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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第十六話 気づかぬライバル心

 この大広間では異様な空間が二箇所出来上がっていた。

 一つは、ハーレムを囲っている第一王子ことフィリップ=ヘデンシカ=ド=カスティリア。

 彼が金髪イケメンで目を引いているのではなく、周りにいる女性によって、だ。

 周りにいる女性のが二人三人だったらまだそこまで目を惹かない。しかし、それが九人十人となれば話が別だ。

 そこには華があり、近寄り難い聖なるオーラが発せられる場へ変貌する。

 一人の男性が十人ほどの女性にチヤホヤされる。男にとっては夢であり、独り身男性の嫉妬の対象だ。

 その場所がまず一箇所。

 しかし、そこは何時ものことなので慣れた様子の人がほとんどだ。

 なので自然ともう一つの場所へ視線が集まる。

 そこには、勇者御一行、第八王女、メイド長、文の七人である。

 桜とリリルが詰め詰めなのは気のせいではない。ものすごくリリルが居心地悪そうに座っている。なにやってんだ。

 文も主人公に挟まれて居心地が悪い。はやくここから抜け出したい。

「……とりあえ――」

「とりあえず自己紹介しようか」

 文の言葉を遮り、翔が文が言いたかったことを先に言った。少し変な顔をしたが、別にそのことに突っ込むのもどうかと思い、おとなしく文は口を閉じた。

「まず俺は篠田翔。職業は勇者で聖剣の担い手だ」

 学生だよね、と心の中で文が突っ込んだが、よくよく思い出してみると自分もヒノキの棒の勇者とあるし別に正しいかなと考え直した。

「俺は橋本銀河。拳聖だ」

 素っ気なくそう伝える。

「私は望月梓。後の魔王よ」

「「「冗談に聞こえないからやめて!?」」」

「そ、そう? コホン、職業は魔法少女よ」

「魔法使いな」

 翔がやれやれと言った具合で修正を加えて行く。

「じゃあ次はさく……ら…………?」

 言葉が進むことに声が小さくなっていく。そのことを不思議に思った全員が桜の方を見て、ぎょっとなった。

 桜は先ほどからずっと隣に座っているリリルをガン見しているのである。本当に肩身が狭そうだ。

 先程からリリルは文へとチラチラと視線を向けていた。その視線の意味は、助けて、だろう。


 ジィィィィィィィィィィィィィィィッ


「おい桜? 次お前の――」

「文くん!!」

「フミ様」

「「この子(方)はなんですか!?」」

 翔の言葉を遮るように声を張り上げて文へと詰め寄る。が、机に阻まれているため、上手く詰め寄れない。

「あーっと……」

 どちらから紹介すればいいか考え、勇者ご一行の一員である桜の方が優先かなと思い、そちらから紹介しようと考え言葉を紡ぐ。

「こちらは東雲桜。ああ、名前は後ろだよ。勇者御一行の一員で聖女。クラスメイトだね。んでこちらはリリル。巫女さんで僕の友達」

「ク、クラスメイト……!?」

 その言葉に桜は激しくショックを受けた。その意味を正しく理解できたのは梓と銀河、そしてミニスタシアだ。他のものは何故そこまでショックを受けるのか疑問に思わずにいられなかっただろう。ただ、文はどうでもいいという感じだったため、そのことに関心を寄せてはなかったため、対象から外れるだろうが。

 この時、ミニスタシアはどちらかというと「巫女さん……?」と疑問に思ったが、口に出すことはなかった。

「ともだち……友達………………ふふっ」

「よかったですね、リリル様。初めてのお友達できまして」

「はい!」

 満面の笑みで返事をする。

 その表情をみてミニスタシアも頬を綻ばせた。その様子をみていた文が「やっぱりリリルって友達いなかったんだなぁ」とか酷いことを思っていた。やっぱりって。

 ぱくりとデザートをぱくりと口に含み嚥下(えんげ)したとき、文がそのメイドが誰なのかまだ聞いてないことに思い至る。

「そういえば、そちらは……?」

「すいません、自己紹介がまだでした」

 座ったまま(うやうや)しくお辞儀をする。

「私はミニスタシア=ネレンドリィです。この城のメイド長をやらさせていただいております。以後お見知り置きを」

「ああ、よろしくです。ミニスタシアさん」

 皆の代表として翔がそう言った。

(ふぅん……メイド長、ねぇ……)

