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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
三章 獣人族騒乱編
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第九十七話 誰のための対立か 1

 前回までのあらすじ:

ヒュンベ(対立相手)をつかまえた! 名前をつけますか?

「それで」

 こめかみを抑えながらウィズを睨む。

「なんでこれを連れてきたのさ」

 指でそれを指して問い詰めると、ほにゃっと柔らかい表情を作って首を傾げた。

「なんでって、なんとなく? ぺろぺろ?」

「ぺろぺろじゃなくってさ……はぁ」

 大きくため息を吐いて視線をウィズから足元に移すと、そこにでかいものが転がっていた。そのどうしようもない事実に頭をおさえた。

 今いる操舵室には僕とウィズ以外誰もいない。フェンはいまだに警戒中だし、ピミュさんはボッチちゃんを慰めに行っている。よって、自然といつの間にか戻ってきていたウィズと二人だけになるわけだけど。

 いかんせん、ウィズ曰く『お土産』が僕を悩ませる状況に追いやっている。別にどうでもいいや、で済ませてもいい領分なのかもしれないけれど、ここが今船の上で逃げられない状況ともなってくると話は変わってくるわけで。

「ウィズ、もう一回聞くよ。――――なんで僕を殺そうとした獣人族(ディヴィム)をわざわざ生かして連れてきたの?」

 足元に寝ている……縄で縛られている男の獣耳から目を逸らさずに詰問すると、ウィズが「ぺろぺろんっ?」といった具合にふざけたからゲンコツを落として、もう一度ため息を吐いた。




 あの村を出て安全圏まで逃げ出したと一安心したとき。

 あの村に残っていたウィズが帰ってきた。陸からかなり離れていたから「あれ? これもしかして帰ってこれないんじゃ?」と心配したのに、心配し損だった。

 僕が少し心配したぐらいだ。ピミュさんはウィズに泣きながら抱きついた。

 ……家族全員を亡くしているんだからしかたないのかもしれないけど。

 その感動の再会を再現しているかのような二人を眺めながら、今回の一幕を思い返す。

 この世界では、命は軽い。

 今回のことは僕も忘れていたことをお思い出させてくれた。

 どこまでも付きまとう死に、運命が生殺し状態で生かせてくれるなんて、いつのまにかそう思い込んでいた。

 実際、風が吹いて死ぬ可能性だってあるのにさ。

 でも、だからこそというべきか。

「ウィズがこんなひょいひょい僕のところに人を連れてくるとは思えないんだよね。しかも殺人未遂となれば、さ」

「……アタリマエダヨッ」

 あ、違った。

「……ウィズ、あとでフェンと一緒に強制筋トレね」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ッッ!!」

「理由がないのに連れてきちゃったんだし、悪い子にはお仕置きか躾をしないとね」

「同じだよっ!? ……い、言うから! 言うから許して文君!」

 うぅ、と涙目になりながら口をへの字にするウィズ。なんだかさっきより顔と顔の距離が近いような気がするんだけど、気のせいかな。

「本当はね、文君を殺そうした人を殺そうと思ったんだよ? でも、この人けっこー強かった割にはなんだか眼が……その、眼に迷いが見えたんだ」

「迷い?」

「うん。戦いそのものに対してね。かなり強かったのに何に迷ってるんだろーって思ってたら……いつの間にかキャプチャーしてた、かな? ぺろぺろりん?」


「そっか……捨ててきなさい」

「ええええ!?」

 前半は良い感じだったのに、最後の最後での台無し感がすごかった。

 それに、最後の部分を省いた全部を通した答えも、僕はこの獣人族(ディヴィム)はいらないという結論を出す。というか、話を聞いたら余計にいらない気がしてきたぐらい。

 もし今ここで了承すると、確実に面倒なことになる。そんな気しかしない。一番最悪なパターンは、この人が目覚めてすぐにウィズと僕を殺し、残りのフェンやボッチちゃん、そしてピミュさんが殺されるということ。

 一応ロープを【クリエイト】で少し補強してあるから、いくら『力』のパラメータが高くてもちぎれはしないとは思うけど、常に最悪のパターンは考えておかなくてはいけない。

 戦いに迷いがある。そういうのは小説だとよく伏線になっていて、主人公がその戦いを意義があるものにして仲間に引き入れたりする。

 ――――なんでそんな怪しい人を仲間に入れるんだろう?

