第十話 一方その頃 1
時を少し遡り、文がリリルに尾行されている時間まで戻る。
カスティリア王国王都にある、ヘデンシカ城。
場内には大量の客室や水浴び、食堂など、王宮として名乗れるほど多くの施設が揃っている。
その中の一つに、訓練場がある。
異世界へと転移してきた翔達がやる気をみせて訓練に励み、日々精進している。今は最初は雑兵で作られた兵士団を師に仰ぎ、それぞれの武器の特性ごとに全力で立ちまわっている。
そんな集団を物影の涼しいところで、ボーッと眺めている少女がいた。
その少女の名は、東雲桜。
彼女は【聖女】という職業故に、攻撃魔法はあまり得意としない。
また彼女が武器を持ち歩くことを頑なに拒否したがために、こうして訓練の様子を眺めていたり、時折翔達と話したりしているのだ。
ただボーッとしているわけではないというのが本人の主張だ。
ただ、ぼんやりと空を眺めたり、ぼんやりと遠くを見ていたりしているだけだという。ボーッとしているじゃねえか。
桜は欠伸をしながら訓練の光景を眺めていたが、なんとなく〈ステータス〉と呟き、自身のステータスを確認する。
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シノノメ サクラ
LV.1 職業:学生・聖女
HP:400/400
MP:100/100
力:28
守:30
速:56
魔力:78
固有武器:叡智の書
魔法:ヒール・キュアル・バイト
スキル:武器召喚/収納・ボックス・言語マスター・詠唱破棄・オーバーキュア
称号:勇者・聖女・女神に認められしもの
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魔法には、基本的に大きく分けて《攻撃魔法》と《補助魔法》が存在する。
初級火系統魔法の一つ【ファイア】は、攻撃魔法に入る。
また、回復をする【ヒール】や毒などを清浄する【キュアル】、攻撃力を多少上げる【バイト】などの自身、もしくは他人にかけるものは補助魔法の類に入るというわけだ。
聖女の称号を持つ桜が覚える魔法は、基本的に補助魔法が多くなる。
魔物を討伐するというハイリスクを最大限軽減するには、桜の魔法は必須と言えよう。
しかし、当の本人はというと。
(はぁ……なんでこんなことになっちゃったんだろ……)
誰にも気づかれないところで深く嘆息していた。
精神がとても擦り減っているのだ。
学校で楽しく過ごしていたと思ったらいきなり異世界に放り込まれる。
極々普通の生活を、精神を持っていた彼女にとって、かなりくるものがあったはずだ。
普通なら部屋に引きこもるなり泣き叫ぶなりするだろう。
実際、王との謁見後、泣き叫びはせずとも部屋に引きこもる者は何人もいた。
数日経った今はすでに全員訓練に参加をしているが、それでもまだ少し現実を上手く呑み込めきれていない者もいる。
桜が今こうして引きこもらず、平常を保っていられるのは、翔達が励ましてくれたのもあるが、一番はやはり文の存在だろう。
彼は学校でもここ異世界でもマイペースにいつも通り過ごしていた。それはもう、慣れていると言わんばかりに。
ただ文は、異世界に憧れを抱いていたというもあったし、やることが出来たからでもある。ただ、桜はそんなことは知らないため、彼の振る舞いを尊敬し、また助けられたのだ。
ただ、翔や銀河は一刻も早く魔族を滅ぼそうと必死に修行し、レベルこそまだ一だが、転移時のチート性能と元々もっていたチート的な身体能力のお陰で、スポンジのようにどんどんと技術を自分のものへとしていっていた。
また、梓は別部屋で特別に宮廷魔法使いに魔法についての座学を受けていて、二人と同じく一刻も強くなろうと一生懸命学んでいる。
よって自然とやることのない桜は自然と一人ぼっちになるのだ。
「はぁ……梓ちゃんいないと暇だなぁ。そうだ! 文君はー……いないんだっけ?」
きょろきょろと見渡すが文が見つからなかった。
「うぅー……ひまー…………」
他にもクラスメイトがいるのだが、まるで眼中にない様子だ。
ちなみにこの言葉を聞いていた男子陣は文に殺意を持ち、涙ながらに訓練に勤しむ姿は、まるで鬼のようだ。
そのことに気づくことなくうーんと唸っていたが、何か閃いたかのように急に立ち上がった。
「そうだ、城内をを探索しよう!」
思い立ったが吉日と言わん限りに城内に向かって走って行った。
余談だが、このことを見ていた女子は、
「暗城くんね」「暗城君探しに行ったわね」「やっぱり暗城くんなのよね……私も……なのに」「えっ!?」「えっ!?」「えっ!?」「だれ、今暗城くんのこと好きだって言ったのは!?」
と、訓練を横に恋バナで盛り上がり、
「くそぅ! 暗城爆ぜろ!」「暗城……抹殺するか?」「ブラッド……フェスティバル……改」「爆ぜる……初級だが爆発系の魔法、俺あるぜ?」『そ・れ・だ!!』
男性陣は別の意味で盛り上がっていた。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:桜は城へ(表向きは)探索に向かいました。




