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パンダ豚 くろ助の冒険  作者: Eisei3


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第五章 探検 2(お父さんとの出会い)

 僕はまた、見つからないように、慎重に木立や塀の影を選んで隠れながら雄豚舎に近づいて行きました。

 

 この豚舎は種雄豚舎と呼ばれていて、それぞれの豚房には外に出ることができる、床がコンクリートで固められた運動場がありました。その豚舎の鉄柵は高くて、しかもとても頑丈そうです。

 豚舎の入り口に回り込むと、ドアの間から鼻先を豚舎の中に突っ込んで臭いを嗅いでみました。

 「くん! くん!、ブフゥー⁉」

 豚舎の中から、僕がこれまでに嗅いだ事の無い、何かとても不思議な感じがする臭いが漂って来ます。

 これは後で分かった事なのですが、この臭いは成熟した種雄豚だけが持つ独特の臭いで、雄臭さ、と言うそうです。まだ、未熟な僕には感じ取ることができないのですが、この臭いには精液の臭いも混じっているみたいです。

 

 僕は、二枚のドアの隙間に体を滑り込ませると、ドアを押し開けて豚舎の中に入って行きました。

 豚舎の中は真ん中が通路になっていて、その両側に豚房が並んでいます。両側のそれぞれの豚房の外側の壁面に窓があって、個別の豚房どうしを隔てている鉄柵は、床からの高さも高く、そしてとても太く頑丈にできています。

 豚房の中には、種雄豚が一つの豚房に一頭ずつ入れられていて、そこには大きな、それはもう、とても大きな種雄豚たちがいます。それは、あの僕のお母さんよりも、もっともっと、ずっと大きな雄豚たちです。大きな雄豚は、400kg以上にもなりますからね。

 僕も、やがて種雄豚として認めてもらえれば、この豚舎に入る事になるのでしょう。でも、僕もここにいる種雄豚たちみたいに、こんなに大きくなれるのでしょうか?

 

 雄豚たちは、豚房に敷かれたワラの上に足を投げ出し寝転がったり、運動場で突っ立って日の光を浴びていたりと、それぞれがてんでに自由に過ごしています。

 僕が鉄柵の側に近づいて行くと、茶色い色をした大きなデュロック種の雄豚が、口をバクバクとさせ白い泡を口から吐き出しながら、はす睨みになって近づいて来ました。

 まるで僕を威嚇しながら、喧嘩を仕掛けてきているようです。慌てて僕は柵から離れ、後ろに後ずさりました。

 

 種雄豚はとても気性が荒いため、一頭での単飼飼育が基本なんです。

 不幸にも、もし種雄豚どうしがどこかで鉢合わせしてしまったら、口からバクバクと白い泡を噛みながら、互いに殺し合ってしまうほどの喧嘩になります。

 争いはどちらかが動けなくなるか、もしくは逃げ出すまで続き、それはもう、傍にいるのも恐ろしいほどです。種雄豚によっては、ものすごい切れ味の牙を持っていますからね。

 そして悪い事に、争いに負けた雄は、体の傷だけでなく心にも、それは深い傷を負う事になります。それ以後はいつもビクビクとした臆病な豚になってしまい、交配にも非常に使い難い雄になってしまいます。

 だから後は、廃用豚として処分されるしかないんです。かわいそうですが。

 やはり豚でも、自尊心が傷つけられてしまうと、雄としての自信を失ってしまうのでしょうか。

 だから、種雄豚舎の豚房を取り巻く鉄柵は、隣り合った雄豚どうしが喧嘩をして傷つかないようとても頑丈にできているんです。


 種雄豚舎の中を見回してみると、真ん中の通路の左右に六部屋ずつの、合計十二豚房があります。そこに一頭ずつ雄が入れられていますから、この豚舎には種雄豚が全部で十二頭います。

 種雄豚は、大体三年くらいは種雄として使われますから、この豚舎で三年は暮らす事になりますね。

 僕もいずれここに来られるようになりたいです。

 

 ここにいる種雄の種類は、色の白い豚や茶色い豚がいますから、垂れた耳の白い豚がランドレース種、立った耳の白いのが大ヨーク種、そして茶色い色をした豚がデュロック種の純粋種の種雄豚ですね。ここにはそれらの種雄が何頭ずつかいるようです。

 普通、種雄豚はみんな純粋種の豚です。でも最近は合成豚とか言う種類や、デユロック種とバークシャー種を交配して作ったF1種雄豚とかがいますがね。


 

 それらの種雄たちに加えて、豚舎の一番端の奥の部屋に、黒い毛の色をした大きな種雄豚がいます。

 僕はこの豚舎に入った時からずっと気になっていたのですが、近くに寄ってみるとやっぱりそうでした。鼻鏡と、鼻鏡を取り巻く周囲の毛が白く、そして四本の足先と丸まった短い尾の先が白い毛で覆われたバークシャー種の種雄豚です。その雄はとても大きく、立派な体格をしています。

