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ウィーク・クリエイター  作者: 二本狐
第一章 カスティリア王国編
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第九話 リリルの初めての……

リリル視点です。


「僕の好きなことはしいて言えば読書かな」

 フミ様がポツポツとご自身のことを話し始めました。

「最初に読み始めたのは、七歳の時。親の離婚話って言うとわかる? 簡単に言っちゃうと、父さんと母さんが物凄い喧嘩をしたんだよ。その時から少し他人との距離が怖いってのはある……あぁ、大丈夫だよ。今はそれほどでもないから」

 私がフミ様から少し離れようとしましたら優しい声音でそう言ってくれましたので、今一度佇まいを直して元の位置に戻りました。

「えっとそれで、当時の僕が幼いなりに、どうやったらその環境から逃げ出せるんだろう? って考えた結果が、本だった。つまり、最初は現実逃避するための道具だったんだ」

 苦笑してそう告白してくれましたが……それは、当時の幼い頃のフミ様からしたら相当苦しかったはずです。親の愛を早くも受けられなかったのですから。私と父様のようなものなのでしょうか……。

「まあでも、あのことがあったから今の僕がいるんだけどね。本が好きな、何事にも冷静に判断する、人との繋がりに怯える僕が」

 どこか遠いところをぼんやりとした目で見るその姿は……底を知らない深い闇を覗き見ているようで、少し恐怖を覚えました……。

 そこでふと気付いたかのように、フミ様は表情を戻して笑顔を作り私に見せました。

「じゃあ、次はリリルの好きなこと、趣味を聞こうかな」

「終わりですか!?」

「うん。これ以上は僕もパッと思いつくものがないからね。それに、このままだと暗い方向に進んじゃうし」

「そ、それもそうですね……」

 これ以上聞いてしまいますと暗い方向にしか転びませんよね。

「ええっと、はい。私はですね……」

 こうして私とフミ様は楽しいひと時を過ごしました。

 そう思っていたのは私だけかもしれません。ですが、フミ様とたくさん会話がすることできて幸せでした。

 例えば、向こうの世界について尋ねると、とても魅力的で引き込まれるお話を聞くことができました。

 私たちの世界、《ラズワディリア》では、遠い場所に移動する場合に馬車を基本的に使用するのですけど、フミ様の世界ではクルマというものを使用して遠い場所まで移動するというのです。

 どこからともなく取り出した紙に軽い絵を描いてもらいましたが、何と言いましょうか……そう、箱っぽいものに馬車につける車輪が付いているものでした。

 走る原理は聞きましたが、専門用語が多くて理解することは無理でした……。がそりん? もぅたぁ? ……かがくというものが結びついているらしいのですけど、私の頭では理解出来ませんでした……。

 他にも空飛ぶ鉄の鳥、フミ様の母国であるニホン国という場所の政治体制ですね。これには大変興味が出まして、根掘り葉掘り聞いてしまいました。少し私に怪しそうな視線を向けられましたけど……気になっちゃったんです……あうぅ……。

 ですが、フミ様は私にきちんと説明してくださいました。

 それはもう、とてもわかりやすく、です。

 王政ではなく民主制。

 貴族はおらず、皆平等であること。

 民主制の悪い点と良い点。

 さらに、王政の良い点と悪い点も教えていただき大変勉強になりました。

 あとで同じだけ私に質問すると言われちゃいましたが……後が怖いです!

 その他には、気候についても教えていただきました。春夏秋冬という四季で温度が違って、冬にはユキという白くて冷たいものが降るみたいです。

 しかし、フミ様に教えていただいた中でもっとも驚いたことは、ニホン国の教育水準です。

 カスティリア王国の平均識字率は六十パーセントから七六パーセントですが、フミ様がいた国では九十九パーセントという驚異的な数字を叩き出していたのです。後の一パーセントはあえて残しておいた、とおっしゃっていましたので、実質百パーセントの方が読み書きができるのかもしれません。

「いったいどんな教育方法なのでしょうか?」

「うーん……。その前に聞きたいんだけど、この国の教育の状態はどんな感じなの?」

 どんな感じ、ですか。

 カスティリア王国は十五歳から三年間それぞれの街、またはここ王都にある学校に入学します。王都にある学校が一番大規模になるのは、国の中で一番人が住んでいるのが王都である、という点が挙げられますね。

 学校では、読み書きや数の計算と、基礎的な剣と魔法を習うことができると耳に挟んでおります。私は学校ではなくこの王宮で全てを習いましたので実際には何が行われているのかわかりません。

