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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
三章 獣人族騒乱編
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第九十六話 波乱の幕は開かれる 3

2016/5/30/0:00

今話の次の話があと推敲を残すところとなりましたが、私が課題を三つ四つやらずに放置してしまったため、投稿が遅れます。また短編も投稿しようと思っているため6/1か6/2に投稿することになりそうです。ご容赦くださいまし……。

 同時刻。

 レジス王国のいくつかある近衛団の一角を任されているヒュンベは、何度か放った弓の手を止めて渋い顔をしていた。

 理由はいくつかあるが、一番はやはり上から(・・・)のお達しだろう。

 『世界を跨ぎし黒の少年、レジス王国に闇を落とす』

 と。そんなお告げが突如告げられたから一掃しに行けと。

 ヒュンベは愛国心はあれど、とてもではないが信心深いわけではない。信じるのは己と己の経験、そして王のみであり、また自身の経験がこのお達しは黒だと、嘘だと言っているのだ。

 しかし同時に、そのあとに上から伝えられた場所――王都より南に下りた漁村には実際に黒髪の少年がいた。船上で遠目だったが、しかと見たのだ。

 流石のヒュンベも、今回のお告げは本物だったのか!と困惑し、任務を果たすためにしっかりと標準を合わせて矢を放った。

 眉間に一刺し。

 コンディションは完璧で、さらに追い風というのもあり、相手の死のビジョンが確実。そう思った瞬間、得体のしれない感覚に体を震わせた。

 それは周りにいた部下も同じだった。ヒュンベが近衛兵長になった折、直々に選りすぐった兵士だ。心身ともにほかの部署にいる近衛兵とは群を抜いているはずの兵士が、その場で腰を抜かし、酷いものはその場で小便をもらしてるものすらいた。

 ――なんだ、これは!

 黒髪の少年の死のビジョンはすでに消失しており、逆に自分の死のビジョンを垣間見る始末。

 急ぎ弓を構え、いつの間にか不自然に作られた壁の先にいるであろう少年に向かい、矢継ぎ早に矢を放つ。

 しかし、その矢は貫通するのみで突き抜けることはなかった。

 なおも矢を放とうと引き絞るも、結果は同じだとすぐに悟り、やめる。

 彼はわかりきった結果を何度も試すような性格ではないのだ。

 そこでいくつか逡巡し、弓を背中にかける。

「誰か」

「ハッ」

 近くにいたものに呼びかけると、部下の一人が平伏する。

「馬を王都まで走らせ、上に伝えてください。『黒髪の少年と思しき人物を見つけ弓で奇襲。生死不明』と」

「直ちに!」

「他の者は村の調査を」

「「「はい!!」」」

 部下の返事に軽く頷き、ヒュンベは村を突っ切って海辺まで歩いた。遠ざかる船を見るためだ。

(見たところだと漁船やレジス、スタンス王国の軍船ではない……。となると……――――)

 ピクリと、彼の獣耳が風を鋭く切り裂く音を捉えた。

「なにか、くるっ――――っ!?」

 先ほどと同じ恐怖が彼を襲い、そして次に明確な死のビジョンが視えた彼は反射的にバックステップをした一瞬後、彼がいた場所に轟音を伴いながら何かが降ってきた。

「へえ、今のをよけるんだ?」

 今まででここまで死を思わせるような低い声を聞いたことがあっただろうか?

 砂煙に隠れている『死』にヒュンベは急ぎ腰に携えてあった剣を構えるも、相手の影が小さく、思わず油断した。

 油断大敵。それは戦場において死を意味する。

 間一髪、といったところだろうか。それとも相手が手加減してくれたからだろうか。

 一向に姿を現さない相手から息すらままならないほどのボディブローを抵抗なしにヒュンベはもらってしまった。

「ぐぅ……!」

 彼ら――――獣人族(ディヴィム)の者たちは動きを阻害する鉄鎧など重装はせず、(くさり)帷子(かたびら)など軽く多少の防御力を得られるもので済ませる。今回はそれがたたったのだろう。そんな防具をものともしないほどの衝撃は彼に膝をつかせて血反吐を吐かせるのに十分だった。

