11.片付け
訪問ありがとう御座います。
やはり、予報は当たったらしい。少しすると雨が降り始めた。
「完成!」
教室中で、歓声が上がった。
どうなるかと思っていたお婆さんの小屋も出来て、水面達クラスは文化祭の準備を無事終えることが出来た。後は本番に人をどれだけ呼び込めるか、だ。
「どうしよう……人が来なかったら」
「大丈夫よ! 人は絶対に来るから」
和歌がどんと胸を叩く。
「こんな可愛い子が赤ずきんをするんだから、ね、委員長」
「な、俺に振られても」
最終確認をしていた委員長の手から、ばさばさっとメニューが落ちる。慌てて水面も拾うのを手伝った。
薄ピンクの画用紙に、赤ずきんの可愛らしいイラストが描いてある。皆が絶賛したこのイラストを描いたのは委員長だ。
「冗談よ。何照れてるの?」
「あぁ、もう! 俺は東さんの彼氏に伸されるのはごめんだからな!」
耳の先を赤くしながら、委員長はメニューを机の上に置き直した。
「メニューどうでしたか?」
「うん。間違いはない。材料確認も終わってるし、東さんはもう帰ってもいいよ」
「でも、まだ片付けが」
教室内の飾り付けは出来たが、まだ所々にテープやハサミが残っていた。まだ紙屑が落ちていたりするので、掃除もしなくてはならない。
「これぐらい俺たちでやっとくから」
「水面はペンキとか片付けてくれたでしょ。気にしないで先に帰りな」
委員長、和歌に言われ回りを見ると他の生徒も口々に帰っていい、気にするな、と言ってくれた。
「和斗とゆっくり帰りなさい。多分あいつ、傘持ってきてないから」
外を見ると、本格的に雨が降り出していた。傘無しで駅まで行くのは、無謀だろう。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
荷物をまとめて教室を出るとき、和歌が側まで寄ってきて耳打ちしてきた。
「相合い傘」
「っ!?」
「して帰りなさいよ」
「も、もう! 和歌!!」
「あはははは、また明日」
和歌のせいで、すっかり意識してしまった。このままでは、きっと和人と会ったときもおかしな態度をとってしまう。
真っ赤になった顔をクラスの皆に見られたくなくて、水面は慌てて教室を出た。
☆★ ★☆
どこのクラスも殆ど準備が終わっていたので、和斗を見つけるのは簡単だった。
4組が準備に使っている旧体育館を覗くと、何やら張りぼてらしきものを作っている中に和斗の姿があった。今日もカッターを脱いで、Tシャツ姿になっている。
どうしてあんなにも格好いいのだろう。
きっと和歌に聞かれれば、またからかわれるだろうことを考えながら、水面は傘片手に作業が終わるのを待つことにした。あの空気の中に声をかけることは、とても出来ない。恥ずかしすぎる。
本格的に降り始めた雨は、昼間の熱気を綺麗に消し去っていった。
「相合い傘……ではないから。雨で濡れたら、困りますもんね」
何もせずに待っていると、先ほど和歌に言われたことが思い出される。雨のせいで少し肌寒いはずなのに、顔だけは火照った。
ふと中を覗くと、和斗以外は女性徒しかいないことが分かった。他の生徒は別のところで、他の作業をしているのか、人数も5人程しかいない。
「東君、これやってくれない?」
「あ、こっちもやってぇ」
クラスで随分和斗は頼られているようだ。こっそり見ていると、確かに和斗が手を加えた部分はとても綺麗で、丁寧だと思った。
「……凄いなぁ」
「あれ、東さん?」
「きゃっ!?」
不意に声を掛けられ、水面は飛び上がった。慌てて中を覗くも、気付かれなかったようで、和斗達は先ほどと変わらず作業を続けていた。どうやら、いつの間にか中を覗くことに集中してしまっていたようだ。
「早瀬君」
「どうしたの? 何か困ったことでも出来た?」
「あ、いえ。和斗さんに傘を」「……あぁ、東に」
一瞬、早瀬が気落ちしたように見えた。
「声、掛けてこようか」
「大丈夫です。まだ作業しているみたいですし、待ちます」
鞄の中には本も入っているし、まだ長引きそうなら読書をしようと思っていた。雨は降っているが、ここならば濡れないだろう。
「そっか。じゃあ、俺は中で作業するから。寒くなったら、いつでも遠慮なく入ってきて」
「はい。有り難う御座います」
そう言うと、早瀬は靴を脱いで中に入っていった。水面が覗きやすいようにか、扉もそのまま少し開けていってくれた。
中では、早瀬も加わっての作業が始まった。
有り難う御座いました。
次回は彼が動きます!