第三章 選抜 1
北側の運動場に溶け残っていた雪も消えて、窓から射し込むお日様の光もだいぶ温かく感じられる様になった頃、いよいよ僕たちの移動の日がやって来ました。
肉豚たちはみんな、車に追い込まれて載せられると、肥育豚舎へと運ばれて行きました。彼ら肉豚はそこで餌を自由に食べて、体重が百十五キログラムになると食肉処理場に出荷され、と殺されて食肉にされます。
彼らの命は、とてもはかないものです。長くても、生後十ヶ月くらいしか生きられないのですから。
肉豚たちが自分の運命を知り得ないのは、やはり彼らに取っては幸運な事なのでしょう。やがては殺されるという恐怖に囚われず、本能のままに、今という一瞬だけを食べてはただ寝るという欲求だけを繰り返し、ただ生きていれば良いのですから。
もし彼らが、私みたいに未来を知る事ができて、その自分の運命が全て分かってしまったとしたら、たぶん、きっとみんなその恐怖と絶望に嘖まれて、…。
それはとても恐ろしい事です。
僕のように、繁殖用の種豚候補豚として決まった豚たちは、育成豚舎に移されます。
この豚舎にも豚房と、豚舎の外に運動場があります。広さはほ育豚舎より少し広いくらいでしょうか。
ここでもお互い、新顔の豚たちと一緒になる訳ですから、最初の数日間は喧嘩と小競り合いの応酬です。でも、やがて豚たちの中で順位付けが決まってしまうと、豚たちは喧嘩を止めておとなしくなります。
餌は、これまでの後期用の人工乳に代わって育成用飼料が給与されます。
この餌を食べるのは、体重が六十キログラムくらいになるまででしょうか。餌は、トウモロコシや大麦が粒状に砕かれた物で、配合飼料とか濃厚飼料と呼ばれています。
給餌器は、今までの物より幾分大きめのサイズになりました。
朝と夕方、あの青いツナギを着た若い兄ちゃんが、リヤカーにスコップを載せてやって来ます。そうしていつも通りに、豚房と運動場の清掃をしていきます。
ここに移っても、相変わらず兄ちゃんの作業を邪魔する豚たちがいると見えて、時々、兄ちゃんの「邪魔だ、どけ!」という怒声に ピシャン! という音が重なると、直ぐに「ビギャー‼」という豚の悲鳴が聞こえてきます。
僕のいる豚房は、育成豚舎の真ん中くらいにあります。隣の豚房との境は縦に入った鉄柵の鉄格子で仕切られていて、隣や、もっと先の豚房の様子も窺い見る事ができます。
豚房があるのは豚舎の南側だけで、豚舎の北半分はコンクリートの通路になっています。豚房は全部で十カ所くらいあるでしょうか。 鉄柵を通して、私の豚房の左右に広がっているのが見えます。
この豚舎に収容されている豚たちの種類は様々です。
僕と同じ豚房にいるのはバークシャーの僕と、デュロック種の雄と雌が二頭ずつ、そして、ランドレース種の雌が三頭の合計八頭です。いずれもみんな、純粋種の豚です。
どうやら、僕のいる豚房を含めて、左側にある豚房には全て純粋種が入れられています。純粋種はF1の交雑種に比べて発育が遅から、分けて飼われているのでしょうが。




