクリエイトするときも少し作り方を改良しよう。

 今まではいわば形状や質感などの記憶を頼りにしていた。

 けど、今からやろうとするものは、型に(ろう)を流し込むイメージ。それを抜き出すイメージだ。そうすれば――。

「……【クリエイト】」

 そう唱えると、なんかぶよぶよと動き出した。気持ちわるっ。

 でも、さっきより魔力の消費は体感だけど少ない。うん、こっちの方が良いかな。

 数秒で出来上がったこのフォーク。なぜか銀色に装飾されている。うん、木から造ったのに、なんで銀色になってるんだろ? 確かにイメージに使ったものは銀色だけどさ。

「はぁ。考えることが増えた気がする」

 とりあえず今作ったスプーンとフォークをポケットにしまい込むと、同時に眠気が襲いかかってきた。程よい虚脱感。僕はそのまま突っ伏した。

「今日は、このまま眠ってしまおう……」

 腕の間から見える空はもう真っ暗。この図書館、僕が残ってても何も言わないんだよね……。最初の頃は結構言われたけど、同じ本好きだからなのか、悪さはしないとわかってくれたからなのか、いつの間にかなにも言われなくなった。そのほうがありがたい。

「とりあえず、寝よ……」

 そのまま微睡みにされるがままに眠りに落ちた。



 ◆



 次の日、起きてとりあえず食事をとった後に、図書館にとんぼ返りした。

 まずは、昨日のクリエイトの結果の考察でもしよう。

 ステータスにあるスキル欄をみると、クリエイトは“つくりかえる”、とある。だから、木の表面を銀につくりかえた、のかな。見掛け倒し、ということか。使えるところがあるかどうか。

 頭の片隅には置いておこう。

 今日は実践的なことに挑戦しよう。簡単な武器の制作だ。さすがにヒノキの棒で魔物と戦うことは難しいし。かといってクリエイトのスキルはあまり実戦にはむいていない。……今のところは。

 実戦向けにしたいから、せっかく晴れてるし、外を使おう。イメージはハンマー。そしてどこだって作れるとしたら土とか石だ。だったらそれをヒノキの棒に纏わせて戦えば、敵も倒しやすくなる、はず。

 そうと決まれば早速図書館の外に出る。

 必要な物は何もない。手ぶらで適当な場所を探していると、墓地が見えてきた。申し訳ない気持ちはあるけど、静かでよい場所だし、少しだけ使わせていただこうかな。

 さて、と。ヒノキの棒を手の中に出して持つと、地面に突き刺してみる。改めてヒノキの棒を見る。本当にヒノキの棒といったらヒノキの棒だ。手に持つのに最適な太さしかない。でも、結構丈夫だ。斬られて真っ二つになるけどさ。それでも一度武器を収納すると元通りになる。魔法のヒノキの棒、ともいえるね。

 でも、鈍器だ。……そうだ、鈍器だ。

 せっかく作るんだ。鈍器から鈍器に帰るんじゃなくて、刃物にしてみよう。例えば、剣とか。直剣を作ってみよう。

 兵士が持っていた剣を思い出す。

「【クリエイト】」

 土がもこもこと動き出して纏わりつく。MPも吸い取られるけど、そこまでではない。

 あっという間に剣が出来上がった。

 一応手に持って装備できるか確認してみる。

 ステータスと唱えて装備欄をみると、〈ヒノキの棒〉のままだ。多分、柄の部分がヒノキの棒だからかな。そこだけむき出し状態だ。両手で何度か無作法に振り回してみると、そこそこに重いけど、ちょっとした自衛だったらこれでも大丈夫だと結論づける。でも剣術は筋力が相当いることを体中の筋肉の悲鳴をもって証明したから、やめよう。

 一度解除して、今度はハンマーのイメージをする。

 形は普通に、片方は叩く方、もう片方は尖らせたトンカチのイメージ。重量は僕が持てる程度に固まってくれると良いな。そこら辺はクリエイトの力に依存。その分MPが持ってかれると思うけど、予想ではそんなに持ってかれない。

