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77.拾われた王子2

「まず戸籍ですが、お嬢様のお考えの通り、孤児という設定で作られました。ですが、孤児院での出生手続きの欄は空欄のままです」


「孤児ならばよくあることではなくて?」


「はい。年齢も不確かな子供が孤児院に捨てられるケースにはよくあります」


「なら、何が問題なの」


「問題は、ステイが少年期に孤児院前で生き倒れになっていたところを保護され、その前の記憶を失っている、という設定になっていることです。因みに、そう記録を残しています」


「特に問題はないと思うけれど……」


 記憶喪失という部分に引っ掛かりを覚えてしまうけれど、まぁ、なくもない設定でしょう。


「はい。お嬢様のいう通り、問題はないと思われます。記憶喪失の件もステイに関しては致し方ない部分もございます。元王族だと明かすことはできませんし、かといって、平民出身だと言い切ることもできません。記憶喪失にしても身に着けた振る舞いはそう簡単に変えることはできませんし、粗野な演技をしたところで無理があるでしょう」


「まぁ、確かに……」


 私もフィデもこの点に関してはフォローのしようがありません。

 王族とはいわなくとも、貴族出身。それも高位貴族並の作法をする平民など早々いませんものね。


「表向き、ステイは孤児院出身にしてありますが、生誕不明。どこかのお家騒動で逃げてきた可能性が高いという、なんとも曖昧なものになっています」


「貴族かもしれないと匂わしているということね」


「はい。それも国外の可能性が高いと想定される形で、です」


 ああ、フィデの言いたいことが理解できました。

 これはアレですね。

 他国の王侯貴族出身かもしれない、と匂わせることによってステイの本来の出自を隠したのでしょう。

 死んだ人間とはいえ、中には怪しんで「もしかすると第三王子殿下は生きているのかもしれない」と疑う者が出てこないとは限りません。

 ありとあらゆる可能性を考えた故の設定なのでしょう。

 人は嘘をつく時、真実を混ぜると言います。

 真実の中に嘘を少し混ぜることで信憑性が増すのだとか。

 もっともステイの場合は大半が嘘で構築されていますが、「元王侯貴族」の部分は本当ですからね。

 この盛り込み過ぎた設定の大本が「元王侯貴族」ですから、致し方ないでしょう。


 怪し過ぎる設定は、逆に相手にアレコレと考えさせ想像力を働かせます。

 そうなると考えれられることは――


「ステイを文字通り公爵家に取り込むということかしら?さしずめ、私の夫として」

 

「はい。公爵閣下はそれをご希望のようです」


 元第三王子と婚姻。

 どう考えても厄介事しか思い浮かびません。

 ステイの正体がバレたらどうする気でしょう。

 まぁ、伯父様のことです。そこら辺も抜かりはないのでしょう。


「王家に貸しを作るということかしら」


「それもございますが、公爵閣下としては、お嬢様のお相手はステイが相応しいとお考えのようです」


「どこが?」


「政治的思惑がない相手であることと、血筋の確かさです」


 フィデが言うには、伯父様は私を嫁に出す気はあまりないそうです。

 王族ならまだしも、他の貴族と結びつきを強くする必要はないとのこと。私が何処の家に嫁ぐかで貴族の力関係を崩しかねないらしく、それならば婿をとってプライド伯爵家を引き継いだ方が無難と考えているのだそうです。


「お嬢様の婿は、公爵閣下だけでなく、大旦那様の意向で決められますのでご心配なされませんように」


 今でも十分、心配だわ。

 けれど、伯父様の考えも一理あるのも分かってしまう。

 王家に残るのは王太子殿下のみ。

 将来の王太子妃は他国の王女。

 従兄達も有力貴族と婚姻しているため、私の相手は父同様に「有力貴族ではないが、他に才能のある相手が望ましい」と考えているのでしょう。

 私の母は、他はともかく、容貌の美しさでいうのならば群をぬいていましたもの。社交の場ではそれが武器になる。


 ただ、ステイの場合は異なると思うの。

 表舞台に出られないのだから、お母様のように社交や外交で活躍はできないでしょうし……。

 本当に結婚するとしたら一体どうするつもりなのか想像もつきません。


 あれこれと考え込んでいる私を尻目に「お互いをよく知ることが必要なのです。まずは、話し合いです」とフィデは話を進めていきます。

 側仕えなのだから当然、と言わんばかりにフィデは、事ある毎にステイを連れてきます。

 面倒を見る、ということは「会話をして相手を知れ」と言いたいのでしょう。後は、傍に置いて、徐々に慣れろということなのでしょうね。




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― 新着の感想 ―
努力家の賢い女性が幸せになる話かと思ったら、浮気した男と結婚させられる陳腐な男性至上主義な話だったのは残念
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