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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第十八話 普通の女の子 2

「えっと……」

 文は困っていた。何に、と訊かれれば目の前のクラスメイトに、と答えるだろう。

 先程から対面に座るクラスメイトはというと、身体をそわそわとさせながら目を(せわ)しなく動かして辺りを見渡す、と思えばふっと文と視線があい、急いで逸らされるというのを何回もやっている。

 これは関わりたくない事柄だ。そう判断した文はなにか話題はないかと探した時、目の前の人、柚原(ゆずはら)夕花里(ゆかり)との共通点を発見し、早速それを口に出してみた。

「ねえ、夕花里さんはこの世界の料理、どう思う?」

「え? ええ、ええっと……日本人ならではの感覚で言っちゃうと、味が薄い、かな?」

「そういえばそうだね。他の人は全然気づいていないというか、食に対してあんまり興味がないから言わないんだと思うけど、若干味が薄いよね」

「普通に美味しいんだよ。でも食べてもらいたい人へのことを考えると、ちょっと味付けが薄いというか……」

「その薄さがこの世界の人の好みになっちゃうんだろうけど……うん、たまには少し濃い味付けも食べたいし、厨房でなにか作ろうかな」

 そっと呟いた言葉。しかし、今この部屋の中には文と夕花里しかいないわけで、

「厨房を貸してもらうことなんてできるの!?」

 物凄い勢いで食いついてきた夕花里の目はきらきらと輝いていた。

 文は少し引き気味になりながら軽く頷くと、夕花里は文との距離をさらに縮めた。

 目と鼻の先。距離にして一センチだ。

 その後に気付いた夕花里は「ふぁあああああ!?」と奇声を発しながら顔を赤らめて後ろに後ずさった。

 そのままベッドからずれ落ちる。

 文達が座っている場所は、文がいつも眠るベッドなのだ。気まずくもなるはずだが、文は別に誰かと会話するとか想定していなかったために、メイドに頼んで椅子を増やすことなどをしていなかったのだ。簡単に言うと、この場にはいないうさぎ系リリルの状態である。

 文は夕花里のリアクションが面白くて思わずふっと笑った。

「あー笑った~……暗城くん、笑ったぁ…………」

 頭を起こした時にちょうどみてしまった笑いに、ものすごく落ち込んでしまった夕花里に、文は手を振りながら、「違う違う」とごまかしにかかる。

「なんだか、地球にいたころはもうちょっと夕花里さんは固かったからね。なんだか今の夕花里さんは新鮮なんだ」

「……ええ? 私、そんなに固かった……かな?」

 少し地球にいた頃を思い出してみる。

(地球にいたときって私は……ふぁ~…………なんだか暗城くんの前だとギクシャクしてたような……物理的に)

 ひとりきりになったところに偶然を装って歩く時、手足が同時に出ていたり、最初の挨拶がカタカナを並べたかのような棒読みだったりと、いろいろやらかしている。

 だが、異世界という新鮮な場所によって心もリフレッシュしていたのか、とても自然体をとっていた夕花里は、さっきまで普通に会話出来ていたことに自身にグッジョブとすると同時に、なんでさっきまで普通に会話出来ていたのかとその場で悶え始め、文はびくっとなった。

 文は文で、こうやって普通の女の子と話すのは、かなり癒やしの効果があった。この城の中だと一番の癒やしになるのではないかと思うほど。

 ちなみに、普通じゃない女の子を率先としている人は、桜とリリルである。

「まあでも、今の夕花里さんのほうが話しやすいから、僕は嬉しいんだけどね」

 普通が一番だし、と今度は心のなかで付け加える。

 文の中ではそれだけかもしれないが、夕花里は恋する乙女。そんなことを言われると、普通に心の中で舞い上がってしまう。現に顔はさきほどより三割増しで輝き始め、心臓も早鐘を打ち始めており、ぎゅっと自分の胸を抑えた。

「暗城くんは、私とお喋りするの、楽しい?」

 恐る恐る、恋する乙女は想い人に問いかける。すると、

「楽しいよ」

 そう言って微笑まれた。

「というより、夕花里さんこそ僕と話をするのは楽しいのかな?」

「う、うん! 私、暗城くんと話をするの、楽しい!」

「それなら良かった。これでつまらないって言われたら僕も少しぐさりとくるものがあるからね」

 それはきっと、向こうから誘ってきたのにつまらないと言われるただの精神的なイジメという意味でぐさりとくるものだろう。夕花里はそんな悪い子ではないため、楽しいと言ってくれる。

