14.おおかみ
パンッパンッパンッ――
『第21回、誠華学園祭開園!!』
派手な音と共に、色とりどりの風船が飛ばされた。同時に門が開き、人が波のように押し寄せる。数分の間に誠華学園は賑やかになった。
校内を見回すと、ドレス姿の生徒や動物、何故かメイド、狼の着ぐるみといった生徒で溢れかえっていた。確か、高二がゲームもの、一年が飲食店で、三年が全校のイベントだっただろうか。一年の物語衣装に便乗して、二、三年も衣装を着ているらしい。
「そこのお兄さん、うちに寄ってかない?」
「……」
「あ、こら、無視すんな!!」
「……」
意外としつこい狼だ。
「こんの……最低男!」
「は?」
振り返った瞬間――
「ぶっ!?」
顔面にプラカードがヒットした。派手な音に、皆が振り返る。
「てめぇ……何すんだよ」
「あんたが無視するからでしょ」
狼が頭を外した。頭上でくくられた髪がされりと現れる。
「……和歌?」
「ふんっ」
「……ぶっ、あははははははは!?」
何故狼なのだ。他にもあっただろう。
それがあまりにも和歌に似合っていたため、和斗は腹が捩れるくらい笑った。
「煩いわね!! 他の奴に狼をさせるわけにいかなかったんだから」
「和歌のクラスは何すんの?」
「赤ずきん」
「水面は?」
「赤ずきん」
それは是非とも見なくては。
「別にあたしは他のでもよかったんだけど」
かぽりと和歌の顔が狼の向こう側に消える。
「水面が赤ずきんだからね〜」
「……」
そのまま和歌の後に続いて教室に入る。
メニューにはブドウジュースと様々な種類のクッキーが書かれていた。
教室を見回すと、動物の姿をしたウエイトレスが沢山いた。しかし、それだけだ。
「水面探してるの?」
「……」
「いないわよ」
狼がクッキーを運んでくる。
「どの面下げて、水面に会いに来たんだか」
「……分かってる」
あれをみた水面がどんな気持ちになったか――
「ふ〜ん。分かってるならいいけど」
きっと和歌にも詳しいことは話していないだろう。和歌のことだ。その様子を見て、察しているのだ。何が起こっているかを。
今更、あの周りの女性徒達に殺気がわいた。あの場にいた自分自身にも怒りがこみ上げてくる。
「あぁ〜、いつでも俺の1番は水面なんだけどな〜」
「何それ。ノロケ?」
「赤ずきんとか、誰かが見張っとかなきゃ危ないだろ」
「見張るって……1番危ないのはあんたよ」
何枚かクッキーを摘むと、和斗は立ち上がった。
「行くの?」
「ん」
「ま、頑張って。水面泣かしたら、承知しないから」
狼に背を叩かれ、和斗は教室を後にした。