75.グリード公爵(伯父)side ~ペット問題2~
私の弟であり、ユースティティアの実父であるユーノスは幼い頃から大の動物好きだった。まあ、それ自体は別にどうでも良い。貴族がペットを飼うのは珍しいことではない。むしろ、多い方だろう。
ただ、問題は、野良犬や野良猫をよく拾ってくることだった。
私を含めたフリード公爵家の面々が眉をひそめるくらいに拾ってきていた。
『ユーノス、また拾ってきたのか?』
『兄上……』
『いいか、ユーノス。むやみやたらに生き物を拾ってくるのはやめなさい』
『しかし、兄上。この猫は怪我をしています』
『だからといって、お前が拾ってくる必要はない。もし、その猫が病原菌を宿していたらどうするつもりだ?その菌が人に感染するものがあったらどうする?その猫のせいで、多くの人間に被害が出たらお前はどう責任を取るつもりだ?』
『……』
『よく考えなさい』
野良犬や野良猫を見る度に、拾ってくる弟を私は叱責してきた。それでも、弟の行いは止められなかった。
弟曰く、「この子達が僕に飼ってほしいと訴えている」とのことだった。
はっきり言って、弟の幻聴だ。
弟にとって動物達のつぶらな目が、「拾ってください」と訴えかけているように見えるらしい。
その思い込みはどこからくるんだ?
そもそも問題は他にあるだろう、とは弟には言わなかった。
それというのも、弟は動物に嫌われる体質だった。
これはもう、どうしようもなかった。
拾ってきて早々逃げ出す動物達。
理由は分かっている。
弟の重すぎる愛情のせいだろう。
構い過ぎて嫌われるタイプだ。
『ユーノス、動物達をもっと自由にさせてあげなさい』
『お言葉ですが、兄上。私は動物達に不自由をさせてるつもりはありません』
『……構い過ぎ。お前がそう構うと動物達もストレスがたまる筈だ』
『そんなことはありません。この子達は喜んでいます』
断言する弟の目は曇っている。
動物達は嫌がっているようにしか見えなかった。
無理もない。
ユーノスは構うのを止めない。
その束縛は日に日に酷くなる。動物達が弟のもとから逃げ出すのも無理なかった。
ユーノスから逃げ出さなかったのは義妹のロディーテくらいだ。
愛され慣れている義妹だからこそ、無事でいられたのだろうと推測している。
王太子殿下はユーノスとまったく同じタイプだ。
ただし、王太子殿下はユーノスと違って愛でる対象が元第三王子。
他の生き物を愛でることはしなかったようだ。もっとも愛で方も王太子殿下特有というべきもの。分かりにくい愛情表現のせいか、今までバレなかっただけの話だ。