 そう思ったことは何回もある。読んだことがあるものが転移系ばかりだから(うたぐ)り深く見たり駆け引きをしたりする場面が少ないだけかもしれないけど、それでも地球の、しかも日本人は疑り深いと思うよ。隣人ですら隙あらば疑う二十一世紀なんだし。

 だから何か信用できるものがない限り、自分の命を狙った人なんかを仲間には引き入れることはない。

 ほかにこの人と一緒に行動する理由がない。

「もっかい言うよ。元の場所に捨ててきなさい」

「ぶーぶー! 文君のけちんぼー! ちゃんとご飯もやるしお世話もするからいいでしょー!」

「そんな犬猫じゃないんだからさ……」

「犬! 犬っぽいよこの人!! だからいいでしょ!?」

「ダメ」

「うー……!」

 涙目で睨まれた。こうしてみるとただ駄々をこねる子供にしか見えない。実際は僕の信頼できる人の中で一番強いのに。

 この駄々っ子をどう説得させようか、なんて頭をかきながら口を開こうとしたとき、


「申し訳ございませんが、私から降りてもらってもいいでしょうか?」


 足元から……正確にはウィズがいつの間にか乗っていた獣人族(ディヴィム)が困惑気味にそう言った。

 ……ウィズが妙に近い気がしたんだけど、この人を踏みつけていたからだったのか。




「『こんなひょいひょい僕のところに人を連れてくるとは思えない』というあたりから起きていました」

 結構最初のほうから起きてたんだ。

 そんな感想を持ちながらもこの人の言葉に耳を傾ける。

「ですが、貴方たちの人となりを見極めるために寝たふりをしていました」

「それで? 僕たちは君にとってどう映ったのさ?」

「……普通、と答えるのが一番適当だと。しかし子供と侮るのもまたおかしな話、私は年端のいかない少女にやられたわけですからね。……もっとも、無邪気に顔を踏まれるとは思いませんでしたが」

「にゃはは……。気が付かなかったよ」

 どこまでも冷静な言動に対してウィズがごまかし笑顔を作る。

 さっきまで戦っていたというのに、なぜか険悪な空気にはなっていないのが不思議だ。まあ、険悪じゃないなら僕もそのほうがやりやすいから都合はいいんだけどさ。

 それよりも、とじろりと獣人族を観察する。

 冷静かつ知的な獣人族。これがこの人に対する第一印象だ。ウィズの話だと弓をメイン、剣をサブで扱う人らしいけど、確かにイメージにぴったしだ。

「君さ、名前は?」

「……私の名前はヒュンベです、少年」

「ヒュンベ、ね」

「ボクはウィズだよ。ヒュンベ、ヒュンベ……何か画期的なニックネームはないかな~?」

「ネコマタでいいでしょ。それよりヒュンベはなんで僕を狙ったの?」

 ウィズワールドを一刀両断して一気に核心を突く。するとそれまで(ひょう)々としていた表情が初めて崩れて眉を寄せて苦い顔をした。

「言いたくない、と言えばどうするつもりですか?」

「しょうがないよね、ってなって捨てるかな。あ、言い忘れてたけど、今ここは船の上だから、自然と捨てる場所はわかるよね?」

 アンサー、フェンの部屋もとい筋トレ部屋です。

 そうは言わずに作り笑顔を作ると、「クッ……」とヒュンベが苦悶の声を漏らした。続けて『殺せ』って言われなくてよかった。需要がないよね。

「……ここで無為に命を散らすよりマシ、ですか……」

「だと思うよ」

 ちなみに僕なら三十分で死ぬと思う。死因は全身筋肉痛。

 目を閉じたヒュンベが覚悟を決めるまで数十秒。

 その間に「ネコマタ……ネコマタ……」と一定間隔で呪文のように呟くウィズを撫でつつ待っていると、ヒュンベは語り出した。

「私はレジス王国第二近衛団長を任されています。その私につい数週間前、上からとある依頼を受けました」

「というと、僕を殺せっていう?」

「いえ。正確にはよくわからないもの、と答えるのが正しいのでしょう。上から下された命令はこうです。『『世界を跨ぎし黒の少年、レジス王国に闇を落とす』という神からのお告げが下ったから殺しに行け』と」

