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14.社内改革案001

「伊達さん、ちょっといいですか?」


昼休み、椎名梢が控えめに声をかけてきた。

顔には相変わらず表情の変化が少ないが、その瞳には確かな意志が宿っている。


「どうしたの?」


「……少し話したいことがあって、水瀬さんも一緒です」


会議室に入ると、水瀬陽太がすでに待っていた。

カジュアルな姿勢で椅子に座りながら、伊達に軽く手を振った。


「よっ、伊達。最近ちょっと元気出たみたいじゃん」


「まあ……少しはね」


椎名がプロジェクターをセットし、資料を投影した。

タイトルには「社内改革案001」と書かれている。


「これ、私と水瀬さんで考えたんですけど……

無理なく働ける職場づくりを提案したいと思って」


「無理なく働ける?」


「そうです。プロジェクトの進行管理が無理に依存している状態が多すぎて、

リーダー不在時に業務が崩壊してしまう現状を見直すべきだと考えました」


水瀬が続けて説明する。


「俺ら、エンジニアだろ?

でも、技術だけでなくて、人の管理にも手を回さないといけないのは厳しいんだよ。

鳥越がいない間、伊達が苦しんでたの、みんな分かってたしな」


伊達は少し驚きながらも、その言葉に救われた気がした。


「それで、具体的にどうするの?」


椎名がスライドをめくる。


「まず、業務フローを可視化して、誰がどのタスクを持っているかを一目でわかるようにします。

リーダー不在時には、チーム全員が状況を共有できる仕組みを作ることが目的です」


水瀬が補足する。


「これなら、誰かが休んでも、仕事が止まらないようにできる。

バックアップ要員を事前に明示しておくことで、プレッシャーも減るだろ?」


その案を聞きながら、伊達は胸が少しずつ温かくなるのを感じた。


「それ……いい案だと思う。

正直、俺がリーダーを代行しているとき、

“誰が何をしているか”が全然把握できなくてパニックだったんだ」


「そうでしょうね。鳥越さんは一人で全て管理していたから、

あの人がいなくなると、システム全体が止まってしまう」


「でも、これをどうやって上に提案するかが問題だよな」


水瀬が苦笑いしながら言った。

これまでの会社のやり方を変えるとなると、栗原部長を含めた管理職を説得しなければならない。


「提案書をまとめて、鳥越さんに相談してみましょう。

あの人が賛同してくれれば、少しは進めやすいと思います」


伊達がそう言うと、椎名も頷いた。


「そうですね。鳥越さんが賛同してくれると、大きいです」


その日の午後、鳥越のデスクを訪れると、彼は意外にもすぐに話を聞いてくれた。


「改革案か……面白そうだな」


「無理なく働ける環境を作るために、

タスクの可視化とバックアップ体制を整備したいと考えています」


鳥越は資料に目を通しながら、少しだけ笑みを浮かべた。


「合理的だな。お前たちにしては上出来だ。

だが、この提案が通ったとして、誰が管理する?」


「……そこが問題で。今までは鳥越さんが全部一人で抱えていましたが、

それをチーム全体で分担する形にしたいんです」


鳥越は少し考え込んだ後、低い声で言った。


「俺も、一人で抱えすぎたのかもしれないな。

管理する立場だからと、意地を張ってた部分もある。

この案が実現できれば、負担が減るのは俺も同じだ」


その言葉に、伊達は少しだけ安堵した。

冷徹な鳥越が、初めて「自分も無理をしていた」と認めたのだ。


「この案、俺が栗原部長に話をつける。

お前たちは細部を詰めておけ」


「ありがとうございます!」


鳥越は小さくうなずき、資料を手に取った。


「伊達、やっと前を向き始めたか」


「……はい。

みんなが支えてくれているから、少しだけ勇気が出ました」


鳥越はそれ以上何も言わず、静かに席に戻った。


その夜、伊達はノートを開き、一行を書き加えた。


「一人で抱え込まなくても、前に進める道がある。」


部屋の窓を開けると、夜風が心地よかった。

久しぶりに、心が少しだけ軽くなった気がした。

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