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第5話 森の調査

 朝日が差し込む宿舎の部屋。

 私は今日は朝から人間の姿になって、鏡の前で自分の姿を念入りに確認していた。


「(尻尾出てない、よし。耳出てない。よし。牙は…うーん、人間の姿にしては、ちょっとだけ尖ってるのかな?まぁこれくらいはいいかな。よーし!完ぺき!)」


「ふぁ…おはよう、コメット。今日は随分と気合が入ってるじゃないか?」


 ベッドから起きてきたシグが伸びをしながら言う。


「はい!今日は初めてシグさんの調査任務についていくので、すごく緊張してるけど…でも、すごく楽しみでもあるんです…!」


 私はそう言うと、くるりと回ってみせた。しかし、バランスを崩してよろめいてしまう。


「きゃぁ!!」

「うおっ、と…!」


 後ろ向きに倒れそうになった私をシグが抱きとめる。人間の姿になってもなお、私は小柄なほうであり、シグとはだいぶ体格差があるため、その腕の中に収まってしまう。


「あ、ありがとうございまっ、きゅ…」


「…気合が入ってるのはいいけど、無茶はするなよな?」


私を床に立たせつつ、シグはそう言う。


 その後、準備を済ませた私達は部屋を出て、ギルドカウンターへ任務への出発を告げた。


 ギルドの受付けの女性は、最初こそ私が人間の姿になって宿舎に出入りしているのを見ると、なんだか見てはいけないようなものを見たような顔をしていたが、今はニコニコと手を振ってくれるようになった。

 きっと、私が変身できる魔物だってことに気がついたのかもしれない。


 外門をくぐって街の外へ出れば、見渡す限りの草原。その先にはなだらかな丘陵地帯が続き、穏やかな風が草の匂いを運んでいた。

 