「……女神!?」

 さっきまでネコマタネコマタ呟いていたウィズが声を裏返った声を出した。

 あの駄女神がここでも絡んでくるのか。はっきりいって予想外だ。

 女神がここまで積極的にこの世界≪ラズワディリア≫に関われるものなのか。

 ちらりとウィズを見ると、僕と似たり寄ったりな反応だった。

「…………さすがにボクは嘘だと思うよ」

 俯き気味に絞り出された声には、どこか確信しているように感じた。

「私も最初は信じていませんでしたよ。というのも、私は別に信心深くないのでね。ですが、無人の村に突然生える樹。そして明らかに離れていく船に乗っていた黒髪の貴方。ここまで条件が揃っていれば流石に信じざるを得ないとは思いませんか?」

「確かにタイミングはぴったりだね。だけど――」

「タイミングが良すぎるんだよね」

 僕の言葉を神妙な顔持ちでウィズが引き継いだ。

「さっきネコマタが神の――」

「待ってください」

 びっくり仰天といわんばかりの顔でヒュンベがウィズの言葉を遮った。

「貴方、今、私のことを」

「うん、ネコマンマって」

「ウィズ、違う。ネコマタだよ」

 ネコマンマはご飯だよ。なに、おなかすいてるの? 食べたいの? これ(ヒュンベ)を。

「私には王から賜った立派なヒュンベという名前がですね……」

「愛称だと思えばいいでしょ? それよりウィズ、続けて」

 ヒュンベでもネコマタでも今はどっちでもいいじゃん。

 また神妙な顔つきになったウィズがゆっくりと口を開く。さっきと違って無理やり作った表情だ。

「神のお告げが下ったってネコマタは言ったよね? でも、神託の内容がちょーっとあやふやじゃない?」

「そうですか? 確かにあいまいではありますが、神たる概念が言葉を扱っている、と考えれば多少あいまいでも許される範囲でしょう」

「ぶっぶー! 神はしゃべれますー!」

 どちらにも一理あるけど、この場合はウィズに軍配は上がる。単純にそういう筋に信頼があるからだというのもあるけど、ウィズって女神がどういう存在か知っていそうな感じがするし。

 それに、全知全能だってよく言うじゃん。だったら喋れないと。

「世界を渡った黒髪の少年も文君だけじゃないじゃん! ほら、えと、ええっと……最近ユナイダート王国に召喚された勇者も黒髪だったよ?」

 ウィズの発言に、ヒュンベは興味深そうに僕を見てきた。

 なんでだろう、と思う必要もない。ウィズの発言が不用意過ぎた。

 なぜならウィズの発言は暗に『僕が世界を渡ったものだ』と言っているようなものだから。確かに黒髪の少年僕以外の人たち、それこそカスティリア王国の勇者もいるし、なんだったらこの世界の住人にも探せば黒髪の少年はいる。完全な黒は難しいかもしれないけど。

 だからウィズは「世界を渡ったという証拠がない」と一転張りをすればよかったんだけど……すでに後の祭り。

 僕が異世界人の住人だというのはもうばれた。

 だからこそ、僕もヒュンベを見返す。信託と合わせれば僕が害悪で、ヒュンベには僕を殺すのに大義名分を手に入れた。

 お互いに観察しあい、一挙一動に緊張する状態が続く中、先に痺れを切らしたのはヒュンベだった。

「なるほど……。確かに貴方が一概に悪だと言うには無理がありますね。と、すれば、上に下された神託と村の異常、一連の事とこの方は無関係。そういうことですか?」

「うん。あと僕の名前は『貴方』でも『この方』でもなくて、文。そう呼んで。見分を広めるために海を渡っただけの冒険者。どう? わかった?」

「わかりました、フミ。数々の非礼、お詫び申し上げます」

 そう言って体を軽く曲げる。

 本当にそう思っているのかはわからない。けど、ここで嘘を吐くような人にも見えない。それに…………――――獣耳も心なしかしょんぼりしてる。

 なに、獣人族って感情を隠せないの? それとも耳としっぽつきでやることが誠心誠意なお礼になるってこと?

 気になる……。

「文君、文君」

 服の端を軽く摘ままれてウィズに視線を移す。

 上目使い+涙目+ボディタッチ。三連続攻撃された。いつの間にそんな小悪魔系女子みたいなことを誰が教えたのか……ピミュさんを後で問い詰めなくちゃ。

 なんて思いつつウィズを見つめていると、何度かヒュンベをちらちら見て、小さい口をそっと開いた。

「ねえ、この猫飼っていいよね」

「ダメ」

 諦めてなかったのか。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい1:ヒュンベ→ネコマタに決定

 おさらい2:ヒュンベ、「上」と「王」を使いわけてる……


 次はなるべく早く火曜日から日を跨ぐ時間帯に投稿します。

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