「【クリエイト】」

 またもこもこうねうねと土が動き出す。……遅い。この遅さは課題にしておこう。

 しばらく経ってからハンマーは完成した。

「よっ…………と!!」

 うわっ、かなり重い! 肩に担いでみたけど足がプルプルと震えてろくに振り落とすことができないやこれ。

「く、【クリエイト】!」

 もう一回り小さいものをイメージしながら唱える。すると土が払われて結構軽くなった。

「これなら、いける」

 両手でしっかり握り、足でしっかりと踏ん張る。それからゆっくりと振り落とした。

 鈍い音をたてて空を斬ったハンマーは、土埃をたてながら地面を叩く。

「~~~~~~~~~~っ!」

 手が、手が! かなりヒリヒリする!

「これは……やめておこ……」

 地面に叩けばこうなることぐらいわかってたのに……はぁ。

 地面を叩くのはやめておこう。あと、できれば片手で持てるぐらいの重量が良いかも。いざって時に対応できるように。

 ハンマーだったらもうあれぐらいで妥協するけど、もっと良いもの、例えば野球のバットみたいな、あんな感じの鈍器が僕にはちょうど良い。……それ、ヒノキの棒そのままじゃん。

 あー、でも土で固めればより丈夫になるか。

 一回MPが回復する液体を飲んで、唱える。

「【クリエイト】」

 木製バットならぬ土製バット。重さも程よいし、頑丈にできている。

「これからは、これを使おう。うん、武器はこれで完成だ」

 MPは使うけど。それはしょうがない。

 これでまた、抜け出す準備が出来上がった。この調子でどんどん、ひっそりと準備を整えて、ひっそりと抜け出す。うん、大雑把な計画はこんなものだね。緻密な計画は完全には出来上がっていないけど、少しずつ組み上げていっている。

「あ、文くーんいたー!」

 僕の名前を呼ぶ声に反射的に顔を上げると、窓から僕に手を振ってる桜さんがいた。

「文くんって、いまひまー?」

 少し考える。今暇かと言われたら……

「ひまだよ」

 たった今終わった。こっそりとクリエイトを解除して、ヒノキの棒をスキルで収納する。

「それで、桜さんどうしたの?」

 走ると疲れるから歩いて桜さんに歩み寄ると、喜色満面の笑みを浮かべた桜さんがふふんと笑う。

「さっきね、ミニスタシアさんがお茶でもどうぞってお茶っ葉持ってきてくれたの!」

「うん」

「それでね! どうせだったら文くんと飲みたいなーっと思って……」

 なるほどね。断る理由はない。断れる理由もない。

「わかった」

「本当!?」

「うん。僕も喉がカラカラだからね」

「そういえば文くんってなにしてたの?」

 不思議そうにそう聞いてくる桜さんにどう答えようか一瞬迷い、口から出まかせに任せることにした。

「木こりだよ」

「木がないのに!?」

「木がないから木こりなんだよ? 知らないの?」

「はっ! そ、そうだったんだ……。私、初めて知ったよ……」

 そんなわけないけど。簡単に騙される桜さん、将来が心配だ。

「それより、早くお茶飲もう。どうせさ……」

 すでに桜さんの先を歩いていた僕は、肩越しに後ろを振り返る。

「桜さん、淹れ方わからないから僕を探したんでしょ?」

 今度は顔に出してわざとらしくニコリと笑う。すると、案の定、図星みたいだったようだ。顔を瞬間的に赤らめた。

 それ以上何も言うまい。とりあえず、お茶の淹れ方は本で読んでるからなんとかなるはず。……というか、メイド長さんって絶対桜さんがお茶を淹れられない事知ってて渡したね。策略家というか。弄ってるのかな。

 なんとなく、召喚されてからずっと晴れている空を見上げる。こうした日常を過ごすのも、これからは懐かしくなるんだろうね。地球での日常が昔のように感じるように、さ。

お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:スキル【クリエイト】の考察



 文くんも、弱いなりにヒノキの棒を改良? しようと頑張っています。

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