第九十五話 波乱の幕が開かれる 2
前回までのあらすじ:ボッチちゃんがパーティに加入。その後、獣人族大陸を訪れたら漁村に人がいない。不思議に思って捜索してたら一回掘り起こした跡があったぞ。掘り起こしてみよう。
投稿遅れました……。頑張ってはいます。
掘って出てきたのは死体の山だった。
掘れば掘るほど死体が出てくる異様な光景。老若男女問わず獣人族の死体がゴロゴロ出てくる。
きっとこの村の住人、なんだと思う。そう考えればこの村に誰もいないという理由に説明がつく。まあ、なんで殺されたのかはまだ皆目見当もつかないわけだけどさ。
「なんで……なんで……!」
この凄惨、と言える光景を目の当たりにしたボッチちゃんは膝から崩れ落ちた。
心情は、お察しできない。ただ想像することはできる。
ボッチちゃんの性格上、すました態度をとりながらも仲良くしていたんだと思う。それでここの村人からまた会おうと言われて、ボッチちゃんも楽しみにしていて。
でも、帰ってきてみればこのとおり。
触れ合う袖の縁程度の仲だっただけだったと言えばそれでおしまい。悲しむ必要もなく、運がなかったなんて他人事のように割り切るだけなのに、ボッチちゃんは深く悲しみに打ちひしがれている。
掘った地面を元に戻してからもう一度ボッチちゃんを見たとき、何とも言えない感情が生まれた。
うらやましい、なんて。
人の死を悲しめるほど僕という人格はできていない。しかもそれが誰それと知らない人ならなおさらだ。
「だれが……! だれがこんなこと……!」
「誰だろうね」
なんとなしにボッチちゃんの隣に座ってぼんやり返事をする。ボッチちゃんの耳にはきっと、僕の言葉は届いていない。
「みんないい人だったのに……! 気軽に話しかけてくれて、ごはんとかいろいろくれて、おいしい料理を出してくれて……」
「暖かい村だったんだね」
「殺されるようなことをする人たちじゃなかった、優しい人で、いろんなことを教えてくれる人で……」
「そっか」
相槌を打ち、立ち上がる。単純にそのあとの言葉はかすれ声になってほとんど聞こえなかったから諦めた。
足元に埋められた死体――元村人の体には刺し傷や切り傷、過激なものは首が切り落としてあったり火傷痕まで見て取れた。といっても腐食がかなり進んでいてかろうじて確認できた程度だけど。
でもそれだけでここの人たちが誰かに、しかもかなりの手練れに殺されたというのはわかる。
なぜなら、と結ぶと、切り裂かれて死んでいる死体には傷が一太刀分しかなかったから。素人が殺すとなると死ぬまで何回でも斬るし、力がない人だったら一度斬った相手を確実に殺すために何度も斬りつけるはず。それに、村人全員を殺すにはかなりの時間がかかる。しかも村を荒らさずにとなるとさらに倍以上だって思ってもいい。
その間に村人が異変に気付かないとも思えないし、素人だったなら簡単に殺されるようなこともない。
明らかに、手慣れてる。
「もしかしたら……」
一つの予感があった。
――魔族の仕業なんじゃないか。
カスティリア王国で出会ったメイド長さんなら確実にやれるだろうし、ユナイダート王国のメイドさんも同じ芸当ができると思う。
だからこの惨状も――
「フミ殿」
フェンの強張った声で現実に引き戻された。
いつの間にか村の門まで歩いていたみたいで、目の前には平原が広がっていた。
……いや。
ただ平原が広がっているだけじゃない。
黒い、点々とした『なにか』が蠢いている。
「多い」
「ウヌッ。しかも隊列を組んでおる。つまり」
「魔物じゃなくて、人? しかも近づいてきてるよね、あれ」
「人は人だが、あれは兵士や騎士に属するものやもしれん。しかもわざわざこんな村に近づいてくる理由がわからぬ」
「……確かにね」
この村の異変に続き、兵隊さんの村への接近。
これは明らかに異常だ。
「ねぇ、フェン」
僕は左手で頭をかきながらもう片方の手でアイテムボックスからとあるものを取り出す。
「あの人たちが良い人で、こんなおかしなことに巻き込まれた僕たちを手厚く保護してくれると思う?」
取り出したものを地面に転がしてヒノキの棒で地面に軽くめり込ませると、【クリエイト】と小さく唱える。