「この辺って本当に良い景色ですね、今日は天気もいいし…とても気持ちがいいです」


「ああ、そうだな。この景色、何度見てもこの国…ウェルストワールの広さを実感するな」


 私達はヴェルデイルの森へ向かうべく、草原の中の一本道を進んでいった。


「そういえば、シグさんって普段は割とクールですけど、部屋で私をもふもふしてる時なんかは、なんだか小さい男の子みたいで可愛いですよねぇ…」


 私が笑いかけながら突拍子もなくそう言うと、彼は顔を赤くして俯く。


「ばっ…!…可愛いなんて大の大人の男に向かって言うような言葉じゃないぞ!」


「えー、いいじゃないですか。私が魔物の姿になっている時とか、シグさんもうすごい勢いで可愛い可愛い言ってきますし…?そのお返しですよ」


 見通しがよく整備されたこの道は魔物の気配がなく、その後も他愛もないお喋りをしながら小一時間ほど歩き続けると、ヴェルデイルの森の入口に辿り着いた。


 森に入ると、鳥の声や小川のせせらぎなどが聞こえてきて、私は故郷の山を思い出した。


「森の入り口付近は、特に大きく変わった様子は無いな…」


シグが辺りを見回しながら言う。


「そうですね…特にまだ魔物の気配もありませんし」


 私は空気の匂いをふんふん、と嗅いだ。


「とりあえず、森の中心部を目指してみよう」


 ひんやりとした森の空気の中を、シグと私は歩いていく。

 人が立ち入らなくなって久しいためか、森の中の道は荒れておりかなり歩きづらい。


「ああ、人間の体って本当に疲れますねぇ…体は大きいのに、それを二本の足だけで支えてて、おまけにバランスを取るための尻尾さえ無いなんて…!」


 しばらく歩いて疲れた私は、近くの苔むした倒木に腰掛けた。


「大丈夫か?疲れたのならば、無理せず魔物の姿に戻って俺の肩に乗るといい」 


 そう言って私に腕を差し出すシグ。


「ありがとう、シグさん。でも今はまだ大丈夫。それに、この姿ならいつでもシグさんとお話し出来て便利ですし」


 差し出された手のひらを両手で包み、私はニッコリと笑いながらお礼を言う。


「そ、そうか…疲れたら、いつでも言えよな…」


シグは少し顔を赤らめてそう答えた。


 休憩を終え、シグと私は森の中心部へと歩みを進める。

 そのうちにふとあることに気がついて、私は口を開く。


「あれ…?なんだかちょっと、森の様子が変わってきたような…」


 立ち止まって耳を澄ませてみても、先程のように鳥の声もせせらぎの音も聞こえない。


「そうだな…やけに静かすぎる。それに倒木なんかも目立ち始めたし、霧も濃くなってきたな」


 踏み入るにつれ、森の入り口付近の爽やかな空気とは一変し、不気味な雰囲気と障気に包まれていった。


ガサッ!


 ふいに近くの茂みから、木属性モンスターのプランテスが飛び出してきた。


「敵だ!コメット、気を付けろ!」


「はい!」


 戦闘に備え、私はシュウウ、と魔物の姿になった。

 プランテスは下級モンスターではあるが、長いツルと毒のトゲを持った厄介な魔物である。

 無駄な争いを好まない木属性の魔物。普段は茂みに隠れているが、自らの身に危険が迫ると襲ってくる。


「シャアアオ!!」


 プランテスはツタを鞭のように振るって攻撃する。


「…ッ、とうっ!」


 そのツタをシグは素早くかわし、それを根元から剣で断ち切る。

 全てのツタを切断され、プランテスは死に物狂いになり毒のトゲを突き出して突進してきた。 

 シグはそれを避けようとするが、先ほど切断したツタがまだ足元でのた打ち回っており、それに足をとられる。


「うおッ!!」

「きゅ!?きゅいー!!」


 私は迫りくるプランテスの側面に体当たりをして吹き飛ばした。しかし、プランテスは再び体勢を整え、こちらに身構えた。

 そこで私はふと、以前フレアワイバーンを倒したことを思い出した。


『(私の体よ、火属性の姿になれ!!)』


 私の体がシュウウ、と姿を変えていく。体躯こそ小さいままではあるが、耳は大きな翼に変化し、身体には赤い鱗を持つ魔物に変身した。


「うお…!なんだ!?…ああ、なるほど。フレアワイバーンの力で変身したのか…!!」


 シグは一瞬驚いたが、すぐに状況を飲み込む。


シャアアアッ!!


 吹き飛ばしたプランテスが態勢を立て直し、再度私に向かって飛びかかってくる。


「コメット、ファイアボールを撃て!」


「きゅい!」


 私の口へ赤い空気が渦巻きながら吸い込まれ、直後ファイアボールが放たれる。


 弱点の属性の魔法を喰らい、プランテスは灰になり地面に散らばった。


「コメット、助かった…よくやってくれた」


 シグがそう言いながら私の頭を撫で、肩に乗せた。


「温厚なはずの木属性の下位モンスターすら襲ってくるなんて、やはり様子が変だな…」


 シグはそう言うと、真剣な目つきで歩き出した。

 しばらく歩くとそこは開けた場所、森の中心部に到着した。


 そこでシグと私が目にしたものは、幹が腐り、葉も全て枯れ落ちてしまっている森の巨木の成れの果ての姿であった。


「きゅ…………!」


 私はその痛ましい姿に言葉を詰まらせる。周囲の木も殆どが枯れて、森の広場は荒れ果てた土の地面が露出している。


「この木は、ギルドの調査資料によればこの地域一帯の魔力を生み出していた霊木…だったはずだ。なぜ、それがこんな姿に…」


 私達が枯れた巨木を見上げ立ち尽くしていたところ、何やら遠くからズゥン、ズゥン…!!と音が響いてきた。


「な、何だ!?」


 シグが身構える。


 森の木々の深いところから、枯れ木をメキメキと倒しながら巨木の広場に向かって何者かが近づいてくる。


ズゥン!!!!