 少しの間続く沈黙。夕花里は必死に会話の種を見つけようとするが、何も会話の種が見つからない。文も文で、何この沈黙? と首を傾げていた。が、さすが読書しているだけあって、すぐに会話のネタを持ってくきた。

「そういえば夕花里さんは家事全般が出来るのは知っているけど、他に何が出来るの?」

「え、ええ? ええっと……おにごっこ?」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………………………………ふぁあああああああああああ!! 間違えたよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ベッドでゴロンゴロンと転がり始める夕花里を、ベッドから素早くおりた文は冷や汗を流しながら眺めた。

 なんとも言えない、と思わずにはいられない。

 転がり続けて一分位経った時、ようやく夕花里は転がるのをやめた。そのとき、枕を自分の身体に押し当てて顔が半分だけ出ている状態にし、涙目で文を見る。決して睨んでいないし、匂いをくんかくんか嗅いだりとかもしていない。これが普通の女の子だからだ。

「えっと、なにができるの?」

 文はさっきのくだりを全て流すつもりだ。同じ質問をすると、夕花里は「うぅ~」と唸りながら、口を開いた。

「えっと、できるとかじゃないけど、子供の世話が好き、かな」

「へぇ。子供世話、という点では僕も得意だよ」

「ふぁー、なんでー?」

「…………いつも、子供のような人を世話をしているからね」

 どこか遠い目をする文。その視線の先に何があるのか。なにか触れてはいけない部分がある。そう直感しなかった夕花里は物理的に遠い目の視線の先を見たが、ただ壁があるだけで首を傾げた。

「子供は可愛いよ。無邪気なだけに、ね」

「うんっ!」

「無邪気な子供は何も知らないから、色々教えがいがあるんだよね」

「そうなんだよね。私も『おねーさん』って呼ばれて『これなにー?』って無邪気に訊かれた時の子どもたちの視線が本当に可愛くて!」

「本当に、無邪気な子はかわいいよ。変にはやし立ててくる子じゃなければ特に」

 うんうん、と二人頷き合う。

 だが、夕花里はともかく、文の場合は少し違っていた。

(桜さんはもう大人に近い年齢なのにあんなにもなんでも聞いてくると、年齢も相まってイライラしてくるんだよね。だから純粋な視線を向けてくるリリルのほうが子供っぽくてかわいい。客観的に考えると)

 ものすごく失礼なことを考えていた。文の桜に対する評価は、手のかかる大きな子供なのだ。リリルは純粋なうさぎである。子供扱いされていない。

 夕花里は純粋に小さい子のことを考えているため、ほんわかとした表情を浮かべていた。

 その表情を眺めていると、そういえばと文が口を開いた。

「あーっと、そういえば厨房の話なんだけど、別にあの大きな所じゃなくても使えるとこがあるんだよね」

「え? そうなんだ?」

 相変わらずいろんなこと知っているなぁ、と感心しながら文の言葉に耳を傾ける。

「僕も聞いた話だけどね。食材も僕らならいくらでも貰えるらしいから、今から作りに行く?」

「ふぁ? ふぁあああああ!?」

 突然のお誘いに夕花里が声を上げてその場で飛び上がった。

「どうする? 嫌なら別にしないけど?」

「い……」

 枕に顔を埋めながら、

「いき、ます……」

「じゃあ、行こっか」

 そう言って文が手を差し伸べる。文の顔を一度見て、差し伸ばされている手を見る。

 夕花里は少し顔を赤らめながらそっと手を取ると、文に手を引かれながらその部屋をあとにした。

















その数十分後。

「フミ様、どこにいらっしゃいますか?」

 コンコンと三回ノックする。しかし、中からの返事は無かった。扉に手をかけてそっと押す。

「……開きますね」

 それもそのはず。文は部屋に鍵をするという習慣が無いからだ。

 だが、

「…………事件でしょうか?」

 何故か変な方向に勘違いしたその少女――リリルは、しかし(さと)い子はすぐに違うと首を振る。

「これは…………私とお話する約束を忘れて他の方とお話している気がします!」

 半分合っているが、半分合っていない。別に文はリリルとお話をする約束はしていない。だが、なんとなく習慣化していたお話し合いの機会から勘違いが生まれたのだった。

「……これは……私、フミ様を探せば良いのですね!」

 これもお友達として、です! と謎のやる気に目を輝かせながら部屋から飛び出していった。



 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:恋する乙女、ふぁーちゃん。


 家事スキルが高い柚原夕花里さん。料理ー。なにがでてくるかなー。

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