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第3話 敵襲

 窓から差し込む日差しが暖かい、朝。

私は気がつけば一匹でギルド宿舎のベッドの上に寝ており、上にはふかふかの毛布がきちんと掛けられている。


「よぉ、おはようコメット」


 シグは窓辺の椅子に腰かけて武器や防具の手入れをしていた。


「おはようございます、シグさん」


 私はシュゥゥゥ、と人間の姿になって彼に挨拶を返す。


「…っ!!だからその…コメット。人間の姿になる時はこう、何か身につけてくれると俺にとっても有り難いのだが…」


 シグが目を覆い、困りながら話す。


「あっあっ、ごめんなさい…その、まだ慣れなくて…」

 

 そう言ってまた魔物の姿に戻る私。人間にとって裸でいるということは、よほど不躾で恥ずかしいことなのだろう。


 しかし、魔物である私にとっては何も身に着けていないのが普通なので、その事をつい忘れてしまう。


 その後、シグは街に買い物に出かけた。

 お前も付いてくるか?と聞かれたが、私はまだ緊張していて部屋の外へ出ることができず、留守番することとなった。


 宿舎の廊下を歩く知らない人達の声や足音が、時折ドアの方へ近づいてきて、そして遠ざかっていくのをビクビクとしながら聞いていた。


 彼が帰ってくるまでの小一時間は、ものすごく長く感じた。


「よう、ただいま!」


 埃っぽい部屋の隅で丸まって隠れていた私に帰ってきたシグが声を掛ける。


「おかえりなさい、シグさん!」


 私は人間の姿になってそう声を掛ける。


「お前に土産があるんだ、ほら、服だ」


 それはピンク色の格子模様のついたドレス。

 シンプルながらも控えめにフリルなどが付いたその服の可愛らしいデザインは、魔物の私にも魅力的に見えた。


「わぁ、かわいい服ですね。ありがとうございます…!」


 私は服の肩口を持つと、すっと自分の体に合わせてみた。


「その服は、着ているものの体型に合わせて、絶えず形状が変化する魔法の服らしい。魔物の姿でも、人間の姿でもどちらでも着ていられるだろう」


 私は早速その服を被り、袖を通そうとした。しかし、見様見真似で着てみようとした人間の服は思いの外、形が複雑で大苦戦してしまった。


「あれ…?これ、なんか首がものすごく苦しいし、身動きが取れないような…」

「おいおい、そこは腕を通す所だ。…って、そこは頭を出すところじゃない…!」


 最初こそ着替えている私をあまり見ないように気を使っていたシグだが、あまりの不慣れな様子に見かねて着替えを手伝ってくれた。


 やっとの思いで着たその服は、私の体にしっかりと馴染んでいる。


「わわー!すごいですね!さすが魔法の服、私の体にピッタリなサイズ」 


 鏡に映るドレスを着た私は、どこからどう見ても普通の人間の少女の様で、私は嬉しくてクルクルと回ってみせた。


「似合うじゃないか。どれ、早速それを着て街に出掛けてみないか?」


 うっ、と私は言葉に詰まる。しかしながら、当然ここでずっと部屋に引き籠もっているわけにはいかないし、何よりシグが選んできてくれた服を着て、人間の街を歩いてみたい!

 そんな気持ちから、私は宿舎の部屋から自分の足で一歩を踏み台した。


 シグに連れられてロビーを通る時、私は先日案内をしてくれた受付の女性と一瞬目が合った。


 彼女はハッ、とした顔をしたけれども、すぐにさっとこちらから視線を外し、ニコニコとした表情で仕事に戻っていった。


 自分の足で歩く、初めての人間の世界。シグに言わせるとどうやらここはこの国では比較的小さな街らしい。

 それでも私にとっては何もかもが大きくて、全てが新鮮で…初めこそは街行く人への恐怖心などもあったけれども、だんだんとそれは薄れていった。


 彼はまず、私を図書館という場所へ連れて行ってくれた。そこには、本と言われるたくさんの紙の束があった。


 シグから簡単な文字の読み方を教えてもらった私は、数日かけてその図書館へと足を運び、子供向けの図鑑や教科書からこの世界について、魔物について…色々なことを少しずつ学んだ。


 そんなわけで、本当にゆっくりではあるが、私は人間の街へ馴染み初めていた。


 そして、アルバの街に来て一週間が過ぎようとしていた頃の、とある真夜中。


カーン!カーン!カーン!


