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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第十四話 一方その頃 5

「すみません……少し取り乱してしまいました」

 気を取り直したミニスタシアはそう言って桜に頭を下げた。

 少し取り乱したレベルではなかったのだが、それを言うとまたミニスタシアがおかしくなってしまうと、珍しく空気を読んだ桜はそのことに触れること無く、ただ微笑を浮かべるだけだった。

「じゃあ、行こっか! あとちょっとだよね!」

「はい。ここの突き当たりを左に曲がり、階段を二つ降りた後、折り返すように歩き、今度は右に曲がったところですね」

「………………うん! 勿論覚えていたよ!」

 ジトリとした視線を桜に送る。汗ダラダラに流しながら前を少し早足で歩きは始めた。

 はぁっとミニスタシアは吐き出す。

「とりあえず、サクラ様は早く道を覚えましょう」

「バレてた!?」

「メイドですから」

 メイドだから心読めるようにならないのだが、桜はまんまと納得している。きっと桜はお菓子をくれると言われたらまんまとついて行ってしまうだろう。

「冗談です」

 こう言われない限り、絶対に気づかない。

「騙された!?」

 こう言っている時点で、桜を一人にすることは確実にできない。やはり保護者が必要であり、この場合の保護者は梓か文である。

 クスリと笑うミニスタシア。百面相をする桜に、悪戯(いたずら)(ごころ)が芽生えたのか、こんな質問をした。

「そういえば、サクラ様にはお慕いなされている方はいらっしゃらないのですか?」

 先ほどの意趣返しというのもあったかもしれない。ただ、桜には効果が抜群ではあった。

「お、お慕いって、こ、恋だよねっ!? い、いません!」

「本当でしょうか? 私、メイドを始めてから結構な時が過ぎ、たくさんの方が寿退職をなされていく姿を見ていきましたが、こうした所謂(いわゆる)恋愛話になった時に動揺する方は全員、男性に恋慕を募らせている方でしたよ」

「ふぇぅ……!?」

 ポンッと音を立ててその場に立ち尽くす。ミニスタシアはそっと桜の隣に立つ。

 こうした恋愛話に敏感なのはどこの世界も一緒のようだ。ミニスタシアの場合、情報はより多く持っていたほうが良いという打算的な精神で行っているが、他のメイドはそうでもなく、ミニスタシアが語ったように恋愛話――つまるところ恋バナに花を咲かせる事が多い。

 桜は暫く固まった後、ふっ、と力が抜けたように冷静にを取り戻して口を開いた。

「でも、もし誰か恋をしているなら、私って誰が好きなんだろ?」

「自身ではわからない、ですか。サクラ様は自身の恋に鈍感のようですね」

「う、うん……?」

 頷くが、よくわからない。

 恋をする気持ちとはなんなのか。まだ経験したことがない桜はふむ、と考えこんでしまう。その思考の渦に入り込むより先にミニスタシアの言葉が桜の耳に入る。

「私の推測ですと、三人……いえ、二人まで絞り込めますね」

「えええっ!? だれ、だれなのかな?」

 隣にいたミニスタシアに詰め寄りながら問いかける。が、ミニスタシアはゆっくりと首を振った。

「言ってもよろしいですが、これはいうならばサクラ様だけの恋路です。私がここで口出しをしてしまいますと、サクラ様が恋愛を苦手になってしまいますのでやめさせていただきます」

「そ、そんなぁ~……」

 膝をがっくりとおってその場に手をつき項垂れる。

「ですが」

 その言葉に桜は少し顔を上げる。

「ヒントは差し上げましょう」

「ほんとにっ!」

 それに頷くと、言葉を続ける。

「サクラ様が一番話したいと思う方。その中に含まれております」

「えっ? ええっとぉ~……」

 そう言われてだいぶ絞りこまれてくる。

 翔と銀河…………そして文。

 この中に梓が含まれていないのは恋愛対象としてみていないためであり、桜がノーマルだからである。決して仲間外れにしようとは考えていない、はずだ。

 うーんうーんと誰なのか頭を悩ませていると、またミニスタシアはクスリと笑い、

「もう着きますよ」

 と言って、この件は有耶無耶のまま夕食時の騒がしい食堂へと入っていった。



 ◆



 この王宮の料理はいつも豪勢に振舞われる。

 異世界人が来たことによって王直々に料理人へ発破がかけられたからかもしれない。だが、そんなことしなくても、客人に、それもたくさんのお客人だ。自慢の腕を振るいたくのもわかるだろう。