 ほかにはバークシャー種の種雄豚はおらず、この一頭だけです。

 

 たぶんこの種雄豚が、僕のお父さんだと思います。もちろん、僕がお父さんに会うのは、これが始めてですが。

 僕は、お父さんに挨拶をしようと柵に近づきました。

 でも、やはりお父さんは僕の事を睨み付けながら、口元に白い泡を吹き口をバクバクとさせて、威嚇しながら鉄柵に向かって頭を突っ掛けて来ます。

 「()ウ!、()ウ!。ゴウ、ブ!」

 ( ガシャッ! )

 「()ウッツ!…」

 と、ものすごい剣幕です。

 それにその大きく裂けた口を開けた時の、両の下顎から伸びた白い牙の長く鋭いこと。あの牙で切られたら、僕なんかもうズタズタでしょう。

 

 どの種雄豚も僕の姿を見ると、口から泡を吹きながら威嚇して突っ掛って来ます。僕の事を、雄豚として見てくれているのでしょうか。そうだったら、それはとても嬉しい事なのですが …。

 でも、僕はまだ小さ過ぎますね。しかも、まだ種雄豚になれると決まった訳でもないのに。

 

 お父さんに挨拶するのが、とても無理な事だと理解した僕は、この場所から離れることに決めました。

 「お父さん、さようなら。たぶん会うのは、もうこれが最後になると思いますが …、お元気で」

 そうお父さんに向かって「ブヒ、ブ、ブ…」と言うと、僕は通路をそのまま、豚房に隣接した隣の部屋に向かって歩いて行きました。

 

 

 種雄豚たちの豚房に続いて、鉄の重いドアで仕切られた向こう側は、独立した一つの部屋になっていました。

 その部屋の中央に、傾斜した丸くて細長い台の上に、なめした茶色い豚の皮が張ってある器具が据えられています。

 これは、種雄豚をこの台の上に乗せて精液を採取するための台で、擬雌台(ぎひんだい)と言うそうです。まあ、雌豚に似せた台ですね。

 そうです、この部屋は、ここに種雄豚を連れて来て、精液を採取するための精液採取室でした。採取された精液は活力が検査され、発情が来た種雌豚に人工授精されます。

 

 人工授精では、一度の射精で得られた精液を、顕微鏡で精子の数と活力などを検査した上で分けて、何頭かの種雌豚に交配することができます。交配を効率的にできる事や、体の大きさの違う雄と雌との交配もできるメリットがあります。

 たぶん僕もこうして交配され、産まれたのでしょう。そんな気がします。

 

 この擬雌台に種雄豚を乗せて、精液を採取できるようにするには、ある程度の調教と言われる練習が必要です。

 大体、種雄は生後八ヶ月くらいから繁殖に使われるようになるのですが、この頃から、擬雌台に乗駕(じょうが)、つまり乗るように訓練します。

 初めは、擬雌台に発情した雌のおしっこや粘液を付けて種雄豚を興奮させて、雄に擬雌台に乗る事を覚え込ませます。まあ、二、三回乗駕して精液の採取を覚えてしまえば、後は、擬雌台を見れば条件反射で飛び乗るようになりますが。

 精液の採取は、種雄が擬雌台に乗駕して興奮してペニスを出して来たところで、右手の手の平と中指と薬指で軽く握ってやると精液を射精し始めます。

 僕も、種雄豚として使われる様になったら、ここで調教されるのでしょうね。何だか恥ずかしい気もしますが。


 (ザッ、ザッ、ザ、…)

 豚舎の外から、こちらに近づいて来る足音が聞こえて来ます。僕は慌てて側に立て掛けてあった、ベニヤの板の向こうに逃げ込むと隠れました。

 豚舎の入り口のドアの外に人が立つ気配がして、ガラガラという音とともにドアが開けられました。

 そこには、煙草を横っ咥えにした小父さんが立っていました。

 小父さんは豚舎の中に入って来ると、衛生室と書かれた部屋に入って行き、何やらゴソゴソとしています。そして間もなく、小父さんは注射器を手に持って部屋から出て来ると、また来た道を引き返して行ってしまいました。たぶん、どこかの豚舎の具合が悪い豚に、治療をしに行ったのでしょう。

 

 僕は辺りの気配を伺いながら、注意深くベニヤの板の影から出て来ました。

 「いよいよ、小父さんたちが仕事を始めたな。見つからないようにしなけりゃ…」 

 僕はそう呟いて、ちょっと考えました。

 「次はどの豚舎に行ってみるか。…」


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