「来るぞ、コメット」


「…きゅ!」


 バキィィィ!!と枯れ木がなぎ倒され、土埃の中から緑色の鱗を持った四つ脚の大きなドラゴンが現れた。

 ドラゴンはその赤い目を血走らせ、口からはシュウシュウと煙が漏れている。


「ドラゴンか…しかもかなりデカい。おそらくこの辺りの主だろう。…っておい!コメット、そいつに迂闊に近づくなッ!」


 シグが剣を構えながら叫ぶ。

 私は同族として、彼等の言葉を使ってドラゴンとの対話を試みた。


 先の戦闘にて炎属性に変身していた私は、シュウウと元の真っ白なファードラゴンの姿に戻った。


『森のドラゴンさん、私は秘境域から来たファードラゴン、名はコメットです。あなたに対して敵意はありません。どうかその牙を収めてください』


 ドラゴンは私が同族だと認識すると、少し驚いた顔をしたが、すぐに元の敵意に満ちた顔に戻った。


『…我が名はグリンドラ。この森の守護者である。小童よ、ワシは貴様には用は無い。…立ち去れ。ワシが用があるのは、そこにいる人間じゃぁ…!!!』


 ドラゴンは低いしわがれた声でそう言うと、私の後ろにいるシグを睨みつける。


『この人間は私のパートナーです。もし彼…人間に何か言いたいことがあるのならば、私が伝えます…!』


 それを聞いたグリンドラは目をカッと見開き、その後嘲笑する。


『…ふぉふぉふぉ…!!ワシが人間に言いたいこと…とな!?この期に及んでそれすら分からぬとほざくとは、ワシらを愚弄しておるか、真の愚か者のどちらかじゃのう…!』


 身構える私。グリンドラは続けて口を開く。


『…森を踏み荒らし、木々を切り倒し、挙げ句この地域の魔力を枯渇させ…霊木をも枯らした…ッ!!人間どものせいでこの森もワシも死にゆく運命にあるのだ!!…せめて、最後に…そこの人間と従魔のお前に一牙浴びせてやろうぞ!!』


