近畿圏の噂
近畿圏の噂
年が明けると、長が引退し、巫女の弟だった青年が長になった。
移動するグループの親分も、巫女の暮らすことで、長を引っ張る責任が増えた。
オヤジは相変わらず、保倉川の小屋に入り浸り、母がオヤジのところに弟を連れて、行ってしまった。
巫女と相談して、碓氷峠を越えて山の向こう側を見てくることにした。
弓使いとチビは、本格的に縄文の森前の小屋で暮らすようになっていた。
平地の暮らしは、単調だが、弓使いが居ると天気の先読みをしてくれるので、岩場の暮らしにも豊かに出来るようだった。
幾つかの夏が過ぎると、巫女には、娘が、チビには二人の子供が、生まれていた。
そこにオヤジが何年か振りで、里に帰ってきた。
祈りの部屋に巫女と親分の下で、話し合いが始まった。
「オヤジ、以前に碓氷峠を越えたが、小さな集落が幾つかあるばかりで、佐久の周辺では、変化が取れなかった。」
「そうだな、直江津王国の周りも、順調ではあるけど変化は少ない。」
巫女がホッとした顔をしてるのを見て、オヤジが返す。
「やっぱり、南の国から近畿圏の声、それも伊勢の大巫女の声だけが、目立つな。」
「伊勢とはどの辺ですか?」
オヤジは、仕方ないと言う感じで、
「巫女様は、諏訪は分かるかな」
巫女が頷くと答えた。
「諏訪は山を越えるとある大きな湖ですね」
「そうだ。伊勢は、そこから10日ほど先の海の方の縄文の古い大巫女が居るらしい。それが近畿圏とつながってるらしい」
オヤジはようやく分かったんだと、話を続けた。
「それしか、分からないんだけだ、どうも、南の国が、静かなのは、そのせいじゃないかと言う話だ。」
随分と力があるらしい。大巫女の声が響いているらしい。と、オヤジの声が小さくなった。
親分が続けた。
「随分と離れた場所の声が、響いているんですね。」
オヤジは、先代と元長のところで癒されてる娘を見ると、ヨシと言って、保倉川に帰って言った。
親分は暫く、黙っていると、巫女に会いに行くしかないと話、また沈黙した。
大巫女の声が、遠くで呼んでいる気がした。
季節は夏になっていた。
辺の緑の色が濃くなり、風は浅間山に向かって吹いていた。




