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long distance

作者: kaEbi


逢いたいのに、逢えない。

ふれたいのに、ふれられない。


強くなる。

君のために、強くなる。


----------------------------------------------



2年ぶりに地元の駅のホームに降りた。

たった2年だと思っていたが、自分の想像以上に、懐かしいと思う気持ちが胸にこみ上げてきた。

2年前、この駅のホームで最愛の人に見送られて旅立ったのを今でも鮮明に覚えている。

涙を流すまいと、懸命に耐えていた彼女の姿が目の前に蘇る。

電車のドアが閉まる瞬間、彼女の頬を涙が濡らしたのを忘れられない。


空港まで見送りに行くと言う彼女の願いを、駅までで良いと断った。

耐えられないと思ったから。

空港まで一緒に居たら、【連れて行きたい。】そんな自分の気持ちを抑えられないと思った。

【離れたくない。】と言ってしまいそうだったから。


電車のドアが閉まり動き出した。その場から動けない彼女の姿が少しだけ見えた。電車が動き出した時から、僕の目からは涙が零れ、周りの目など気にせず、声を出して泣いた。


高3の卒業式の日に、告白をした。

隣のクラスだった彼女とは、高3の文化祭で仲良くなった。それまでも、存在は知っていたが、仲良くなるまでには至らなかった。

卒業式に告白をしたのは、進学先がバラバラだったから。地元の大学に進学する僕と、地元の短大に進学する彼女。

今思えば、お互いが地元に居るのだからスグに逢えるのに、その時の僕には毎日逢えなくなる事が心配で不安で仕方がなかった。幼かったな…と今は思える。

けれど、あの頃の僕には、毎朝の挨拶や、廊下ですれ違った時の胸の高鳴りがすべてだった。


卒業式の後、彼女を高台の公園に呼び出した。彼女の方が早くて、ブランコに乗って待っていた。

ブランコに乗る、彼女の前に立ち、

『好きです。付き合って欲しい。』

そう言うだけで、精一杯だった。


『よろしく…お願いします。』

俯きながら、照れくさそうに彼女が了承の返事をしてくれた。顔を上げると、頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに笑った。


初めてのデートは、隣町の水族館。

初めて2人で観た映画は、当時大ヒットしたラブストーリー。

初めてのキスは、映画を観た帰り道に寄った、思い出の公園で。

初めてのクリスマスは、お揃いの指輪を買った。

初めての喧嘩は、付き合って1年の記念日に寝坊して遅刻をした時。

初めての旅行は、僕が運転する車で夢の国へ。


大好きな彼女と、大切な時間を過ごした。


大学2年の夏に、留学が出来るチャンスがきた。昔から、留学をする事が夢だった。

喜んで、彼女に留学が出来るかもしれないと話した。

『やったね!!』と笑う彼女の笑顔は、今まで見たことがないくらい切なく、寂しげだった。


彼女は、留学に反対しなかった。むしろ、応援してくれた。夢だったんだもんね。と、背中を押してくれた。


僕の2年間の留学が決まった。


留学が決まった喜びよりも、寂しさが勝った。離れ離れになる事の重大さを、留学が決まって改めて感じた。彼女の存在の大きさを知った。


出発の日まで、出来るだけ彼女と居ようと思った。出来るだけ、たくさんの思い出を作っておこうとした。離れていても寂しくない様に。彼女が悲しまない様に。

2人の写真を見たり、その場所を通った時に、僕を思い出して欲しかった。想って欲しかった。


出発の日。

駅のホームで手を握って、電車を待った。他愛のない話をして、くだらないことで笑った。離れる事を考えない様に。

ホームに電車が着き、乗り込んだ。繋いでいた手を離した時、胸の奥を握りつぶされた様な痛みが走った。

彼女をホームに残して、電車は発車した。


僕らの距離は8800キロ。僕らの時差は17時間。

逢えない時間をmailやSkypeで補った。

現地の大学に行きながら、語学学校へも通った。時間は無く、忙しかったが、彼女への連絡だけは忘れなかった。


留学して1年半。彼女は短大を卒業して、新社会人になっていた。慣れない仕事が始まり、忙しいのもあり、連絡は学生時代よりも少なくなった。僕も、残り少なくなった留学期間にやる事が多く、多忙だったので、少なくなった連絡を気にしてはいなかった。

そんな時、彼女から1通のmailが届いた。

【待つのがつらい。】

読んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。スグに彼女に電話をした。

僕の時計は18:20。彼女の時計は翌日の10:20。

電話に出た彼女の声は小さく、泣いている様に聞こえた。

『気持ちが変わったの??』恐る恐る聞いた。

違う…。と小さな返事が聞こえた。

『今の状態だと、不安が募っていくばかりなの。逢いたいと思っても、逢えない事が寂しくて…つらくて…。』

分かっていた事なのに。と、彼女は泣いた。


『半年後、帰ったらスグに逢いに行くから、思い出の場所で待っていて欲しい。僕の気持ちは絶対変わらないから。』

そう言って、電話を切った。


それからの半年間は、とても長く、何年間もの月日が過ぎた様に感じた。

僕から連絡はしなかった。彼女からも連絡は無かった。


帰国する3日前に、1通だけmailを送った。

【○月△日に帰国します。】



地元の駅に降りて、久しぶりに慣れ親しんだ道を歩いた。何も変わらないと思っていた街並みが、少しだけ変わっていた。時の流れを感じた。


高台の方向へと歩みを進める。不安と期待で胸が痛い。

僕以上の人はたくさんいると思う。けど、僕には彼女以外の人はいない。


高台の公園に着いた。胸の振動が速くなる。呼吸するのも忘れてしまうくらいに、心臓の動きは活発だ。

公園に足を踏み入れ、公園の中へ中へと進む。


ブランコが見えた。

高3の卒業式の日の事が思い出された。


大好きな彼女が、ブランコに乗って待っていた。

薬指にお揃いの指輪を光らせて。



---END---

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