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第6話 これってデートっていうんですか?

「そうでしたか…森が人間により荒らされ、森の守護者はそれに憤慨して襲いかかってきたと…」


 ギルドカウンターの受付けの女性は、深刻そうな顔つきでシグの提出した調査報告書類に目を通す。


「そうだ。今回ボスドラゴンを倒したが故に、森の魔物達の勢力や治安にも影響が及ぶだろう。今後は新たな森の主が現れるまでは、森を守るためにもギルドの人員に現地の保守をさせてくれ」


シグはさらに話を続ける。


「あと、森の巨木が枯れてしまった原因は、人間によるこの地域の魔力の浪費によるものでもあると、ドラゴンは話していたそうだ」

 

「…確かに近年、急速な魔科学の発達や魔道具の普及によって、大気中の魔力の枯渇が懸念されていましたが、もうその影響が出始めているということですね」


 受付けの女性はそう話すと、はた、と疑問を抱いた様子でシグを見る。


「…しかしシグ様、ドラゴンの話…など、どうやって聞いてきたのですか?」


 シグの肩のマントの中で丸まっていた私がビクッとする。


「あ、ああ…そうだな、コメット…パートナーの魔物が通訳してくれた…というか…」


「なるほど、その可愛い子はとても賢い従魔さんなのですね!」 


 受付けの女性がニコニコしながらマントの隙間をチラリと覗き、私はシグの背中にぶら下がるようになってさらに奥へと隠れた。


 私の方を見ていた彼女がふと何かを思い出したようで、シグに話を切り出す。


「…ところであのー、シグさん、その…大変恐れ入りますが、度々お部屋に、じょせ…ゴホン…!街のご友人…をお招きしていらっしゃる様ですが…一般の方のギルド宿舎へのご宿泊は本来有料となりますので、次回からは事前にご予約くださいね!」


 やや気まずげに、少し顔を赤らめつつ彼女はニッコリと明るい笑顔でそう言った。


「ああ?………はっ!いや…その…違ッ…!!」


 シグは言葉に詰まり、あたふたしている。


「それに、お食事を人数分ご用意致しますし、お部屋のベッドタイプも、ご希望があれば変更できますので!どうぞ何なりとお申し付けくださいね!」


 部屋に戻るまでの廊下、シグは困ったような顔で額のあたりを押さえて歩いていた。


 部屋に入るとシュウウ、と私は人間の姿になった。


「…あっ、あのあの!私、ちゃんと、彼女にこの能力のことを説明して、勘違いを解いてきましょうか…?」


 私は少し焦りながら、まだ顔を赤くしているシグにそう言う。


「いや、むやみやたらと他人にそれを言うのはやめろ。本当に必要がある時だけでいい。…さもないとお前みたいな珍獣は、剥製にされて王立博物館に展示されちまうかもしれないぞ?」


