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家は?
こんな山奥に住み、村の者のように寺とのかかわりがないので、坊さんがいつもどんな格好をして歩いているのかは知らない。
だが、あの首にさがっているきれいな粒は、きっと数珠だろう。
坊さんの目がこちらをみつけ、すこし驚いたようになったあと、人懐こい笑みをうかべ、おう、と声をあげた。
「 ―― こんなところにすんでおるのか?家は近くか?」
きかれて、すこしこわくなった。
『こんなところに』こんな坊さんが、歩いてやってくるだろうか?
笠は背にあるが、荷物らしいものは背負っていない。足もとは脚絆に、草鞋だが、みたことがないつくりをしている。
「 ・・・へえ。 家は、 ―― まあ、あっちのほうで」
にこにこした坊さんが、こたえを待っているようなので、しかたなくむこうのほうをさしてみせた。