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走ってはしって
後ろから男の怒った声がして、おカツを呼ぶ声まではきこえたが、そんなものはもうどうでもよくて、とにかく走ってはしって ――
あの男に追いつかれないようにしなければ。
逃げるのは道ではなく、山の木々をつかんで、急な勾配をかけくだる。
ふだんなら注意深くあしをすすめてゆくのに、かまってなどいられなかった。
どこかで吠えるような声がしたような気がして、熊ではなく、あの男なのではないかと、さらに気がせいた。
「 あ、 と思ったときには、足のしたの土がつもった枯葉やなんかといっしょにすべり、つかもうとした近くの木が思ったよりも遠くて ―― 」
必死でとまろうと、両足でつっぱってみた途端に、その両足が堅い岩にあたって、がくり、とからだが前にのめった。
「 ―― 見えたのは、下の白い岩と、その岩までの間に生え出た木の枝で・・・」