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パンダ豚 くろ助の冒険  作者: Eisei3


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第四章 豚房からの脱走 2

 どれくらいの時間が経ったでしょうか。

 聞こえていた小父さんたちの声や、逃げ回っていた豚たちの鳴き声が止むと、辺りが静かになりました。

 

 そしてしばらくすると、自動車の音がこちらに近づいて来ました。

 植え込みの木陰の間から顔を出して様子を窺うと、柵の付いた軽トラックの荷台に豚たちが載せられて、こっちにやって来ます。荷台の上には、あの青いツナギを着た兄ちゃんも乗っています。

 軽トラックは育成豚舎の前に止まると、兄ちゃんも荷台から降りて来ました。


 「やれやれ…。これで、逃げた豚たちは全部捕まえたか?」

 運転席から、小父さんがそう口にして降りて来ました。

 「すいませんでした」

 兄ちゃんが小父さんに謝っています。

 「いいって! 次から気を付ければ。それじゃあ、豚を元に戻すとするか」

 そう言いながら荷台の扉を開けると、豚たちを降ろしていきます。

 一、二…六、七、七頭います。外に逃げ出した豚たちの内、僕以外は全て捕まってしまったのでした。

 「ようし。豚房に追い込むぞ」

 そう言いながら小父さんは、兄ちゃんと二人でベニヤ板の追い板で豚を豚房に追い込んでしまうと、 ガチャン! と豚房の扉を閉めました。

 兄ちゃんは、外の運動場の扉の確認に回ります。


 「これで良しと…。一服付けるか」

 小父さんは軽トラックをそこに止めたまま、豚舎の前の欅の木陰に腰を降ろします。そして胸ポケットから煙草の青い箱を取り出すと、一本引き抜いて口に咥え、ライターで カチッ! と火を点けました。

 「ふーうっ、…」

 旨そうに煙を吐き出します。

 そして兄ちゃんも小父さんの横に座ると、煙草に火を点けます。

 「ふーっ」

 兄ちゃんも旨そうに、煙草を吸っています。

 「それじゃあ一服付けたら、分娩豚舎の離乳予定の豚を片づけちまうか?」

 小父さんが、煙を吐き出しながら言います。

 「そうですね」

 兄ちゃんは頷いて答えます。

 二人ともしばらくそうして、煙草を吸い終わると軽トラックに乗り込みました。僕がまだ外に出ているのに気がつかないまま。

 僕は木陰の中で、そのままジッと様子を窺っていましたが、二人とも僕の事には気づかずに、軽トラックを走らせて向こうの分娩豚舎のある方に行ってしまいました。


 「ぶ!、フー」

 僕はほっとして、植え込みの影から身体を出しました。


 「みんな捕まって僕一人か。寂しい様な気もするけど…。でも、せっかく表に出られたのだから、しばらく養豚場の探検をしてやるとするか」

 僕はそう言うと、首を傾げてちょっと考えます。

 「昼間に外をうろちょろしていると、直ぐに見つかって豚房に戻されてしまうからなぁ。人目に付かずに見つからない所は…と」

 僕は、周りをきょろきょろと眺め回して見ました。遠くの方に、ワラが高く積み込まれている建物が見えます。あれは、きっとワラ庫なのでしょう。

 「よし、そうだ。あそこにしばらく隠れていよう」

 僕はそう呟いて一人頷くと、見つからない様に周りに気を付けながら、木の植え込みや物陰に隠れながらこそこそと、ワラ庫に近づいて行きました。


 ワラ庫の中には、いつも僕らが豚房の床で寝る時の敷き料となるワラが、細かく切られて山の様に積まれています。

 僕は、ワラの山の高く積まれた一番上の天辺に駆け上ってみました。その上に寝転がると、ワラはふかふかとしてとても柔らかく、こうしているとまた、うとうととして眠くなってしまいそうです。

 どうやら小父さんたちも、直ぐにはこのワラ庫の方に近づいては来ないようです。

 外からはお日様の光がぽかぽかと射し込んでいて、ワラ庫の中もぽかぽかと暖かです。そして、僕はそのままうとうとと、ワラの山の上で眠り込んでいました。


 

 「はっ!」と、目を覚ますと、周りはもう真っ暗けです。

 どうやらうとうとと眠り込んだまま、夜になってしまったみたいです。

 

 「はーあーっ」

 思わず、大きなあくびが出ました。それと一緒にお腹も大きく鳴ります。

 (グー、グーッ!)

 「お腹が減ったなぁ…」

 僕はそう呟くと、辺りをグルッと見回しました。周りは既に、真っ暗な夜の闇の中に包まれていて、見回しても灯りはどこにも点いていません。ワラ庫の外には、ただ暗闇がずっと遠くまで広がっているだけです。

 

 僕は、ワラの山から下に滑り降りると、その黒い闇の中に白い鼻先を突っ込んで、夜の闇の匂いを嗅いでみました。「くん、くん…」、と。

 夜の闇は、湿った土の匂いがしました。でも、美味しそうな食べ物の臭いはして来ません。

 僕は、真っ暗な夜空を見上げてみました。そこには、針先で突いた穴からこぼれ出た光の様な星々が煌めいて、春の星座を形作っていました。

 南の空高くには下弦の半月が黄色く懸かり、雲の合間から顔を覗かせています。その月光が冷たく僕を照らして、僕の小さな影をワラの上に黒く落としています。

 その時、僕の心の中はなぜか、無性に寂しく悲しい気持ちでいっぱいになっていました。

 「お母さん…」

 気がつくと、そう僕は呟いていました。

 

 「ふー」

 ため息を一つ小さく吐いて振り返ると、僕はまたワラの山の上に上り、そこに寝そべって目を閉じました。


 そしていつしか僕の周りも闇の世界が取り巻いて、僕の意識は眠りの世界へと遠退いて行きました。

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