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7.祖父母の来訪

 手紙を送った次の日、思った通り祖父母が訪ねてきた。


「実の娘より他人の子供を可愛がるとはどういうことだ?」


 お祖父様は大変ご立腹のご様子。無理もありません。

 仕事中は梃子でもアトリエから出てこない父の代わりに対応するのは当然お母様。祖父母が来ると知って逃げ出そうとしたらしいが、そんなことは許されない。使用人達に阻まれて逃げ出せなかった母は渋々対応する羽目になった。まったく。女主人が接待せずに誰がするというのだろう。


「お義父様、エンビーちゃんは良い子で……」


「誰もそんなことは聞いとらん」


 ギロリと睨むお祖父様。

 眼光が鋭い上に迫力のあるお祖父様に睨まれては、お母様も黙ってしまう。


 お祖母様が嗜めているけれど、祖父は怒りが収まらない。

 それだけ母が非常識だということ。


「アレはなんじゃ?十一歳になると聞いたがカーテシーの一つも満足に出来ないとは。躾がなっておらん」


 礼儀作法に人一倍厳しい祖父が怒るのも無理はない。

 祖父の隣で祖母も顔を顰めていた。

 私もその件に関しては同じ意見なので、何も言うことは無い。


「ロディーテ・プライド」


 驚くほど低いお祖父様の声。


「は……はい……」


「そなたはプライド伯爵に嫁いだ自覚が足りないようじゃな」


「そ、そのようなことはありません」


「ないと言えるか?あの年頃ならメイド見習いとしての教育が施されていても可笑しくはない。なのに、アレはなんだ?身に付けているものが上等品でなければ下働きの者だと勘違いされるところだぞ」


 そうなのだ。エンビー嬢は最低限の教育すら受けていない。

 野放し状態である。

 その状況で母は彼女を愛でている。


 伯爵家の令嬢に相応しいドレス、靴、アクセサリーを与えている。

 いずれ伯爵家のメイドになる少女に、だ。


「……エンビーちゃんはまだ幼いのです」


 母は言い訳をする。

 だがそれも想定済みだったのか、お祖父様の表情は険しいまま。


「六歳のユースティティアを前にしてよく言える。それとも、他人の子供だから甘やかしているのか?他人の子供は責任を取る必要がないからのぉ。幾らでも甘やかさせられる。こんな母親を持ちながらユースティティアは賢い子に育ってくれている。ああ、そなたは子育てなどしていなかったな」


「そんな……」


 言い返すことができない母は俯くばかり。

 事実だから。

 そもそも今更母親として構われてもこちらが困る。

 お母様の愛し方は異常。

 ペットの小動物を愛でるような感覚と同じ。

 それも構い過ぎてペットの動物が死んでしまうタイプのもの。


「このままでは、エンビーとやらは碌な人間にならぬぞ。儂も孫をそんな人間に近づけたくはない。そなたと違って儂は自分の孫娘は可愛いのでな」


「……申し訳ございません」


「謝罪するなら始めからするな」


「……」


「ユースティティアはしばらく、グリード公爵邸に通わせる」


「え……?」


「あの小娘の悪影響を受けては困るのでな」


 祖父は母を疑っている。

 今は謝っているものの、本当にエンビー嬢を彼女に相応しい立場にできるのか――と疑っているのだ。


 お祖父様の言葉は正しい。

 確かに、母はエンビー嬢を使用人部屋や客間で生活をさせるのではなく、私と同様の扱いをしている。

 それに、エンビー嬢を「娘」と紹介したり……。

 使用人扱いではなく「娘」として扱う母の行動は伯爵家にとって悪影響を及ぼすと、祖父は考えているのだろう。


 祖父の横でにこやかに笑う祖母。

 お祖母様のこの笑みが怖い。

 社交界は女の領域。

 母の所業を、お祖母様が知らないはずがない。

 それでも止めなかったのだから何かしらの考えがあっての事なのだろうけど。


 祖父母の思惑は別にあるのかもしれない。

 そんな二人だからこそ、母に対して容赦がなかった。

 こうして私はグリード公爵邸に通うことが決まった。




「お祖母様、お祖父様。お世話になります」




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