「………はく、せい…?」


 私は知らない言葉に首を傾げる。


「…ギルドのロビーに、魔鹿の首が飾ってあるだろ?…ああいうやつのことだ」


「ぎゃぁぁー!!人間コワイ!!人間コワイッッ!!!!」


 そう言って、お尻だけ出してジタバタとベッドの毛布に潜り込む私。


「そうだ。…人間はな、怖い生き物なんだ…」


 シグがやたらと重い口調でそう言うので私はひょいと毛布から顔を出して彼を見上げた。


「…ところでコメット、今回の任務はご苦労だったな。…少々無茶な戦法ではあったが、正直お前のおかげで助かった」


 褒められたことが嬉しくて私はえへへ、と少し照れる。


 「任務の報酬金も入ったし…明日は街の飯屋でも行くか?」


「…街のごはん屋さん?!わーい!!楽しみです!!」


 私は野生の頃、ろくな食事にありつけなかったことから、食べ物への執着はそれなりにある。そんなわけで、彼の提案に私は小さな子供のように目を輝かせながら喜んだ。


翌日。


 私はファードラゴンの姿のままシグのマントに潜り込み、宿舎の部屋を出てロビーを抜けた。再び受付けの女性から誤解されることを避けるためだ。


 外はよく晴れている。今日は国の祝日であるらしく、街行く人も多く活気に満ちていた。しばらく歩くと、飲食店ばかりの街の一角へと辿り着いた。


 私は大きめの植え込みの影にそそくさと隠れ、シュゥゥ、と人間の姿へと変身する。


「…っと!お待たせしました、シグさん。…この辺は美味しそうな食べ物のお店ばっかりですねぇ」


 鼻をふすふす鳴らしながら、涎を垂らしそうな顔をしている私にシグがはは、と笑いかける。


「せっかくだから、お前の好きな店に入るといいぞ」


「わー!いいのですか?やったー!」


 私ははしゃぎながら走り出す。


「おいおい慌てるな、ちょっ…!まったく普段は怖がってるくせに、食べ物が絡むと大胆だなぁお前…!人混みの中ではぐれたら面倒だぞ!」


 昼時であるからか、飲食店周辺の混雑はかなりのものである。


「そうですね!じゃあ、こうしましょう!」


そう言うと私はシグの手を取って歩き出した。


「っ…!」


 シグが一瞬、動揺したような顔をする。並んで歩きながら街並みを眺める彼の横顔が、少し赤らんでいるように見えた。


 アルバの街の飲食店街は、どの店からもそれぞれ違った美味しそうな匂いが漂ってきて、私は目移りしてしまった。

 そうして、どの店にするか決めかねた私達が辿り着いた店の並びのはずれで、宝石商が露店を開いていた。そこで私目にしたものは…


大粒のルビー、サファイア、エメラルド…ダイヤモンド…!!!


「き"ゅ"い"ッッ!!?」


 今までに見たこともない大きな宝石の整然と並ぶ様に、私は人間の姿のまま魔物のような鳴き声を出してしまった。


「おい、どうしたコメッ…って!!おいお前、尻尾…!!尻尾出てる!!あと獣の耳ーーー!!」


 横でシグが何やら慌てふためいているが、今の私の目には煌めきを湛えた真っ赤なルビーのペンダントしか映っていない。


「えへへぇ…みてくださいよ、シグさん…すごく大きくて、おいしそうなルビー……じゅるり!」


 尻尾をバタバタ振りながら、私はヨダレを垂らす。


「…!?ちょ、宝石は食べ物じゃない!…いや、お前は食うのかもしれないけども…!人間の姿でそんな事言ったら驚かれるだろうが!」


 彼の懸念通り、恰幅の良い髭面の宝石商が怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「あっ、そうですよね…ごめんなさい。…でも、やっぱり美味しそう…!」