 それはもう、肉料理からドリンクまで。目に美味しい、耳に美味しい、口に美味しい。

 五感にうったえかける彼らの料理は絶品である。それはもう、よだれが溢れて止まらないほどだ。

 今日も今日とて、料理が運ばれる。料理人は朝・昼・夜とずっと厨房に籠っているわけではない。朝か昼か夜か。この三つのうち一つを選び、厨房に入って自身の料理を振舞う。

 こんな楽な仕事はなかなかないぞ。そう思うかも知れない。

 こんな裏がありそうな職業はなかなかないぞ。そう思うかもしれない。

 今回はどちらかと言われると、後者である。

 料理が好きな異世界人男子が異世界の料理に興味を持ち、少し手伝いでも入れるかなと厨房に行った時、その考えは甘いことを知った。


 ――――料理は常に、最高級であれ。


 でかでかと書かれた掛け軸に目を奪われる。次いで厨房を覗きこんだ時、自身の中にあった料理へのプライドと自信はぺっきりと折れた。

 包丁捌きから、フライパンを一振りする動きから、そのイケメン臭がする顔から。

 全てにおいて負けたその異世界人は、その後鬼気迫る顔で訓練に励み、自身の得意とする武器の習熟度がかなり上がったという。

 なお、その訓練をみていた桜は、涙を流しながら行われていたその男子をみて、恐怖して身を震わせたという。

 そんな料理人達が作る高級料理店並の料理が並ぶバイキングだが、慣れというものは恐ろしい。

 最初は見ただけで歓声を挙げ、挙動不審状態に陥っていた桜やほか異世界人。

 しかし、今では普通に料理をとって食べるまでに成長をしているのだ。

 郷に入れば郷に従え。

 この形に則ったといえば良いのだろうか。

「じゃあミニスタシアさん、料理取りに…………あれ?」

 食堂の中央辺りまで進んだところで桜がミニスタシアを振り返って料理を取りに行こうと発案しようとして、目を丸くした。

「な、なんでもう料理がミニスタシアさんの手の中に!?」

「メイドですので」

「答えになってないよぉ!」

 ごもっともである。だが、

「でも、ミニスタシアさんならこんなの夕飯前かぁ」

 さっきの分身とか見てるし、と納得してしまった。

「桜様の分も僭越(せんえつ)ながら取っておきました」

「ほんとにっ!? ありがとうミニスタシアさん!」

 お礼を言うと、桜はぐるりと見渡した。まだ夕飯のピーク前ということで、雑然とはしているがところどころ席は空いている。だが、桜が探しているのはそっちではない。

(うーん、まだ梓ちゃんもと文くんもまだかぁ)

 がっくりと肩を落とし、そういえば文を食事の席で見たことがないことを思い出す。

 そもそも、文と桜が最後に会ったのはいつだったのだろうか、と思い出そうとした所、意外な事実に突き当たった。

(文くんと会話したのって、召喚された日と次の日ぐらい!? 最近元気なかったのって文くんに会ってなかったからなのかぁ……)

 文をなんだと思っているのか。

 ちなみに桜は、形式とはいえ心配してくれた文に、嬉しすぎて『ヒャッハー! 無双だ無双だー!』っと元気アピールしたせいで引かれていたのだが、そこまで気がついてはいない。

 桜とミニスタシアは、うまい具合対面に座れるところを探し、座り込む。と、そこで桜の偏見だったことだけに軽いカルチャーショックだった事を聞いてみることにした。

「私気になっていたんだけど、みんなここでごはん食べるよね?」

「そうですね」

「それってなんで?」

「それは……」

 動かしていたフォークを止めて口の中にあったものを嚥下し、答える。

「料理人の姿を見たことがありますでしょうか?」

「ううん」

「そうですか」

 一呼吸置いてから、語り始めた。

「料理人はこうした絶賛を受けるほどの料理を作れるわけなのですが、そのせいかプライドも高いのですよ。ですので、何代か前の王が料理を持って来いと注文した時、当時の料理人がストライキを起こしたのです。それ以来、暗黙の了解と言った具合に、規則こそありませんが、上は王、下は私達メイドや執事など身分に関係なく食事を一緒にすることにしたそうです」

「ほぇー……。じゃあ、王妃様や王女さまもここで食べているんだね!」

「そうですね……サクラ様、後ろを御覧ください」

「ほへ?」

 言われたとおりに後ろを見る。

 雑然とした食堂の中に、桜の中では特別目立つ人はいなかった。桜の中で目立つのは翔達と文とメイドだけである。文はとても遺憾に感じるだろう。二言目は『記憶にございません』かもしれない。

 ぽきゅっと小首を傾げながらミニスタシアに視線を戻した。

「……もう一度御覧ください。丁度真後ろ、視線の一直線上に輝くような金髪をした男性が見えるはずです」

 そう言われてもう一度みると、確かに桜の視線の先に金髪の男性がいた。

 整った顔立ち、少し長く伸びた髪を後ろで軽く結い、食べている姿は絵になるほどだ。が、

「うわぁ…………」

 桜は少し引いていた。なぜなら…………

「みえましたか? あの女性を沢山侍(はべ)らせている方ですが、この国の第一王子、つまりこの国を継ぐ人ですね。あまり語れるような人物ではありませんが」

 最後の方はミニスタシアも声を落とす。

 彼の周りには七人ほどの女性が王子に対して身を擦り寄らせている。それだけならまだわかる。が、その行為が当然とばかりになんともなく食事をしている王子に対して引いてしまったのだ。