「ねえ、君だよね。その背中に担いだ弓と矢が文君を狙ったんだよね?」

「……く、黒髪の少年、ですか」

 再び砂煙に紛れた『死』――声からして少女――は「そうだよ」と返事をする。

「なんで文君を狙ったのかは知らないけど」

 数本の刃物がヒュンベに迫る。脳、首、心臓。的確に急所を狙う技術に下を巻きながら正確に剣の腹で払う。

「狙ったからには、狙われる覚悟があるってことだよね?」

 徐々に砂煙が晴れる。

 黒髪の、小さな女の子だ。年端もいかない、まだ十を超えるか超えないかぐらいの女の子だ。

 そんな子が、少なくともヒュンベの目から見れば無邪気に笑っている。

 しかし、その笑顔から伝わってくるものは……ヒュンベ自身の明確な死のビジョンであった。




 ヒュンベは死のビジョンが視ることができる特異なスキル持ちである。

 それは敵でもあるし、自身の愛したものでもあるし、そして自分自身でも見ることができる。

 盗賊と相対したとき。

 父親が街の領主と喧嘩したとき。

 そして自分が父親をかばったとき。

 各所様々な場面で死のビジョンを見る。

 そんなスキルに悩み、苦悩し、精神的に消耗した彼は一時期物凄い荒れた。

 彼の剣や弓はそのときに磨かれたものである。我流ではあるが、商人や冒険者を狙うにはそれだけで十分であり、一つの流派にも足りえるほどの腕である。

 荒れに荒れた彼はレジス王国で悪名轟くまで数年とかからなかった。そして、その悪名や噂も、ある時を境にぱったりと収まった。

 彼の腕を買い、荒れた彼を救うものが現れたのだ。

 レジス王国の当代の王、その人である。

 今より十年前。ヒュンベが十五のときのことであった。




「疾ッ……」

「遅いね」

 高速で打ち合う剣技を、彼女は遅いと言う。

 彼の剣での誇りは身軽さだ。フットワークを軽くし、多彩な剣技を多角的に、そして素早く振りぬく。

 しかし、彼女はその攻撃をいともたやすく受け止め、受け流し、さらには余裕を持ってダメ出しとともに反撃される。

 明らかに劣勢だった。

 身長をものともせず、自身の領域では圧倒的に上を行き、徐々に生傷が増える。

 状況の打破を考える暇すらない。

「くぅっ!」

 今また、彼は腕に切り裂かれた。血がこれ以上とないほどあふれ出る。

 まだくっついているのは幸いなのだろうか、それとも弄ばれているのか。

 ヒュンベは腕を抑えながら彼女を見る。

 ゆっくりと、ゆっくりとヒュンベに向かって歩み進める彼女から生まれる死のビジョンは軽く(とお)を超える。

 それでも、と奥歯を噛みしめながらヒュンベは立ち上がった。

「いま、死ぬわけにはいかないんです……!」

「それはうちの文君も一緒なんだよ?」

「そう、ですか……!」

 返事とともに裏拳の要領で放った回転切りが首筋に吸い込まれる。

 首が飛び、自身が勝つ。その死のビジョンは一瞬で消え去った。

 と同時に何度目かのカウンターによる自分の死のビジョンが視えた。不自然に膝を屈めてバックステップをすると、目の前を剣先が走った。

 ヒュンベ自身が放った剣技も外れ、体重がまだ宙に浮いた状態のまま、すぐさまの追撃。

 奥歯をグッとこらえ剣を正中線に構えると、再び素早いやり取りが行われる。

「なかなかしぶといね!」

「そちらこそ……どうしてそんなに強いんですか!」

 その叫びに、彼女は屈託のない笑みを浮かべた。

「怒ってるからだよ」

「フミ、という人を狙ったから……!?」

「そう」

 短く返された肯定とともにヒュンベの剣は弾かれ、くるくると回転させながら浅瀬に半分浸かる形で刺さった。

「文君がなにやったの? ……という質問でもしてほしい? いらないでしょ。経過を通り過ごして結果を出したんだ。文君を狙う、っていうね。ボクたちからすればそれが結果で、経過はなかった。だから」

 大きく振りかぶられた剣は、先ほどまで雲で見えなかった太陽が一条降り注ぎ、とても神々しく映った。

 もはや死ぬしかない。だけど死にたくない。

 ――私は、私は……――――!