 文は計画の一つをミニスタシアを使って実行に移せるかを考え、薄く笑みを浮かべた。

 その文の顔をみて、リリルが「ひぅっ!?」と悲鳴を上げる。どうした、という訝しむ視線が全員からリリルに突き刺さり、身体を小さくして赤面した。悲鳴あげたり顔を青くしたり肩身狭くしたりと、色々忙しいリリルである。





 カチャカチャと和やかに交流を交わしながら食事をして行く。

 その中で今だにショックから立ち直れない少女がいた。その少女は「クラスメイト……クラスメイト……」と鳴き、周りに負のオーラを撒き散らすモンスターだ。モンスターかよ。

 とにかく、一人のモンスターになりかけてる少女をおいて楽しい時間を過ごしていた。

 そんな中、これ本題とばかりに翔がチビチビと食事をしていた文に話しかけた。

「なあ文。お前、訓練はいいのか?」

 一体なんのこと、と思ったが、昼間はサボっていることを思い出した。

「大丈夫だよ。僕は非戦闘要員だから」

「そうなのか? そういや、お前の職ってなんだ?」

「……木こり」

「木こりか……確かに戦闘向けではないな」

 嘘を簡単に信じた。ちょろい!! と文は心の中で叫ばずにはいられなかった。

「でもな、筋力を鍛えないと、いざって言うときに困るぞ」

「……腕立てでいい?」

「うん。そうだな」

 話を盗み聞きしてたリリルがそれでいいのかな? いいのかな? と疑問を抱いたが突っ込むことはなかった。

「ダメです!!」

 急に復活した桜が突然叫んだ。

「文くんはそのへにょへにょでクニャクニャの体じゃ死んじゃいます! 溶けます!!」

「「溶ける(ですか)!?」」

 桜の謎の言動に文とリリルが揃って声を上げた。

 それをみて若干羨ましそうな目をしたが、ゴホンと切り替える。

「文くん。訓練には参加してください! じゃないと私がさみ、じゃなくて文くんが海で泳ぐ羽目になります!」

「それ、タコだよ……」

 もはや人間ですらなかった。

「タコくんって呼ばれたくなかったら訓練に参加して!」

「い、異議ありです!」

 リリルが少し気後れしながらも控えめに手を上げて発言した。

「明日は、私とお話しする予定がありますので……」

「お、おはなし……!?」

 (すが)るような視線を文に送るが、

「そうだね。その後も予定があるし、やっぱ腕立てが妥当かな」

 あっさりとそう言われ、桜は自身じゃ気づかないがかなり落ち込んだ。

 その様子をみたミニスタシアは『あぁ、フミ様が……』と納得顏をし、小さく微笑んだ。

「なあ、翔。お前今どんぐらい強くなったんだ?」

 桜が落ち込んでいるのを見て文に嫉妬し、銀河は明らかに話の路線を変更する。それに気づいているのかいないのか、翔が律儀に答えた。

「うーん……兵士長と同等ぐらいかな。でも、騎士団の方にはまだ手が届かないな。彼らは精鋭部隊らしいから」

 兵士は募兵制で集まった者の集まりであり、多少の剣技の心得しかない。その中で兵士長は一番強いものがなるルールがあり、平均よりは少し抜けたぐらいだ。

 多少の剣技しか心得がない、と述べたがそれでも数日やそこらでたどり着ける場所ではない。まして、兵士長はまた別格なので余計にたどり着けない。どれほど翔が異常かわかるだろう。