 ただ、わかっていることは商人の子供は小さい頃から親に習っているので剣と魔法を学びに行くような風になっているようです。もっとも、親に家業を手伝えと言われて学校に来られない商人の子供がほとんどらしいのですが。

 また、同じような理由で平民の子も『学より畑』といった感じで学校に行きたくても行かせてもらえない状態のようです。そうやって育ってきた平民の子はまた親にされたように子に同じことをしますので、そこで負の連鎖が起きているのです。

 そうやって消去法に考えていきますと、学校に通えている人は、貴族と少しの商人と平民の子だけとなります。

 私がフミ様にそう伝えますと、「へぇ」と言ったきり考え込んでしまいました。

 私もなんとなくソワソワとフミ様が口を開くのを待っていますと、数分たって(ようや)く口を開いてくれました。

「学校は義務教育じゃないの?」

「義務教育、ですか?」

「うん。僕のいた国では七歳のころから学校に通い始めるんだ。えっと、憲法って言って通じる?」

「はい。法律の前提条件ですよね?」

 この国にはありませんが、お隣の国で採用されていますので。

「まあそんな感じ。わかるなら続けるよ。その憲法に「教育を受ける権利」っていうものがあってね。この権利を元に七~一五歳までは絶対に教育を受けなければいけない法律ができたんだ。それが、義務教育。まあこれには歴史があるんだけど……説明していると長くなるし難しいから省くね。簡単に言うと、昔はこの国と同じようなことが起こってたんだ」

 厳密に言うと似ているだけで全く違うんだけどさ、とフミ様は苦笑されました。

 同じことが……それでしたら……。

「この国も改革が可能、ということですか?」

 私が淡い希望を持って聞きました。が、

「無理だね」

 結果はあっさりと否定される形で終わりました。

「ど、どうしてですか……」

 少し声が震えているのを押し隠しながら訊きますと、フミ様は頬をぽりぽりと掻きました。

「うーん……理由は幾つかあるんだけどね。うん、一つだけ挙げるとすると、日本は一度全て真っ白にしたんだ。いや、された、かな。どっちみちそれがプラスの方向に流れたんだけどね」

「そう、なんですか。それは一体何があって……」

「いや、別に巫女さんにいうことじゃないよね、これ以上は」

「……そうですね」

 そういえば私、巫女ってことになっているのでした。いえ、それも間違いではないのですが。

 私の本当の肩書き。それは――――

 カスティリア王国第八王女。リリル=ヘデンシカ=ド=カスティリア。

 なのですが……フミ様は本当に勘違いしてしまわれたようですね。

 ですがこのままで良いと思っています。

 なぜなら、私が王女だとわかると……みなさん逃げ出すか、媚を売り始めるのですから。

 小さい頃からそのような環境で育ってきましたので、そういった相手の心の機微が手に取るように分かってしまうのです。

 今のところフミ様にそう言ったものがありませんが、私が姫だとわかった時を考えると……とても怖いです。

「じゃあ次で最後にしようかな」

 その言葉で私は我を取り戻して時計を見ますと、短針が七時を過ぎていました。

 どおりで少し暗くなってきていたんですね!

「す、すいません! 長い時間拘束してしまいまして! 訓練の方もありますのに……」

「いや、訓練はほとんどやるつもりがないから大丈夫。それで、最後の質問なんだけど」

 フミ様は戦闘職じゃないのでしょうか? 少し疑問に思いましたが、すぐにその疑問を振り払ってフミ様の言葉に耳を傾けました。

 フミ様は一旦言葉を切り、一度深く深呼吸をして私をしっかり捉えました。

 ……今気づいたのですが、フミ様と私の距離って結構近くて、えっと、その……あぅ……。

「……大丈夫?」

「ひゃ、ひゃい!」

 声が裏返ってしまいました。

 顔から火が出そうなぐらい真っ赤になっているのが触らなくてもわかっちゃいます。ものすごく恥ずかしいです!

「……うん。とりあえず、落ち着いて」

「は、はい! すぅー……はぁー……。……大丈夫です」

 凛とした表情をみせると、フミ様に苦笑いをされました。な、なにかおかしかったでしょうか?

「じゃあ最後の質問。送還魔法って、あると思ってる?」

「……おと……王様が言うには、魔王が持っていると言っておりました」

 少し痛いところを突かれてしまいました……。

 確かに召喚したのは私ですが、送還の儀を探さず、見つけず、覚えず、確立させずに呼んでしまったのも、私です。

 後ろめたい気持ちになってフミ様を直視することができず、目を逸らしてしまいました。

 ですがフミ様は、

「別にリリルをせめているわけじゃない。急に召喚されて国のために戦ってくれと言われるのは癪なんだよね。他の奴がどう思っているかは知らないけど。ああでも、それを除けば少なくとも僕はありがたいと思っているよ」

 そう言って微笑んで頂きました。

 な、なんだか頬が熱いです……。な、なんなんでしょう?

