第一章 Ⅿy birthday (誕生) 2
「よし! 破水した。もう、子豚が出てくる。頑張れよ」
小父さんは、お母さんにそう声をかけながら、分娩台帳の新しいページの上の欄に、お母さんの名前と今日の日付、それに僕たちのお父さんの名前と交配日を書き込みます。
僕たちは、お母さんのお腹の中に三ヶ月と三週間、それに三日間入っていてから産まれます。僕もお母さんのお腹の中に宿って、今夜がちょうど百十四日目です。
さあ! いよいよ僕が、外の世界に出られる時が近づいてきました。
「ブブッ!」
お母さんの痛みに耐える唸り声が段々と大きくなって、その間隔も短くなっています。
「頑張れ。もう直ぐだからな…」
小父さんはお母さんのお腹を擦りながら、そう声をかけてくれます。
お母さんが、一瞬息を止めると、一段とまた大きく唸り声を上げ、お腹に力を込めました。
「グッ ‼ ……、 ふぅー…」
その瞬間、唸り声と同時に、産道から子豚がニュルッと、分娩柵のスノコの上に産まれ出ました。
「よしッ!」
小父さんは掛け声とともに子豚を取り上げ、白い布きれで体を拭いてあげます。子豚は小父さんの手の中で、「ビギャーッ!」と大きな鳴き声を上げています。
「どれ、…」
小父さんは子豚を体重計の上のカゴに乗せ、体重を計ります。計りの針はしばらく小さく飛び跳ねた後、スッと一キログラムの目盛を越えたところで止まりました。
「一.四キログラムと。雌、乳頭は左が七の右が七と、…」
そう呟きながら順番に、分娩台帳に書き込んでいきます。そして子豚の背中に、マジックで数字の1を書き込みました。
次はいよいよ、僕の産まれる番です。
「ブッ! …、 ふぅー」
お母さんが息を詰め、また大きくお腹に力を込めました。身体がムリュッと、暗くて狭く、そしてとても息苦しい場所を押し広げながら通り抜けて行きます。と、そこを過ぎた途端、瞬時に目の前が眩い光に包まれました。身体への圧迫が解け、息を大きく吸い込むと、僕は思わず「ビギャーッ!」と、大きな鳴き声を上げました。
「よしよし…」
小父さんが、震えている僕を床から取り上げるとヘソの緒を切り、乾いた布で僕の体を拭いてくれます。羊水で濡れた体や、体に白く纏わり付く羊膜や胎盤の膜の切れ端が綺麗に拭き取られ、僕の体の震えも何とか納まりました。
「体重が一.五キログラム。雄、乳頭は左七の右八」
小父さんはそう呟くと、また台帳に書き込みます。
僕の背中に2と書くと、小父さんはソッと、僕を分娩柵の中に戻しました。電熱ヒーターの赤い温かな光が、身体を心地良く包んでくれます。
僕はヨロヨロと立ち上がると、お母さんのお腹に鼻をくっ付け、下から上へと首を振り鼻で突き上げる様にしながら、おっぱいの場所を探ってお母さんのお尻の方からお腹へと、体の周りを廻って行きます。
目はまだ良く見えてはいませんが、僕の直ぐ近くからおっぱいの甘酸っぱい匂いが漂ってきています。だからそれを頼りに、お腹を鼻で突き上げ探りながらどんどんと前へと進んで行きます。
「あッ!」、ありました。おっぱいです。
僕は口一杯にお母さんの乳首を頬張ると、ゴクゴクと勢い良くおっぱいを吸い込みました。
その間にも、次々と僕の姉弟たちが産まれています。小父さんはその度に布きれで子豚の体を拭いて体重を計り、背中に番号を書き入れると台帳に記入していきます。
そうして分娩が始まってから、もう三時間くらいの時間が経ったでしょうか。最後の子豚が産まれ、胎盤もすっかり排出されてしまうと、お母さんのお産は無事に終わりました。
「やれやれ、と。…」
小父さんは、僕たちのいる分娩柵の中を改めて見回し、元気に動き回ってお母さんのおっぱいに吸い付いている僕らを見て、そう満足そうに呟きました。そして部屋の電気を消すと、豚舎から外に出て行きました。
後には、保温電球と電熱ヒーターの赤く、そして黄色くほんのりと灯る光が、薄暗い闇に包まれる部屋の中に、私のいる分娩柵を闇の中からほのかに温かく浮かび上がらせています。
僕はお母さんのおっぱいに吸い付いたまま、いつの間にか眠り込んでいました。
翌朝、お母さんの短く「ぶ、ぶ、ぶッ…」と鳴く声で目が覚めました。お母さんの鳴き声に合わせて甘酸っぱい香りのおっぱいが溢れ、乳房から勢い良くほとばしり出てきます。僕は乳首に吸い付き、夢中で乳を吸います。
僕の周りでも姉弟たちが、乳房を奪い合いながらおっぱいを吸っています。やっと僕の眼も、だいぶ見える様になってきました。




