4.決定
お久しぶりです! 訪問有り難う御座います。
「どうしよう……」
「何がどうしよう、よ」
「だって、だって……通っちゃった!」
水面が出した案は、代表者会議で見事に通り、一年は全員で物語に沿ったお店を出すことになった。次の会議までに各クラスでやりたい物語を選ぶということで、昨日の会議は終わった。
「流石、読書好きね。あんなこと、よく思いついたわ」
「でも、まさか通るとは思わなくて……」
「あれ、水面の案だったんだ」
「和斗さん」
ひょこりと、和斗の後ろから明も顔を覗かせている。
「はぁ〜……。水面が委員やるなら、俺もやればよかった」
「何回言えば気が済むんだよ」
「はぁ〜」
和斗は盛大に溜息を吐くと、そのままだらりと窓に寄りかかった。
可愛い――
男の子に可愛いと思うのは失礼なのかもしれないが、膨れた顔が可愛らしかった。
「なに水面、顔赤くしてんの?」
「えぇ!?」
和歌にそう指摘され、慌てて顔を隠す。
「ん?」
「うっそ〜」
「もう、和歌!」
「何? 水面、俺に見惚れてたの」
「っ!?」
一気に顔に熱が集まった。
「あ、赤くなった」
「可愛いなぁ、水面は」
「か、和斗さん!!」
慌てて頬の熱を冷まそうと手で扇ぐも、顔は熱いままだった。
「和斗も和歌も止めてやれって。水面ちゃん、困ってんじゃん」
「はいはい。そういえば、あんたたち、何しに来たの?」
「何だよ。俺が水面に会いに来たらいけないわけ?」
教室に入ってきながら、じろりと和斗の目が和歌に向けられる。
「別に、悪くはないですけどぉ」
それに対抗するように、和歌も目つきを鋭くして、和斗を睨みつけた。
二人とも仲がいいなぁと思っている水面が、その二人の険悪な雰囲気に気がつくことはなかったが。
「和斗、要件」
「うるせぇなぁ」
「あら、何か用事があったんだ」
一枚のルーズリーフが和斗から水面に渡される。そこには幾つか童話の題名が書かれていた。
「一組、第一希望、シンデレラ?」
「各クラスの希望だとよ」
よくよく見ると、そこには水面のクラスの四組を空けて、全ての組が書かれていた。
「俺たち三組は不思議の国のアリスだよ」
「水面のクラスの案も書いて、今日の会議の時提出してくれって、委員長が」
「早瀬君が?」
「あれ、水面ちゃん早瀬の事知ってるの?」
知るも何も、水面を委員に誘ってくれたのは彼で――そういえば、まだ誰にも言っていなかった気がする。
「あの、私を誘ってくれたのは、早瀬君なの」
「委員長?」
「へぇ、水面ちゃんの友達って、早瀬のことか」
「誰よ、早瀬って」
「俺らのクラスの委員長で、成績優秀、次期会長候補って言われてる奴」
そんなに凄い人だったのか。
初めて知ったことに、水面も和歌と一緒に感嘆の声を上げてしまう。
「水面は知ってるんでしょ? 何驚いてんのよ」
「ううん。私、図書館で会って、少し話しただけだから」
友達とは言っても、一度図書館で話したきり、委員の仕事以外で話したことはない。会ったのもそれぐらいだ。早瀬のことは好きな本がどれということしか知らない。
「あら、そう。それで、何でこれを和斗が持ってくるのよ」
「和斗が、四組に用があるなら、俺が持ってくって」
「水面に会う口実になるし」
少し目を細めて笑う姿は何度見ても眩しくて、思わず水面は顔を俯けた。ずっと側にいるのだが、中々慣れない。いつまで経っても和斗は眩しい存在だ。
「水面のクラスは何するんだ? 」
「取り敢えず、赤頭巾をしようかと思っています」
「ん〜と……どこのクラスも第一希望には持ってきてないわね」
和歌が横からルーズリーフに書かれているリストを確認する。
「なら、四組は決定だな」
ぱっと紙を取ると、和斗がそこに四組、赤頭巾と書いた。そのまま四つ折りにしてポケットに突っ込む。
「委員長には俺が渡しとく」
「あ、有り難う御座います」
「和斗、次始まるぞ」
いつの間にか十分の休みも残り一分となっていた。
「おう、んじゃ、また昼に」
慌ただしく和斗と明は出て行った。
「委員長には俺が渡しとく、ねぇ」
「どうしたの? 和歌」
「ん〜ん、何でもない」
和歌の含み笑いが気になったが、チャイムと同時に教師が入ってきたため、そのまま水面は席に着いた。
委員会の時に水面が渡せばいいだけの話なのに、わざわざ渡してくれるなんて、何て和斗は優しいのだろうか。
白い字が黒板を埋める中、そんなことを思い、水面は一人、幸せそうに笑うのだった。
有り難う御座いました。