 頬を触りながらコクリと頷くと、急にフミ様から笑顔が抜け落ちて、真顔になられました。

「まあ今はそうじゃなくてさ。質問の内容を少し変えると、本当に(・・・)魔王が送還魔法を持っていると思ってるの?」

「え……」

 一気に身体が冷え込むのを感じました。

 なぜならそれは…………

 私が口篭っていますと、さらに追及を受けました。

「魔王が持ってる、魔族が持ってるなんて誰が確認したのさ?」

「……あぅ」

 フミ様が言っていることは正しい、です。

 なぜ、魔王が持っていると思ってしまっていたのでしょうか。誰かがそれをみたわけじゃありませんし、そもそも人族(ヒューマ)の誰かが見たのならば、その魔法陣を写すなりなんなりするはずですから。

 さらに、知っていると言っていたのは、大臣さんとかではなく、お父さんだけです……。

 その結論まで辿り着いた時、顔が青褪めました。

「もしかして……王様の妄言、ということですか…………?」

 絞り出して尋ねた言葉にフミ様は、

「そう、嘘だ。本当は送還の儀なんてないんだよ」

 そう断言なされました。

「そ、それでは私は! 皆様に大変酷いことを……!!」

「まあ、そうだね」

 あっけらかんとそう言われましたが、フミ様は、すぐに「でも大丈夫」と、言葉を続けました。

「まだ僕しか気づいてないし、このことは誰にも言うつもりはない。リリルも気に留める必要ないからね」

「そう……ですか……」

 そう言われましても、多少の負い目を感じてしまいます。

 私がもう少し調べれば、お父様に中止を訴えることも出来ましたし、そうでなくても見送りは出来たはずですから。

 今からでも、私がフミ様から聞いたことをお父様や勇者様方に言って謝ることも……――

「ああそうだ、このことは秘密の方向でお願いね」

「どう、してですか……?」

「……当たり障りない答えを言うと、僕は目立ちたくないからかな」

「王様は、どうするんですか?」

 お父様に進言して、謝罪を受けることもできますのに。

 そう思っていますと、フミ様は苦笑気味に、それでいて真剣味を帯びた表情をしました。

「僕は王様を信用していない。だからこそこの事は他言無用で秘密にしていて欲しいんだ」

 頭をぽりぽりとかきながらそう言いのけた。

 私は一瞬唖然として、すぐに納得しました。

 お父さんは勇者様方に嘘をついたということになりますから。平然と嘘をつけるお父さんに疑いの目を向けるのは当然です。

「まあでも、タダで、とは思っていないから、等価交換ってことでなにか条件言ってよ。出来れば僕のできる限りで」

 そうおどけてみせました。

 急な要求でしたが、私の中ですぐに幾つか考えが出てきました。ですがそれら全てを捨てて、先ほどから心の片隅で思い続けていた思いの丈を伝えました。

「では、私と友達になっていただけませんか?」

 少し心が高揚して頬に赤みがさすのを感じながらそう伝えますと、フミ様は目を丸くさせました。

「そんなのでいいの?」

「はい! 私、もっとフミ様と親交を深めたいです!」

「そう……。わかったよ」

 仕方ないと言った様子で了承されました……。

 い、いえ! こっから仲が良くなれば良いのです!

 大丈夫です、友達と言える方は初めてですが、多分大丈夫です!

 まずは夕御飯ですね。

「では、友達の第一歩として一緒にご飯を食べに行きませんか?」

「え……あ、うん。まあいいか」

 そう言って腰を上げて一人でトコトコと扉まで歩いていき、扉を開けて一人で行ってしまいました!

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 急いで追いかけるとフミ様はちゃんと廊下でお待ちくださっていました。よかったです……。

「ほら、行くよリリル。いくらバイキング形式だといってもはやく行かないとなくなっちゃうからね」

 まあ僕はいつも時間ギリギリに行くけどさ、というフミ様の呟き声が私の耳に届き、クスリと笑ってしまいました。幸い、フミ様は気付いておられないようでしたが。

 友達……初めての、対等な友達です!

 少し高揚しながらフミ様の後ろをついていきました。

 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:リリルはついに、初めての、対等の、友達を手に入れました。

      やったね、でもまだかわいそうなうさぎちゃんだ!

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