 そう言うとグリンドラはシグに飛び掛かった。


「うおっ…!」


 シグは剣で攻撃を受け流すと、私をひょいと抱える。


「相手は森の主だ。無理に戦うよりも一度引いて、本部に報告しよう」


 シグは私を小脇に抱えたままもと来た獣道を全力で走った。しかし、ふいに目の前の地面から細い木がメキメキと音を立てて生え、行く手を塞がれてしまう。


「くそっ、瞬時に木を生やすことができるなんて…!」


『はっ、逃げようなどとは心底情けない人間じゃのう。じゃが、逃さんぞ…!ふぉふぉふぉ…』


 私達を追い詰めたグランドラは、攻撃の構えをとった。一瞬の隙をついて私達はその横をすり抜けて、再び開けた場所に戻る。


「コメット、どうやら戦うしか無いようだ。さっきみたいに、また炎属性の魔物になれるか?」


「きゅう!」


 シュウウ、と私は炎属性の姿になった。


『姿をコロコロと変えるなどと、同族を名乗るわりには姑息な奇術を使いおって…じゃが、そのようなまやかしの姿などワシには通用せんぞ!』


 そう言うとグリンドラは口から大量の種を吐き出し、それらは時間差で爆発していった。


「きゃう!」


「ぐっ…!!」


 直撃は免れたものの、狭い森の中の限られたエリアでの戦闘である。シグも私も、爆風でのダメージを受けた。


『ふん、ちょこまかと避けおって、じゃがいつまで持ち堪えるかのう?ふぉふぉ!!』


 グリンドラは私達を尻尾を振り回したり、爪で切り裂こうとしたりする。

 攻撃を避けつつその体にシグが斬撃を加えるが、頭や背中を覆う鱗が非常に堅く、攻撃は弾かれてしまった。

 私もファイアボールで応戦するが、相手との力量の差がありすぎるためか、属性的に有利なはずの攻撃もわずかなダメージしか与えられない。


『ええい!これでも喰らうがよい!!』


 グリンドラは地面から木を生やし、その木から棘だらけの硬い木の実が降り注ぐ。


「きゃう!!」


 ふいの相手の攻撃でよろめいた私は、ファイアボールの狙いが逸れてしまい、相手の前脚の関節に命中した。


「グォォォゥ!?」


 グリンドラは一瞬であるが怯み動きを止めたが、私を睨みつけると再び爆発種で攻撃する。


「…うぐッ!…強い。だがあいつ、前脚が弱点みたいだな。そこを集中攻撃しよう!」


「きゅう!」 


 シグと私は攻撃を精一杯避けながら、隙をついてグリンドラの前脚を攻撃した。


「…弱点とはいえ、丈夫な鱗があることには変わらないし、与えられるダメージは高が知れている…!!何か、あいつの体の内側からダメージを与えられる方法は無いものか…」


 戦いながらシグがそう漏らしたのを聞き、私はふと、ある作戦を思いついた。私はシグに脚への攻撃を続けるようにジェスチャーを送る。


「…?わかった。…とにかく俺は攻撃を続ける!」


 その隙に私は上へと飛び上がり、旋回しながらタイミングを待つ。


「グォォオッ!!」


 執拗に前脚へ攻撃を受け、再びグリンドラが怯む。


「きゅうーー!!」


今だ!と言わんばかりに私は一声鳴くと、口を開けて怯んだグリンドラの口内へ飛び込む。


「ッ!??ぉいっ!!!コメット!?何を考えているんだ!?死ぬぞ!!」


 シグが取り乱した感じに叫んでいるが、グリンドラの口の中で四肢を突っ張り棒のようにしている私は、もはや引き返す事は出来ない。


「きゅううううう…!!!」 


 私は息を大きく吸い込むと、敵の喉の奥目掛けて渾身の力を使いファイアーボールを放った。


ズドォォォォォン!!!!


 体内に溜め込まれた爆発種に引火し、大爆発が起こる。グリンドラの体は風船のように膨れ上がり、口から漏れた爆風で私は吹き飛ばされる。


「きゅぁぁぁぁ!!」 


 くるくると回転しながら吹き飛ぶ私をシグが空中でキャッチする。


「コメット!!お前、とんでもない無茶しやがって…!」


「きゅ…」


 致命傷ではないが、爆風でかなりのダメージを受けた私はシュウ、と元の姿に戻り、彼の手の中でぐったりとする。


「グォ…グギギ…」


 なんと、あの爆発を受けてもなおグリンドラは生きていた。最後の力を振り絞り、よろめきながら血眼でシグへ噛みつこうと迫る。

 だがシグは慌てることもなく、フッと真顔になって剣を高く掲げると、それが黄金の光を放ち始める。


「荒ぶる魂に、束の間の眠りと再生を…!ライフリーン!」


 そう唱えると、彼は小脇に私を抱えたままその光り輝く剣を構え、向かい来るグリンドラの額の竜魔石にまっすぐに突き立てた。

 パァン、と打ち砕かれた竜魔石が、彼の剣の放つ光でキラキラと輝いた。


「グォォオオオオーーー!!!」


 グリンドラの体が光の渦に飲まれていく。そして光はそのうちに小さい点に収束していき、光が止む頃には小さな木の芽がそこにあった。


 その芽から地面を伝って草が生い茂り、周囲で立ち枯れていた森の木々が再び茂っていく。


「…!!」


 目の前で起こった、理解を超えた出来事に言葉を失う私。(もっとも、今は人語を話すことは出来ないけれども)


「ふぅ…なんとかなった、みたい…だな」


「きゅきゅう…」


 シグがはぁ、と息をついて少し俯く。しかしすぐに前を見て、剣を納めると私を両手で抱き直した。


「コメット、調査を終えて冒険者ギルドの本部へ報告しよう」


「きゅいー」


 私達はこうして、ヴェルデイルの森を後にするのだった。


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