第十五話 一人の下に
ブルリッ
冷たい視線を感じて思わず身震いした。
「だ、大丈夫ですかフミ様?」
「あ、うん……多分」
「多分ですか!?」
完全には安心しきれない文の言葉に思わず声をあげてしまった。
周りの視線を少し集めてしまい赤面して文の後ろに隠れる。
その様子を苦笑いして、ほらいくよ、と促した。
リリルを引き連れながら、もしかしてと後ろをちらりと見る。
(さっき僕の過去話が嘘だってバレたのかな……)
◆
さて、文はバイキングでどういった料理が置かれているか知らない。
なぜなら文はいつもギリギリに来るからである。しかし、今日はピーク時にやってきており、まだ料理がたくさん残っている状態だ。肉・果実・野菜などよりどりみどりで文の目はいつもより輝いていた。
しかし肉、果実、野菜で目を輝かせるということは、今まで一体何を食べていたのか。普通のパンだけである。
ひもじい思いをしていた。
「肉、果実、野菜」と料理が置かれているが、ここに魚はない。その理由は王都が国全体で見渡すと内陸にあるからだ。この異世界には保存方法がそこまで発達しているわけではないので配達途中で痛んでしまうのだ。
運び込もうと思えば運び込むことができる。ただし、運び込むには氷属性の魔法が使える魔法使いに魔法をかけてもらわなくてはいけなく、お給金も出さないといけなくなるので、その元手を取らないと赤字になり、結局かなり高価になって王家でも大量に仕入れるのは財政が破綻しかねないし、国民からの反感も買ってしまうことになる。
文はとりあえず小皿によくわからない肉とよくわからない野菜を少しずつ取っていき、人がまばらになっているところを目聡く見つけて、二席確保しておく。
すると少し経ってから、リリルがトトトっといろんなも料理を載せた小皿を持って小走りで文に近づいてきた。
「遅くなってすみません!」
「気にしないで。とりあえずその小皿に乗っているのを全部くれたら許すから」
「結構気にしているです!!」
文がめちゃくちゃ気にしていることにリリルはショックを受けた。
「冗談だよ……多分」
「多分ですか!?」
ボソッと付け加えた言葉に激反応した。どれぐらいかというと立ち上がって声をあげてしまうぐらい。
すぐに自分の行いに気づき顔を赤らめてまた座り直す。
「いただきます」
「い、いただきます」
全ての流れを無視して文が食べ始めたのでつられて食べ始める。
しばし無言で周りの雑音に耳を傾けながら黙々と食べる。
が、ふと文は何気無く言った言葉に違和感を覚えた文の手が止まった。もう少し具体的に言うと、耳に入ってきた言葉だ。
「……いただきます?」
「な、何かおかしかったですか?」
「おかしいも何も……いや、なんでもない」
スキルの【言語マスター】でそう変換されただけかな、と考え、言葉を濁した。
実際はこの国の遠い昔の勇者が食事をする際、『いただきます』と唱和していたのが始まりなのだが、そこまで文が推し量ることはなかった。
そしてまた無言で食べ始める。
と、今度はリリルが口を開いた。
「フミ様は、食事が終わりましたら、どうなさいますか?」
「図書館。今日まだ行ってないからね」
「そ、そうですか……」
シュンっと落ち込んだ。それをみた文がはぁっとため息を吐く。
「……僕に何かして欲しいことでも?」
「はい……またお部屋でお話を……」
「いや、今日はもう何時間って話をしたよね? そんな話すこともないと思うんだけど」
「そ、そうですよね……」
明らかにしょんぼりとして落ち込んだ。しかし、五時間以上話したのは事実なことであり、表には出していないが、文はかなり疲れている。
しかし、ただ純粋に話がしたいということが文にひしひしと伝わり、もう一度ため息を吐いた。
「……明日、明日僕の部屋に来てくれれば話し相手になってあげるよ」
「っ! はい!」
ぱぁっと顔を輝かせる。
上から目線だった文だが、そのことには気づいていなかった。
「で、では、いつ伺いましょうか?」
「そうだね……朝はどう? といっても僕は自分で起きない限り寝起きが悪いんだけどね」
「わかりました!」
そういってリリルは顔を破顔させた。
あまりの笑顔に少し文が引く。周りの人は『女神様……』とか拝んでいた。女神様は別にいるだろうに。
ちなみに、文は確かに起こされると少し寝起き悪いが、それは他の人も変わらない上に、起きるのも結構早い。それに明日は図書館に行く予定があるため、すれ違う可能性が大である。
それからしばらく談笑しつつ食事をする二人だったが、そこに水を差す輩が現れた。
「やあ文。久しぶりだな」
「……翔。あと銀河に梓さん……」
そう、言わずもしれた、勇者御一行だ。
勇者御一行ならいるべきはずの桜がいないのに勇者御一行と言っていいのか。
翔と銀河は訓練が終わった後そのまま来たからなのか、汗で服が張り付いていたりしているのにもかかわらず、どこか爽やかだ。梓はなんとも面白そうな表情を浮かべながらリリルと遠くを交互に見ている。そして、ちょいちょいと手招きする仕草をした。
「文。隣いいか?」
銀河がそう言うなりドガッと隣に腰掛ける。その逆サイドに翔と座り、対面に梓さんが座った。文の対面にはリリルが座っているため、その文から見てリリルの左へ、だが。
文は拒絶の言葉を並べようとしたのに座られてしまったので、なんとも渋い顔をした。
遠くで『私も!』と叫んで近づいてくる一人の美少女も。
「私も! 私もここで食べる!」
「なぜ、私も……?」
一人のメイドを引き連れて。
その声を聞こえた時、文はいろんなことを諦めた。具体的には、めんどくさいことを回避することを。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:文君の過去話は嘘だと判明
文がいるところに勇者御一行と巫女/姫と謎メイドが集まる図。




