10.すれ違い
訪問有り難う御座います。
文化祭、前日の話になります!
「よいっしょ……と」
頼まれていた荷物を片づけ終わると、ようやく一息つけた。
「ごめんね、東さん。手伝わせたりして」
「そんな、殆ど持ってくれたのは早瀬君ですよ」
廊下や教室に残された道具を片づけるのは、水面達文化祭実行委員の役割だった。なかなか、どの道具がどこから持ってこられたものなのか、一般の生徒には分からないのだ。皆でてんでに片づけるよりも、分からないものは委員がする方が早いと、委員の仕事になっていた。
今、倉庫に入れたのは、ペンキや刷毛といった、看板などに使った道具だ。量があるだけでなく、意外と重さもあったので、水面が運ぶには大変なものだった。
「僕のクラスの片づけまで手伝ってくれて、助かったよ」
「私のクラスの方も、手伝ってもらいましたから」
体操服についた埃を払い、汗を拭う。汚れてもいいように、着替えていてよかった。汗と埃ですっかり汚れてしまっている。
「片付けでも、結構汚れるよね」
「そうですね」
「そういえば、この間読んでいた本、もう読めた?」
「はい。もう読めましたよ」
文化祭が始まってからはお互い図書館に通う回数も減り、会っていなかったが、何度か本の紹介をしあってはいた。早瀬の薦めてくる本はどれも水面の好みにぴったりで、すぐに読めてしまうのだ。この間読んだ本も、とても面白かった。主人公が敵国の王子を好きになってしまう話だ。
「早瀬君も恋愛ものを読むんですね」
「意外だった?」
「はい。男の子はそういうものは読まないのかと思っていましたから」
倉庫を出て、鍵がかかったのを確認すると、明日の本番に向けて最後の準備をしに教室へと向かう。
「あぁ、そうかもね。男で読むのは少し珍しいかも」
昼間はぎらついていた太陽が、今は雲に隠れてしまっている。午後から天気は雨予報だった。
「そういえば、もって?」
「え?」
「さっき早瀬君もって言ったでしょ? だから他にもそんなやつがいるのかと思って」
「はい。和斗さん……ではなくて、東君です」
「東が?」
初めは、簡単に読めるものをとお勧めしていたが、いつからか、水面の読んだものを読みたいと言いだして、恋愛ものや分厚い本まで読むようになっていた。
「二人は付き合ってるんだよね?」
「うぅ……はいぃ」
和歌以外に聞かれたとのない質問だったので、思わず赤面してしまう。何だかむずがゆく、気恥ずかしいものだ。
「何で付き合ったの?」
「え……えっと」
和斗に好きと言われたから、自分も惹かれたから、優しいから――理由は色々あるが、どれもとても恥ずかしくて話せるものではない。
「東さんとはタイプが随分違うよね」
「そうですね」
「知り合いも幅広いみたいだし」
「あの……えっと」
「ごめん、ごめん。答えづらいよね」
言いよどんでいると、早瀬は笑って話を変えてくれた。
その後は本の話をしつつ、二人で教室まで戻った。
有り難う御座いました。