「そこらあたりかぁ……同じだな。あと少しで兵士長を倒せどうなんだがなぁ」

「そうだな。俺もあともう一押しだと思うんだ」

 二人で戦術の話を始める。

 彼らにとって『勇者』という肩書きがクラスメイトよりも重くのしかかってきているのだろう。それはきっと、梓や桜も同じである。

 無論今はそれどころではなく、

「リリル様。頑張ってください」

「えっ!? 何をですか?」

「それはですね……」

「ふぉあわっ!」

 女の子らしからぬ声を上げた桜がグワッとリリルの方を見る。

 間に挟まれて会話をされると気になってしょうがないのだ。

 なので会話に入ろうと顔を上げたのだが、ここで困るのはミニスタシアだ。

 片や無自覚な恋する女の子。

 片や文に興味を持っている女の子。

 その間を持って会話するなど至難の技。自然と言葉がしどろもどろになる。

「リリルちゃん! よろしくっす!」

「えっと……よろしくっす……?」

 早くもサクラワールドに取り込まれてしまったリリルはもはや逃げ場はない。脱出方法は外部からの助けが必要であり、その助けは既に巻き込まれていたので救出は不可能だ。

 唯一サクラワールドに巻き込まれない梓がやれやれといった感じで梓が仲裁に入る。

「桜、そんぐらいにしておきなさい。リリルさんだっけ? 悪いわねうちのアホが」

「あ、はい。大丈夫です」

「あとミニスタシアさんも桜を預かってくださりありがとうございます」

「いえ。あと敬語は不要です」

「あ、私もさん付けはいりません」

「そう? わかったわ。リリルちゃん、ミニスタシアさん」

 あっさりと敬語をやめて気さくに話し始める。

 こういうあっさりした性格が以外と桜とあったりするのだ。

「私、アホじゃ、ないもん?」

「疑問系でってことは、少しは自覚あるんでしょ?」

「う、うーん……?」

 微妙なラインだ。頭のネジが十本ほど飛んでいることは間違いないだろうが。

「キルちゃん! ヘルプ!!」

 キルちゃん? と疑問を抱く二人、その名を聞いて軽く焦る者が一人。

「ここでキルちゃんはやめてください……!」

「ええー。なんでなんだろねーキルちゃん」

 どこからともなく取り出して話かける。しかし、あまりにもシュールなぬいぐるみに梓とリリルはドン引きだ。

「あんた……なによそれ」

「お答えしよう! キルちゃんである!」

「…………」

「…………」

「…………え? 説明それだけ?」

「うん!」

 全然説明されなかったことに梓は衝撃を受けた。

「…………あ、思い出しました。それ、ミニスタシアさんがいつもお持ちになっているぬいぐるみですね。キルちゃんってサクラ様がお名前をつけらしたのですか?」

「そだよー。可愛らしい名前でしょー?」

「はい。とても可愛らしい名前ですね」

 えへへーと笑う桜と行儀良く微笑むリリル。

 名前の由来を聞くと女子勢は皆、青い顔か白い顔をするだろう。白い顔というのはミルクを飲んでいる時に吹き出して顔面にかかることだ。臭い。

 その後も女子達の会話は続いた。

 その中心人物は桜であって二人は基本ツッコミをしたりツッコミをしていた。ツッコミが二人とはなんとも大変である。突っ込まないリリルはというと、

(また、友達が増えたです。嬉しいです!)

 嬉しそうにニコニコと終始笑顔を浮かべていた。

 ところで、文はというと、既にその場にいなかったりする。

 おかわりするといって立ち、そのままその場を去ったのだ。

 本当なら図書館に行く予定だったが、疲れが酷かったため少し遠回りをして部屋に帰ったのであった。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:気づかないからこそ、こわい。


 参考までの席です。


 銀河   文  翔

―――――――――――――


 ―――――――――――

ミニ  桜 リ  梓


 桜とリリルが寄っているのは仕様ですね。

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