終章 種雄豚としての選抜 4(種付け②)
その日の夜は明日に備えて、僕は豚房に敷かれたワラの上に脚を投げ出して横になると、さっさと眠ってしまいました。
隣の豚房の豚の鼾を聞きながら、明日の事を夢見て。
次の朝、僕は、窓から射し込んで来るお日様の光で目を覚ましました。
周りの豚房では、ほかの雄豚たちが自動給餌器がガランガランと立てる音を聞き付けて、餌が落ちて来るのを待ち構え、盛んに喚き声を上げています。
そして、餌曹に餌が落とし込まれると、僕もお腹が空いて夢中で食べました。種雄豚は豚房に一頭飼いされているので、邪魔が入らずにゆっくりご飯を食べる事ができます。
餌をお腹一杯食べてゴロンと横になっていると、豚舎のドアをガラガラと開ける音がして、小父さんと青いツナギを着た兄ちゃんが豚舎に入って来ました。
二人とも、白い長靴を履いて、胸には足首にまで届く長いビニール製の前掛けをしています。小父さんは頭にいつもの手拭いを巻き、兄ちゃんは赤い野球帽を被って。
「よし。今日はバークの初下ろしだ。放飼場の雌の発情も良いし、一丁、頑張っている所を見せてもらうか、なあ!」
「今日が、こいつのデビュー戦ですしね。種付けでこぼれ出た精液で、精子の活力も検査してみましょう」
小父さんと兄ちゃんはそう話しながら、僕の豚房に近づいて来ます。
豚房の前に立つと、
「よおし。今日は頑張れよ、雌の状態は最高だからな。それ! 出ろ」
そう言いながら豚房のドアを開けます。小父さんは中に入って来ると、手にした木の追い棒で軽く僕のお尻を叩きます。
「よし、よし。外へ出るんだ。それ!」
僕は黙って立ち上がると、豚房の外に出て通路を歩いて行きます。小父さんは僕の後ろから僕の尻を棒で突きながら、後ろに付いて歩いて来ます。
「そうだ。放飼場に行くんだ。今日の種付けは放飼場のバークだからな。初仕事だ」
小父さんはそう言いながら、僕を追って行きます。
放飼場は、種雄豚舎から少し離れた場所にあって、種付けを待つ種雌豚たちが入れられている場所です。
砂利道を歩いて行くと、間もなくその放飼場に着きました。黒白の種雌豚が、僕が外の柵の前に立ち止まると近づいて来ました。この雌豚が、僕の相手なのでしょう。
小父さんが、柵の扉を開けました。僕の尻を棒で突っついて、中に入るようにと急かせます。
僕は、放飼場にゆっくりと入って行きます。さっきの種雌豚が、僕の側に走って来ると、僕の体に体を預け、ピッタリと寄り添う様に体の動きを止め、立ち止まりました。
これまでに嗅いだことの無い臭いが、強く鼻を刺激してきます。僕はクンクンとその臭いの元を探る様に嗅ぎながら、種雌豚の周りをぐるぐると回ります。雌豚の横っ腹を鼻で突き上げながら。それでもその雌豚は ジッ としたまま、微動だにしません。
そして微かに、その黒い毛に被われた体を細かく震わせています。
僕は、陰部の臭いを嗅ぎました。その途端、今までに感じた事の無い感覚が、ビリッと、体の中を電気の様に走ります。思わず雌豚の背中に、後ろから乗り掛かりました。
「よーし、上手いぞ! そのまま …、」
その時、小父さんがそう僕に声を掛け、僕のペニスを ソッ と陰部の中へと導いてくれました。
「こいつは、中々上手いな。種雄豚としては合格だな。後は精液の活力を調べて、擬雌台に乗る様に調教すれば仕上がりだ」
小父さんが僕の横で、追い棒を杖代わりにしながら、そう言います。
兄ちゃんは、雌豚の陰部に小さなビーカーを当てて、こぼれ出てくる精液を取っています。
そして、五分くらい時間が経ったでしょうか。僕は射精を終え、雌豚の背中から下りました。が、始めての事に腰が抜けた僕は、しばらくそこに尻餅を付いたまま座り込んでしまい動けませんでした。
「まあ、始めての事だからしょうがないわな。筆下ろしだものな」
そう言いながら、小父さんは僕を見て笑っています。
「さてと、そろそろ戻るか」
小父さんはそう言うと、棒で僕のお尻を叩きます。僕は仕方なく立ち上がると放飼場から外に出ましたが、まだ体がふらふらします。
そうして、やっとの事で種雄豚舎に戻って来ました。
「ご苦労さん」
そう言って小父さんはドアを閉めると、隣の衛生室に入って行きました。
その部屋では、兄ちゃんが、さっき取って来た精液を顕微鏡を覗いて調べています。
「活力も、精子の数も良いですね」
「どれどれ …。ああ、そうだな」
小父さんと兄ちゃんがそう話し合っている声が、僕の豚房にも聞こえて来ます。
「よし。種雄豚としては合格だな。さっそく明日からでも、擬雌台での調教を始めよう」
どうやら僕は、種雄豚として合格点を貰ったようです。でも、種雄豚の役目とはこう言う事だったのですね。
僕にもやっと、それが分かりました。
でも僕は、何とかその役目をこなして行く事ができそうな気がします。
これから、擬雌台に乗るための調教をされて、僕は、人工授精にも使われていくのでしょう。立派な子孫を残すために、これから張り切って、僕に与えられた役目を果たして行きたいですね。
何て言ったって、この農場で黒豚の種雄豚は僕だけしかいないのですから。皆さんも期待していて下さい、これからの僕の活躍を。
またいつかお会いしましょう。
それでは、また。
(了)
お読み頂きありがとうございます。
パンダ豚 くろ助は、これで一旦終わりです。
また、いつか …
黒六白の黒豚を主人公とした話は、また、別の話で書いてみたいと思います。