「……偶然隣の集落の者が急ぎ王都に連絡をした、としてもあそこまでの人数でこのような小さき村に来るとは考えられん」
フェンは杖を構えながらそう言い切った。
「そうだよね。それに冒険者なり他のとこの集落の人が来てたら今頃誰かほかに駐留している人いるよね」
「ウヌッ」
「だから」
「あやつらは、黒だ」
逃げるか、戦うか。
僕らにたたきつけられた選択は二つに一つだった。
そして圧倒的な物量から、僕らの選択は一つ。
「それじゃ、説明したとおりだから、更に西のほうに逃げるよ」
ボッチちゃん以外がそろった操舵室でみんなにそう宣言した。
ほら、仕方ないじゃん。僕なんてそこまで強いわけじゃないし、フェンもあの物量じゃ筋肉とか魔法なんて言ってる場合じゃない。それに急いで回収したボッチちゃんなんて戦意喪失状態。今は船の中の一番上にある見張り台みたいなところで引きこもってる。
他に誰が、ってなったらウィズぐらいだけど、それでも賭けになる。
「無駄な争いよりも、あの村の謎よりも、僕は平和に獣人族大陸を回りたいからね。はい、そういう人挙手ー」
そう声をかけるとこの場にいる全員が手を挙げた。
「ウィズ、なんで両手挙げてるの?」
「もちろんボッチちゃんの分だよ!」
「そっか」
「あ、じゃあ私もあげます」
ピミュさんも両手挙げた。
「ウヌッ? では吾輩も――」
「やらなくていい」
「ウヌゥ……」
ボッチちゃんに腕は三つありません。……多分だけど。
「はい、それじゃあ出るよ。……ああ、そうだ」
出る前に一つ。
クリエイトのスキルを発動した。
すると村の入り口あたりで、大きな、とある昔話を思わせるような樹が生えた。ゆうになだらかな山と同じぐらいは超えている、かも。
「あれ……フミさんが、ですか?」
「うん。埋めたら育った」
「ふぇー……」
「ジャックと――」
「僕はフミだよ、ウィズ」
出しっぱなしだったヒノキの棒でウィズをこつんと小突いて黙らせると、船を発進させるために魔道具を起動させた。
「それじゃ、安全圏に入るまで――」
「危ないっ!!」
誰かが叫んだ、と同時に窓がパリンと音を立てて割れる。
スローモーションだった。
窓ガラスの破片を纏わせながら飛んでくる矢は、明らかに僕のほうに迫ってきて、心なしか回転を加え、空気を文字通り突き破りながら僕の目前に迫り、それに反応できずにそのまま僕の眉間を――――――
「【キャッチ】!」
誰かが――ウィズがそう叫んだ。
「よいしょ、と。とりあえずセーフ、かな」
「あ、うん……ありがとう、ウィズ」
そう口にして、ようやく僕は全身からどっと噴出した汗とともに今何が起きたのか理解した。
――死にかけたんだ、僕。
その場でへたり込む僕に「フミさんっ!」と叫びながら僕に駆け寄ってくるピミュさんは今にも泣き出してしまいそうな顔だった。不安と恐怖――しかも自身のではなく僕の喪失に対する――感情が顔に浮かび上がっていた。
「私、わたし……」
叫ぶことしかできませんでした。
そういったピミュさんの頭を優しくなでる。
「ピミュさんのおかげでウィズが助けてくれた。だからありがとう」
素直にお礼を言う。
そして動揺を取り払うように【クリエイト】と唱えて窓に強い壁を作ると、次には矢じりが見えるほど貫通した矢がいくつも突き刺さった。
明らかに僕を狙ってる……?
「早く出るぞ! フミ殿、操舵は吾輩が。ピミュ殿と一緒にそのまま奥に」
「うん。頼んだ。ウィズは……ウィズ?」
「大丈夫、ボクちょーっと怒っちゃっただけだから」
「それのどこに大丈夫な要素を見出せばいいのさ……? 別にやり返しはしなくていいから」
だから室内で手元に魔法を展開しないでもらえないかな。この船が壊れたら元も子もないんだから。
「魔法は外で放てばいいんだよね!」
「まあ……そうだね。それじゃ、しばらく牽制してもらってもいい?」
「わかった!」
にぱっ、と笑ってそのまま部屋を出ると、早速轟音が外にとどろいた。
あっちのことはウィズに任せよう。
「それじゃ、フェン頼んだ」
「ウヌッ」
ピミュさん、行くよ」
「はい!」
震えた足を強く叩いてしゃがんだまま僕らは地下に向かった。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:文君、普通に死にかける。




