Prologue.夢の残骸
5/10より本編を投稿する小説のプロローグとなります
1日に5話ずつ4日かけて20話の話になります
よかったらご覧ください
朝焼けにも似た、けれどもっと鈍く冷たい色の光が、ワンルームの壁に射していた。
伊達駿は、その光に背を向けてベッドにうずくまっていた。
カーテンの隙間からこぼれる光は、まるで現実を告げる警報のように、容赦なく彼のまぶたを責め立てる。
“また朝が来た”
その事実に、何の感情も湧かない。ただ、身体が重く、世界が遠い。
目覚ましはもう鳴らない。壊れたのは時計だけじゃない。
自分の中の「何か」も、あの朝、静かに音を立てて止まってしまった。
逃げたいと思ったことは、一度や二度ではなかった。
だけど、何に? どこへ?
そう問いかけるたびに、答えのない虚無だけが返ってくる。
かつて、夢を見ていた。
もっと人の役に立ちたかった。
いいものを作りたかった。
仲間と一緒に、何かを完成させたかった。
それが、どうしてこんな形になってしまったのか。
働けば働くほど、誰かが消えていった。
努力すればするほど、自分が削れていった。
「まじめすぎるんだよ、お前は」
大学時代の友人が、笑いながら言ったその言葉が、今になって胸に刺さる。
あの頃は、まだ笑えたのに。
――壊れた翼では、飛べない。
けれど、歩くことならできるかもしれない。
そんな思いが、ほんの少しだけ胸の奥で息をしていた。
かすかな温度。消えてしまいそうな、でも確かに存在する灯。
伊達はゆっくりと起き上がり、カーテンを開けた。
鈍い空が広がっていた。
晴れでも雨でもない、どこか曖昧な、曇り空。
でもその中に、微かに差し込む光があった。
今日もまた、満員電車に揺られて会社へ向かうのだろう。
そして、誰かの代わりに、責任を引き受けて、声を殺すのだろう。
それでも。
今日という日を、生きてみようと思った。
夢の残骸を抱えながら、
壊れた翼のままで。