 それは突如鳴り響いた、自警団の塔の鐘の音。

私とシグは部屋を飛び出し、警戒する。


「敵襲ーーー!!街の南側上空より飛竜種の魔物が多数接近中。自警団員及び冒険者各位は、警戒、必要に応じて戦闘態勢をとれ!!繰り返す、敵襲ーーーー!!!!!」


 見張りの任務にあたっていた自警団員が叫ぶ。


「気をつけろ、コメット。魔物が街に襲ってきたみたいだ。無理せず危なかったら下がっていろ!」


「きゅい!」


 上空に敵の姿が見え始める。それは真っ赤な鱗を持つ炎属性の翼竜ーーフレアワイバーンだった。


 ギャアギャアとけたたましく鳴きながら街の上空を旋回するワイバーン。

 ひとしきり威嚇行動をした後、彼らは家や人間めがけて炎魔法、ファイアボールでの攻撃を開始した。


 シグは先日街で購入した弓を取り出し、矢羽を弦にかけて引き絞った。シュッ!と音を立て風を切り、一匹のフレアワイバーンに命中した。


「ギャアッ!!」


 敵は首に矢を受けて怯むが、すぐに自分を攻撃したシグに向けて反撃を開始した。急降下し、鋭い爪で引き裂こうとする。


 シグはその攻撃を回避し、装備を剣に持ち替えて敵を斬りつける。 


 私も頭突きや体当たりでせいいっぱい応戦するものの、敵はそれを身軽に避けてしまう。

と、その時。


「ギャァァーース!!」


 不意に後方から叫び声が響く。私が振り向けば、後ろに回り込んでいた一体のワイバーンが至近距離からシグへ向けてファイアボールを放とうとしている最中だった。

 危ない!私はとっさにシグとワイバーンの間に割って入った。


「ちょっ、コメット!!!やめろ!!!」


 気づいた彼がそう叫ぶが、もう遅い。敵の口から放たれるファイアボールが私を襲う。


 ああ、私がもし火の魔法を受け止めることができる水属性の魔物だったら…そう考えた瞬間。


シュウウウゥゥ!!


 私は光に包まれ、水のように透明で粘性のある液状の体に変わっていった。


 私の体にめり込んだファイアボールはジュッ、と冷えて固まり、溶岩の塊となったそれを弾性のある私の体は敵に跳ね返した。


「ギャアーーーーッ!!」


 額の弱点、竜魔石を打ち砕かれたフレアワイバーンは致命傷を受け地面に落ちる。


「コメット…!?お前、その体…」


 水属性の魔物へと変化した私にシグが驚きながら問いかける。


「くきゅ…きゅう…?」


 私も突然の新たな変身に、首を傾げるばかりであった。

 超軟質であるが故に傾げた首が90度以上傾き、私を見ていたシグが更にぎょっとした顔になる。


 そうしているうちもまだ残りの敵は街や人へ襲いかかっている。


 私とシグはそれぞれ分散して戦闘態勢をとる。


 シグが遠距離から1体ずつ弓矢で威嚇し、敵の注意を引きおびき寄せる。

 近づいてきた敵を私が水の尻尾で薙ぎ払ってダメージを与え、弱って動きが鈍くなってきた敵の額をシグが矢で正確に撃ち抜く。


 そうしたコンビネーションで敵を次々と倒していく私達。残りの敵も分が悪いと見るや、ギャアギャアと鳴きながら飛び去っていった。


 私達はアルバの街からフレアワイバーンを撃退した。


 その後、私達はワイバーン達の攻撃を受けて燃えた建造物の消火にあたった。

 古い家屋や、納屋などの木造建築は軒並み燃えてしまい、その被害は大きかった。


 一件が落着したのはもう夜明け前。疲れ果てた私は、元のファードラゴンの姿に戻ってシグに抱かれながら、宿屋へ戻るまでの間に眠りに落ちた。

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