第六章 種雄豚としての選抜 2
それから更に、一ヶ月が経ちました。季節はもう夏真っ盛りです。豚舎の裏の木立ではセミたちが、声を振り絞って懸命に鳴いています。
豚舎の中には送風ダクトが張られ、送風機からの涼しい風が、ダクトに開けられた穴から吹き下ろして来ます。
僕も、送風ダクトの下で両脚を投げ出して寝そべっています。とても涼しくて最高ですね。
F1母豚や、僕以外の純粋種豚たちは、もうこの豚舎にはいません。皆それぞれの豚舎に移されて行ってしまいましたから。
僕の体重も、既に百二十キログラムくらいになっています。
そして、いよいよ今日が、僕の種雄豚としての適格性の検査の日です。
僕は、朝から緊張して、ご飯もあまり喉を通りません。
やがて、豚舎のドアをガラガラと開ける音をさせて、いつもの小父さんと青いツナギの兄ちゃんの二人が豚舎の中に入って来ました。
それぞれが、台帳とスプレー缶、それに耳標を手にしています。
「どれ!、と。今日の登録はこのバークだな?」
小父さんは兄ちゃんに、僕の事を確認しています。
「そうです」
兄ちゃんはそう返事をすると、僕のいる豚房の中に入って来て、運動場へのドアを バタン! と閉めました。
最も、僕ははなから、逃げようとする気は無かったのです。むしろこちらから早く登録をして貰う様に、お願いしたいくらいなのですから。
「よいしょっと。」
小父さんも豚房の中に入って来ました。小父さんは台帳に目を落として、僕の事を確認しています。
「これだな。ああ …、あの雪の降る寒い晩に生まれた奴か …」
小父さんは感慨深そうに、そう呟きます。
「そうか。この腹からはこいつしか残さなかったのか。まぁ、バークだし …。いい雄が一頭取れればいい所かもな」
「帳簿上での乳器は左が七、右が八となっているが …、おい、どうだ?」
小父さんは台帳でそう確かめると、兄ちゃんに、乳器を見るように言います。
兄ちゃんは、僕のお腹の下に頭を突っ込むと、僕のおっぱいに触りながら数を数えていきます。
「左が七、そして右が八です。間違いありません。乳器の質も問題は無いです」
兄ちゃんの声に、小父さんは台帳にチェックを入れていきます。
「玉は? 玉の具合はどうだ?」
兄ちゃんは、後ろから僕の睾丸を触って確かめます。
「左右とも問題無さそうです」
「白い模様もちゃんと、出るべき所に出ているな」
「六ヶ所とも問題ありませんね」
「体の伸びと深さはどうだ?」
「良さそうですね」
小父さんも、豚房の前で時々首を傾げながら、僕の体付きを丁寧に見て確かめています。
僕がこれまで経験した中でも、今日が一番長く見詰められているでしょうか。僕の緊張が一気に高まります。
「体型は、まあまあか …。 …、」
小父さんは何度か台帳に目を落とすと数字を確認しながら、また僕の体に目を戻し見詰めます。
それを何度か繰り返してから、小父さんが言いました。
「よし、こいつを種雄豚として登録を取るか。後は、乗駕欲とペニスの状態、そして精子の活力に問題が無ければ合格だな。まあ、こちらは、種付けに実際に使ってみなけりゃ分からないが …。まぁ、今日の所は合格だ」
( パチン! )
兄ちゃんが、僕の左耳に耳標を打ち込みました。
「さて、お茶にするか …」
小父さんはそう言ってごきごきと首を回し、兄ちゃんを伴って豚房を出ると、豚舎から外に出て行きました。後にはまた、ドアをガラガラと閉める音だけが響いています。
「やりました。今日のところは合格です」
ただ、小父さんの言っていた、種付けって一体何でしょう。それが通れば最終合格のようですが。でも、まあいずれ …。
その時になってみなければ分からない事ですしね。




