第一話 勇者と魔王について
開いていただきありがとうございます。
異世界転移――――。
文字通りこことは異なる世界から何かしらの魔法によって転移したり、召喚されてしまうこと。
転生とは違う。たまに間違えている人がいるけどさ。転生は文字通りの通り生きるレーンを変えるということ。
最近の少しライトな本はそういう系統が多い。異世界転移したらチートが手に入る、好きなゲームで極めたステータスやスキル、それに魔法がそのままその世界で反映される。いつの間にかその世界に紛れ込んで魔力チートで世界を掌握するなどなど……。
ならなぜそういう本が売れるのか?
……それは心の奥底、無意識にそういう物語に憧れているからだと僕は思う。自身と同じような生活を送っていた人が、突然そのような憧れの世界へと飛び、無双する。もしかしたら、僕も私もいけるかもしれない! そういった思いに駆られるからだろうね。
そんなの馬鹿馬鹿しい、所詮フィクションだ、そんな非現実的なことが起こるわけがない。
…………でも、僕もそんな異世界転移に憧れてしまっている一人だ。
だって、今まさに読んでいる本がそうなんだから。
『異世界来訪者の(オブ)英雄譚』
タイトルに少しつられて冒頭を読んでみたら、異世界転移の話だったので買ってみた。
この本について簡単に言うと、こうだ。
平凡な主人公が学校帰りに突然魔法陣に囲まれて転移する。
召喚された先は異世界で、その手には聖剣が握られていた。その後は王様とご対面。ざっくりまとめると、世界を救ってくれと王に頼まれる。それを了承した主人公は山あり谷ありといったエピソードがあるんだけど、最終的には魔王を打ち滅ぼして召喚されたその国のお姫様と結婚する、という超王道のお話だった。
批判するつもりはない、けど。
少し考えてみると、ここに善人は誰もいない。王も、魔王も、そして勇者も善人には当てはまらない。そもそも、だ。
魔王にも魔王の言い分があるのではないか、と。
だって、魔王は『王』を名乗っているってことは、一国の主だよ。ただ単に他国を攻め立てるわけがないじゃん。
まあでも、そういうのは置いておこう。どうせ、この本の作者もそこまで考えてないんだろうしね。
僕的にこの小説は、いじめられっ子は王様、いじめっ子は魔王。
王様はいじめられたくないがために第三者の人物、つまり勇者を呼んだ。
そうすると今度はより力を持った勇者、現実世界に照らし合わせると先生を後ろ盾に持つことで勢力が逆転して、今度はいじめっ子へと変わって魔王はいじめられっ子となる。
つまりまとめると『弱肉強食』。
力を持っているものが弱いものをいじめたいのだ。
だいたい、勇者は人が良すぎるんだよね。元の世界に戻りたいと思わなかったのかな。家族と仲が悪いのかとかいろいろと勘ぐってしまう。
それに勇者は人間の希望となるけど、対称的に考えた時、魔王は魔族の希望となるんじゃないのかな。つまり、その世界は人間と魔族が共存する世界じゃなくなって人間が絶対的存在になるし、この小説でも出てきたみたいに人間全員が善人というわけじゃない。そしてそれはそのまま魔族にも当てはまる。全員が悪人じゃないってね。
誰が善人で、誰が悪人か。
それは人間と魔族で分けるんじゃなくて、一人ひとりの心で分けるべきだ。
それがたとえ家族であっても、他人のように。
これ以上考えると変に勘ぐってしまいそうだから、僕はそっとため息を吐いて考えることをやめると、本から目を離した。
お読みいただきありがとうございます。