 依然として、ルビーに視線が釘付けになっている私。


「…ったく、しょうがないな…!!」


 シグは目頭に手を当てるとはぁ、とため息をついて、ゴソゴソと財布を取り出した。


「――まいどあり」


 宝石商がそう言って私にルビーのペンダントを渡す。


「うわぁぁ…!!シグさん、こんな…こんな!本当に、本当に良いのですかぁぁぁッ?!」


 私は虹色の目を、ルビーのペンダントに負けないくらいキラキラと輝かせた。


「任務成功は手荒な手段ではあったが、お前の手柄には変わりないからな。…あーあ、報酬金の大半が吹っ飛んじまったなぁ…ははは…!」


 殆ど空になった金貨袋を振りながら、シグは少しやけっぱちな感じに笑う。


「シグさん、私…ッ!とっても嬉しいです…!!このルビーのペンダント、大切にとっておいて……そして、いざという時の非常食にしますから!!」


「結局食うんかーーー!!!」


 えへへ、と笑う私の手からシグがペンダントを取り、そして私の首に掛ける。


「ほら、中々お前に似合ってるぞ。すごく綺麗だ」


 綺麗、と言われたのはペンダントの事だとは分かっていても、私は少し気恥ずかしくて照れてしまった。


 その後はちゃんと食堂に入り、シグと私はアルバの街の郷土料理を堪能した。


 人間の食べ物は味はとても美味しいけれども、魔力が殆ど含まれていない為、私のような魔力を糧とする魔物が食べるには向いていない。


 しかしながら、シグと一緒に摂る街での食事は楽しく、私にとって幸せなひとときであった。


 その後、シグと私は街を少し散策した。そして一通り見終えた後、私は魔物の姿に戻ってシグの肩に乗り、冒険者ギルドへと戻った。


 シグはロビーを通るついでに、次の任務についてギルドカウンターに相談を持ちかけた。


「お帰りなさいませ!シグ様、従魔様。本日はどのようなご要件で?」


 受付けの女性はいつもの明るい声で問う。


「そうだな、次の調査任務について、何か手頃な案件が来ていないか聞きに来たんだが…」


 そうですねぇ…と、女性は資料棚をガサゴソと漁る。


「あっ、そういえば前に街までフレアワイバーンが襲来したことがありましたよね。その親玉とも言える火山地帯のボスドラゴン、ガルーディアが縄張りを広げ、商人や採掘場関係者を襲っているとのことです…その勢力圏の調査、及び範囲図の作成任務とかありますけど、如何でしょうか?」


 女性は地図を指さしながら説明する。 


「あー…手頃かどうかは置いておいて、緊急性は高そうな任務だな、こりゃ」


 シグは少し表情を曇らせながら眉間にしわを寄せる。


「はい、ボスとの接触があらかじめ予測される高難易度の任務ですので、シグさんと従魔さんだけのお二人だけで向かわれるのには、正直なところ向いていない任務です。…もしよろしければ、私がパーティメンバーの手配を致しましょうか?」


 私は内心、知らない人間とパーティを組むのは嫌だったので、ぎゅぃぃぃ…と苦渋に満ちた声をシグの耳元で漏らした。 


「…………ああ、よろしく頼むよ」


 私のささやかな抗議も虚しく、彼は承諾してしまった。


「承知しました!それでは後日、パーティメンバーの手配が済みましたらこちらにお呼び出し致しますので、またお越しくださいませ。」


 ロビーから部屋に帰る廊下の途中でも、非難がましくぶつくさと鳴いている私に、シグが口を開く。


「…コメットは乗り気じゃないみたいだけど、危険度の高い任務に俺等だけで出向くのは自殺行為だ。分かるよな?」


「ぎゅいぉーぅ、ぎゅいぃぅぅぅ…」


 バタン、と部屋に入りシグがドアを閉める。

 私はシュウゥ、と人間の姿へと変身する。


「っはぁ……!分かってますよぉ…でも、シグさん以外の人間は…正直怖いし、不安なんですよぉ……!」


 ベッドに腰掛けて俯いている私の隣にシグが座り、私の背中をポンポンと叩く。


「そうだよな…次の任務は無理せず、不安だったらずっと俺のマントに隠れてていいからな」


「そんなの嫌です…!私は、シグさんと一緒にまた調査任務がしたいんですッ…!」


 私はそっぽを向いてぷぅっ、と頬を膨らませた。


「まったく、怖がりなうえに意地っ張りなもんだから手に負えないぜ…」


 やれやれ、と少し戯けながら言うシグ。私はムッとして、人間の姿のまま魔物の尻尾だけ出して、それでバシバシと彼の背中を打った。


「はは…いて、いて!やめろってば!コメット。地味に痛いぞ…それ。」


 そう言うとシグは私の尻尾をまじまじと見る。


「…お前、いつの間にかそうやって自由に、部分的に魔物になったり出来るようになったんだな?」


「ああ、そうなんですよー。これ、あんまり役に立たない能力かもしれないけど、面白いですよね?…そーれっ!」


 そう言って私は人間の姿のまま獣の耳だけピョンっと出してみたり、人間の骨格のまま全身フサフサの獣人になってみたり、色々と披露してみた。


 最初こそ興味深そうにじっと見ていたシグだが、途中から何やら様子がおかしい。


「…あぁコメット…や、それ以上はやめ…っっ!!俺の、俺の新たな扉を開いてしまう前に…ッ!」


「……きゅー?トビラ……?ってなんのことですかぁ??」


 何のことかは分からないけど、彼が見たこともない微妙な表情をしていたのが可笑しくて、私はもふもふの獣人の姿でケラケラと笑った。

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