18.システムは未完成でも
「よし、これで全部のテスト項目をクリアしたな」
鳥越進の低い声が会議室に響いた。
ディスプレイにはプロジェクト管理ツールの完了通知が表示されている。
画面の中で、進捗バーがついに100%を示していた。
伊達駿は、その瞬間、ようやく肩の力が抜けた。
長かったプロジェクト。
鳥越が不在の間、必死で支え続けた日々。
倒れる寸前まで追い込まれたが、ついに終わりが見えた。
「皆さん、お疲れ様でした」
鳥越が静かに頭を下げた。
それを見て、チーム全体が自然と拍手を送り合った。
「やっと終わったな……」
水瀬がぽつりと呟き、椎名は小さくうなずく。
「でも、まだ納品と保守が残ってます」
現実を見据えた椎名の言葉に、伊達は苦笑した。
「そうだな。でも、ひとまずはこれで大きな山を越えた」
プロジェクトを通じて、伊達はようやく自分の役割を感じ取れていた。
一人で抱え込まないこと、無理をしないで助けを求めること。
それが、チームとして機能するための第一歩だと知ったから。
鳥越が資料をまとめていると、栗原部長が会議室に入ってきた。
「終わったのか?」
「はい。テスト完了しました。あとは最終チェックだけです」
「そうか、よくやったな」
栗原の声には、少しだけ安堵が混じっていた。
「正直、無理だと思ってたが、皆で補い合ってよく乗り切ったな。
伊達、お前もよく頑張った」
「……ありがとうございます」
栗原は、珍しく柔らかい笑顔を見せた。
「システムというのは、完璧にはならない。
だが、誰かを犠牲にしないで動かすことが大事だ。
今回のプロジェクトで、それが少し見えた気がするよ」
その言葉に、伊達は心が温かくなった。
誰か一人が無理をするのではなく、皆で支え合うことで進んできた。
それが、今回の成功の鍵だったのかもしれない。
「伊達、これからもチームを支えてくれ。
お前が動き始めたことで、皆の意識も変わり始めた」
鳥越がそう言うと、椎名が小さくうなずいた。
「伊達さんが頑張っている姿を見て、私も少し勇気をもらいました」
「俺もだな。いつもヘタレな伊達が、まさかここまでやるとは思わなかったぜ」
水瀬が笑いながら肩を叩く。
その瞬間、伊達の胸に込み上げてきたものがあった。
認められたこと、自分を少しだけ許せたこと。
それが、今この場で形になったのだ。
「これで、やっと一息つけますね」
椎名がカップのコーヒーを差し出す。
伊達はそれを受け取り、一口飲んだ。
「……ああ、少し甘いな。でも、今日はこれがちょうどいいかも」
その言葉に、椎名がほんのわずかに微笑んだ。
夜、会社を出ると、外の空気がいつもより澄んでいるように感じた。
駅までの道を歩きながら、伊達はふと立ち止まった。
「やっぱり、俺、ここにいてよかったのかもしれない」
これまで悩み続けていた自分が嘘のように、
胸の中が少しだけすっきりとしていた。
帰宅して、ノートを開く。
「完璧でなくても、支え合って歩むことが大事。」
スマホを開き、根津のブログを確認すると、また新しい記事が更新されていた。
『システムは未完成でいい。
それでも動かし続けていくことが大事なんだ。
人も同じ。完璧でなくても、歩き続けることが大事。
誰かが支えてくれるなら、それで十分なんだ。』
その言葉に、伊達は自然と笑みがこぼれた。
完璧を求めすぎないこと、誰かを頼ること。
それが、自分を守るための手段なのだと、ようやく理解できた。
窓を開けて、夜風を感じながら、伊達は深呼吸をした。
今日という日を、少しだけ誇らしく感じながら