 軽蔑したのは、桜が女の子だからだろうか。

 とにかく少し気分が悪くなったため、視線を食事のほうへと向ける。それだけですぐに気分が良くなった。

 異世界料理、といっても地球のものとはあまり変わらない。…………味が、という点がだ。

「ほんと、なんで塩焼きそばの様な見た目をして、ミートスパゲッティの味がするんだろうなぁ」

 美味しいから良いんだけどね、とぼやきながらも一口。やはりその味は絶品級だ。塩焼きそばが好きな桜は、初めてこの料理を食べた時に心で涙した。

 うーまー! とほっぺに手を当てながらとろけた表情を浮かべていると、ミニスタシアがふむ、一つ問いかけをしてみることにした。

「サクラ様」

「なんでござるか?」

「……………………………………サクラ様」

 桜の返事はなかったことにしたいらしい。ミニスタシアは続けて言葉を紡ぐ。

「サクラ様はここ、《ラズワディリア》の生活はどうでしょうか?」

「んーっと、かいてき! 快適だよ。お恥ずかしながら最初は精神がまいっちゃったんだけどね」

 あはは、と笑う桜。だが、それを笑うミニスタシアではない。

「私はそれが普通だと思います。突然、今まで住んでいた場所から見知らぬ異世界に飛ばされたのですから。初めてこの話を王から聞かされた時、私は(いきどお)りしか感じませんでした」

「え? 怒ったってこと? でも、なんで?」

「それは……いえ、私的な感情ですので言えません」

「ええぇ~……」

 ぶー、と頬を膨らませながらもデザートであるプリンに手をかけて食べ始める桜は、なんとも幸せそうで、思わずミニスタシアも頬を綻ばせる。

「まあ秘密の一つや二つはあるよね……キルちゃんみたいに」

「あ、あれは別に隠していたわけでは……」

 まごついて顔を赤らめながら弁明する。その表情をみて、桜もほっこりとして笑顔を浮かべて、先ほどポケットにしまったキルちゃんを取り出す。

「ほら、キルちゃんも言ってるよ。『きみきゃわいいね!』って」

「はわー……」

 若干桜のようになりかけているミニスタシア。だが、首を振って我に返る。

「……話を戻させていただきますね」

 そう言われた瞬間桜はキルちゃんを素早く、優しく、丁寧にポケットに仕舞い直し、佇まいを直した。

「そうだね。なんで生活はどうだーって訊いたの?」

「それは、今回召喚された方々の中に一人だけ、皆様とは別で行動している方がいらっしゃるからです」

「……私?」

 確かにポーッとしていたり、メイドやったりしてるけどなぁ~、と思っていたら、ミニスタシアはゆっくりと首を横に振ってやんわりと否定した。

「確かにサクラ様も他の方とは結構違うことをしてらっしゃいますが、それは聖女という職業になったからこそであり、そこまで不思議な行動はとられておりません」

「そっかー。じゃあ、もっと突飛な行動をすればいいんだね!」

 ふんすっ! と気合を入れはじめた桜に、ミニスタシアは桜の保護者役にきちんと保護していてもらったほうがいいんじゃないかと検討しなくてはいけなくなった。

 が、その検討も食堂へ入ってきた人によって遮られることになる。ちなみに思考が遮られていなかったら、桜はなぜか部屋のなかで監禁状態である。少し危ない思考の持ち主なのかもしれない。

 桜も入ってきた人の中に一人の男性を見つけ、立ち上がった。

「ふみく――――」

 嬉しそうに手を振って呼ぼうとした動きが停止した。

 それに気づかずにミニスタシアは口を開いた。

「そう、フミ・アンジョウ様です。彼は訓練あまり参加もせず、召喚された日も、異常なまでな冷静さを保ち、その日から図書館に通い詰めという日々を過ごしておりまして…………」

 ミニスタシアが文の異常性を語る。が、桜はそんなことより混乱でいっぱいだった。

(な、なななななななな!? なんで文くんがおにゃのこと……!? おにゃのこ! おにゃのこだよ!? しかもかなり可愛い! 美少女! び・しょ・う・じょ! 美少女だよ!! なんでなんで!? なにがあったの! しかも…………かなり楽しいそう!!)

 混乱しすぎて若干錯乱しかけている。

 一周して思考の整理がついたかと、桜は獲物を狙うかのように隠れると同時に、ジ――――――――――――――――――――――――――っと文と謎の美少女を監視し始めたのだった。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:桜さんが食べているものは見た目は塩焼きそば、味はミートスパゲッティ。

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