81.影武者3
影武者の任を解かなければ危険だ、と今更ながらチャスティー殿下は感じたようです。遅いとしか言いようがありません。もっと早く対応しておくべき案件でしたが、チャスティー殿下はご自分の影武者を友として大切に思われていたのでしょう。容易に想像できますが、その優しさが仇になったというべきか。行動を起こそうとなさった矢先に、例の騒動が起こったそうです。
「やはり、不貞を行っていたのはチャスティー殿下ではなく影武者の方だったのですね」
「ああ。自分が切り捨てられることを恐れたのだろう」
「だから暴走したということですか?」
「恐らく、第三王子として醜聞をまき散らしてしまえば、チャスティー殿下は自分を切り捨てないと考えたのだろうな」
「本気ですか?逆に切り捨てるのが早くなる案件ですよ?」
浅はかと言う他ありません。
幼い子供が駄々をこねるのとはわけが違いますのに。
相手は王族ですよ?
しかも、自分が守るべき対象を貶めるだなんて……。
「精神的に追い込まれて正常な判断が出来なくなっていたのだろうな。それと、影武者は王家がチャスティー殿下を切り捨てるとは想像もしなかったのだろう」
「それはまた……随分と甘い見通しですね」
「まったくだ」
伯父様は深い溜息を吐きました。
微妙な情勢下であることを影武者は理解していなかったのかもしれません。
王国も「王国の周辺が不穏だ」といったことは公表していませんし……。
王子の影武者なら当然、知っておくべきことだと思うのですが。
伯父様の話を聞いただけでも、影武者がどのような性格をしていたのかは想像できます。
傲慢で高飛車。
自分が第三王子の影武者だという自覚がない。本人的にはあるのでしょうが、第三者視点で言わせてもらえば「理解していない」としか思えません。行動がそれを証明していますもの。本当に、これが他の王子殿下だったならば、影武者の首はとうの昔に飛んでいるでしょうね。
国内外の情勢にも疎いときていますし、チャスティー殿下が影武者の存在自体を危険視したのも頷けます。
「影武者としては、たかが浮気程度で、と思ったのだろう」
「そこに貴族達の思惑があるとは考えなかったのですね」
「ああ。処刑される寸前まで影武者は『自分の何がいけなかったんだ』と叫んでいたぞ」
「愚かですね」
「無知は罪というが……あれは有害だ」
伯父様は、影武者を哀れな男だと評価しました。
幼い子供のまま大きくなったような存在だと。
無能ではなかったが、それ以上に無知だった。
本来、許されない筈の王子殿下との友情。
チャスティー殿下が許していたからこそ、甘えがあったのでしょう。
影武者は、無自覚にも王家に仇なす存在になってしまったのですから。
「影武者は……最後まで自分が何をしでかしたのか理解していなかったのでしょうね」
「……そうだな」
ぽつりと呟いた私の言葉に伯父様が頷きます。
影武者の処刑は、王家が下した決定です。
第三王子としての処刑を。
生かしておく理由は王家にはありません。
ましてや、主人に成りすまして王家の名誉を傷付けたのですから。
ありとあらゆる拷問の末に殺されなかっただけマシなのかもしれませんね。