「王と、無辜の民のために死ねないっ!」

「むぅっ」

 背に手をやり引き抜きざまに払ったのは、なんの変哲のない矢だった。しかし、少女にとってもそれは予想外のことで一瞬ひるんだ。

 いまだっ。

 ヒュンベは後ろに一歩下がりながら弓を構え、至近距離で矢を引き絞る。

「あ、やばっ……!」

「私の勝ちです……!」

 初めて見せた少女の焦りに、ヒュンベは慢心せず素早く矢を放った。

「がぁっ!」

 脳天に一本。

 続けざまに喉、心臓と急所を狙い確実に殺しにかかる。

 三本の矢が刺さった少女は、徐々に体を後ろに倒しながら静かに没した。

「勝った……つぅっ!」

 ようやく気を緩めることができたが、身に受けた傷が癒えるわけではない。さらにいえば、彼は到底動けるような体でもない。体力も消耗し、出血過多で目も掠れ始めている。

「もどら、なければ……部下の、みんなの、そして王のもとへ……」

 先の戦闘で気づいたものはすでに海岸まで来ているかもしれない。そう考えると、ここで倒れ伏しているだけでは近衛兵長として名折れ。

 『先導するものは、たとえ倒れても先導せしめろ』

 ヒュンベが近衛兵長になったときに王直々に頂いた言葉である。彼の胸に刻まれたこの言葉は、彼を近衛兵長として足らしめている。

 目を瞬かせながら、今更ながらに砂の重みに足を取られつつも一歩ずつ歩を進める。

 歩むにつれ、徐々に緊張がほぐれて幾度か転びそうになるも、遠目に部下が見えたことで声を出そうとして――出なかった。

 否、出せなかった、というのが正しいのだろう。トンッ、と首筋に衝撃が走り、意識が暗闇へと落ちる。

 その最中、最後に誰がやったのか見て、驚愕した。

「あ、なたは……!!」

 それは、確かに殺したはずの相手。

 黒髪の少女、その人だった。

 さらに追及をしようとしたものの、なぜ、と口を動かすのが精いっぱいでそのままヒュンベは意識を失った。

「なぜ、かぁ」

 黒髪の少女――――ウィズダムは空気のボールを作り出してその中にヒュンベを入れると、んー、と頬についたかすり傷から垂れる血を手で拭いながら考え込む。

 少し考えた結果、

「同じことをすればいいのかもっ」

 砂に向けて手を向けると、砂にヒュンベと寸分違わない像が出来上がった。

「あとは……」

 本物のヒュンベを入れた空気のボールを高く上げて海上に浮かせると、ちょうどヒュンベの部下がこちらにやってくるのが見えた。

 その数、二十ほど。先ほど文とフェンドラが確認した数のほんの一部である。

「き、君……その人は……」

 倒れているヒュンベに視線を向けながら部下の一人がウィズに近づこうとすると、ウィズは、ああ、この人、と言って無邪気に笑う。

 そして氷で作った剣で、心臓を一刺し。

「殺したよ♪」

 そう言って今度は首を刎ねる。

「なっ!? お、お前ぇ!!」

「ついでに、ほいっと。ええっと、【ボルテックス】かな? なんでもいいや」

 適当ででたらめな呪文。しかし、掌大の業炎があっという間にヒュンベ(偽)を包み込み、存在を消滅させる。

「これで跡形もなく殺しました。君たちの上司だったのかな? よく知らないけど、よかったね、解放されて」

 何から解放されたのか走らないけど。そう言ってにゃはは、と笑う姿を、ヒュンベの部下たちは呆然と眺めるほかなかった。

 ……一人を除いて。

「くそ、くそくそくそぉっ! クソ魔族(マヴィラス)が! おれたちの兵長をよくも! よくも!!」

 んっ、とウィズは襲い掛かってくる人を見る。

 トラ耳で、男にしては長い茶髪の髪をしていた彼は、ただ一人ウィズに襲い掛かった。

 勇敢とも無謀ともとれる行いに、ウィズは……【アイス】と唱えて彼の足を引っかけた。

「うわぶぅ! な、なん……!?」

 その上に加減した【ウィンド・ガン】を連続して放ち、徹底的にいじめる。

 その攻撃はトラ耳が気絶した後もしばらく続き、最後に、

「それじゃ」

 ウィズは砂煙を起こしてその場から去った。

 その場に、まざまざと力の差を見せられ、頭目を失ったショックに打ちひしがれたヒュンベの部下を残して……。


 お読みいただいてありがとうございます。


 おさらい:ヒュンベ を つかまえた!

      なまえ を つけますか?

      はい   いいえ

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