表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4.決定

お久しぶりです! 訪問有り難う御座います。


「どうしよう……」

「何がどうしよう、よ」

「だって、だって……通っちゃった!」

水面が出した案は、代表者会議で見事に通り、一年は全員で物語に沿ったお店を出すことになった。次の会議までに各クラスでやりたい物語を選ぶということで、昨日の会議は終わった。

「流石、読書好きね。あんなこと、よく思いついたわ」

「でも、まさか通るとは思わなくて……」

「あれ、水面の案だったんだ」

「和斗さん」

ひょこりと、和斗の後ろから明も顔を覗かせている。

「はぁ〜……。水面が委員やるなら、俺もやればよかった」

「何回言えば気が済むんだよ」

「はぁ〜」

和斗は盛大に溜息を吐くと、そのままだらりと窓に寄りかかった。

可愛い――

男の子に可愛いと思うのは失礼なのかもしれないが、膨れた顔が可愛らしかった。

「なに水面、顔赤くしてんの?」

「えぇ!?」

和歌にそう指摘され、慌てて顔を隠す。

「ん?」

「うっそ〜」

「もう、和歌!」

「何? 水面、俺に見惚れてたの」

「っ!?」

一気に顔に熱が集まった。

「あ、赤くなった」

「可愛いなぁ、水面は」

「か、和斗さん!!」

慌てて頬の熱を冷まそうと手で扇ぐも、顔は熱いままだった。

「和斗も和歌も止めてやれって。水面ちゃん、困ってんじゃん」

「はいはい。そういえば、あんたたち、何しに来たの?」

「何だよ。俺が水面に会いに来たらいけないわけ?」

教室に入ってきながら、じろりと和斗の目が和歌に向けられる。

「別に、悪くはないですけどぉ」

それに対抗するように、和歌も目つきを鋭くして、和斗を睨みつけた。

二人とも仲がいいなぁと思っている水面が、その二人の険悪な雰囲気に気がつくことはなかったが。

「和斗、要件」

「うるせぇなぁ」

「あら、何か用事があったんだ」

一枚のルーズリーフが和斗から水面に渡される。そこには幾つか童話の題名が書かれていた。

「一組、第一希望、シンデレラ?」

「各クラスの希望だとよ」

よくよく見ると、そこには水面のクラスの四組を空けて、全ての組が書かれていた。

「俺たち三組は不思議の国のアリスだよ」

「水面のクラスの案も書いて、今日の会議の時提出してくれって、委員長が」

「早瀬君が?」

「あれ、水面ちゃん早瀬の事知ってるの?」

知るも何も、水面を委員に誘ってくれたのは彼で――そういえば、まだ誰にも言っていなかった気がする。

「あの、私を誘ってくれたのは、早瀬君なの」

「委員長?」

「へぇ、水面ちゃんの友達って、早瀬のことか」

「誰よ、早瀬って」

「俺らのクラスの委員長で、成績優秀、次期会長候補って言われてる奴」

そんなに凄い人だったのか。

初めて知ったことに、水面も和歌と一緒に感嘆の声を上げてしまう。

「水面は知ってるんでしょ? 何驚いてんのよ」

「ううん。私、図書館で会って、少し話しただけだから」

友達とは言っても、一度図書館で話したきり、委員の仕事以外で話したことはない。会ったのもそれぐらいだ。早瀬のことは好きな本がどれということしか知らない。

「あら、そう。それで、何でこれを和斗が持ってくるのよ」

「和斗が、四組に用があるなら、俺が持ってくって」

「水面に会う口実になるし」

少し目を細めて笑う姿は何度見ても眩しくて、思わず水面は顔を俯けた。ずっと側にいるのだが、中々慣れない。いつまで経っても和斗は眩しい存在だ。

「水面のクラスは何するんだ? 」

「取り敢えず、赤頭巾をしようかと思っています」

「ん〜と……どこのクラスも第一希望には持ってきてないわね」

和歌が横からルーズリーフに書かれているリストを確認する。

「なら、四組は決定だな」

ぱっと紙を取ると、和斗がそこに四組、赤頭巾と書いた。そのまま四つ折りにしてポケットに突っ込む。

「委員長には俺が渡しとく」

「あ、有り難う御座います」

「和斗、次始まるぞ」

いつの間にか十分の休みも残り一分となっていた。

「おう、んじゃ、また昼に」

慌ただしく和斗と明は出て行った。

「委員長には俺が渡しとく、ねぇ」

「どうしたの? 和歌」

「ん〜ん、何でもない」

和歌の含み笑いが気になったが、チャイムと同時に教師が入ってきたため、そのまま水面は席に着いた。

委員会の時に水面が渡せばいいだけの話なのに、わざわざ渡してくれるなんて、何て和斗は優しいのだろうか。

白い字が黒板を埋める中、そんなことを思い、水面は一人、幸せそうに笑うのだった。



有り難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