第1章 海月精霊は誘う。⑥
アル=アインは交易が盛んで、その建国の始めから国外から多様な人々が流れ込んできた。
その結果、髪や肌の色、顔立ちもバリエーション豊かだ。
それでも、日差しの強い気候によるものか、髪や目、肌の色が濃い者が多い。
少女の連れである、“ナジュム”と“ユスフ”も黒髪と浅黒い肌をしている。
ナーディル自身も似たようなものだ。
だが、決定的に彼らと自分を分けているのは、その紫の眼だった。
それは何代か前、遠い北方の国から迎えられた花嫁がもたらしたものだという。
「――あらためて、ご挨拶を申し上げます。
わたしはアル=ナシーム家当主の次女、ピラールと申します。どうぞ、お見知りおきを」
紫の眼を伏せた少女は、すっと顔を上げた。
そのまなざしが、まっすぐナーディルに向けられた。
一瞬、息を呑み、ナーディルは言葉を探した。
すると、ピラールは不思議な笑みを浮かべて、囁いた。
「……魔石灯の吊り天燭台は、まだ王宮にしか納品しておりません。
七色の変化の披露も、たった一度だけ、王家の方々の前でだけだと聞いておりますわ。
――殿下」
ナーディルは自分の失態に気づいた。
隠すことをあきらめた。
判断は、はやいのだ。
「我はアル=アイン国王カーミルが嫡孫、ナーディル・アル=アイン。
微行ゆえ、気遣いは無用に願う。
――というか、戻った後のじいからのお説教が決まってしまった。
これ以上は、ごめんこうむる。ゆえに、此度のことは内密に――」
後半を秘密めかして囁き返したナーディルに、ピラールの目がきらめいた。
「では、わたしのお願いもお聞きくださいますか――?」
ナーディルは、じっとその目を見つめた。
「願い――とは?」
ピラールは、かすかに身を起こした。
「殿下を近々催される不夜祭にお招きしたいのです。
当日、迷宮書楼に設えた舞台においでいただけないでしょうか。」
ナーディルは聞きなれない単語に、目を瞬かせた。
「めいきゅうしょろう――とは?」
ピラールは小首をかしげた。さらりと髪が華奢な肩を滑る。
「かつての王立書楼、と申し上げましょうか。今は、誰もそう呼びませんが。」
不思議そうなピラールの袖をゆすって、ユスフが囁いた。普通の声の大きさで。
「姉さま、おもてなしが先!
あと、座って!足、もう限界でしょ!?プルプルしてる!」
「…今、それを言う……?」
囁き返したピラールの頬がほのかに朱かった。
ナーディルは咳払いで、吹き出すのをこらえた。
――どうやら喉の調子が悪くなったのは、ナーディルだけではないらしかったが。
やれやれ、とばかりにユスフが首を振る。ぼそりとぼやく。
「自分がしびれてちゃ、しょうがないじゃん……くらげのくせに」
ナーディルはとうとう決壊した。




