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12.雨降り傘

訪問有り難う御座います。


「よし、完成!」

気がつけば、体育館内が騒がしくなっていた。いつの間にか、本に集中してしまっていたらしい。慌てて本を片づけると、水面は中から見えないように扉の影に隠れた。

「お疲れ様!!」

「東君のお陰で、早く終わったよ。有り難う」

「本当! すっごく器用なのね」

がやがやと、体育館内を動く音がする。

「カッコいいし、頼りになるし」

「ちょっと怖いと思ってたけど、何気に優しいしねぇ」

「そうか?」

和斗の声がすぐ側で聞こえた。もう扉のすぐ側まで来ているのだろう。

何故だか、このまま扉の裏に隠れているのは、悪いことだという気がしてきた。かといって、このまま傘を持って一緒に帰ろうと声を掛けるのも恥ずかしい。

どうしようかと、少し迷いながら、覚悟を決めて水面は扉の影から出た。

「本当、本当。優しいし、カッコいい!」

すぐ近くにいると思っていた和斗は意外と少し離れたところに立っていた。その周りは数人の女性徒に囲まれている。

「もう付き合ってって感じ」

一人の生徒の腕が、和斗の腕に絡む。

それは一瞬のことだった。

女生徒の顔が和斗の頬による。「ねぇ、彼女と別れて、私と付き合わない?」

赤い唇が頬に触れた。

「っ!!」

目の前が真っ白になった。

「東さん」

「あっ」

すぐ側に、早瀬が立っていた。

いつの間に。いつからいたのだろうか。見られたのだろうか。

「あの、これ、傘。和斗さんに渡しておいてもらえますか?」

「東さん」

「お願いします」

それだけ言い残すと、水面は雨の中走り出した。

「東さん!」



☆★ ★☆



雨で濡れた制服が肌に張り付く。

不意に、冷たく降り注ぐ雨が途切れた。はっと顔を上げる。

「……早瀬君」

そこには、傘を差し出す早瀬の姿があった。

「こんな所にいたんだ」

「濡れてますから」

濡れてはいけないと、図書館内には入れず、水面は外でしゃがみ込んでいた。

「東だと思った?」

「っ!!」

見透かされたことに、驚き、恥ずかしくて涙がこぼれそうになった。

「あのさ、何か付け入るようで悪いんだけど」

「え?」

「俺、東さんが好きです」

こぼれかけていた涙はぴたりと止まってしまった。

「あんな奴に、君を幸せに出来るとは思えない」

「あっ」

「学園祭が終わるとき、答えが聞きたい」

そっと傘が手渡される。

「早瀬君!?」

そのまま早瀬は雨の中を走り去っていった。

「早瀬君……が?」



有り難う御座いました。

次回から和斗目線です。

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